朴(ほお)の木の下で




人々は急ぐ
特に近ごろは
車やオートバイで
猛スピードで行く
わたしは歩くから
多くの人からおくれて行くことになる
したがって先方へ着くのはおそくなるが
川の流れや
雲のゆききや
虫の音(ね)や
鳥の声などを聞いたり
見たりして行くので
考えてみると
どれだけ得をしているかわからない
そう思うてくると
人におくれてあとからゆっくり行くことも
長い一生のあいだでは
決して損をしたとか
残念だとか言って
嘆き悲しむ必要はない

若い人よ
先を急ぐ君たちはこんな言葉に
耳をかたむけない人が大多数だろうが
少し長く生きてみると
なるほどだということがわかろう

朴の葉はえらくおくれて伸び
花をつけるのもひどくおそいが
葉の大きいこと
花の見事なことは
夏の木の中では王さまだといってもよい
わたしが朴の木にあこがれるのも
あせらずいそがずゆっくりと
自分を打ち出してゆくところにある
少し教訓めく言葉になったが
朴の木の下で
あの香りのある大きな葉に包んだ
おにぎりを食べ
番茶でも飲んで
ごろりと寝ころんでいたら
天下一の幸せ者かも知れない

若木のように
先を急ぐ若人よ
大自然の中にも朴のように
悠々とした木のあることを知って
じっくりと自己を培い育て
大成してゆくこともいいことではないか

by 坂村 真民


温かく 優しく 穏やかで、
包み込むような心・・
長らく人生を生きてこられた中から、
生まれる素直な言葉


そのように 生きる事も また、幸せ、、


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