万葉集・船の記録
万葉集は、岩波文庫の「新訂 新訓 万葉集 佐々木信綱編」(第一刷は1927年9月) によった。
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巻 一
1 熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今はこぎ出でな (8) 額田王
2 ささなみの 志賀の唐崎 幸きくあれど 大宮人の 船待ちかねつ(30) 柿本朝臣人麻呂
3 やすみしし わが大君の 聞しめす 天の下に 国はしも さはにあれども 山川の 清き河内と 御心を 吉野の国の 花散らふ 秋津の野辺に 宮柱 太しきませば ももしきの 大宮人は 船並めて 朝川渡り 舟競ひ 夕川わたる この川の 絶ゆることなく この山の いや高知らず 水たぎつ 滝の宮処は 見れど飽かぬかも(36) 柿本朝臣人麻呂
4 山川も よりて奉(まつ)れる 神ながら たぎつ河内に 船出するかも(39) 柿本朝臣人麻呂
5 嗚呼見(英虞)の浦に 船乗りすらむ をとめらが 玉藻のすそに 潮満つらむか(40) 柿本朝臣人麻呂
6 潮騒に 伊良虞の島邊 こぐ船に 妹乗るらむか 荒き島廻を(42)
7 いずくにか 船泊(ふねはて)すらむ 安禮の崎 こぎ廻(た)み行きし 棚無し小舟(58) 高市連黒人
8 大君の 御令(みこと)かしこみ にきびにし 家を捨て 隠国の はつせの川に 船浮けて 我が行く川の‥‥(79)
巻 二
9 大船の 津守の占(うら)に 告(の)らむとは 正しに知りて わが二人宿し (109) 大津皇子
10 大船の はつる泊の たゆたひに 物思ひせむ 人の子ゆえに (122) 弓削皇子作
11 つのさわふ 石見の海の‥‥心を痛み 思ひつつ かえりみすれど 大船の 渡りの山の もみじ葉の ‥‥(135) 柿本朝臣人麻呂
12 かからむの 懐(こころ)知りせば 大御船 はてし泊に 標(しめ)結(ゆ)はましを (151)
13 やすみしし わご大君の 大御船 待ちか恋ふらむ 志賀の唐崎 (152)
14 いさな取り 淡海の海を 沖さけて こぎくる船 辺附きて こぎ来る船 沖つ櫂 いたくな撥ねそ 邊つ櫂 いたくな撥ねそ 若草の つまの 思ふ鳥立つ(153)
15 天地の 初めの時‥‥四方の人の 大船の 思いたのみて‥‥(167) 柿本朝臣人麻呂の歌
16 飛ぶ鳥の 明日香の川の‥‥ か行きく行き 大船の たゆたふ見れば 慰むる‥‥ (196) 柿本朝臣人麻呂
17 飛ぶ鳥や 軽の路は吾妹子が ‥‥ 後もあはむと 大船の 思ひたのみて ‥‥(207) 柿本朝臣人麻呂
18 玉藻よし 讃岐の国は ‥‥ 中の水門(みなと)ゆ 船浮けて わがこぎ来れば 時つ風 雲井に吹くに 沖見れば とい波立ち 辺見れば 白波さわく いさな取り 海を恐み 行く船の かじ引き折りて をちこちの 島は多けど ‥‥(220) 柿本朝臣人麻呂
巻 三
19 滝の上の 三船の山に いる月の 雲の常にあらむと わが思わなくに(242) 弓削皇子
20 王は 千歳にまさむ 白雲も 三船の山に 絶ゆる日あらめや (243)
21 み吉野の 三船の山に 立つ雲の 常にあらむと わが思はなくに (244)
22 葦北の 野坂の浦ゆ 船出して 水島に行かむ 波立つなゆめ (246) 長田王
23 沖つ波 辺波立つとも わがせこが 御船の泊 波立ためやも (247) 石川大夫
24 玉藻刈る 敏馬(みめね)を過ぎて 夏草の 野島が崎に 船近づきぬ (250) 柿本朝臣人麻呂
25 飼飯(けひ)の海の には好くあらし かりこもの 乱れ出づ見ゆ 海人の釣船 (256) 柿本朝臣人麻呂
26 武庫の海の にはよくあらし 漁(いざり)する 海人の釣船 波の上見ゆ (256) 柿本朝臣人麻呂
27 天降りつく 天の香具山 かすみ立つ ‥‥ 大宮人の 罷り出て 遊ぶ船には 楫棹も 無くてさぶしも こぐ人無しに (257)
28 人こがず あらくも著し 潜(かづき)する 鴛鴦とたかべと 船の上に住む (258)
29 天降りつく 神の香具山 ‥‥ 大宮人の 罷り出て こぎける船は 棹楫も 無くてさぶしも こがむと思へど (260)
30 旅にして 物恋しきに 山下の 赤(あけ)のそほ船 沖にこぐ見ゆ (270)
31 四極山(しはつやま) うち越えみれば 笠縫の 島こぎかくる 棚無し小舟 (272)
32 わが船は 比良の湊に こぎ泊てむ 沖へなさかりさ 夜ふけにけり (274)
33 住吉の 得名津に立ちて 見渡せば 武庫の泊ゆ 出づる船人 (283) 高市連黒人
34 ひさかたの 天の探女(さぐめ)が 石船(いはふね)の 泊てし高津は 浅せにけるかも (292)
35 風を疾み 沖つ白波 高からし 海人の釣船 浜に帰りぬ (294)
36 ももしきの 大宮人の 飽田津(にぎたつ)に 船乗しけむ 年の知らなく (323) 山部赤人
37 世の中を 何に譬へむ 朝びらき こぎ去にし船の 跡なきごとし (351)
38 縄の浦ゆ 背向に見ゆる 沖つ鳥 こぎ廻る舟は 釣をすらしも (357) 山部赤人
39 武庫の浦を こぎ見る小舟 粟島を 背向(そがひ)に見つつ ともしき小舟 (358) 山部赤人
40 越の海の 角鹿の浜ゆ 大船の 真楫貫きおろし いさなとり 海路に出でて ‥‥(366)
41 越の海の 角鹿の浜ゆ 大船に 真楫繁貫(まかじしじぬ)き いさなとり 海路に出でて ‥‥ (366)
42 大船に 真楫繁貫(まかじしじぬ)き 大君の 命(みこと)かしこみ 磯廻(いそみ)するかも (368)
43 鳥総(とぶさ)立て 足柄山に 船木伐り 樹に伐り行きつ あたら船材(ふなぎ)を (391)
巻 四
44 臣女の くしげに乗れる 鏡なす 見津の浜辺に ‥‥葛城山に たなびける 白雲隠り 天ざかる 夷(ひな)の国邊に 直向(ただむか)ふ 淡路を過ぎ 粟島を 背向に見つつ 潮なぎに 水手の声よび 夕なぎに 楫の音しつつ 波の上を い行きさぐくみ 岩の間を い往きもとほり 稲日都麻 浦廻を過ぎて 島じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うちなびき 繁に生いたる なのりそが などかも妹に 告らず来にけむ (509)<丹比真人笠麻呂が筑紫国に下りし時作れる歌>
45 筑紫船 いまだ来ねば あらかじめ 荒ぶる君を 見るが悲しさ (556)
46 大船を こぎの進みに 磐に触れ 覆らば覆れ 妹によりては (557)
47 おし照る 難波の菅の ねもころに ‥‥心は持たず 大船の 頼めるときに ちはやぶる ‥‥(619) 大伴坂上郎女の歌
巻 五
48 海原の 沖行く船を 帰れとか 領巾(ひれ)振らしけむ 松浦佐用比売 (874)
49 行く船を 振り留み兼ね いかばかり 恋しくありけむ 松浦佐用比売 (875)
50 神代より 言い伝て来らく そらみつ 倭の国は 皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国 言霊の 幸はう国と 語り継ぎ 言い継がひけり 今の世の 人もことごと 目の前に 見たり知りたり 人多(さわ)に 満ちてはあれども 高光る 日の朝廷(みかど) 神ながら 愛の盛りに 天の下 泰し給ひし 家の子と 撰び給ひて 勅旨(おおみこと) 戴き持ちて 唐(もろこし)の 遠き境に 遣わされ 罷りいませ 海原の 邊(へ)にも沖にも 神留まり 頷きいます 諸々の 大御神たち 船舳(ふなのへ)に 導き申し 天地の 大御神たち 倭の 大国霊 ひさかたの 天のみ空ゆ 天がけり 見渡し給ひ 事了り 還らむ日には また更に 大御神たち 船の舳に 御手打ち懸けて 墨縄を 延(は)へたるごとく あちかをし 値嘉の岬より 大伴の 御津の浜びに 直泊(ただはて)に 御船は泊(は)てむ つつみなく 幸くいまして 早帰りませ (894) 山上憶良 好去好来の歌
51 難波津に 御船泊(は)てぬと 聞え来ば 紐解きさけて 立走りせむ (896) 山上憶良
巻 六
52 滝の上の 三舟の山に 瑞枝さし 繁に生いたる とがの樹の ‥‥ (907)
53 滝の上の 三船の山は かしこけど 思ひ忘るる 時も日もなし (914)
54 海(あま)おとめ 棚無し小舟(おぶね) こぎ出(づ)らし 旅のやどりに 楫の音聞ゆ (930)
55 天地の 遠きがごと 日月の 長きがごと おし照る 難波の宮に わが大君 国しらすらし 御食(みけ)つ国 日の御調(みつき)と 淡路の 野島の海人の 海(わた)の底 沖つ海石(いくり)に あはび珠 多(さわ)に潜(かづ)き出 船竝(な)めて 仕へまつるし 貴し見れば (933) 山部赤人の歌
56 朝なぎに 楫の音(と)聞こゆ 御食(みけ)つ国 野島の海人の 船にしあるらし(934) 山辺赤人の歌
57 名寸隅(なきすみ)の 船瀬ゆ見ゆる 淡路島 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩やきつつ 海(あま)おとめ ありとは聞けど 見に行かむ よしの無ければ ますらをの 情(こころ)は無しに 手弱女の 思ひたわみて たもとほり 吾はぞ恋ふる 船楫を無み (935)
58 玉藻刈る 海(あま)をとめども 見に行かむ 船楫もがも 波高くとも (936)
59 往きめぐり 見とも飽かめや 名寸隅(なきすみ)の 船瀬の浜に しきる白波 (937)
60 やすみしし わが大君の 神ながら 高しらします 印南野の 大海の原の 荒たへの 藤井の浦に しび釣ると 海人船散動(さわ)き 塩焼くと 人ぞ多なる 浦をよみ うべも釣はす 浜を読み うべも塩焼く あり通ひ みますも著し 清き白浜 (938) 山部赤人
61 沖つ波 邊つ波安み 漁(いざ)りすと 藤江の浦に 船ぞ動(さわ)ける (939) 山部赤人
62 あじさはふ 妹が目かれて しきたへの 枕もまかず 桜皮(かには)まき 作れる舟に 真楫(まかじ)貫(ぬ)き わがこぎ来れば 淡路の 野島も過ぎ 印南(いなみ)つま 辛荷(からに)の島の 島の際ゆ 吾宅(わぎへ)を見れば 青山の 其処とも見えず 白雲も 千重(ちへ)になり来ぬ こぎ廻(た)むる 浦のことごと 往き還る 島の崎崎 隅(くま)も置かず 思ひぞわが来る 旅の日長み (942) 山部赤人
63 島隠れ わがこぎ来れば ともしかも 大和へ上る 真熊野の船 (944) 山部赤人
64 眉のごと 雲井に見ゆる 阿波の山 かけてこぐ舟 泊知らずも (998)
65 海(あま)をとめ 玉求むらし 沖つ波 恐(かしこ)き海に 船出せり見ゆ (1003)<遥かに海人の釣船を見て作れる歌>
66 大君の 命恐(みことかしこ)み さし並ぶ 国に出でますや わが背の君を かけまくも ゆゆし恐(かしこ)し 住吉の 現人神 船の舳に 領(うしは)き給ひ 著(つ)き給はむ 島の崎崎 依り給はむ 荒き波 風にあはせず 草づつみ 疾(やまひ)あらせず 急(すむやけ)く 還し給はね 本の国邊に (1020)
67 大崎の 神の小浜は 狭けれども 百船人も 過ぐといはなくに (1023)
以上二首(66と67)は石上乙麻呂の土佐国に配さえし時の歌
68 御食(みけ)つ国 志摩の海人ならし 真熊野の 小船に乗りて 沖邊(べ)こぐ見ゆ (1033) 大伴家持
69 やすみしし わが大君の あり通ふ 難波の宮は いさなとり 海片附きて 玉拾ふ 浜辺を近み 朝羽振る 波の音(と)さわき 夕なぎに 櫂の声(おと)聞ゆ あかときの 寝覚めに聞けば 海若(わたつみ)の 潮干(しおひ)のむた 浦渚(す)には 千鳥妻呼び 芦辺には 鶴(たづ)が音(ね)響(とよ)む 視る人の 語りにすれば 聞く人の 見まくり欲(ほ)りする 御食(みけ)向かふ 味原の宮は 見れども飽かぬかも (1062)
70 ありがよふ 難波の宮は 海近み 漁童女(あまおとめ)らが 乗れる船見ゆ (1063)
71 八千ほこの 御の御世より 百船の はつる泊と 八島国 百船人の 定めてし 敏馬(みぬめ)の浦は 朝風に 浦波さわき 夕波に 玉藻は来寄る 白沙(しらまさご) 清き浜辺は 往き還り 見れども飽かず うべしこそ 見る人ごとに 語り継ぎ 偲ひけらしき 百世歴(へ)て 偲はえゆかむ 清き白浜 (1065)
72 まそかがみ 敏馬(みぬめ)の浦は 百船の 過ぎて往くべき 浜ならなくに (1066)
73 浜清み 浦うるはしみ 神代より 千船のとまる 大和田の浜 (1067)
巻 七
74 天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ (1068)
75 宇治河は 淀瀬無からし 網代人 舟呼ばう声 をちこち聞こゆ (1135)
76 宇治河を 船渡せをと 喚ばへども 聞こえざるらし 楫の音もせず (1138)
77 さ夜更けて 堀江こぐなる 松浦船(まつらぶね) 楫の音高し 水脈(みを)早みかも (1143)
78 楫の音ぞ ほのかにすなる 海おとめ 沖つ藻刈りに 舟出すらしも (1152)
79 年魚市潟(あゆちがた) 潮干にけらし 知多の浦に 朝こぐ舟も 沖に寄る見ゆ (1163)
80 近江の海 湖(みなと)は八十を いずくにか 君が船泊(は)て 草結びけむ (11699
81 大御舟 泊ててさもらふ 高島の 三尾の勝野の 渚し思ほゆ (1171)
82 いづくにか 舟乗しけむ 高島の 香取の浦ゆ こぎ出来る船 (1172)
83 斐太人(ひだびと)の 真木流すとふ 丹生(にふ)の河 言(こと)かよへど 船ぞ通はぬ (1173)
84 朝がすみや まずたなびく 竜田山 船出せむ日は われ恋ひむかも (1181)
85 海人小船 帆かも張れると 見るまでに 鞆の浦廻(み)に 波立てり見ゆ (1182)
86 大海に 嵐な吹きそ しなが鳥 猪名の湊に 舟泊つるまで (1189)
87 舟はてて かし振り立てて 庵せむ 名子江の浜べ 過ぎてかてぬかも (1190)
88 わが船の 楫はな引きそ 大和より 恋ひ来し心 いまだ飽かなくに (1221)
89 藻刈舟(めかりふね) 沖こぎ来らし 妹が島 形見の浦に 鶴かける見ゆ (1199)
90 わが船は 沖ゆな離(さか)り 迎へ舟 片待ちがてり 浦ゆこぎあはむ (120)
91 海(わた)の底 沖こぐ舟を 邊に寄せむ 風も吹かぬか 波立てずして (1223)
92 大葉山 霞たなびき さ夜深けて わが船泊てむ 泊知らずも (1224)
93 さ夜深けて 夜中の潟に おほほしく 呼びし舟人 泊てにけむかも (1225)
94 磯に立ち 沖べを見れば 海藻刈船(もかりぶね) 海人こぎ出らし 鴨かける見ゆ (1227)
95 風早の 三穂の浦 廻(み)をこぐ舟の 船人動(さわ)く 波立つらしも (1228)
96 わが舟は 明石の湖(みなと)に こぎ泊てむ 沖へな放(さか)りそ さ夜ふけにけり (1229)
97 大海の 波はかしこし しかれども 神をいのりて 船出せばいかに (1232)
98 志珂(しか)の白水郎(あま)の 釣船の綱 堪(あ)へなくに 情(こころ)に思ひて 出でて来にけり (1245)
99 大船に 楫しもあらなむ 君無しに かづきせめやも 波立たずとも (1254)
100 大船を 荒海(あるみ)にこぎ出で 弥船たけ わが見し児らが 目見(まみ)は著(しる)しも (1266)
101 春日なる 三笠の山に 月の船 出づ遊士(みやびを)の 飲む杯に 影に見えつつ (1295)
102 あぢ群の とを寄る海に 船浮けて 白珠採ると 人に知らゆな (1299)
103 この川ゆ 船は行くべく ありといへど 渡り瀬ごとに 守る人あるを (1307)
104 大船の 候ふ水門(みなと) 事しあらば いづへゆ君が 吾(わ)を率(い)凌(しの)がむ (1308)
105 大船に 真楫繁貫(まかぢしじぬ)き こぎ出にし 沖は深けむ 潮は干(ひ)ぬとも (1386)
106 ささなみの 志賀津の浦の 船乗りに 乗りにし心 常忘らえず (1398)
107 百傳(ももづた)ふ 八十(やそ)の島廻(み)を こぐ船に 乗りにし情(こころ) 忘れかねつも (1399)
108 島づたふ 足速の小舟 風守り 年はや経なむ 逢ふとはなしに (1400)
109 みなぎらふ 沖つ小島に 風をいたみ 船寄せかねつ 心は思へど (1401)
巻 八
110 玉だすき 懸けぬ時なく 気の緒に わが思ふ君は うつせみの 命かしこみ 夕されば 鶴が妻呼ぶ 難波潟 三津の崎より 大船に 真楫繁貫き 白波の 高き荒海を 島伝い い別れ行けば 留まれる 吾は幣引き 斎(いは)ひつつ 君をばやらむ はや還りませ (1453) <入唐使に贈れる歌>
111 たまきはる 命に向かひ 恋ひむゆは 君がみ船の 楫柄にもが (1455)
112 ひさかたの 天漢瀬(あまのかわせ)に 船浮けて 今夜(こよい)か君が 我許(わがり)来まさむ (1519) 山上憶良
113牽星(ひこほし)は 織女(たなばたつめ)と 天地の 別れし時ゆ いなうしろ 河に向き立ち 思うそら 安けなくに 青波に 望みは絶えぬ 白雲に 涙は尽きぬ かくのみや 気衝きをらむ かくのみや 恋ひつつあらむ さ丹塗りの 小船もがも 玉まきの‥‥ (1520) 山上憶良
114 牽星の 妻迎へ船 こぎ出らし 天の河原に 霧の立てるは (1527) 山上憶良
115 天の河 浮き津の波音(なみと) 騒ぐなり わが待つ君し 舟出すらしも (1529) 山上憶良
巻 九
116 白崎は 幸(さき)く在り待て 大船に 真楫繁貫き また反り見む (1668)
117 率(おとも)ひて こぎ行く船は 高島の 阿渡(あと)の水門(みなと)に 泊てにけむかも (1718)
118 照る月を 雲な隠しそ 島かげに わが船はてむ 泊知らずも (1719)
119 大葉山(おおばやま) かすみたなびき さ夜ふけて わが船はてむ 泊知らずも (1732)
120 春の日の かすめる時に 住吉の 岸に出でいて 釣船の とをらふ見れば 古の 事ぞ思ほゆる 水江の 浦島の児が かつを釣り 鯛釣りほこり 七日まで 家にも来ずて 海界(うなさか)を 過ぎてこぎ行くに 海若の 神の女に たまさかに いこぎ向かひ あひとぶらひ こと成りしかば かき結び 常世に至り 海若の 神の宮の 内の重(へ)の 妙なる殿に たづさわり 二人入りいて 老いもせず 死にもせずして 永き世に ありけるものを 世のなかの 愚人(おろかびと)の 吾妹子に 告りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと 吾は来なむと 言いければ 妹がいへらく 常世べに また帰り来て 今のごと あはむとならば このくしげ 開くな勤(ゆめ)と しこらくに 堅めし言を 住吉に 帰り来たりて 家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて 怪しと そこの思はく 家ゆ出でて 三歳の間に 垣も無く 家滅(う)せめやと この筥(はこ)を 開きて見れば 舊(もと)のごと 家はあらむと 玉くしげ 少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世べに たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り こいまろび 足ずりしつつ たちまちに 情消失(こころけう)せぬ 若かりし 膚もしわみぬ 黒かりし 髪も白けぬ ゆなゆなは 気せへ絶えて 後つひに 命死にける 水江の 浦島の子が 家地(いへどころ)見ゆ (1740)
121 ひさかたの 天の河原に 上(かみ)つ瀬に 玉橋渡し 下(下)つ瀬に 船浮けすえ 雨降りて 風吹かずとも 風吹きて 雨降らずとも 裳ぬらさず やまず来ませと 玉橋渡す (1764)
122 天漢(あまのがは) 霧立ち渡る 今日今日と わが待つ君し 船出すらしも (1765)
123 牡牛(ことひうし)の 三宅の坂に さし向かふ 鹿島の崎に さ丹(に)塗りの 小船を設け 玉まきの 小梶繁貫き 夕潮の 満(みち)のとどみに 御船子(みふなこ)を 率ひ立てて 呼び立てて 御船出でなば 濱も狭に 後れ並みいて こいまろび 恋ひかもをらむ 足ずりし ねのみや泣かむ 海上の その津を指して 君がこぎ行かば (1780)
124 海つ路の 和ぎなむ時も 渡らなむ かく立つ波に 船出すべしや (1781)
125 海若(わたつみ)の いづれの神を 祈らばか 往くさも来さも 船の早けむ (1784)
126 鶏が鳴く 吾妻の国に 古に ありける事と ‥‥ 望月の 満れる面わに 花のごと 咲みて立てれば 夏虫の 火に入るがごと 水門入(みなといり)に 船こぐごとく 行きかぐれ ‥‥ (1807)
巻 十
127 天の川 水さへに 照る舟競ひ 舟こぐ人は 妹とみえきや (1996)
128 わが恋を 妻は知れるを 行く船の 過ぎて来べしや 言も告げなむ (1998)
129 天の川 安の渡りに 船浮けて 秋立つ待つと 妹に告げこそ (2000)
130 わが背子に うら恋ひをれば 天の川 夜船こぎ動(とよ)む 楫の音聞こゆ (2015)
131 天の川 船をこぎて 明けぬとも あはむと思ふ夜 袖かへずあらむ (2020)
132 相見らく 飽き足らねども いなのめの 明け行きにけり 船出せむ妻 (2022)
133 しばしばも 相見ぬ君を 天の川 舟出早せよ 夜のふけぬ間に (2042)
134 秋風の 清きゆふべに 天の川 舟こぎ渡る 月人壮子(ひとおとこ) (2043)
135 君が舟 今こぎ来らし 天の川 霧立ちわたりる この川の瀬に (2045)
136 秋風に 河波立ちぬ しましくは 八十の舟津に 御舟とどめよ (2046)
137 天の川 河音さやけし 彦星の 速こぐ船の 波のさわきか (2047)
138 このゆふべ ふり来る雨は 彦星の 早こぐ船の 櫂の散りかも (2052)
139 天の川 八十瀬霧らへり 彦星の 時待つ船は 今しこぐらし (2053)
140 風吹きて 河波立ちぬ 引船に 渡りも来ませ 夜のふけぬ間に (2054)
141 天の川 遠き渡りは 無けれども 君が舟出は 年にこそ待て (2055)
142 年に艤(よそ)ふ わが舟こがむ 天の川 風は吹くとも 波立つなゆめ (2058)
143 天の川 波は立つとも わが舟は いざこぎ出でむ 夜のふけぬ間に (2059)
144 天の川 白波たかし わがふる 君が舟出は 今しすらしも (2061)
145 天の川 渡瀬ふかみ 船うけて こぎ来る君が 楫の音聞こゆ (2067)
146 ひさかたの 天の河津に 舟浮けて 君待つ夜らは 明けずもあらぬか (2070)
147 渡り守 船渡せをと 呼ぶ声の 至らねばかも 楫の声(と)のせぬ (2072)
148 人さへや 見継がずあらむ 牽牛の 妻よぶ舟の 近づき往くを (2075)
149 渡り守 舟はや渡せ 一年に 二たび通ふ 君にあらなくに (2077)
150 天の川 河門八十(とやそ)あり いずくにか 君がみ船を わが待ちをらむ (2082)
151 彦星の 妻よぶ船の 引き綱の 絶えむと君を わが思はなくに (2086)
152 渡り守 舟出しいでむ 今夜のみ 相見て後は あはじものかも (2087)
153 わが隠せる 楫棹無くて 渡り守 舟貸さめやも しましはあり待て (2088)
154 天地の はじめの時ゆ 天の川 い向かひをりて 一年に 二たびあはむ 妻恋に もの思ふ人 天の川 安の河原の あり通う 年の渡りに そほ船の 艫にも舳にも 船よそひ 真楫繁抜き はたすすき 本葉もよそに 秋風の 吹き来る夕に 天の川 白波しのぎ 落ちたぎつ 早瀬わたりて 稚草の 妻が手枕かむと 大船の 思ひたのみて こぎ来らむ ‥‥ (2089)
155 彦星の 河瀬を渡る さ小舟の 行き行きて泊てむ 川津し思ほゆ (2091)
156 天の海に 月の船浮け 桂楫 かけてこぐ見ゆ 月人壮子(おとこ) (2223)
157 海小船 泊瀬の山に ふる雪の 日長く恋ひし 君が音ぞする (2347)
巻 十一
158 海原の 路に乗りてや わが恋ひをらむ 大船の ゆたにあるらむ 人の児ゆえに (2367)
159 百積(ももさか)の 船こぎ入るる 八占(やうら)指し 母は問うとも その名は告(の)らじ (2407)
160 大船の 香取の海に錨おろし いかなる人か 物おもはざらむ (2436)
161 近江の海 おきこぐ船に 錨おろし 蔵(おさ)めて君が 言待つ吾ぞ (2440)
162 大船に 真楫繁貫き こぐ間(ほど)も ここだく恋し 年にあらばいかに (2494)
163 大船の たゆたふ海に 碇下ろし いかにしてかも わが恋ひ止まむ (2738)
164 大船の 艫にも舳にも 寄する波 よすとも吾は 君がまにまに (2740)
165 湊入りの 葦わけ小舟 障(さわり)多み わが思う君に あはぬころかも (2745)
166 には浄(きよ)み 沖へこぎいづる 海士舟(あまふね)の 梶とる間なき 恋もするかも (2746)
167 味鎌の 塩津を指して こぐ船の 名は告(の)りてしを あはざらめやも (2747)
168 大船に 葦荷刈り積み しみみにも 妹は心に 乗りにけるかも (2748)
169 駅路(はゆまぢ)に 引船渡し 直乗(ただのり)に 妹は情(こころ)に 乗りにけるかも (2749)
170 みさごいる 渚(す)にいる船の 夕潮を 待つらむよりは 吾こそまされ (2831)
巻 十二
171 湊入りの 葦わけ小船 さはり多み いま来む吾をぞ よどむと思うな (2998)
172 湊入りに 葦わけ小船 さはり多み 君にあはずて 年ぞ経にける (2998)
173 難波潟 こぎ出し船の はろばろに 別れ来ぬれど 忘れかねつも (3171)
174 浦廻(み)こぐ 熊野舟つき めづらしく 懸けて思はむ 月も日もなし (3172)
175 松浦舟 乱(さわ)く堀江の 水脈(みを)はやみ 梶とる間なく 思ほゆるかも (3173)
176 柔田津(にぎたづ)に 舟乗りせむと 聞きしなへ 何ぞも君が 見え来ざるらむ (3202)
177 玉の緒の 現(うつし)心や 八十楫(か)懸け こぎ出む船に おくれてをらむ (3211)
巻 十三
178 天雲の 影さへ見ゆる 隠国(こもりく)の 長谷の川は 浦なみか 船の寄り来ぬ 磯なみか 海人の釣せぬ よしえやし 浦はなくとも よしえやし 磯はなくとも おきつ波 きほひこぎり来 白水郎(あま)の釣船 (3225)
179 大舟の おもひたのめる 君ゆえに つくす心は 惜しけくもなし (3251)
180 せむ術(すべ)の たづきを知らに 石がねの ‥‥ 黒髪敷きて 人の寝る 味眠(うまい)は寝ずて 大舟の ゆくらゆくらに 思ひつつ わが寝る夜らを (数)よみもあへかむかも (3274)
181 吾背子は 待てど来ませず 雁が音も ‥‥ 後もあはむと 大舟の 思ひたのめど うつつには 君にあはず夢にだに あふと見えこそ 天(あめ)の足夜(たりよ)に (3281)
182 大船の 思ひたのみて さなかずら いや遠長く わが思へる きにによりては ‥‥ (3288)
183 見渡しに 妹らは立たし この方に 吾は立ちて 思ふそら 安からなくに 嘆くそら 安からなくに さ丹漆(さにぬり)の 小舟もがも 玉まきの 小楫もがも こぎ渡りつつも 語らはましを (3299)
184 押照る 難波の崎に 引きのぼる 赤のそほ舟 そほ舟に 綱取り繋(か)け 引(ひこ)づらひ ありなみすれど 言ひづらひ ありなみすれど ありなみ得ずぞ 言はれにしわが身 (3300)
185 紀の国の 室の江の邊に 千年に 障る事なく 万世に 斯くしあらむと 大舟の 思ひたのみて 出で立ちの 清きなぎさに 朝なぎに 来寄る深海松(ふかみる) 夕なぎに 来寄る縄苔 深海松の 深めし子らを 縄苔の 引けば絶ゆとや 里人の 行きの集いに 泣く児なす ゆき取りさぐり 梓弓 弓腹振り起し しのぎ羽を 二つ手挟み 離ちけむ 人し悔しも 恋ふらく思へば (3302)
186 かけまくも あやにかしこし 藤原の 都しみみに 人はしも 満ちてあれども 君はしも ‥‥ わが王(おおきみ)を 煙(かすみ)立つ 春の日暮(ひぐらし) まそ鏡 見れど飽かねば 万歳(よろずよ)に 斯くしもがもと 大船の ‥‥ (3324)
187 白雲の たなびく国の 青雲の ‥‥大船の ゆくらゆくらに 思ひつつ ‥‥ (3329)
188 大君の 御命(みこと)かしこみ あきづ島 大和を過ぎて 大伴の 御津の濱べゆ 大舟に 真楫繁貫き 朝なぎに 水手(かこ)の音(こえ)しつつ 夕なぎに 楫の音しつつ 行きし君 いつ 来まさむと 大卜(うら)置きて 齋(いは)ひ渡るに 狂言(まがごと)や 人の言いつる わが心 筑紫の山の もみぢ葉の 散り過ぎにきと 君が正香(ただか)を (3333)
189 この月は 君来まさむと 大舟の 思ひたのみて いつしかと ‥‥(3344)
巻 十四
190 夏麻引く(なつそびく) 海上潟(うなかみがた)の 沖つ州に 船はとどめむ さ夜ふけにけり (3348)
191 葛飾の 真間の浦廻みを こぐ船の 船人騒ぐ 波立つらしも (3349)
192 中麻奈(なかまな)に 浮きをる船の こぎ出なば あふこと難し 今日にしあらずば (3401)
193 上毛野(かみつけの) 佐野の舟橋 取り放し 親は放(さ)くれど 吾は放(さか)るがへ (3420)
194 志太の浦を 朝こぐ船は よし無しに こぐらめかもよ 由こさるらめ (3430)
195 足柄の 安伎奈の山に 引こ船の 後引(しりひ)かしもよ ここばこがたに (3431)
196 乎久佐(おぐさ)正丁(を)と 乎具佐(おぐさ)助丁(すけを)と 潮舟の 並べて見れば 乎久佐勝ちめり (3450)
197 潮船の 置かればかなし さ寝つれば 人言しげし 汝を何かも為む (3556)
198 悩ましけ 他妻(ひとづま)かもよ こぐ船の 忘れはせなな いや思ひ増すに (3557)
199 あはずして 行かば惜しけむ 真久良我の 許我(こが)こぐ船に 君もあはぬかも (3558)
200 大船を 舳ゆも艫ゆも 堅めてし 許曽の里人 顕(あらは)さめかも (3559)
巻 十五
201 大船に 妹乗るものに あらませば 羽ぐくみもちて 行かましものを (3579)
202 大船を 荒海(あるみ)に出だし います君 恙(つつ)むことなく 早帰りませ (3582)
203 大伴の 御津に船乗り こぎ出ては いずれの島に いほりせむ吾 (3593)
204 潮待つと ありける船を 知らずして 悔しく妹を 別れ来にけり (3594)
205 月(つく)よみの 光を清み 神島の 磯廻の浦ゆ 船出す吾は (3599)
206 武庫の海の にはよくあらし 漁(いざり)する 海人の釣船 波の上ゆ見ゆ (3609)
207 阿胡の浦に 船乗りすらむ 娘子(おとめ)らが 赤裳の裾に 潮満つらむか (3610
208 大船に 真楫繁貫き 海原を こぎ出て渡る 月人壮士(つきひとおとこ) (3611)
209 青丹よし 奈良の都に 行く人もがも 草枕旅行く 船の泊告げむに (3612)
210 吾のみや 夜船はこぐと 思へれば 沖べの方に 楫の音すなり (3624)
211 朝されば 妹が手にまく 鏡なす 三津の濱びに 大船に 真楫繁貫き から国に 渡り行かむと 直向かふ 敏馬(みぬめ)をさして 潮待ちて 水脈びき行けば 沖邊には 白波高み 浦廻(み)より こぎて渡れば 吾妹子に 淡路の島は 夕されば 雲居隠りぬ さ夜ふけて 行方を知らに 吾が心 明石の浦に 船泊めて 浮宿(うきね)をしつつ わたつみの 沖邊を見れば 漁する 海人の娘子は 小船乗り つららに浮けり 暁の 潮満ち来れば 葦べには 鶴鳴き渡る 朝なぎに 船出をせむと 船人も 水手も声よび にほ鳥の なずさひ行けば 家島は 雲居に見えぬ 吾が思へる 心和ぐやと 早く来て 見むと思ひて 大船を こぎわが行けば 沖つ波 高く立ち来ぬ 外のみに 見つつ過ぎ行き 多麻の浦に 船をとどめて 濱びより 浦磯を見つつ 泣く児なす ねのみし泣かゆ 海神の 手まきの珠を 家づとに 妹にやらむと 拾ひ取り 神には入れて 返しやる 使わなけれは 持てれども しるしをなみと また置きつるかも (3627)
212 秋さらば わが船泊てむ わすれ貝 寄せ来て置けれ 沖つ白波 (3629)
213 真楫繁貫き 船し行かずは 見れど飽かぬ 麻里布の浦に やどりせましを (3630)
214 都べに 行くかむ船もが 刈菰の 乱れて思ふ 言告げやらむ (3640)
215 沖べより 船人のぼる 呼び寄せて いざ告げ遣らむ 旅の宿りを (3643)
216 大君の 命かしこみ 大船の 行きのまにまに やどりするかも (3644)
217 浦廻より こぎ来し船を 風早み 沖つ御浦に やどりするかも (3646)
218 秋萩に にほへるわが裳 ぬれぬとも 君が御船の 綱し取りてば (3656)
219 夕月夜 影立ち寄り合ひ 天の川 こぐ舟人を 見るがともしさ (3658)
220 大船に 真楫繁貫き 時待つと 吾は思へど 月ぞ経にける (3679)
221 足姫(たらしひめ) 御船泊てけむ 松浦(まつら)の海 妹が待つべき 月は経につつ (3685)
222 百船の 泊つる対馬の 浅茅山 時雨の雨に もみたひにけり (3697)
223 もみち葉の 散らふ山べゆ こぐ船の にほひの愛でて 出でて来にけり (3704)
224 竹敷(たかしき)の 玉藻なびかし こぎ出なぬ 君が御船を いつとか待たむ (3705)
225 ぬばたまの 夜明しも船は こぎ行かな 御津の濱松 待ち恋ひぬらむ (3721)
226 大伴の 御津の泊に 船泊てて 竜田の山を いつか越え往かむ (3722)
巻 十六
227 沖つ鳥 鴨といふ船の 還り来ば 也良の崎守 早く告げこそ (3866)
228 沖つ鳥 鴨といふ船は 也良の崎 廻(た)みてこぎ来と 聞え来ぬかも (3867)
229 沖行くや 赤ら小船に 裏遣(つとや)らば けだし人見て 解きあけ見むかも (3868)
230 大船に 小船引き副え 潜(かづ)くとも 志賀の荒い雄に 潜(かづ)きあはめやも (3869)
巻 十七
231 磯ごとに 海夫(あま)の釣船 泊てにけり わが船泊てむ 磯の知らなく (3892)
232 昨日こそ 船出はせしか 鯨魚(いさな)取り 比治奇の灘を 今日見つるかも (3893)
233 淡路島 門(と)渡る船の 楫間にも 吾は忘れじ 家をしぞ思ふ (3984)
234 大船の 上にしをれば 雨雲の たぢきも知らず 歌ひこそ吾背 (3898)
235 織女(たなばた)し 船乗りすらし まそ鏡 きよき月夜に 雲立ち渡る (3900) 大伴家持
236 奈呉の海人の 釣りする船は 今こそは 船だな打ちて あへてこぎ出め (3956)
237 白波の 寄する磯廻を こぐ船の 楫取る間なく 思ほへし君 (3961) 大伴家持
238 武士の 八十伴の緒の 思ふどち 心遣らむと 馬並めて うちくちぶりの 白波の 荒磯に寄する 渋渓の 崎たもとほり 松田江の 長濱過ぎて 宇奈比河 清き瀬ごとに 鵜河立ち か往きかく往き 見つれども そこも飽かにと 布勢の海に 船浮けすえて 沖べこぎ 邊にこぎ見れば 渚には あぢむら騒き 島廻には ‥‥ (3991) 大伴家持
239 藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今ぞ盛んと あしひきの 山にも野にも ほととぎす ‥‥ 布勢の水海に 海人船に 真楫かい貫き 白たへの 袖振りかへし 率(あとも)ひて わがこぎ行けば 乎布(をふ)の崎 (3993)
240 かき数ふ 二上山に 神さびて 立てるつがの木 幹も枝も 同じ常盤に はしきよし ‥‥ 東風(あゆのかぜ) いたくし吹けば 水門には 白波高み 妻呼ぶと 州鳥は騒く 葦刈ると 海人の小舟は 入り江こぐ 楫の音高し そこをしも ‥‥(4006) 大伴家持
241 東風(あゆのかぜ) いたく吹くらし 奈呉の海人の 釣りする小舟 こぎ隠る見ゆ (4017) 大伴家持
242 之乎路(しをぢ)から 直(ただ)越え来れば 羽咋の海 朝なぎしたり 船楫もがな (4025) 大伴家持
243 鳥総(とぶさ)立て 船木伐るといふ 能登の島山 今日見れば 木立繁しも 幾代神(かむ)びぞ (4026) 大伴家持
244 香島より 熊木をさして こぐ船の 楫取る間なく 京師(みやこ)しおもほゆ (4027) 大伴家持
巻 十八
245 奈呉の海に 船しまし借せ 沖に出でて 波立ち来やと 見て帰り来む (4032)
246 濱べより わがうち行かば 海べより 迎へも来ぬか 海人の釣船 (4044) 大伴家持
247 沖べより 満ち来る潮の いや増しに 吾が思ふ君が 御船かも彼 (4045) 大伴家持
248 垂姫(たるひめ)の 浦をこぐ船 楫間にも 奈良の吾家(わぎへ)を 忘れておもへや (4048)
249 堀江には 玉敷かましを 大君を 御船こがむと かねて知りせば (4056)
250 堀江より 水脈(みを)引きしつつ 御船さす 賤男(しづを)の徒(とも)は 河の瀬申せ (4061)
251 夏の夜は 道たづたづし 船に乗り 河の瀬ごとに 棹さし上れ (4062)
252 天照らす 神の御代より 安川の 中に隔てて 向ひ立ち 袖振り交わし いきの緒に 嘆かす子ら 渡守 船を設けず 橋だにも 渡してあらば その上ゆも ‥‥(4125) 大伴家持
巻 十九
253 朝床に 聞けばはるかけし 射水川 朝こぎしつつ 唱ふ船人 (4150)
254 思ふどち 丈夫(ますらを)の 木の暗(くれ)の 繁き思ひを 見明らめ 心遣らむと 布勢の海に 小船連並め 真櫂(まがい)懸け い漕ぎ廻れば 乎布(をふ)の浦に 霞たなびき ‥‥ (4187)
255 海神の 神の命の み櫛笥(くしげ)に 貯ひ置きて 齋(いつ)くとふ 珠に勝りて 思へりし 吾が子にはあれど ‥‥ 沖つ波 とをむ眉引 大船の ゆくらゆくらに ‥‥ (4220) 大伴坂上郎女
256 大船に 真楫繁貫き この吾子(あこ)を 韓国(からくに)へ遣る 齋(いは)へ神たち (4240)
257 住吉に 齋(いつ)く祝(はふり)が 神言(かむごと)と 行くとも来とも 船は早けむ (4243)
258 虚(そら)みつ 大和の国 あをによし 平城(なら)の京師(みやこ)ゆ 押照る 難波の下り 住吉の 三津の船乗り 直渡(ただわた)り 日の入る国に 遣わさる 吾背の君を 懸けまくの ゆゆしかしこき 住吉の わが大御神 船の舳に 領(うしは)きいまし 船艫に 御立いまして さし寄らむ 磯の崎崎 こぎ泊てむ 泊泊に 荒き風 波に遭はせず 平けく 率て帰りませ 本(もと)の国家(みかど)に (4245)
259 沖つ波 邊波な越しそ 君が船 こぎ帰り来て 津に泊つるまで (4246)
260 あきづ島 倭の国を 天雲に 磐船浮べ 艫に舳に 真楫繁貫き いこぎつつ 国見しせして ‥‥ (4254)
261 空みつ 倭の国は 水の上は 地(つち)往くごとく 船の上は 床にをるごと 大神の 鎮(いは)へる国ぞ 四つの船 船の舳(へ)並べ 平安(たひら)けく 早渡り来て 返言 奏(まを)さむ日に 相飲まむ酒ぞ この豊神酒(とよみき)は (4264)
262 四の船 はや還り来と 白香著(しろかつ)け 朕が裳の裾に 鎮(いは)ひて待たむ (4265)
巻 二十
263 青波に 袖さへぬれて こぐ船の かし振る程に さ夜ふけなむか (4313)
264 八十国は 難波に集ひ 舟飾り 吾がせむ日ろを 見も人もがも (4329)
265 天皇(おほきみ)の 遠の朝廷(みかど)と しらぬひ 筑紫の国は 賊(あた)守る 鎮(おきへ)の城ぞと 聞(きこ)し食(を)す 四方の国には 人多(さわ)に 満ちてはあれど 鶏が鳴く 東男は 出で向かひ ‥‥ 月日数(よみ)つつ 葦が散る 難波の御津に 大船に 真楫繁貫き 朝なぎに 水手整へ 夕潮に 楫引きをり 率(あとも)ひて こぎゆく君は 波の間を ‥‥ (4331)
266 今替る 新防人(にひさきもり)が 船出する 海原のうへに 波な聞きそね (4335) 大伴家持
267 防人の 堀江こぎ出る 伊豆手舟 楫取る間なく 恋は繁けむ (4236) 大伴家持
268 筑紫べに 舳(へ)向かる船の いつしかも 仕へ奉りて 本郷(くに)に舳向かも (4359)
269 天皇の 遠き御代にも 押し照る 難波の国に 天の下 知らしめしきと 今の緒に 絶えず言いつつ 懸けまくも あやに畏し 神ながら ‥‥ 難波の宮は 聞し食(を)す 四方の国より たてまつる 貢(みつき)の船は 堀江より 水脈引(みをび)きしつつ 朝なぎに 楫引きのぼり 有潮に 棹さい下り あぢ郡の 騒き競ひて 濱に出でて 海原見れば 白波の 八重折るが上に 海人小舟 はららに浮きて ‥‥ (4360) 大伴家持
270 難波津に 御船下ろすえ 八十楫(やそか)貫き 今はこぎぬと 妹に告げこそ (4363)
271 おし照るや 難波の津ゆり 船装ひ 吾はこぎぬと 妹に告ぎこそ (4365)
272 久慈川は 幸(さけ)くあり待て 潮船に 真楫繁貫き 吾は帰り来む (4368)
273 国国の 防人つどひ 船乗りて 別るを見れば いともすべ無し (4381)
274 津の国の 海のなぎさに 船装ひ 発(た)し出も時に 母が目もがも (4383)
275 あかときの かたはれ時に 島影を こぎにし船の たづき知らずも (4384)
276 潮船の 舳越そ白波 俄(には)しくも 科(おふ)せ賜ほか 思はへなくに (4389)
277 大君の 命かしこみ 妻別れ 悲しくはあれど 丈夫(ますらを)の 心振起こし とり装ひ 門出をすれば たらちねの 母かきなで 若草の ‥‥ いや遠に 国を来離れ いや高に 山を越え過ぎ 葦が散る 難波に来いて 夕潮に 船を浮けすえ 朝なぎに 舳向けこがむと 待候(さもら)ふと ‥‥ (4398) 大伴家持
278 大君の 任のまにまに 島守に わが立ち来れば ははそ葉の 母の命は み裳の裾 つみ挙げ掻きなで ちちの実の 父の命は たく綱の 白鬚の上ゆ 涙垂り 嘆き宣たく 鹿児じもの ただ独りして 朝戸出の 悲しき吾が子 あらたもの 年の緒長く あひ見ずは 恋ひしくあるべし 今日だにも 言問せむと 悲しみつつ 悲しび坐せ 若草の 妻も子どもも 彼此(をちこち)に 多に囲みい 春鳥の ‥‥ うつせみの 世の人ならば たまきはる 命の知らず 海原の かしこき道を 島伝い いこぎ渡りて あり廻り わが来るまでに 平らけく 親はいまさね つつみなく 妻は待たせと 住吉の 吾が皇神(すめがみ)に 幣奉り 祈り申して 難波津に 船を浮けすえ 八十楫貫き 水手整へて 朝びらき 吾はこぎ出むと 家に告げこそ (4408)
279 家人の 斎へにかあらむ 平けく 船出はしぬと 親に申さね (4409)
280 島かげに わが船泊てて 告げやらむ 使いを無みや 恋ひつつ行かむ (4412)
281 堀江こぐ 伊豆手の船の 楫つくめ 音しば立ちぬ 水脈早みかも (4460) 大伴家持
282 船競ふ 堀江の河の 水際に 来いつつ鳴くは 都鳥かも (4462) 大伴家持
283 蒼海原 風波なびき 行くさ来さ つつむことなく 船は早けむ (4514)
以上 万葉集の短歌・長歌4516首のうち「船・舟」の語を詠みこんだもの 283首