BPRとCALS

BPR
CALS
リエンジニアリング

BPRとCALS

 米国MITのM.ハマーが「リエンジニアリング」を提唱したのは1990年頃、その狙いは事業の成功と存続及び市場競争に勝つことにあり、継続的な事業革新と現実的な行動が求められた。今日の経済と産業の発展を支えてきたのは分業の効用である。分業の概念は1776年にアダム・スミスが「国富論」で述べ、商品を生み出すプロセスは1人がすべてを行うのでなく、その工程を幾つかに分け、作業者がそれぞれの工程のみに従事することで、熟練度が増して効率的になると指摘した。粉屋とパン屋と肉屋の社会的分業から、企業内分業が生まれ、科学の発達と機械化の進展は産業革命を引き起こし、分業による大量生産方式を生みだした。特に、米国のフォード自動車はこの大量生産方式を工場の生産ラインに導入して大成功を収めた。この分業の考え方は間接(スタッフ)部門に広がり、生産管理や技術部門など、各種の専門家を生み出し、大量生産・大量消費の文化を前提にした高度経済成長を実現した。しかし、分業による専門家が多くなると、組織が複雑になり、セクショナリズムが横行し、責任転嫁と部分最適の考え方が蔓延し、全体の効率低下を招く結果になった。一方、画一的な商品でなく、自分の好みに見合う商品の多様化が進み、価格や品質やサービスに対する市場の変化が生じた。そして、市場競争が世界規模でより激化してきた。

 BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)は仕事のやり方を大きく変えることを提唱した。それは分業がすべてでなく、モノの流れや仕事の手順のすべてが理解できるようにして、自分の作業や行動が全体の流れにどのような影響を与えているかを明確にする。組織の構成員が情報を共有し、自らの考えや作業の中からより望ましい作業手順を決め、競争力の優位性を確保する。この前提として、市場は常に変化しており、変化に対応できない企業は生き残れないため、情報を管理する仕組みのシステム化およびソフトウエアの改善と改革が求められた。この場合、プロセスは顧客にとって価値あるアウトプットを生み出す活動の集合体であり、顧客満足に結び付く業務と情報の流れが重要になる。そして、このプロセスに基づき、目的指向に徹して、ビジネスのプロセスを変革し、品質の維持と向上、業務の効率化、コストの削減、顧客サービスと対応の改善、新しい仕事のやり方を再構築する。業務の改革は自らの創意と努力によって進めるものであり、他力や組織が改革を推進するものではない。しかし、改革を推進するためには、目指すものを明確にし、協力を得るネットワーク作りが欠かせない。BPRは、競争優位の確保を引き出す事業の再設計であり、情報技術が革新的プロセスを支援するツールとして活用される。

 1991年からNECで開始されたISHINプロジェクトは、BPRの思想に基づき、NEC半導体の事業部生産管理のシステムを再構築すべく活動であった。それは工業社会から情報社会への移行の中で、顧客中心の物流と生産を実現する仕組みの改革であり、業務プロセスの短縮、自己管理の範囲拡大、中央集権的なシステムと地方分権的なシステムの組合せ、業務の同時遂行、情報の共有化が求められた。特に、製造業は開発しながら生産し、生産しながら販売することになる。

 開発設計期間の短縮、仕様変更や変動対応の即時化、品質の大幅な改善、製造コスト削減等を実現する鍵はコンカレント・エンジニアリングと呼ばれた。これは情報の電子化と電子情報の標準化及びネットワーク化による相互情報交換をベースにした組織を超えた情報の共有化が必要不可欠である。そして、この仕組みを実現する手段はCALSと呼ばれるコンセプトが存在した。CALS(Computer Aided Logistics Support)は、1985年に米国国防省において、兵器の調達・保守・運用のためにドキュメントや図面の標準化とデータベース化を推進するために、米国防省が取引関係のある産業界に呼びかけたのが始まりである。その後、兵器の設計段階から溯ってデータベース化され、略称がCALS(Computer-aided Acquisition & Logistics Support)に改められ、CAD(Computer Aided Design)データの共有化、兵器類の開発期間の短縮、有事対応のための品質保証、膨大なドキュメント類の標準化と管理を狙いとした。米国防省は1993年に、CALSの適用領域を産業界全体に拡大し、略称をCALS(Continuous Acquisition & Life-cycle Support)に変更した。翌年、CALSの商用化と米連邦政府の取得改革及びCALSの国際化が推進され、光速の商取引という新たなCALS(Commerce At Light Speed)が展開された。この国際化の動きに対応して、日本は1995年5月にCALS推進協議会を設立し、本格的な取組みを開始した。すなわち、BPRは従来の仕事のやり方を根本的に変える理念であり、CALSはその具体的な方法や目標を明確にして企業内のみでなく国家や地球規模の変革を目指しているといえる。

 CALSは広範な要素を含み、標準化、情報技術、業務プロセスを柱とするシステムである。書類ベースの業務でなく、電子データによる情報の転送・保管・検索にコンピュータネットワークが利用される。この場合、電子データの表現方式の統一等、情報の標準化が不可欠である。そして、従来の作業単位を階層的に積み重ねる製品の開発と生産は情報の共有化を前提に同時並行の協業を可能にする。また、電子化された情報に基づく商取引が可能になる。社会や企業の枠組みが変わり、知的所有権やセキュリティ等に対する各種の法的な整備が必要になる。業務の標準化が進み、市場競争が激化し、グローバル化が求められる。情報のネットワーク化やデータベース化、情報の共有と蓄積、情報の即時性とオープン化等により、企業経営のスタイルが変化する。さらに、資源のストックよりフローが重視され、より効率的な企業変革が求められる。各企業は市場における優位性(コア・コンピタンス)を明確にし、情報技術の高度化、多様化、複雑化がより進むと考えられる。

 CALSはマニュアル類のペーパーレス化に始まり、商品や資材の開発と調達業務の電子化を進め、生産と商取引を含む産業界全域に拡大した。CALSはEDI(電子データ交換:Electronic Data Interchange)の機能を持ち、ネットワーク化されたCAD/CAM(Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing)であり、標準化された大規模なデータベースを持つペーパーレスのシステムである。CALS規格は、設計図データの規格(IGES:Initial Graphics Exchange Specifications)、製品データの規格(STEP:Standard for the Exchange of Product model data)、文書表記の規格(SGML:Standard Generalized Markup Language)、受発注データの規格(UN/EDIFACT:United Nations/Electronic Data Interchange For Administration, Commerce, and Transport)があり、世界共通言語として、ISO(国際標準化機構)規格に採用されている。CALS化はネットワークとデータベースをすべての業務へ有効に活用し、それを活用するために、組織と業務プロセスの大変革(再構築)が求められるのである。

(文責:yut)

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