あの水俣市で風力発電計画が…..   

         

「風力発電を考える会」の道家哲實さんからメールを頂いたのは、今年の5

24日であった。水俣市で風力発電計画があるという。私はわが耳を疑った。「え

っ?あの水俣病の水俣ですか?」これは大変な事になる、と返事をした。

熊本県と鹿児島県の県境に近い亀嶺高原は鬼岳(標高735m)という溶岩ドーム

がそのまま固まった丸い山のふもと
500m〜600mの美しい高原である。

頼山陽が絶景に感動し、漢詩を詠んだ石碑が建っている。

そこに

出力  2000kWの風力発電7基が建つという。 

事業者 西日本プラント工業株式会社(九州電力の子会社)

完成  平成24年(予定)               

水俣市の市長 宮本勝彬氏は市の教育長をしていた時に、産業廃棄物の反対

グループから推薦されて、現職保守候補を破って当選した。

今年3月には「水道水源保護条例」を策定し、水俣病の反省の上に立った“善政

を施していると思われた。それが「環境モデル都市」に指定されるや、クリー

ンで環境に優しい(?)風力発電に飛びついてしまったのである。

風力発電の予定地点から1km内外には石飛・鬼岳地区の民家の大半が含まれる。


遠くにお椀を伏せた様な鬼岳 その右に7基の風車が並ぶ

この一帯は茶畑が広がり(その面積32ha,霧が発生して寒冷な気候から、熊本の銘茶

「亀嶺茶」の一大産地になっている。ブルーベリー農園もあり、もし伊方町のように

風車のナセル部からオイル漏れがあったらどうするのだろう。
1日目の22日は夕方7

時から、石飛分校跡の教室にて、主に茶農家の方達
10名が懐中電灯を片手にばらばら

と集まってくる。道家さんの挨拶とDVD上映の後、ござの上に車座になって話し合い

が続く。
どの程度まで低周波被害が及ぶのか?質問は切実だ。熱川の例や愛知県田原市、

伊方町などの例から、また、風車の出力が2.000キロワットと大型である事、風下で、

かつ後ろに山を背負うような地形である事、などから
1km〜1,8kmのこの地では被害

が免れない、と断定した。
いたずらに恐怖に陥れる積りはない。しかし暴露時間が長け

れば「必ず」被害が発生すると言っても過言ではないし、農作業中は風車の至近まで近

づく。風車の影が回るだけで気持ち悪くなる、と言ったらうなづいていた。「あそこは

水の神様が祀ってあるけになあ」「
5mも掘れば下は火山灰になっていて、この前は南

側で崩れていた」と写真を見せて大嶽さんが説明する。
地権者で、搬入路になる両側に

土地を持っている人も多い。リーダー格の道家さんも
3町歩を持つと言う。そして今、

地権者の会を作り「一寸たりとも売らない、一本の木も切らせない、個人で交渉しない」

事を誓っている。署名、捺印をして事業者と市に提出する戦術という。血判状ですね、

と私が聞くと、「そうだ、孤立していると切り崩されるし、名前を書く事で覚悟も出来る

のだ」と答えつつ豪快に笑う。この九州男児、もとは朝日新聞の記者だったとか。

退職して自分の山で、仲間と原生林を作ろう、と「千年の森」造りを始めた矢先、風車が

目と鼻の先に出来るという事態に「草を刈る暇もない」。道家さんの大らかな人柄とそれ

を補佐する大嶽女史、茶農家の方々がいい。   

ログハウス風の亀嶺の森山荘 薪ストーブがある

823日は山荘での朝食後、風力発電の現場や亀嶺峠を歩いた。九州の山々もまた雄大

で美しい。鹿児島から熊本の水俣に馬で旅した頼山陽が漢詩をものし、徳富蘇峰がそれを

石碑にしたところである。

この360度、桜島から鬼岳、はるか眼下に不知火海まで見渡せる絶景の地に、風力発電が

稜線をぶった切ることは、まさに暴挙以外の何ものでもない。

2時からの水俣市公民館は40数名が集まってくれた。ロシナンテ社の四方さんが本を広げ

ている。市会議員(共産党)の野中重男さんらと名刺交換、朝日と毎日新聞が来ている。

街中には「水俣の暮らしを守る・みんなの会」という組織があり、坂本龍紅という、名前

負けしない元気な九州男児が会長をしている。この人はもと自衛隊のパイロットだそうです。

水俣病の患者さん応援のための全国から若者があつまり、そのまま住み着いたという人も

多いと聞く。市民意識が高いのである。ここは勝てるかもしれない。

いま計画されている風力発電は、「水道水源保護条例」をもつこの市の水がめを壊し、離

島に送水するどころか、水を他所から買わなければならない日が来る。

4年前に水俣に来て、能「不知火」を観た話から始まり、「私は福島生まれです。

会津藩の地から来たので敵地に乗り込んだようだ。しかし今日は皆さんの温かい歓迎に感

謝している。会津の藩校・日新館には“ならぬものはならぬ”という言葉があります。こ

の地の風力発電はならぬものです、なりません。共に頑張りましょう」と締めくくった。

終わっての討論会で「風車自体は悪くない」とか、「日本人だけに低周波被害が

あると聞いたが?」など意見が出て活発な討論会になった。

「水俣の命と水を守る会」は約500人を組織しており、市長の選挙母体だというが、今、

風車反対に加わってきた。市長も反対を押し切ってやるとは言っていないので追い詰めな

いで、と会長が発言していた。
いま風車建設を許してしまえば、水俣市は歴史から何も学

ばない市として日本、いや世界中から笑われてしまうだろう、と私は釘をさしておいた。

6時からの懇親会は近くの料理屋さんで持たれた。17名の出席で話が弾む。

こんな活動を通じた人々との出会いは、まるで10年、20年来の友達と話しているような、

楽しい時間であった。
水俣市の皆さん有難うございました。

 

             2009827

 

風車問題を考える住民の会(東伊豆町)

藤井広明