プロフィール
1982年 川柳を始める
1987年 「現代川柳 点鐘の会」創刊当初から会員
1990年 川柳公論に投稿を開始
1995年 川柳公論大賞
点鐘・公論・川柳新京都・凛・双眸 各柳誌に投句
句集に「本多洋子作品集」「女人埴輪」「紅牙」「遍路」
海堀 酔月氏を悼む 本多洋子
両忘やパイプの煙くゆらせて
桃色の煙が向こう岸に着く
魚影追う淡い光の中で追う
飄々と煙になって「泣くなよな」
新しいボトルの中に入れる星
たそがれは手首から来る冬桜
しじみ蝶でしたか 噂してたのは
巻貝の奥で人呼ぶ声がする
朧夜は忿怒の面を抱いて寝る
煙になった 自由自在になった
2007年 12月 更新
いよいよ今年も余すところ1ヵ月。
今年の成果はどの程度であったのか。
来年への突破口は拓けるか。
一縷の望みを今でも持って
明日の扉を叩く。
中村冨二賞 応募作品から 佳作 本多洋子
八重桜 ジグソーパズルが解けないよ
黄砂きて木っ端微塵にダリの抽斗
振り向けば葉桜が鳴るオルゴール
青葉風ガラスの馬を追いかける
プリズムな若葉の中のカメレオン
ふうらりと藤の魔性にとりつかれる
銃声は五月の空を切り裂いた
デルボーの駅舎を風が吹き抜ける
晩夏光 静止画像を保存する
にんまりと二幕 写楽と目が合った
2007年 11月更新
今年はようやく今頃になって紅葉の便りが聞けるようになった。関西ではまだまだ見ごろとまではいかない。月下美人が遅くまで蕾をつけていたりする。
爽やかな秋は短いかもしれぬ。
モディリアーニ作
ピカソ 「SAVOR」
「すべてお見通しの人」
ジャンヌ
モディリアーニ
2007年10月更新
モディリアーニ展をみて 本多 洋子
アメデオ・モディリアーニとジャンヌ・エビュテルヌの短くも激しく生きた伝説の二人に、長く秘められてきたジャンヌの遺品が公開されたこともあって、今各地でモディリアーニとジャンヌの物語展が開催されている。
1920年1月24日、モディリアーニは結核性脳膜炎で急逝(35才)するがその2日後、ジャンヌ(21歳)は胎内にやどる小さな命とともに建物の6階から投身自殺する。
今回は日本ではじめて妻ジャンヌの作品とともにモディリアーニ展が開催された。
パリで出会ってパリに炸裂 乾燥バラ
ミューズの髪が青い瞳に降りかかる
デッサンの首 聡明に削られる
ポートレートの顎のあたりの強い意志
瞳の奥の湖が深まるモディリアーニ
S字型曲線にする期待感
くねくねと情けを零してゆくカーブ
アートとはモンパルナスの水溜り
カフェの隅にフジタの椅子も見えますね
モアイ像の血も少しだけ貰います
つば広の帽子で哀しみを隠す
大首にして何もかも曝け出す
ある時は広目天の眼を借りる
お決まりのポーズで退屈してる裸婦
キャンバスをはみ出し挑発的な裸婦
少女の眼は勿忘草の水色です
斜めから覗くと辛い線になる
出口はこちら 夭折の氷柱花
馬頭琴が鳴る
異空間 君とハーブをたしなんで
風が動いてほうら馬頭琴が鳴る
あざらしの背中が痒い梅雨晴れ間
写楽おおくび くすんで晩夏
晩夏光 役にも立たぬ棒拾う
タバスコな清少納言と午後三時
教科書検定 赤紙青紙黄巻紙
青不動黄不動 直立不動の棒
アンニュイな気泡が溜まる秋のバラ
柿青し大臣Aは更迭さる
根回しの怠りもなし狸汁
柿の蔕へなへな地球温暖化
2007年 9月更新
猛暑もようやく鎮まって
風が動く 秋の気配
自分よりも若い人たちの訃報が届く
やりきれない想い
これから何を残せるのだろう
人の傷みが胸を打つばかり
神戸 花鳥園にて
参院選挙が終わって、安部内閣に厳しい世論の審判が下された。
選挙直前に発覚した年金問題や閣僚の不祥事が、大敗の引き金になったと思う。しかし目先の年金騒動で焦点は交わされてしまったが、実は大事な憲法改正問題や教育問題が隠されていた。国民はそれを見落としてはならない。
安部政権は尚も続投すると言う。今後の成り行きについても、しっかりと見張って,熟慮して、国民の審判を下すべきだと思う。
「何でも見てやろう」の小田実氏が癌で亡くなられた。世界を足で歩いて平和の尊さを訴えて来られた筈である。
これからの日本が平和への道を踏み誤らないように願うばかりである。
千の桜は九条のこと考える 洋子
句会吟から
賢治の夜はサクマドロップ降ってくる
嬉しい時は嬉しいようにふる言葉
なぞなぞを奇麗につなぐ糸トンボ
寂しさを紛らすように打つドラム
顔色を読むことになれ ねじり花
一族の謎を深めて法師蝉
心がわりを読んでしまったアマリリス
昼の月謎を明かしたことがない
淡々と後の祭りの尾を掴む
神域の奥へ奥へと揺れる鉾
07年8月更新
最近の句会吟から
オモチャの兵隊フランスパンを迂回する
司馬遼の万年筆に味がある
梅雨晴間 重い昨日を整理する
金魚は昼寝 午後の用事がはかどらぬ
梅雨半ば日記は白いまま伏せる
神さまの言葉が繁る森の奥
水か白馬か魁夷の森を彷徨いぬ
額紫陽花 言いたい事は伏せておく
放りだしてしばらく旅に出かけます
07年6月18日午後8時から開花
07年7月 更新
わが家の月下美人が今年は早くも一つ開花した。
4月半ばに鉢を植え替えて大事に成長を見守ってきた。
主人が他界した年の晩夏に初めて花をつけた鉢である。
この花の香りと気品をひとめ主人に見せてあげたかったと思う。
元気のいい緑の葉先に次々と蕾が膨らみ始めている。
かすかに花の動悸が聴こえてくる。
07年6月更新
松島遊覧
芭蕉には矢立 わたしにボールペン
ゆらゆらとゆらり松島それ松島
あとさきをカモメの談合 歓声談合
島の名も船の名前も「仁王」だち
松島のクレーン 島を吊り上げる
海底に密談のある赤いブイ
白い胸みせて鴎が身をよじる
曇天を切り裂くカモメ・ダリ・ピカソ
島多忙 遊覧船を急き立てる
虚と実の皮膜に伸びる島の松
波はアートの指先 島の裏おもて
神さまのお箸で島をかきまぜる
きつね雨 島の祠をそそのかす
赤い橋渡るは鬼か田村麻呂
松島は身も蓋もない芭蕉さま
炭火焼き笹かまぼこと虚実論
07年5月更新
ベルギー王立美術館展
大型連休 前半は願ってもない五月晴れ。ビッグな計画もない私は、せめて外の空気を存分に吸ってと、勝手気ままに足を運ぶ。
先ずは、近場で、大阪は肥後橋の国立国際美術館で催されているベルギー王立美術館展を訪れた。
ベルギー王国が世界に誇るこの美術館は200年以上の歴史を持ち、15世紀から20世紀までの約二万点を所蔵するといわれている。
本展ではブリューゲル・ヨルダーンス・ルーベンス・マグリット・デルヴォーまで象徴派からシュルレアリストにいたる豊富な作品を集めて展示されていた。
イカロスの足ばたばたと父子の絆
帆船は蝙蝠の羽 地獄の涛
ワインが笑う野菜が叫ぶ村祭り
トラピストビールに酔いしれて 女神
風景に飲み込まれ行く青い巡礼
葡萄蔓草 ヴァイオリン弾きの貧しい愛
てのひらが主役シューマン聴いている
生か死か マルグリッとの昼と夜
デルヴォーの駅舎 少年は孤独
遠近法で描くデルヴォーのノクターン
最近の句会吟から
葉桜のその後は風を抱くばかり
子午線のあたりで迷いふっ切れる
勾玉のかたちに抱かれている朧
ふんわりと握ると応えてくれる土
魂の奥で土鈴が鳴っている
わび寂びを古いふるいと片付ける
派手だから淋しいチンドン屋のラッパ
07年4月更新
最近の柳誌に掲載作品より
五条六波羅界隈
辻は六道 子育て飴は黄金色
落ち椿 この世あの世の境目に
冥土通いの井戸まで春を乗り継いで
ここは細道 水子地蔵の犇く赤
六波羅密寺のいしぶみ昏し春暗し
春を拾うてふらりと喫茶養生記
「凛」29号掲載
句会作品より
春浅し 恋も桜もアンダンテ
花冷えの耳のうしろにある予感
春哀しきりりと竹人形の帯
騙されてみようか写楽の腕の中
諦観ということもある春の河馬
団塊の螺子をゆっくり巻き戻す
浮雲を見ていて涙してる鬼
鬼は闇夜の緋寒桜に誘われる
他人の名を呼んで小鳥が迷い込む
皮袋にしばらく入れておく言葉
★ ★ ★
★ ★ ★ ★ ★
2007年2月更新
句会作品を私は一段と低い存在であるとは思わない。川柳が座の文芸からの発祥であることを思えば、その特性は充分に生かされてしかるべきだと思っている。いい作家の集まる句会、いい選者に兆戦できる句会で自分の作品を磨くのは、素晴らしいことだと思っている。句会を持たないことが高度な現代川柳だとは思わないし難解な理論だけで川柳が良くなるとも思わない。
句会を馬鹿にしてはいけないと思う。そしてもっと川柳を楽しまねばと思う。
血の通った句会で血の通った川柳を創りたい。
最近の句会作品から
チンドン屋のラッパに頼り切っている
向こう岸の煙突ならば頼れそう
落日に吸い込まれ行く一輪車
コントなら薄紫の前身頃
黒豹か女か電飾の都会
カルシウムが足りない三角の都会
切っ先をするっと躱す寒椿
水の音 侘助の悲を避けながら
新刊書の匂い 春を待つ匂い
鉾先を逸らしてしまう春の壷
2007年1月28日「凛」句会にて
2007年 1月中旬 更新
若宮おん祭り
水みどり 雲の合間の春日絵草子
藤にからまる鹿まんだらの優しい目
おん祭り 民のざわめき高鳴る馬
携帯用仏舎利もある鹿の背な
伎樂面・雅楽面からコメディアン
崑崙は呉女にうつつのお人好し
貴徳鯉口 人でも呑んでしまったか
驚いて納曾利の顎は外れっぱなし
酔胡従は温和な額 酒の匂い
エトランゼだったか力士の伎樂面
句会吟 から
くちびるに雪ほとぼりの そっとです
痛みには触れないように寒椿
折り鶴をほどいて哀しみから逃げる
拉致されたのは真っ白の紙の鶴
フセインのその後も続いているドラマ
柔らかい牙で男をたしなめる
四分音符ブリキの兵隊立ち上がる
触れないで 不発弾ですわたくしは
動と静
八部衆のひとりは鳥と通じ合う
水ゆれて阿修羅の細い声を聴く
蒼がこぼれている仏頭の目尻
地響きは十二神将あたりから
動と静 伐折羅は風を読んでいる
右足に心の移ってゆく伐折羅
秋日透明 甍の襞をすべるかな
実験劇場
淵を覗けば紅葉の底の実験劇場
紛失はジグソーパズルの枯葉一枚
人生の岐路 沈黙の青い画布
もう戻りたくない道のからすうり
プラスマイナス零のあたりの仏相華
長生きをし過ぎましたか赤とんぼ
傷痕を隠してあげるアマリリス
土偶の乳房
縄文の水系にある土偶の乳房
群青の海に届いた悲の土偶
ある時は朱に流される河童伝説
何時かまた狼煙があがる雪の丘
ホルン鳴る遥かな青が燃えている
句会吟から
世之介のその後のことは闇である
チョコレートボンボン沙汰を詫びに来る
ぎりぎりの線まで許すキリギリス
おおかたは里の地蔵に打ち明けた
ボーダーラインにかなり間があるきりぎりす
最近の句会吟から 2006年12月更新
三角の噂を煽っていたところ
おとといに触れたくはないレモンティ
いのち弾んでピノキオの落書
雑木林の冬日を抱いている明日
風をよむ 右へ流れて行くようだ
トルソーに透ける冬の日の予感
ピラカンサ触れてはならぬ事がある
ポインセチアの赤に始まる実験劇場
桐の葉は風に寄せられ喪が続く
三角広場を覗いていったちぎれ雲
桃も噂も下流の方に流される
砂山に触れた指から痛み出す
アトリエの冬日に残るベレー帽 故 森田栄一さんへ
作品集「紅牙」から
ガラスの蝶の透ける血の道 海へ海へ
死は不意に坂の柘榴が暮れ残る
悪い冗談だったと戻っては来ぬか
炎天の薔薇ほど堪え性はない
桔梗横向きひっそり生傷に触れて
冬薔薇 哀しきはみな剥ぎ落とす
色のついた空気を速達で送る
花柘榴身内を抜ける風いくすじ
「朝日がきれいなの」癌病棟東館
女人埴輪の耳のうしろの静かな海
空蝉は雨に打たれる靖国論議
縄跳びに裸足の少女 夕陽の坂
虎杖の酸っぱさ 破れた運動靴
君が代をずらすと暗かった時代
古井戸も古いピアノも白い音階
前頭葉に戦が残る油蝉
遠近法で見る ながーい一日
星祭もののけひめに逢いにゆく
柱時計の裏を出てゆく黒揚羽
饒舌な絵巻の裏の雨期乾季
情報に溺れてしまう鳥獣戯画
短編のところどころに塩を振る
哀悼や桔梗の白の直立不動
七月の雲 道化師の後を追う
今までの手帳から 2006年・9月現在
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最近の手帳から 2006年11月初旬更新
別離とは水の深さと雲の白
岩陰にしゅるっと罪な青蜥蜴
葬列や鶏頭の赤天を指す
立ち入り禁止ここから先が柔らかい
延命拒否 庭の隅には白桔梗
直情というケイトウの花の首
百日紅 風を味方にするつもり
水の音 古い詩集が読みたくなる
向き向きに考えごとをして初秋
ムクの木の根元に埋めている挽歌
長崎の旅
佐用姫伝説 風が泣く石が哭く
深む秋 棚田つぎつぎ雲形定規
根の国の和音が降ってくる棚田
隠れクルスのように石蕗咲く平戸
蒼天を斜めにザビエル記念堂
オランダ井戸は哀しみの色 ジャガタラ文
生かされて生きて秋夜の海を聴く
波に洗われ神に近づく寡黙な島
人住まぬ島に神話が生き残る
グラバー邸 三浦環の名がのこる
潮風に乗っていづこへ秋の蝶
句会吟から
祭りのあとのとても激しい水の音
てにをはをチェックしておく前夜祭
鏡に映す秋の心のうらおもて
風にのる噂は風に裁かれる
萩終る きりりと縁切り絵馬がある
えんま蟋蟀もう悪縁は断たれたか
深い深い彩になるまで抱く葡萄
何ほどの怖れ 卵に血がまじる
時計屋の時計を覗く初秋の風
鉛筆の倒れた方へ行く次男
3月初旬更新
鹿児島県 知覧特攻平和会館を訪れて
この知覧特攻平和会館には、太平洋戦争末期の沖縄決戦に、飛行機もろとも肉弾となって敵艦にたいあたりしたいわゆる特攻隊員の遺影や遺品、当時の貴重な資料が展示保存してある。
沖縄特攻で散華した隊員は1036柱という。
出撃最後の5日間程を過ごしたという三角兵舎にはせんべい布団と枕が当時のままに残されていた。
どんな思いで最後の一夜を過ごしたかとおもうと胸のつぶされる思いがする。父や母への手紙や遺書遺品にも生々しい痕跡があり、まともに凝視することが出来なかった。
かれらは平和の大切さを、今も命をもって私達に訴え続けている。
桜寂し 知覧特攻滑走路
石灯籠かの鎮魂の兵の数
風は何処から遠い無念の開聞岳
むらさきを引き摺る平和記念館
不帰鳥の慟哭がある風の音
富屋食堂 兵の命をあたためた
食堂の椅子 母さんの手のぬくもり
三角兵舎 ああ父上様母上様
明日を散る薄き布団に身を沈めて
枕には消えない染みが残される
最後の日の白い結束 三角兵舎
少年兵の懺悔は今も ミモザの黄
幼さの残る決意の白ハチマキ
思い断ち切り開聞岳を迂回する
思慕いまも開聞岳の花の種
黄の色は慟哭の彩 特攻花