─── 『変身』 2

























あれから数週間。

」の気配を探していろいろな通りを翔た。
何度か、それらしいチャクラを感じて、追った。
けれどやはり、あと少しというところでいつも逃げられる。
こっちだって気配を消しているつもりなのに。
さすが暗部だけあって、そう簡単には捕まえさせてはくれないってことか。
ただ、わかったこともある。
それは、彼女の気配を感じる場所に茶通りが多いということ。
他の通りでもないわけではなかったが、圧倒的に茶通りだ。
どうやら、甘いものが好きな女らしい。
それから、チャクラの質。
あの任務の時のチャクラと茶通りで初めて感じた時のチャクラが微妙に違っていたから、てっきり別人だと思っていた。
が、気配の消し方、タイミング、逃げるときの行動パターンからすると、おそらく同じ人間。
どうやら意識してチャクラの質を微妙に変化させているようだ。
つまり、そんなことが故意にできるほどの実力。


・・・やはり変化だけでなく「あの時」のチャクラも「香り」も、そしておそらく「声」もニセモノか・・・。







「よお、カカシ。おまえ最近ずいぶんあちこち嗅ぎ回ってるそうじゃねぇか」

待機所に寄ると、煙を燻らせたむさ苦しいヤツが面白がりながら絡んできた。
昨日からの任務がやっと終わって、珍しく今日はこのまま家に帰ろうと思ったのに。
・・・・まったく、めんどくさい。

「・・・なーんのことよ」
「みんな言いたい放題言ってやがるぜ。何を探してるのか賭けてるヤツまでいるぞ」
「・・・あ、そ・・・」
「もう任務終わりだろ。話は飲みながら聞いてやるぜ」

や、・・いいって。
そう言おうとしたとき腹の音が鳴って、朝から何も食べてないことに気づいた。
・・・ま、いっか。
メシでも食いながら、なんならアスマに例の「探しモノ」を手伝わせてもいい。


今日はあまりにも疲れていて、「彼女」の気配を探る余裕もなかった。
メシを食ったらさっさと帰りたい。
アスマの後について、酒酒屋の暖簾をくぐった。
覚えのある気配がいた。
それはよく知ったくの一の二人。

「あれ、アンコと紅じゃねーか」
「あー!アスマじゃん!カカシも一緒〜?」

声のする方を向けばいつも顔を合わせる紅とアンコ・・・・・・と、もう一人が奥のテーブルについていた。

・・・・・・もう一人?

気配は確かに二人分だったハズだ。
ここに三人いるのに?
それはつまり・・・気配を絶っている人間がいるということ。
何故、こんな居酒屋で気配を絶つ必要がある?
女三人、どうみても任務でそこに座っているようには見えない。
ならば、何故・・・・?

アンコ、紅、それから、もう一人の初めて見る女に視線を移す。
女を見れば、「」とは全く雰囲気の違う、おとなしそうな女。
一つにまとめた栗色の髪と大きな栗色の瞳、「」と同じなのは雪のように白い肌だけだ。



一瞬期待を抱いてしまった自分を、すぐに戒めた。





























最近、気配を探られている。


火影様執務室のそばに控えているとき、街を歩いているとき、ふと同じチャクラを感じる。
ある程度の圏内に入ると決まって消えるその気配。
遠くに離れたのではなく明らかに故意に消されたそれは、
こちらが誰でどこにいるか認識しているといったものではないようだ。
最初は向こうもこちらのチャクラに確信が持てないのか不定期だったのが、
どんどん頻繁になり、最近では里を歩いているときの半分は感じるようになった。
そしてそのチャクラの主は、少し前に任務で一緒になったあの上忍。
何故彼が私を捜す?

媚薬を盛られた彼の「手伝い」をしたあのとき、眠りに入った彼を置いて先に里に帰った。
疲労で動かない身体に鞭を打って。
そのことを怒っているとは思えないけれど、もしかして変化していることがバレたのだろうか?
いや、そんなことがあるはずはない。
任務中は必ず姿を変え、声音を変え、微妙にチャクラの質も変えている。
それは、たとえ敵の手に落ちたとしても解けないように、あらかじめしっかりチャクラを練ってある。
「写輪眼のカカシ」であろうと、簡単に見破られないだけの自信はあった。
そう、初めて経験する凄まじい快感に、意識を奪われたとしても・・・。



珍しく任務らしい任務もなく終わった日。
アンコに誘われて飲みに行った。
ここのところ甘栗甘の新作大福にハマったアンコに付き合わされて、
毎日のように茶通りでお茶はしてたけど、飲みに行くのは久しぶりだ。
酒酒屋でアンコと紅と飲んでいると、店の外から最近いつもよく感じるチャクラ。
いつもの習慣で咄嗟に気配を消してしまった。

?どしたの?」

飲みながらもスィーツを頬ばるアンコが訝しげに見上げてくる。

「あ、ううん、何でもないんだけど・・・」
「いきなり気配消して───あ、アスマじゃん!カカシも一緒〜?」





・・・嘘。


カカシ上忍のチャクラを感じて、でもいつもと違って、向こうは警戒した探るような気配じゃなかった。
だから、気配を消して後でこっそり店を出れば、気づかれずにそのままスルーできると思ったのに。
よりによって一緒のテーブルで飲むことになってしまった。
どうしよう。
こうなってしまうと、当然だけれど気配を消してるのがすごく不自然・・・だよね。
目の前のカカシ上忍も、その隣の確か・・・アスマ上忍も当然不審そうな目を向けてくる。

「・・・ちょっと、お手洗い行って来るね」

アンコと紅に小声で言って、テーブルを立った。
見えないところまできて、ホッと息をつく。
そのままそっと店の外に出た。
アンコ達にはあとで謝ろう。
そう考えながらしばらく歩いた。
家に帰ろうと思って翔けようとした瞬間。

「っ!!!」

誰かに腕を掴まれた。
何の気配も感じなかったのに。
条件反射で、振りほどいてチャクラを込めて回し蹴りをした。
避けられた。
両手を背中に拘束される。

「へぇ〜、オレ、このチャクラよく知ってるんだよね〜、キミだったんだ〜」

背後から肩越しに聞こえる呑気そうな声。

「そんな・・・だって、テーブルに・・・気配が・・・」
「あー、あれね、影分身。ま、これでも元・暗部だし、センパイとしては負けられないからね〜」
「・・・何のことですか?」
「なかなか捕まえられなかったけどね」
「だから、何の──きゃっ!」

向きを変えさせられて、後ろの壁に押しつけられた。
両手を強く掴まれて、同じ目の高さでカカシ上忍が私をのぞき込む。
呑気な声とは対照的に、その目は険しい。

「ねぇ、ちゃん、聞いていいかな。一昨日の夕方、どこにいた?」
「・・・え?」
「それから3日前のお昼過ぎと、4日前の夕方」
「な・・に・・・?」
「ここんとこ毎日のように、アンコと茶通りに行ってるらしいじゃない」
「・・・・・・」
「奇遇だね〜。オレもなんだ」

その拘束から抜け出せないか隙を窺うけれど、びくともしない腕の力。
現役の暗部ではないとはいえ、さすがに木の葉一の業師と言われるだけの忍。
彼に睨まれたらタダじゃすまないというのは、この里の忍なら誰でも知っていること。
目を閉じて一つため息をついてから、彼を見た。

「・・・何が目的か知りませんが、もう追わないでください」
「・・・・・・」

彼の表情は読めない。
ならば、彼を諦めさせる方法は、ただ一つ。




「自分が抱いた女の正体が、こんなに地味な女だなんて・・・がっかりしたでしょう?」













































彼女の言葉は、あまりにもあっけなく「狩り」に終止符を打った。

一気に脱力したその隙に、はオレの腕から抜け出す。
そのまま瞬身で姿を消そうとする彼女を抱き上げた。

「ちょ、ちょっと!降ろしてください!」
「ダーメ。やっと捕まえたのに、そう易々と手放すわけないでしょ」
「だから、それは私じゃなくて──」
「あれ?じゃなかったの?オレの腕の中で一晩中喘いでたのって」
「なっ!!」

わざと生々しい言葉を出してみれば、は真っ赤になって暴れ出した。
自然、顔が緩む。
間違いない、オレが抱いた女は「」ではなくて「」。
あの時の違和感が、まさかドンピシャだったなんて、ね。
今度は、「」をこの手に抱ける。


「・・・あ、あれは任務です!興味本位でこんなことしてるんだったら──」
「うん、『』に興味があるの」
「・・・・・・からかわないで」

暴れるのをやめてオレの腕の中でおとなしくなったを抱いたまま、翔けだす。


「からかってなんかなーいよ。本当の『』が欲しい」
「・・・・お手軽な女をお望みなら、他を当たってください」
「困ったことに、あれ以来どの女にも食指が動かないんだよね〜」
「・・・・・・」
「だから、、責任取って?」
「な、なんで私が?!」

翔るのももどかしくなって、瞬身の術を使った。
自分の家へ着いてを降ろす。
不安そうに見回す彼女に、額当てと口布を外しながら言った。

「オレの部屋へようこそ」
「・・・帰ります。」
「お茶くらい飲んでってよ。この部屋に来た女の子はが初めてなんだから」

の頑なな態度を無視して、コーヒーメーカーをセットした。
さりげなくオレにとっての彼女の位置づけを示せば、案の定こっちに関心を向けてくれたようだ。

「・・・え?」
「砂糖とミルクは?」
「ミルクだけ・・・あ、いえ、私──」
「了〜解」

反射的に答えてしまって、は一瞬「しまった」という顔をしてからため息をついた。

「・・・それだけいただいたら帰りますから」
「はいはい、それも了〜解。また、来てくれるなら・・・今日は引き止めないよ」

マグカップを彼女に渡すと、戸惑いながら受け取る彼女。

「本当に・・・もう、やめてください」
「なーんで?」
「だから・・・私はカカシ上忍が期待していたような女じゃありませんから」
「『期待していたような女』って?」
「それは・・・つまり・・・」
「『』みたいな?」
「そう・・・ですね。すごい美人で、腕利きの忍で・・・男慣れしてて、いかにも『女暗部』っていうような」
「でもそれって、が自分で作り上げてきたイメージでしょ?」
「だってこんなことになるなんて思わなかったから・・・」

優秀な忍とは思えないほど自信なさそうな彼女。
勘違いの自信に満ちた女や媚びを売るような女にばかりまとわりつかれる事が多いオレにとって、
彼女の素顔はなんとも新鮮な驚きだった。

はわかってないね〜。」
「何がですか?」
「腕利きの美人くの一って、、まんまじゃない」
「・・・カカシ上忍、どこ見て言ってんですか?」

不安そうな表情から、不審そうな表情に変わる。
オレの言葉を端から信じちゃいない顔だ。
だから少し屈んで、彼女の目をのぞき込むようにしてニコリと笑った。

「だって、暗部になるくらいなんだもん、忍としての腕は確かでしょ〜よ?」
「それは、まあ・・・誉め言葉としていただいておきますけど・・」
「今度オレと買い物行こうよ。変身させてあげる。きっと里中の男どもが振り返るよ」
「は?何言って──」
「それに、男慣れってのは無理だけど『カカシ慣れ』なら、もうしてるでしょ?」

そう言ってウィンクしてみれば、またしても茹でダコ状態の
真っ赤な顔を隠すように向きを変えて「帰ります」と呟いたを、後ろから抱きしめる。
こんなことくらいでこんな可愛い反応を見せるような彼女が、
何故、いくら任務中の緊急事態とはいえ、「あの時」自ら進んでオレに抱かれたのか?
その答はこれからゆっくり教えてもらわないと、ね。

「言っておくけど、オレからは逃げられなーいよ?」
「・・・私のこと、何も知らないくせに、どうして──」
「じゃあさ、のこと教えてよ。」
「・・・・・・」
「どんな小さなコトでもいい。のことが知りたい。」
「カカシ上忍──」
「おっと、その『上忍』ってのはやめてくれない?『カカシvvv』って呼んで?あ、ハートマークも忘れずにね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カカシ・・・さん」
「・・・ま、いいでしょ。絶対後悔はさせないから。結構お買い得よ?オレ」

彼女を振り向かせて、ニコッと笑いながら自分を指さした。
彼女の気持ちが揺れ動いているのがよくわかる。
普段の彼女は、こんなに無防備。
・・・あと、一押し。

「何だったらしばらくは、お試し期間ってことで、どう?」
「お試し期間?」
「そ。あ、でも返品はきかないから」
「・・・それじゃ、お試しにならないじゃないですか・・・」

眉を顰めながら、合点がいかないといった、半分呆れた顔をする。
ホントに表情豊かだよね。

「ま、とりあえず、契約成立ってことでvv」
「え?!ちょっと、勝手に──んっ!」

それ以上の彼女の言葉を封じこめた。
化粧気の薄い彼女の唇をしばらく味わって彼女を解放すると、
真っ赤な顔で乱れた息を懸命に整えようとしている。


「ハンコ代わりね〜、ごちそうさまvv」
「・・・もうっ・・・信じられない!」


その表情がまたたまらなくて、結局そのまま彼女をベッドに引っ張り込んだ。



え?ああ、大丈夫。
抵抗したのは最初だけだったから。











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楠智愛様、天道ユエ様の「カカシ誕生祭/2006」に投稿させていただきましたドリです。
全然誕生日ドリになってないのが、申し訳ないです(汗)。