点鐘散歩会から
川柳の世界では、俳句のように吟行会と言うようなことはあまりしません。たいていの場合予め兼題が出されていてその題に従って作句をし、句会場で決められた選者に選をして貰います。しかしそれだけでは、机上に齧りついての作品が多くなって、自由な発想の作品が乏しくなります。
そこで私の所属する点鐘の会では、もう十年も前から、月一回づつ散歩会を企画して、外に出て川柳を楽しむ会を実践して来ました。参加者は川柳・俳句の枠を問わず、ましてや結社やグループ所属などを問題にせず、どなたの参加も大歓迎して来ました。京阪神は言うに及ばず、名古屋から姫路から、時には九州や青森からの特別参加もありました。
ひとり一句
人間の指の間を走る馬 徳永 政二
だからもう何もないのよファンファーレ 森田 律子
馬になるときは減量いたします 前田芙巳代
たてがみなびかせ一瞬のことでした 畑山 美幸
外れ馬券イエスタディを歌っている 南野 勝彦
後戻り出来ない道を駆けている 笠嶋恵美子
つながれて遠い景色になっている たむらあきこ
ごみ箱はずっとがまんをしています 赤松ますみ
いっぱいあって何処にも座れない 平井 玲子
逃げ切った馬の足から冬になる 吉岡とみえ
初めての馬券を意志のないままに 田頭 良子
ポケットに三頭の馬ひそませて 西村 夕子
騎手と馬 内緒話は昨夜の内 北原 照子
パドックで見染めた馬に賭けてみる 八木 侑子
落鉄の馬に力があり余る 本多 洋子
結局はスクリーンを見ています 西澤 知子
波乱ぶくみ さあスタートだ3番だ 松本あや子
馬が一句会は二の次三の次 武本恵美子
2007年12月 更新
第百四十一回 点鐘散歩会
阪神競馬場
比較的穏やかな初冬の一日。今回の散歩会は、おそらくメンバーの殆どが初体験という競馬場を覗いてみることとなった。
阪神競馬は兵庫県宝塚市にある中央競馬の競馬場である。阪急今津線仁川駅からエスカレーターで地下に降りると競馬場への専用地下道に出る。徒歩5分で場内入り口に到着する。
スタンドは中央コンコースを挟んで東と西に分割され2階から6階にかけて、前面ガラス張りの冷暖房完備となっている。
パドックを観覧する場所の上にも特有の屋根が付いていて、雨の日にも支障がない。
コースは全体におむすび型で、第3コーナーが直角に曲がるのがポイントらしい。
広々とした芝生の上にはぽっかりと浮雲。カラフルな騎手たちの帽子を乗せたサラブレットが、閃光のように駆け抜けて行った。
天正十年明智光秀と羽柴秀吉が天下分け目の合戦をした天王山の麓に、サントリー山崎蒸留所がある。
先ずは資料館にてウィスキーの歴史を学びながら、赤玉ポートワインや角瓶・トリスやダルマなどの陳列棚に目を奪われる。昔懐かしいポスターも丁寧に保管されている。
次に女性ガイドに従って工場内を見学する。仕込み所から蒸留釜・貯蔵庫まで、麦芽や醸造の匂いに促されて、最後は試飲室に案内される。
白洲十二年ものの水割りやソーダー割りを頂いてすっかりほろ酔い気分で醸造所を後にする。
さわやかな秋の風に触れながら、溢れるように句箋に鉛筆を走らせる一同であった。
山崎の清水を湛えた池
貯蔵庫 中庭にて 政二さん満寿夫さん
2007年 11月 更新
第百四十回 点鐘散歩会
サントリー山崎蒸留所
2007年10月更新
雲上三尊石
散策中の墨作二郎氏
苦海
宝厳院庭園・酔芙蓉
大堰川・屋形船
第百三十九回 点鐘散歩会
嵐山 大堰川舟遊びから宝厳院へ
渡月橋から西側上流が大堰川(おおいがわ)。夏には鵜飼見物も出来る静かで豊かな流れである。北側の渡し舟乗船場から屋形船に乗り込んでの舟遊びを満喫する。
宝厳院は獅子吼の庭園が有名。室町時代に策彦周良禅師によって作られ、嵐山を巧に取り入れた借景回遊式庭園である。
獅子吼とは「仏が説教する」の意で、庭園を散策している内に鳥の声や風の音をきいて人生の真理や正道を肌で感じとるという仕組み。苦海(空池)や三尊石・獅子岩や碧岩など大きな岩々が配置されている。
心静かに散策し、作句三昧に耽った。
ひとり一句
入場券代わりの護札と説明書
得点順 ひとり一句
緊張を解くと金箔はがれます 峯 裕見子
棕櫚縄で歴史は荒くくくられる 内田真理子
過ちは犯していない和三盆 赤松ますみ
ほっとしたところを蝉が突いてくる 笠嶋恵美子
消しゴムで消す蒸暑い部分 畑山 美幸
金閣を炎上させる油蝉 小林満寿夫
金箔はってできなくなったかくれんぼ 南野 勝彦
時々攻撃的になる金閣寺 北川アキラ
はじまりは赤いトマトを切ってから 徳永政二
短パンのキャサリン砂利をけっていく 川田由紀子
新しい手口で神を手なずける 前田芙巳代
水すまし金の甍を食べている 本多 洋子
立入禁止ばかり目立った過去の道 久恒邦子
石段を上りつめるとグリコのおまけ 岩根彰子
昇れない鯉でしたわたくしも たむらあきこ
密会黙認南天床柱 平井 玲子
変らないね金閣変ったね私 森田 律子
石段を降りて来るのはピカソのハンカチ 墨 作二郎
シャッターを押す西の言葉東の言葉 八木侑子
風通る青い紅葉の白蛇の塚 北原 照子
貴人榻しばし貴人の顔になる 植野美津江
金閣寺を洗った池のにごりかた 今井 和子
滅びの美狂った人ある金閣寺 西村 夕子
2007年9月 更新
第百三十八回 点鐘散歩会
金閣・鹿苑寺(ろくおんじ)・
07年8月更新
第百三十七回 点鐘散歩会
国宝・彦根城
JR彦根駅から巡回バスにのって、彦根港・龍潭寺を車窓に約20分ほどで彦根城博物館前に着く。
彦根城は幕末安政の大獄で有名な彦根藩十三代藩主である大老井伊直弼など、幕府の中核となる人物を輩出した徳川家譜代の井伊氏三十五万石の居城である。
中濠に囲まれた敷地内には彦根城博物館・天守閣・西の丸三重橋・天秤櫓など点々と散在し、さらに玄宮園などを散策すると、とても半日では廻りきれない。白亜三層の天守閣は国宝。
濠端には塩辛トンボやおはぐろとんぼが飛び交い、池泉回遊式の大名庭園は素晴らしい趣きであった。
得点順ひとり一句
あらすじを追ってここまで来てしまう内田真理子
半分は嘘 半分は天守閣 森田 律子
どのくらいですか彦根城ぐらいですか 南野勝彦
玄宮園 橋から橋を呼びとめる 墨 作二郎
乱反射する白壁にムキになる 畑山 美幸
白い壁続くなんにもしたくない 徳永 政二
登りきったところに城が浮いている 吉岡とみえ
四季折々という水面の笑いかた 辻 嬉久子
満々と水あなたに話すことがある 今井 和子
なまこ塀伝って平成に戻る 笠嶋恵美子
人と城ゆるく結んで長い石垣 平井 玲子
伏字あり勝手に入れる赤とんぼ 久恒 邦子
デジカメのいいなりになる大手門 小林満寿夫
隠狭間 心の闇にしつらえる 本多 洋子
天守閣一老人として座る 岩根 彰子
枚方公園駅前 枚方宿案内図
第百三十六回 点鐘散歩会
枚方宿 鍵屋
07年7月更新
「鍵屋浦には碇がいらぬ 三味や太鼓で船とめる」と三十石船唄で歌われた「鍵屋」は枚方宿を代表する船宿のひとつ。五年前に枚方市の文化財指定を受け、市立の歴史資料館となっている。
文政八年(1825年)枚方宿三矢村には旅篭や商人宿や煮売り屋が数十軒はあったという。
有名な「くらわんか舟」は、京都伏見から大坂八軒屋の間を往き来した淀川三十石船の乗客に、餅や牛蒡汁、酒などを売っていた煮売り茶舟の事をいう。
船宿としての鍵屋は、江戸・明治・大正・昭和と度々の戦さや変遷を乗り切って平成9年文化財の指定を受けるまでその伝統を守り続けて来た。
得点順 一人一句
仕方なく火鉢の灰をかきまわす 徳永 政二
天動説を信じはじめたむくり屋根 森田 律子
すずらんをぽっぽっぽっと点してあるく 吉岡とみえ
川が道で道が流れる川の頃 南野 勝彦
かぎや鍵屋 鍵の形が透ける宿 墨 作二郎
半夏生大きな川は嫌いです 阪本 高士
ちょんまげを切ってきたかとメール来る 川田由紀子
くらわんか感情線が急カーブ 北川アキラ
引き出しを開けてはならぬ気配あり 里上 京子
カギヤの舟唄昔を引っぱる今日を引っぱる 今井 和子
くらわんか茶碗の欠けたとこに雨 笠嶋恵美子
水でした空っぽでしたが水でした 西村 夕子
耳立てて聞く欠けたところから 畑山 美幸
淀川を胸いっぱいに吸い込んで 平井 玲子
天の川は渡らずチキンクリーム煮 瀬尾 照一
雨の日は雨の言葉で人を刺す 前田芙巳代
本陣址には誰もいない すべり台 本多 洋子
雨が降る一旦ゼリー状になる 芳賀 博子
千両箱に腰をおろしちゃいけません 岩崎千佐子
格子房ヒヤッとくぐり抜ける者 八木 侑子
07年6月更新
第百三十五回 点鐘散歩会
神戸 花鳥園
神戸は三宮からポートライナーに乗って、アイランド南で下車。神戸港の海風を聴きながら、すぐ下に広がる広大な硝子の館・神戸花鳥園に入る。
先ずは館内いっぱいに天上から垂れ下がる色とりどりのフクシアコレクションの花々に歓迎される。
館内は完全バリアフリーの設計で車椅子にも、老人にも優しい心遣い。中庭を挟んで右手に熱帯性スイレンの池のコーナー。左手には珍しいインコやサイチョウ・オオハシなどの鳥園。ここではすぐ間近にフクロウのショウなども見せてくれる。
売店やレストランのさらに奥手にはフクロウやミミズクの展示室があり、神秘的な鳥たちと対面できる。
館内目の届くかぎり美しい花たちに囲まれ、ゆっくりと心癒される作句の一日であった。
一人一句 得点順
鳴けばいい鳴けば一日終わるから 徳永 政二
痛いほうの手で花びらに触れている 峯 裕見子
オオオニバスクレヨン全部つかったよ 八木侑子
白い鳥でいっぱいになる電車 井上恵津子
フクロウのマントの中にあるヒント 赤松ますみ
いつ咲くかそんな自由はないみたい 南野 勝彦
お隣の悪口言っているインコ 平井 玲子
そうだねとオオオニバスの裏の顔 森田 律子
不意に修羅不意に恍惚花の下 前田芙巳代
階段を登って空を食べている 笠嶋恵美子
スイレンは水上サミットしています 本多 洋子
老後はここで働かせてくださいませ 柴本ばっは
誰が通った何人行った覚えている 今井 和子
化粧してぶら下がりますわたくしも 松本あや子
ぶら下がる花と背伸びをする花と 墨 作二郎
中にいる整形手術したい鳥 上野 楽生
第134回 点鐘散歩会
07年 5月 更新
ギメ東洋美術館所蔵
浮世絵名品展 於 大阪市立天王寺美術館
5月の爽やかな風が頬をよぎる。噴水も薔薇園も清々しい天王寺公園を横切って市立美術館に向かう。
今回は、ギメ東洋美術館所蔵の貴重な浮世絵コレクションの中から選りすぐりの190点が紹介されている。
初期の浮絵・紅摺絵から、写楽の役者絵・歌麿の美人画・北斎の風景画・広重の花鳥画などそれぞれの特徴を掴むことの出来る見事な配置。
中でも今回里帰りした北斎の「虎図」は、東京の太田記念美術館所蔵の「龍図」と対幅であることが判明し、この二つが百年ぶりに再会したとして、話題の展示になっていた。
参加者 ひとり一句 高得点順
関節を外して君に会っている 吉岡とみえ
絵になってそれから消えていくんだね 川田由紀子
おいらんのふとももが見え今日が見え 峯 裕見子
馬二頭 馬は光を食べている 徳永 政二
満月まで飛んだら雁は帰れない 南野 勝彦
遠近法のずっと向こうに波の音 墨 作二郎
すこし目が疲れましたな浮世絵展 柴本ばっは
片腕を出してこっけいに生きる 西澤 知子
欲望はまっ白に塗りこめられている 岩崎千佐子
富士山を呑んでしずかな海になる 里上 京子
驟雨来てガーゼのようになる小町 本多 洋子
なあるほどわかったような判らぬような 平井玲子
林住期 写楽の雨の向こう側 たにひらこころ
お岩さんのうらみだんだんとおかしい 今井 和子
歌麿の女になって帰ります 笠嶋恵美子
写楽の謎にタンポポがせまる 北川アキラ
金貸しの顔で座っている写楽 井上恵津子
とぼけてみせる輪郭線を消しながら 赤松ますみ
母の首も写楽の首も重かりき 前田芙巳代
あとひとつ粘土貼りつけたい力士 八木 侑子
腹八分目で出ようギメ美術展 松本あや子
つかまれて踏まれて鬼の念の入り 瀬尾 照一
美術館お江戸陽炎渦巻いて 西村 夕子
力にはなれないけれど赤い月 森田 律子
龍の髭に触れたところで目が覚める 畑山 美幸
133回 点鐘散歩会 〇7年4月更新
京都 鷹ヶ峰 光悦寺から常照寺
本阿弥光悦は、徳川家康から拝領したここ鷹ヶ峰の地に、一族職人を集めて、いはば芸術村とも言うべき工芸の集落を営んだ。その足跡を象徴するのが光悦寺である。
丹念に組み上げた清楚な石畳の道は小さな山門への導入部。両側には楓の木が程よく並んでいて、紅葉の頃を彷彿とさせる。
中には三巴亭・了寂亭・本阿弥亭など七つの茶室が散在する。光悦垣という竹垣は殊のほか有名。
つづいて常照寺へ回る。この寺は光悦の土地寄進を受けて開設された鷹ヶ峰談林の旧跡で、いわゆる学問寺であるが、吉野太夫ゆかりの寺としても有名。朱塗りの赤門は太夫が寄進したもの。境内に太夫の墓と夫紹益との比翼塚もある。
高得点順 一人一句
のけぞると狐になっている桜 井上恵津子
取れそうなボタンとバスを待っている 徳永政二
バス行ってバス来てバス行って四月 峯裕見子
歩く時間は君を想っている時間 赤松ますみ
バス停は選挙の匂いたまっている 西村夕子
四月の水甕はすっからかんである 畑山美幸
馬酔木ほろほろ光悦垣はまだ眠い 笠嶋恵美子
第二幕みぞれ混じりの雨になる 内田真理子
門からの道 門までの道 吉岡とみえ
しぐれしぐれて死ねない傘をさしている 辻 嬉久子
鷹ヶ峰三山 風邪をこじらせる 小林満寿夫
おもろない墓にむらさき挿してある 墨作二郎
この庭はちょうど背丈にあっている 南野勝彦
吉野門 桜時雨でございましょう 森田律子
花の昼 久方ぶりの人と会う 八木侑子
椿地に落ちて美しき後生 前田芙巳代
小学校に通う 鷹ヶ峰の犬 本多洋子
触れないで散りたくないと言う馬酔木 今井和子
濡れた傘に花びら一枚ついてきた 平井玲子
夢は三角 書体は四角 北川アキラ
日 時 平成18年10月4日
参 加 京都・名古屋・大阪各地から21名
京都島原の花街は天正十七年豊臣秀吉の公許を得て柳馬場二条にひらかれたのが始まり。その後、六条柳町に移され、また寛永十八年には朱雀野にうつされて西屋敷と呼ばれた。その移転命令があまりにも急で、九州島原の乱に似ていたため、その花街界隈を島原と呼ばれるようになったと言う。
角屋では当時の一流画人に襖絵の制作を依頼したらしく、丸山応挙や与謝蕪村などの画蹟が残されている。
また幕末の頃には諸大名を始め、西郷隆盛・桂小五郎・坂本龍馬・山縣有朋などの勤皇の志士たちがここを利用し、宴を催したことが伝えられている。そのほか新撰組の壬生狼たちも出入りしたらしく、その刀傷が痛ましく残っている。揚屋というのは、今の料亭と同じく、料理をもてなして宴をはるところで、太夫や花魁が必要な時は置屋から迎え饗していたらしい。
角屋の建物は木造二階建て。表全体が格子造りになっていて、典型的な揚屋建築の特徴を持っている。昭和二十七年に重要文化財に指定されている。
階下には大きな台所が設けられ、二階は幾つもの座敷に仕切られて見事なレイアウトと装飾。「網代の間」「緞子の間」「扇の間」「青貝の間」などなど螺鈿をはめ込んだ壁や源氏物語の釘隠しなどが施され、障子の桟などにも驚くほどの工夫がこらされている。遊興の場とはいえ、当時の文化の粋を集めたもの。
ここで、俳諧や連歌の会などももようされたとあれば、まさしく文芸サロンを呈していたようだ。
約二時間たっぷりを鑑賞に費やして、午後から清記互選の句会に入る。
第百二十七回
点鐘散歩会
京都 島原 揚屋 角屋
刀箪笥のなかのわくわくする空気 赤松 ますみ
見たことは忘れてしまう 柳の木 内田 真理子
すすを剥がせば江戸元禄の桃の色 本多 洋子
そうね気分は九条浅葱色 吉岡 とみえ
障子ふすま障子ふすまとかきわけて 徳永 政 二
波打っているのは障子でなく私 峯 裕見子
衝立の布袋の腹が遊びなはれ 川田 由紀子
聴き耳をたてる不似合いな吊り灯篭 平井 玲 子
障子の桟がゆがんでもうすぐ生まれます 笠嶋 恵美子
鞄を前に回して太夫にさせられる 畑山 美幸
源氏絵巻がすすけてわすれられている 墨 作二郎
からっぽの刀箪笥から煙 たにひら こころ
釘隠し太夫の本音秘めてある 井上 恵津子
労わらないと臥龍の松もわたくしも 松本 あや子
帰ったら割箸の簪で内股で歩こ 岩根 彰子
シンプルな部屋に隠れた技ひかる 八木 侑子
京のど真ん中金木犀がしつこい 柴本 ばっは
秋が来ている角屋の塀がきゅっと鳴る 辻 嬉久子
平和な時の平和な太夫の息づかい 今井 和子
島原を通る近道した父子 小林 満寿夫
庭の松 お前何回褒められた 南野 勝 彦
当日参加者 一人一句
海遊館に入ると先ずは、水槽のなかを通り抜けの出来るアクアゲートを潜る。
天井も左右も透明なアクリル板をとおして魚たちの大歓迎。順路は先ずエスカレーターで8階へ。そこから穏やかなカーブでらせん状にスロープが形成されていて、左右上下の水槽を覗き込みながら、自然に3階の海遊館出口まで降りてくるという仕組み。一行は子供に還ってそれぞれが水中を泳ぐ魚のように
ラッコやイルカやジンベイザメなどと言葉を交わしながら、句箋に鉛筆を走らせた。午後から港区民センターにて清記互選の句会。
大阪 海遊館
第125回 点鐘散歩会
けっこう怖いマンボウの減らず口 辻 嬉久子
ええとこに行こう行こうというくらげ 峯 裕見子
めし・風呂・寝るといいたそうな魚 前田芙巳代
タカアシガニ黄泉の世界はすぐ隣 本多 洋子
ここまでは魚ここから私たち 徳永 政二
帰ったら金魚の水を替えてやろ 南野 勝彦
キミはワニじっとしてても全部ワニ 今井 和子
けんかなどしないのだろうか水の中 たにひらこころ
これからの予定クラゲと踊ります 笠嶋恵美子
誰かとめなきゃ永遠に右回り 岩崎千佐子
マンボウと目が合うキスをせがまれる 畑山 美幸
地球が割れるのですか超特急のイルカ 八木 侑子
エイよ今イナバゥアーで決めました 柴本ばっは
マンネリの鯵にも美しいうろこ 小泉 敬子
どんなもんだいとエイの尻尾が自慢す 松本あや子
ペンギンのお腹ぽかんと無邪気です 西村 夕子
水面を波立たせるのは私 久恒 邦子
小魚の群れ母さんに会えたかな 平井 玲子
奈良町から薬師寺
高得点句
埴輪ぼうと立つ百毫寺への抜け道 墨 作二郎
逢いたさは薬師如来の副作用 高橋 古啓
鶺鴒つつと来て水浴び入江泰吉館 本多 洋子
十二神将ハンサムな僕の干支 青木 勇三
竹筒に百円入れて挨拶がわり 笠嶋恵美子
そば屋から覗く奈良町低い屋根 福田 弘
土塀から奈良の空気を吸うている 堀 豊次
虫食いの経木もあらん花和讃 : 竹内 良伸
平成8年3月12日 参加者9名
第1回 点鐘散歩会
ひとり一句
高得点順
近鉄奈良駅前に集合。北円堂を回って猿沢池から奈良町へ。元興寺を覗き、庚申堂から格子の言えを回って十輪院・福智院による。近くの蕎麦屋で一回目の句会。午後は新薬師寺と入江泰吉記念写真館に寄って二回目の清記互選の句会。帰路歩きながらの披講呼名をして解散。
第132回 点鐘散歩会 平成7年3月7日
五個荘 近江商人屋敷の雛祭り
東近江市五個荘に点在する近江商人屋敷を散策して、折からの雛祭り巡りをすることになった。
先ずは商人屋敷町にふさわしく「てんびん通り」「鯉どおり」「花筏どおり」などをそぞろ歩きながら雛の公開されている商家に立ち寄った。
外村繁邸は作家外村繁の生家で、作家の遺品の数々も展示されていた。近江上布を使った清楚な清湖雛も印象的。
外村宇兵衛邸では畳二畳ほどの御殿雛。中江準五郎邸では土人形の小幡でこなどが所狭しと飾られていた。
遠くから冠雪の伊吹山が私達を見下ろしていた。昼食は手打ちうどんの店で雛ご膳を戴き午後から「てんびんの里文化学習センター」にて清記互選の句会。
得点順 一人一句
ぎしと鳴るところがあって少し春 峯 裕見子
福助のおでこのあたりに風がある 前田芙巳代
私小説箱階段を降りてくる 笠嶋恵美子
鳥の巣のような私の巣のような 徳永 政二
まっすぐな木はまっすぐに空を指す 内田真里子
雛の足裏をのぞいていった寒のもどり 辻 嬉久子
水という文字を担いでいる母屋 阪本 高士
藪椿 咳ひとつを我慢している 西村 夕子
薄暗き階段があり私小説 里上 京子
プライドがチロチロ燃えるおくどさん 久恒 邦子
近江の雛は読み書きそろばんが出来る 本多 洋子
人形も見る人もみなひなまつり 今井 和子
ソロバンが笑うとおひなさま笑う 北川アキラ
口移し雛人形は瞳を閉じる 小林満寿夫
菜の花のまばらと水の動く堀 墨 作二郎
お二階へどうぞ桜の木の手すり 平賀 胤壽
わたくしを洗ってくれたおひなさま 植野美津江
近江上布のくたっとしたとこ見せません 畑山美幸
角を曲がると水音がする鯉通り 平井 玲子
昔売る里で昔を買っている 八木 侑子
近江商人 観光の街にて生きる 河崎誠太郎
第百二十九回点鐘散歩会 2006年12月更新
大阪・鶴橋・コリアンタウン
大阪生野区にある鶴橋は、JR環状線・近鉄線・市バス・地下鉄などの交通機関が集中していて、庶民に愛される人情味溢れる街である。
戦後の混乱期に、ここに露天商が多数あつまった。いわゆるその闇市を基盤としてこの鶴橋商店街は発祥した。なかでも特筆すべきはその国際色である。
昭和二十二年に五カ国・・・日本・大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国・中華民国・中華人民共和国・・・の方々が集まって鶴橋国際商店街が結成されたと言う。現在はコリアンタウンという愛称で呼ばれ「どこよりも安く、何でも揃う」をキャッチフレーズに隆盛を極めている。
散歩会一行は、駅周辺の迷路のような商店街を散策、カラフルなチマチョゴリに目を瞠ったり、キムチや豚足に驚きながら買い物や作句に余念がなかった。
得点順 ひとり一句
チヂミ焼くスパンコールをふりかけて 川田由紀子
泣いていいよ ここではみんなそうしてる 南野 勝彦
賢そうな魚がここで干されてる 西村 夕子
赤いもの食べてしっかりと泣いて 峯 裕見子
のり巻きでくるむと とりあえず平和 赤松ますみ
店を出て炎を吐いているのです 福尾 圭司
立ち止まったらキムチにされてしまった 畑山 美幸
豚足ごろりラインダンスの夢がある 里上 京子
6Bで画くとツルハシ海になっている 北川アキラ
やがてこころに沈んでくるチマチョゴリ 前田芙巳代
女子マラソンの踏んばりどころこのあたり 瀬尾 照一
言うたかもしれんコリャンタウンの豚の鼻 今井 和子
冬を彩どる望郷のとうがらし 井上恵津子
悲しみを鍋にくべたらジャムになる 春野ゆうこ
作業着も宮廷衣装もそろいます 八木 侑子
豚の頭ごろんと曇天を睨む 笠嶋恵美子
もう少しですと言われてもうすこし 徳永 政二
うどん・そば腰から下が並んでいる 平井 玲子
ホッケの開き 曇天はさみしい 西澤 知子
チゲ鍋の湯気 民族をあたためる 本多 洋子
きっときっとキレイになれるキムチのキ 岩崎千佐子
コリアンタウンは雨の素通りちりれんげ 墨 作二郎
憎らしいアイツをエゴマの葉にくるむ 小田 明美
第百二十八回 点鐘散歩会
奈良・興福寺 国宝特別公開 2006
奈良興福寺は2010年に創建1300年を迎える。今創建当時の伽藍を復興すべく、急ピッチでその復元工事が進められている。
この秋は、三重塔・北円堂それに仮金堂が特別公開され、国宝館の貴重な国宝とともに一般の目に親しく接する機会を得ることができた。
秋晴れの爽やかないちにち、仏たちの思索に満ちたまなざしに深く心を打たれながら、あるいは忘れていた大切なものを心に呼び戻したようなやすらぎを得て、それぞれ思い思いに句をしたためた。
午後から句会。
各自一句 得点順
千年も下くちびるを噛んでいる 南野 勝彦
失った指のかわりにある宇宙 峯 裕見子
笑いなはれ仁王の口に手を入れて 川田 由紀子
鹿の角にちょいとひっかかったヒミツ 赤松 ますみ
ひとりになるとすくすく笑うほとけさま 徳永 政二
釈迦如来真っ正面に見る気力 平井 玲子
二歳から聖徳太子だったんだ 吉岡 とみえ
日本史の単位を興福寺で取ろう 本多 洋子
あの人に知ってほしくて生きている 春野 ゆうこ
この恋はギョロ目の佛には言わぬ 西村 夕子
柘榴にはざくろの念が゜行き届く 前田 芙巳代
青い空ととんでる私と興福寺 西澤 知子
紅葉はもうすぐ売れない絵を描いて 阪本 高士
扉を開ける弁財天の多産系 墨 作二郎
少し弱気な秋の時計を吐き出そう 辻 嬉久子
おトイレは土塀の中にございます 井上 恵津子
鹿の目に見つめられておはようございます 小田 明美
み仏の裏にまわれば鴉鳴く 植野 美津江
南円堂は口を閉ざしたままである 畑山 美幸
結界に揺れてただよう奈良晒し 菱木 誠
阿修羅のまなこ 夏目雅子を思いだす 柴本 ばっは
塔上を一直線に父の雲 松田 俊夫
階段は思考回路に続いている 福尾 圭司
ある意味ですごいと思う鹿のドン 久恒 邦子
鹿はただぼんやりみんなのそばにいる 今井 和子
阿修羅には一部始終を言うつもり 笠嶋 恵美子
新庄のように目立ちたい鹿がいる 松本 あや子