昨年末 信州は上田にある無言館を訪れました。
ご存知のように、第二次世界大戦で戦没した画学生の遺作が収集されています。彼等の無念が、体温が この館の中に沈んでおりました。
風化するキャンバス 本多 洋子
冬陽透明 どこまでも無口な空
ヤカタ
館 灰色 パレットの鎮魂碑
ギイと開く扉 空気は動かない
自刻像ごろんと画学生のまま
青い未来を描いた 海の絵は未完
消しゴムでは消せない戦争の裂傷
生きた証しに軍事郵便十二通
裸婦像は彼の帰りを待ち続ける
必ず帰ると 筆箱の赤半開き
うしろ姿の自画像を描き 還らぬ人
画学生の遺骨か 4Bの紫陽花
石楠花の白描き残し 妻よ妻よ
何も言えずに征った 昭和の断片
大切に拾う 風化したキャンバス
君を知らないけれど此処に君の体温