白くて、柔らかくて、あったかくて。


一瞬で、私は恋に落ちた。





それは──────。













                                            ───『舞い降りた天使』 1
























人生には、実にいろいろなことがある。





そう。





ここは『人生色々』。













煙草をふかしている者。


本を読んでいる者。


実にのどかな日常の一コマ。




・・・・・・・・・・・・・・・のはずだった。


























「・・・・・・あなたしか頼れる人はいません。どうか・・・よろしくお願いします・・・・って・・・・」

読んでいた紙から顔を上げて、平穏な日常を破る「原因」を指さし、紅が眉を顰める。


「・・・どうすんのよ・・・コレ・・・ちょっと!カカシ!聞いてんの?!」

呑気に本など読んでいるカカシに怒鳴りつけた。
カカシが不本意そうに「聞いてるよ、そんなに怒鳴んないでよ」と言うと、紅の怒りがさらに増した。

「・・・アンタねぇ、随分のんきに構えてるけど、アンタの問題なのよ?!」
「ん〜、まあ、わかってるよ」
「わかってない!に知られたらどうすん──」





「こんにちは〜・・・・・って、どうしたの?みんな固まってるよ?」





そこに入ってきたの声を聞いて、一瞬白〜く、否、青〜くなる皆。














事の始まりは、約30分前にさかのぼる。


受付所からイルカが荷物を届けに来た。
厳密に言うと、荷物ではなくて「人」なのだが。
宛先は「木の葉上忍はたけカカシ様」
差出人は不明。
そして、荷物の内容は・・・






はたけカカシ様

突然の手紙をお許し下さい。
この子はあなたの娘です。
名前は月子といいます。
もう、あなたしか頼れる人はいません。
どうか、この子をよろしくお願いします。








「・・・おい、カカシ、お前もドジったな」

煙を燻らせながら、アスマが面白そうに揶揄する。
身に覚えのないことに、カカシが本から顔を上げた。

「ちょっと、どーゆー意味よ?」
「テキトーに女と遊んでるから、ツケが回ってきたんだろ」

カカシが幾分ムッとした。

「オレは一筋だよ」
「その赤ん坊がいつ産まれたのかは知らねぇが、少なくとも妊娠したのは1年以上は前だろ。
まだが里に帰って来る前の話だ。」
「この子はオレの子じゃない」
「そんなのは男にはわかんねぇんだよ」
「わかる」
「なんで言い切れんだ?避妊なんて結局はあてにならねぇんだ」
「細心の注意を払ってた」
「そんなもん、ゴムに穴でも開けられてたらおしまいだろ」
「女抱くときは、必ず自分で避妊具を用意してたし、漏れないようにしっかりチャクラを込めてたから」
「・・・・・・いつもそんなに万全ってワケにいかねぇだろうが」
「ん〜、小細工されて気がつかないほど女に没頭したことなかったからね〜」
「・・・つまんねぇ男だな」
「ま、それも以外にはってコトだけど」
「結局惚気かよ──」


「ちょっと、何なの、この赤ん坊」


そして、冒頭の紅の怒りに続くのである。



















オレに対する紅の怒りをスルーしていると、ふと廊下の向こうから感じる愛しいチャクラ。
らしく静かに扉を開けて、中に入ってきた。

「こんにちは〜・・・・・って、どうしたの?みんな固まってるよ?」

待機中であるのと赤ん坊騒ぎで、誰も彼女の気配に気づかなかったらしく、
その声がした途端、空気が張りつめた。
オレ以外は。


何故、「オレ以外は」って?
自信があるから。
絶対にこの赤ん坊がオレの子であるはずがない。

以外の女なんて、オレにとって何の意味もなかった。
寄ってくる女を退屈紛れに抱く。
抱きしめることもなくただ身体を繋げて、吐き出すだけ。
一緒に眠ることもなければ、シーツの中でふざけあうこともない。
始めから終わりまで、快感で意識が薄らぐことなんてなく。
女の喘ぐ顔を冷めた目で見ていた。
だから、避妊に関してヘマなんてするはずがない。



、仕事終わったの?」

青ざめている上忍達をよそに、ニッコリ笑ってに手招きする。
は様子がおかしい周りに訝しがりながらも、オレの前に来た。

「あ、うん。思ったより早くあがれたから来ちゃったんだけど・・・なんか・・・・まずかったかな?」
「そんなことなーいよ」
「でも・・・みんな・・・変よ?」

「やだ、そんなことないわよ!全然──」

の言葉に、紅が慌てたように手を振った、その時。

「ふっ・・ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ〜!!」

腹でもへったのか、それともこの張りつめた空気のせいなのか、赤ん坊が泣き出した。

「へ?!何?!赤ちゃん?!」

さすが元小児科担当の
子どもの声には敏感だ。
泣き喚く赤ん坊を見つけると、すぐさま抱き上げた。
慣れた手つきで赤ん坊の背中をポンポンと優しく押しながら揺する。

「よしよし、どうしたの〜?」


・・・・・・いい。
すごくイイ。
可愛すぎる。
赤ん坊を優しく抱くに、思わず見惚れる。
その姿に、「とオレと、オレ達の赤ちゃんvv」という未来の構図を当てはめる。
・・・これはもう、今日帰ったら早速実現に向けてがんばるしかないでしょ。


「・・・てめぇ、よだれ垂らしてんじゃねぇ」
「え〜?何言ってんのよ、アスマちゃーん」
「顔が緩みっぱなしだっつーの」
「ははは〜、そう?」



「ところで、この赤ちゃん、どなたのお子さんなんですか?」


いきなり、といってもにとってはごく自然な質問にまたしても固まる上忍達。
おいおい、キミ達任務時だってそんなに焦らないでしょうが。

と、赤ん坊が入っていたカゴに置かれた手紙にが気づいて拾い上げた。
声に出さずに読んでいくの表情を窺った。

「・・・・・・」

元上忍だけあって無表情にしばらくその手紙を眺めてから、は何かを考え込む。
まあ、自分の男の赤ん坊、しかも「他の女が産んだらしい赤ん坊」なんてのがいきなり現れたら驚くよね。
が、その次に発したの言葉に、オレの方が驚いた。

「・・・この子、行くあてないんだったら、私が預かってもいいですか?」



・・・・・・は?



「ちょっ・・、何言ってんのっ?!アンタ、さっき手紙読んだでしょっ?!誰が産んだかわかんないカカシの子なのよ?!」

の言葉に呆然となったオレに代わって紅が問いただしてくれた。
が、そのものすごく事実から遠い認識に、我に返る。

「ちょ〜〜っと待ってくれる?」

間違いを指摘しようとするが、勢いづいた紅に無視された。

「そんな赤ん坊引き取るだなんて、イイ子ちゃんもほどほどにしなさい!」
「紅ってば、落ち着いてよ・・・」
「誰が落ち着けるっていうの!・・・だいたい何でこのバカカシに何も言わないのよ!アンタ腹立たないわけっ?!」

バンっとテーブルが叩かれる。
静まりかえる待機所。
驚いて、赤ん坊がまた泣き出した。
は赤ん坊をかばうように抱きしめて、あやす。

「大丈夫よ〜、このおばちゃん、ちょっと怖いけどいい人だからねぇ〜〜」
「おば・・・っ!──」
「ありがと、紅」
「・・・?」
「私の代わりに怒ってくれて」
「何言って───」
「でもね、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ、私は。」
・・・」
「この子のママはわからないけど・・・手紙のことが本当だとしても、私が木の葉の里に帰る前のことだし・・・」

赤ん坊の背中を撫でながら、その小さい顔に柔らかく微笑みかける。

「・・・この子には、なんの罪もないでしょ?」
「だーーー!」

ね、と赤ん坊に笑いかけると、赤ん坊はさっきまで泣いてたのが嘘のように、きゃっきゃと喜ぶ。


周りの空気が少し落ち着いたことを確かめて、オレは口を開いた。


「あのさ〜、盛り上がってる時に悪いんだけど、その子はオレの子じゃないんだよね〜」
「・・・カカシ・・・アンタもこの期に及んで・・・」
「確かにその手の類の小細工って、結構仕掛けられたコトはあったけど」

ホントは他の女との閨事なんて、の前では言いたくないんだけどね。
ま、この状況じゃあ仕方ない。

「オレがそんなのに引っかかるわけないでしょ?
だいたいさ、が初めてよ?女抱いてて意識飛びそうになったのなんて」
「っ!カカシさん!!」
「だってホントのことだもーん」

茹でダコみたいに真っ赤になったにニッコリ笑えば、「もう!知らない!」とそっぽを向かれた。
・・・・可愛〜いんだから、ホントに。


「まあ、さすがに女慣れしてるお前がそういうんだから、間違いはねぇのかもな」
「アスマちゃーん・・・さすが上忍って言ってよね・・・」
「じゃあ、一体誰がこんなこと・・・」

観客を決め込んでたアスマの半ば呆れた口調に、
紅もすっきりしないながらもやっと怒りを鎮めたようだった。


「とにかく、誰の仕業なのか突き止めねぇとだな。」






アスマの静かな一言に、その場にいた同僚達が頷いた。












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