2011年12月 更新
象の留守 本多 洋子
連山の彼方に白い過去がある
いつからか虹のすき間にもぐり込む
冬の鬼 苦しまぎれの振りをする
交信は途絶えたままの青とかげ
棒パンを抱えて帰る冬の坂
象の留守 枯葉は渦を巻いている
枯れ蔦を引っ張る 過去を整理する
枯野には自責の念を置いてくる
紙風船 水平線を追いつめる
ピラカンサ謀反をひとつ考える
ユリカモメ軟着陸をこころみる
白地図の真ん中に置く毒きのこ
毒きのこ赤いプライドならあるが
胸底に寒々とある烏瓜
ドライフラワー哲学書など読みふける
枯葉踏む 童地蔵を起さぬよう
てのひらに受ける風花 うすむらさき
苦しまぎれに万華鏡からこぼれ出る
2011年11月 更新
血の濃さに 本多 洋子
ポーチには秋のドラマを入れておく
羊水を揺らす黄色いバラの精
お日さまに透けて懺悔をしてしまう
浮き雲の白に委ねるバラの棘
血の濃さに哀しみがある女郎花
秋そうび穢れてしまうかも知れぬ
まわり道して究極の白に帰す
妬心かな秋蝶は黄を遠ざける
濃淡は恋のかけひき 藤袴
あるときは厳しい白に疎まれる
素顔など見せたりしない酔芙蓉
秋薔薇ゆゆしきものをひた隠す
2011年10月 更新
ノーマーク 本多 洋子
粉末になってしまえばハヒフヘホ
ノーマークだった 豆腐の角だった
一緒にいたいな シナモンのような人
話の判る紙コップなら持っている
鉛筆すべる きっと産まれた頃だろう
萩の秋 素焼きの壷を据えておく
秋冷の竹人形の瞳を探す
彼岸花炎上 きっときっと三島
リカちゃんを秋のドラマに着せ替える
陣取りをしたな ローセキもあったな
少年期がみえる原っぱの土管
直角に曲がって列を整える
贋作の裏にまわってみたい蟻
ときどきは海鳴りを聴く蟻である
円陣を組んでる風評のめだか
切り岸で神話を見つめ直している
鉄砲狭間から秋風に覗かれる
石垣を滑る満月を受ける
2011年9月 更新
最近の句会吟から
道化師の鼻 本多 洋子
アマリリス夜は謀反を考える
道化師の鼻を捜しにゆく枯れ野
カラフルな尾てい骨なら持っている
三杯酢かけて亀裂を修復する
8・06の水 3・11の水
スコップとホースで減らす放射線
池の面に届くマイクロシーベルト
計測器つけて登校いたします
戦災の瓦礫 震災のガレキ
頂点でダルマの覚悟出来上がる
風は少女に 白桃の産毛に
ピーマンの空っぽなんか恨まない
世の介の道案内を頼む夏
列島に津波保険をかけなさい
注意ひくための黄色い鳥になる
れもん水になってしまったフェルメール
2011年8月 更新
最近の句会吟より
鹿鳴館のフリル 本多 洋子
罪ひとつ優雅に枇杷の皮を剥く
花しょうぶ鹿鳴館のフリルだな
湯どうふの昆布で一生を終る
人形の呼吸に合わせている憂い
なでしこのDNAを考える
幻を追いかけてゆく桃太郎
ひまわりになったら君に逢いに行く
もしかして天の川にも来る津波
本日休診 夏のゴーヤは伸び盛り
雨の埴輪に笹まつり星まつり
蝉は少し離れて地平線を見る
気に入らぬ門に生まれてきた蝉は
こころ穏やかに埴輪の後列
ひまわりの後ろにまわるはかりごと
霧でしたか夕鶴でしたか
2011年7月 更新
花ざくろ 本多 洋子
絵手紙の西瓜 元気にしてますか
内心を見せたくはない花ざくろ
接続詞ばかりが溜まる紙袋
どうしても尻尾が出てしまう器
月に帰るメドならちゃんとついている
オフェリアの唇は半熟でした
憶測を赦してしまうメロンパン
敵に回すととっても怖いアマリリス
カラフルな影になってから死のう
敵のひとりが花束を持ってくる
コロンボのコートが消えた梅雨の街
マイナスを引きずっている青蜥蜴
ひまわりにちょっと口添えして貰う
梔子の白に紛れてしまう影
握れるほどの石なら墓石にしよう。
最近の句会吟から
2011年6月 更新
最近の句会吟より
オルガンの流れ 本多 洋子
鳴き砂は遠い津波を知っている
おとといの砂を噛んでいる奥歯
砂山に残されている道化の靴
未来を掴んでいるゴム風船の青
心療内科に行く青梅のひとつ
瓦礫の中の青い三角を探す
置き場所を考えている猫の鈴
前置詞にちょっと言いたいことがある
りんご一つ宝のように置いてみる
残照に佇んでいるみおつくし
残り時間にたっぷり染まるアマリリス
渚では乙女の素足光らせる
オルガンの流れの中の浅みどり
青葉梅雨 化学反応みたいな恋
残影を追いかけてゆく青揚げは
お化け屋敷を覗きに行ったオニヤンマ
点鐘勉強会にて
2011年5月 更新
ピーターパンの靴 本多 洋子
かたち
ある時は祷りの容ミモザの黄
吾亦紅 万葉がなを拾い読む
渡り鳥 水平線を信じきる
列島の燕がつける喪のリボン
青葉風 アンドレジイド読み直す
妖精だったか風のゆびさきだったか
哀しみは耳のうしろに溜まる風
三日月に吊るすピーターパンの靴
新月にこころの襞を覗かれる
寒山拾得 月光を掃き寄せる
川柳公論 表彰句会吟より
2011年4月 更新
うずくまる天使 本多 洋子
悲しみに揺れる水平線がある
路上に瓦礫 屋上にSOS
巨大ミキサー列島をかきまぜる
にんげんの欠片が沖へ流される
くう
空をつかんでいる神さまの右手
津波警報 らち外な牙をむく
繋がらぬ回線がある 地獄絵図
補給路は断たれた 祷るほかは無い
プラズマを破る黒い怒涛
列島は長いトンネルに入る
ゴーストタウン無口な犬が残される
原発を逃げる 故郷をあとにして
深海で迷うマイクロシーベルト
パセリにもほうれん草にも罪はない
列島から子供を疎開させなさい
集団疎開 昭和にも 平成にも
弥勒菩薩も聖母マリアも欠片になる
北を指すゆび神さまを信じきる
うずくまる天使 濡れている天使
2011年3月 更新
片方のピアス 本多 洋子
ろうそくを継ぎ足し遠野物語
またひとり友を失う寒椿
ひやしんす哀しい約束を果す
てのひらの窪みにひらかなが溜まる
鳥獣戯画の裏へと続いているドラマ
風は春です 双塔を天秤に
お迎えを拒否 色鉛筆を削る
片方のピアスを探す沈丁花
左キキだったと思う春の河馬
吃水線あたりで大きな咳をする
春は今 京都市左京区あたりまで
雛あられの赤が転がる四方山話
出来立ての言葉をハンカチで包む
縄電車 二月の鬼を積み残す
三月の水ほとばしる電子辞書
最近の句会吟より
2011年2月 更新
十四字詩
砂漠のミイラ 本多 洋子
桃の種から卑弥呼ほうふつ
阿修羅が眠る真みどりの沼
耳にピアスの穴を 仏頭
銀河ひしめく天目の碗
闇にまぎれて産卵の星
一片二片 春泥の耳
壷の耳から青い潮音
玉をころがす掌の谷
これは蝉丸春の吊橋
春の帽子の中の嘆願
六年先の着地点まで
土を握って指紋を残す
扁壷夕焼けにじむ砂山
帽子深々 絶滅危惧種
コッペパンから続々と蟻
シナモン匂うパンの接尾語
蛇口したたる真っ赤な呪文
地図を片手に砂漠のミイラ
祷るてのひら 座るてのひら
2011年1月 更新
2010年度川柳公論(尾藤三柳主宰)「極北賞」受賞
年間投稿作品の中から 本多 洋子
ライオンもらくだも歎異抄を読む
身辺が透きとおるまで手をかざす
横座りして哀しみをやり過ごす
新涼の人形の目を覗き込む
結界の手前で水を飲んでいる
春の雲 飛天のスカートが見える
春雨に少し震える導火線
おとうとを追う七月のヴァイオリン
豆の木の下に埋める不発弾
夕焼けの滲み出すまで素焼きの壷
うねるもの遠ざかるもの星祭り
写し絵という遊びあり水の秋
抜歯して少し傾く秋日和
主役にはなれそうにない烏瓜
秋さびし鏡の奥に奥があり