武道・武術解説

第三回「古武術」

古武術という言葉は、従来の“古武道”という言葉に代わるものとして使われ始めているものの、その実体は依然として不明瞭なままであって、それらしき定義付けがなされているとは言えない。

そこで、ここでは独断で古武術の定義を提案しておきたい。
「古武術とは、日本の伝統的流儀武術の系統に連なる流派を呼ぶ」というものにしておきたい。“古武道”と同義と思ってもらっても構わないが、“流派としての術”に拘って現代の武道一般との区別をしておきたいと思う。

基本的な概念として、武道には厳密な意味の流派は成立しない。組織的派閥としての会派は成立しても、技術体系が異なれば流派として別派をたてるのが筋であるが、武道という呼称には技術体系の統一を図ろうとする性質が持たされているが故に、流派として別れることは原則的にない。

流派というものは、最初から分裂独立していくことを想定して派を称えるものであり、だからこそ「武術は独り一流派」と言われる。

どうして、そうなるか?と言えば、多くの流派が家元制度としての宗家による代々の唯受一人(ゆいじゅいちにん)のシステムを取るからであり、次代の宗家を継げなかったその他の弟子達は、師範として流派に残って支部活動を続けるか、あるいは別派を興して独立するかの二者択一を迫られるからである。

こうした事情は形を変えて現代武道の団体の中でも見られるが、古武術の場合はシステムが確立されているので、それほど揉めたという話は聞かない。一つには、流派を継ぐということの旨みがあまり無かったからであり、名門宗家を継いでも一門内での名誉があるに止まり、極意を相伝したという技術上の特権が得られるに過ぎない。現代のように金で考えるなら、特に旨みはないのである。

だが、現代に於ける古武術の伝承では“宗家病”と呼ばれる名誉欲が肥大した人間が患う独特の精神疾患に蝕まれている人間が結構いるものである。無論、そのような権威をひけらかすことで弟子が増えて経済的旨みもあるという計算があるのだろう。

ともあれ、古武術とは、現代武道の源流でありながら形態的には別物であるといわざるを得ない。その多くが棒術・剣術・居合術・槍術・手裏剣術・体術などを複合的に伝承しているものであり、稽古体系は“型”を主体としている。

古武術のほとんどの流派は、戦国時代から江戸時代にかけて発祥しており、その系脈から明治以降に開かれたものの中でも古武術にカテゴライズすべき流派はある。

流派の主体とする術技で種類分けして代表的なものを列記してみると・・・

1,剣術
天真正伝香取神道流・馬庭念流・中条流・愛洲陰流・冨田流・鞍馬流・鹿島神道流・新当流・新陰流・小野派一刀流・東軍流・水鴎流・二天一流・示現流・夢想願立流・二階堂流・立身流・タイ捨流・駒川改心流・疋田陰流・無外流・直心影流・無住心剣流・雲弘流・心形刀流・柳剛流・溝口派一刀流・甲源一刀流・法神流・無眼流・北辰一刀流・神道無念流・鏡心明智流・野太刀自顕流・天然理心流など。

2,居合術
神夢想林崎流・田宮流・新田宮流・無楽流・民弥流・新立身流・圓心流・無双直伝英信流・彦斎流・伯耆流・関口流・制剛流・自鏡流・初実剣理方一流・鐘捲流・信抜流・貫心流など。

3,柔術(拳法)
竹内流・竹内判官流・備中伝竹内流・堤宝山流・物外流・関口流・渋川流・柳生心眼流・天神真楊流・神道揚心流・高木揚心流・四天流・諸賞流・鞍馬揚心流・気楽流・起倒流・四心多久間四代見日流・玉心流・扱心一流・真極流・荒木流・長尾流など。

4,棒(杖)術
神道夢想流・九鬼神伝流・椿木小天狗流・竹生島流・無比無敵流・無辺流など。

5,槍術
宝蔵院流・宝蔵院流高田派・佐分利流・尾張貫流など。

6,薙刀術
天道流・肥後古流・揚心流・戸田派武甲流・直心影流など。

7,手裏剣術
白井流・夢想願立流・根岸流・高木揚心流など。

8,弓術
小笠原流・武田流・日置流・雪荷流など。

9,砲術
森重流・関流・陽流など。

10,水術
小堀流・水府流・岩倉流・山内流など。

11,鎖鎌術
一心流・二刀神影流・直猶心流・正木流など。

12,十手術
当理流・江戸町方捕り手流・駒川改心流など。

13,捕縛術
竹内流・柔気流・関口流など。

・・・が有る。

また、明治以降に成立した流派では、合気道の母体となった大東流合気武術が今日もっとも著名な古武術流派と言え、大東流からは八光流柔術が出て、八光流は現代武道界の多くの著名師範に影響を与えている。

その他、天心古流(神道天心流)、戸隠流忍法、日本武道医学、石黒流、八角流などが古武術の系脈を継承した“現代の古武術”と言えるだろう。

最後に、古武術の範疇に入れるべきか否か?との見解が分かれるものとして沖縄に伝わった武術群がある。

琉球独自の拳法である“手”は、明らかに中国拳法の影響が濃い。ヌンチャクやトンファー、釵、スルヂン、ティンベー、ローチン、鉄甲、棍、ウェークといった琉球伝統の古武器術も、「琉球独自の武器法」と言われているものの、中国南方、台湾、東南アジア諸国に酷似した武器が多数伝承していることと比較研究した場合、“琉球独自のオリジナル”という説には首を傾げざるを得ない。

本土各地に伝わる古武術とは身体操法が原理的に異なっており、ある程度、理論的に区分けしておくべきだと個人的には思う。その上で、本土に伝わる以前の古典の形としての琉球の武術がもっと研究されるべきだと考える。

蛇足ながら、古武術と「昔日(江戸時代以前)の日本人の身体操作法」を結び付けて語られる向きもあるが、武術は護身制敵を目的に研究考案されてきたものであり、その点を離れて語られることは誤解を招くことになるので、くれぐれも御注意を願う。

↑ページトップへ