山吹
「七重八重 花は咲けども山吹の
実の一つだになきぞ悲しき」
兼明親王(かねあきらしんのう) 後拾遺和歌集
山吹の花を語る時にこの有名な歌無しでは
なにも始まらない

室町時代中期の武将太田道灌は
ある日鷹狩に出かけたおり 突然の雨に見舞われ
通りすがりの農家に蓑を借りようと立ち寄った
たまたま応対した農家の娘は 黙って
美しく咲いた山吹の一枝を差し出したという

道灌は それがなんの意味かも解からず
不機嫌になってしまったとのことだ
屋敷に戻った道灌が 事の一部始終を家臣に話したところ
それは 古歌になぞらえて丁寧に非礼を詫びたとの事です
そう諭された

「家が貧しいため蓑の一つもありません」
そんな現実を娘は 失礼の無いようにと
それとなく伝えたとの事だ
美しい花を咲かせる山吹だけど 実の(蓑)一つも無い
八重山吹は 実をつける事はないのです
「花咲きて 実は成らずとも 長き日(け)に
思ほゆるかも 山吹の花」 万葉集
そんな事実を知った道灌は
その後歌に勤しむようになり後には高名な歌人ともなった

こちらは山吹
「山吹や葉に花に葉に花に葉に」 炭太祇
「山吹」
山の奥で蕗の花に良く似た花を咲かせ
柔らかな枝を風にゆらゆらと身をまかせながら
まるで黄金が咲き誇ったように咲いている
そんなところから
「山吹」そう呼ばれるようになったなんて聞いている
 
「ほろほろと山吹散るか滝の音」 芭蕉
山吹には 山奥で気高く咲いている姿が似合うのかもしれない
「山吹や一寸揺れて答えけり」
「山吹の色に酔うてもコップ酒」

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