兵法に学ぶ経営の神髄

武経七書(六韜、三略、孫子、呉子、司馬法、尉繚子、李衛公問対)
兵法三十六計
六韜
三略
孫子の兵法
呉子の兵法
司馬法
尉繚子
李衛公問対



兵法に学ぶ経営の神髄

 企業経営において、古代中国の書籍、特に兵法に、学ぶべき要点が数多く存在する。不景気・好景気の要因と分析、業務・業種の手法とその応用検討、次世代産業の予想・創出とその展開方法など、企業経営への問題認識とその対応策に関する情報が数多く記述されている。そこで、武経七書を中心に、その論点を整理してみたい。

武経七書
 武経七書とは、六韜、三略、孫子、呉子、司馬法、尉繚子、李衛公問対のことである。宋の時代に武官養成のテキストとして選ばれ、武人の経典として権威づけられるようになった。 六韜には、文韜、武韜、竜韜、虎韜、豹韜、犬韜がある。三略は、上略、中略、下略のことである。 また、孫子(孫武)の兵法は、計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇を述べている。 呉子の兵法は、古代中国で呉起と武侯との出会いに基づき、政治と戦争(図国)、敵情の分析の仕方(料敵)、統率の原則(治兵)、指導者(論将)、臨機応変(応変)、士卒の激励(励士)の6篇が記されている。 司馬法は、中国の秦代に司馬穰苴によって書かれたとされる兵法書であり、仁本、天子之義、定爵、厳位、用衆の五編が現存する。

 尉繚子は、中国の戦国時代から遅くても秦代にかけての著作とされ、現存しているのは、天官、兵談、制談、戦威、攻権、守権、十二陵、武議、将理、原官、治本、戦権、重刑令、伍制令、分塞令、束伍令、経卒令、勒卒令、将令、踵軍令、兵教上、兵教下、兵令上、兵令下の24巻である。李衛公問対は、中国の唐代の兵法書とされ、李世民(唐太宗)と李靖(李衛公、字は薬師)が歴代の兵法と兵法家、もしくは将軍や宰相などの人物を話題に話し合う形で展開され、巻之上、巻之中、巻之下の三篇からなり、具体的討論の内容には、太公望の六韜、三略、孫子、呉子、司馬穰苴、張良、韓信、曹操、諸葛亮の兵法、八陳・六花・五行の陣法、歴代の兵法家や将軍や宰相が出てくる。

 これらの兵法書は現代経営にも応用できる点が多々ある。兵法の基礎は人生の指南書でもある。現実的な幾多の局面をどのように対処すべきか、その神髄が兵法書に秘められている。

 兵法の古典は六韜三略にある。人を制する六つの智謀、三つの策略、人心把握の要諦が記されている。文韜には効果的な人使いのポイントがまとめてある。君子はその志を得ることを楽しみ、小人はその事を得るを楽しむ。大人物は天下を釣り、小人物は魚を釣る。太公望呂尚が名言、釣に三権あり、餌があって魚が釣れる。良い人材を得るのも同じ、そしてそれぞれの人間の能力に応じて相応しい地位や使い方が不可欠である。多くの人は報酬に自分を売り渡し、それで現世の楽しみを購入する。 人の性は七色に露呈する。喜怒哀懼愛悪欲が大罪の根元、名付けて七情ともいう。

兵法三十六計
 兵法は現代のビジネスに応用可能である。兵法三十六計逃げるに如かず、困ったときには逃げるのが最良の策という意味にとれる。これが明日の勝利に繋がる。兵法三十六計は 、中国の魏晋南北朝時代の兵法書とされる。著者は宋の将軍・壇道済、36種類の戦術を6系統に分けて述べている。

勝戦の計
一瞬の油断が敗北を招く。絡まった糸は無理に解かない。
(瞞天過海、囲魏救趙、借刀殺人、以逸待労、趁火打劫、声東撃西)
 ・瞞天過海は天を欺き海を渡る。何食わぬ顔で敵を欺き、敵を騙す兵法・策略の計をいう。
 ・囲魏救趙は要所を突き虚を突いて崩し、敵を集中させずに分散させ疲れさせて撃破する。
 ・借刀殺人は同盟者や第三者が敵を攻撃するように仕向け、自国の戦力を温存する。
 ・以逸待労は敵を苦境に追込むため、必ずしも攻撃の必要はなく、劣勢から優勢に転ずる。
 ・趁火打劫は敵の被害や混乱が大きい時、火事場泥棒の計略で、一気に決着をつける。
 ・声東撃西は東に声して西を撃つ。陽動で敵の動きを翻弄し、防御を崩して攻め込む。

敵戦の計
肉を打たせて骨を断つ。ハッタリや偽装工作など、敵を欺く戦術。
(無中生有、暗渡陳倉、隔岸観火、笑裏蔵刀、李代桃僵、順手牽羊)
 ・無中生有は偽装を敵に示して欺き、相手が油断したところを攻撃する。狼少年の計略。
 ・暗渡陳倉は偽装工作で攻撃を隠蔽し、敵を奇襲する。
 ・隔岸観火は敵の内部統制が乱れている場合、攻めずに放置する。果報は寝て待つの戦略。
 ・笑裏蔵刀は敵を攻撃する前に友好的に接して油断させ、準備を整えてから攻撃する。
 ・李代桃僵は肉を切らせて骨を打つ、不要な部分を犠牲にして全体の被害を最小限にする。
 ・順手牽羊は敵の統制の隙を突き、悟られないように細かく損害を与える。

攻戦の計
弱いふりをしたり、様子を探り、思考力を鍛え、無駄なことをしない。
(打草驚蛇、借屍還魂、調虎離山、欲擒姑縦、抛磚引玉、擒賊擒王)
 ・打草驚蛇は蛇を打たずに草を打ち燻り出す。周辺から情報を集め、反応を見て対応する。
 ・借屍還魂は亡国復興など大義名分を持ち出し、他に便乗して自らの目的を達成する。
 ・調虎離山は強敵な虎には隙を見せて、山から誘き出し、見方が有利な地形で戦う戦略。
 ・欲擒姑縦は完全包囲すると味方にも被害がでる。敵に逃げ道を与え、敵を緩ませ時を待つ。
 ・抛磚引玉は自分に必要のないものを囮にして敵を誘き寄せ、海老で鯛を釣る戦略。
 ・擒賊擒王は敵の主力や中心人物を捕らえ、末端の部隊と交戦せずに敵を弱体化する。

混戦の計
相手が手強く上手くいかないとき、敵の勢力を崩壊に導き、柔よく剛を制する。
(釜底抽薪、混水模魚、金蝉脱穀、関門捉賊、遠交近攻、仮道伐虢)
 ・釜底抽薪は根本に手を付けなければ真の解決にならない。根本問題なければ人生好転する。
 ・混水模魚は敵の内部を混乱させ、弱体化させ、味方の望む行動をとらせるように仕向ける。
 ・金蝉脱穀は自軍を撤退させるとき、あたかも留まっているように見せかけて撤退する。
 ・関門捉賊は死に物狂いで抵抗する敵を取り逃がさずに、徹底的に殲滅する。
 ・遠交近攻は遠い国と同盟し近くの国を攻略する。
 ・仮道伐虢は小国が大国に攻め込まれた時、救援を送るが、小国を仲間にしてしまう策略。

併戦の計
常に主導権を確保して、敵であれ味方であれ、決して隙を見せない。
(偸梁換柱、指桑罵槐、仮痴不癲、上屋抽梯、樹上開花、反客為主)
 ・偸梁換柱は梁も柱も家を支える屋台骨、形は同じでも中身を変え骨抜きにし乗っ取る策略。
 ・指桑罵槐は強者が弱者を屈服させる時、間接的に警告する。
 ・仮痴不癲は愚か者を装って相手に警戒心を抱かせず時期の到来を待つ。
 ・上屋抽梯は二階に大金がある場合、梯子で二階へ、突然梯子を外し、突然に敵が出現する。
 ・樹上開花は小兵力を大兵力に見せかけて敵を欺く。樹上に花を開(さか)す。
 ・反客為主は敵に一時的に従属あるいは臣下となり、時間をかけて内から乗っ取る計略。

敗戦の計
絶体絶命で無理ならば逃げ、逆転勝利の秘策で、明日の勝利へ、手段は問わない。
(美人計、空城計、反間計、苦肉計、連環計、走為上)
 ・美人計は色仕掛けで相手の戦意を喪失させる計略、指揮官がやる気をなくせば崩壊する。
 ・空城計は自陣に敵を招き入れ、敵の判断を惑わす計略。諸葛孔明の空城計が代表策。
 ・反間計は敵のスパイや内通者を利用する計略。偽情報を流して敵の判断を惑わす計略。
 ・苦肉計はわざと自分を傷つけ、人から傷つけられたように信じ込ませる。
 ・連環計は敵が互いに足の引っ張り合いをするように仕向け、行動力を鈍らせて攻撃する。
 ・走為上はダメだと思ったら逃げるのが最上の策、兵法三十六計逃げるに如かずの語源。


太公望呂尚・六韜
全編60編から成り、太公望呂尚が周の文王・武王に兵学を指南する設定で構成されている。
第一巻
・「文韜」 - 戦争をするための国の治め方と、政治の在り方を講じている。
・「武韜」 - 戦争前の自国を有利にし、敵国を不利にするための国家戦略を講じている。
第二巻
・「龍韜」 - 軍隊組織の構築と、将軍将校の任命を講じている。
・「虎韜」 - 基本的戦場(平野)での戦術、指揮、部隊の陣形、兵士の武具を講じている。最も実用的な書とされ、虎の巻の語源でもある。
第三巻
・「豹韜」 - 特別な戦場(森林・山岳・谷間・湖水)での応用的な戦術、指揮、部隊陣形、武器防具を講じている。
・「犬韜」 - 歩兵・騎兵・弓兵・戦車の部隊編制方法と、各兵科の訓練作法を講じている。

黄石公・三略
張良の師の黄石公の著作とされ・黄石公三略ともいう。
注) 張良:秦末期から前漢初期の軍略家。字は子房。諡は文成。
劉邦に仕えて多くの作戦を立案し、その覇業を大きく助けた。
   ・1.上略、人材を招く必要性や政治の要点などが記述されている。
   ・2.中略、策略の必要性や組織の統制術についての記述がなされている
   ・3.下略、治国の要点や臣下の使い方などの記述がある。

孫子の兵法
 孫子の兵法は、三国志の曹操が編纂したものとされ、呉の孫武と斉の孫臏の兵法である。この二人、なぞ多き人物であるが、孫子の兵法を後世に残した。

孫武の兵法
 孫武の兵法とされる内容は、計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇、の十三篇からなる。 彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず。孫子のことばは今日でも真理である。
 * 計篇・・・序論。戦争を決断する以前に考慮すべき事柄について述べる。
 * 作戦篇・・戦争準備計画について述べる。
 * 謀攻篇・・実際の戦闘に拠らずして、勝利を収める方法について述べる。
 * 軍形篇・・攻撃と守備それぞれの態勢について述べる。
 * 勢篇・・・上述の態勢から生じる軍勢の勢いについて述べる。
 * 虚実篇・・戦争においていかに主導性を発揮するかについて述べる。
 * 軍争篇・・敵軍の機先を如何に制するかについて述べる。
 * 九変篇・・戦局の変化に臨機応変に対応するための9つの手立てについて述べる。
 * 行軍篇・・軍を進める上での注意事項について述べる。
 * 地形篇・・地形によって戦術を変更することを説く。
 * 九地篇・・9種類の地勢について説明し、それに応じた戦術を説く。
 * 用間篇・・間とは間諜を指す。すなわちスパイ。敵情偵察の重要性を説く。
 * 火攻篇・・火攻め戦術について述べる。

孫臏の兵法
 孫臏の兵法は、全八十九篇あるとされるが、三国から、晋、五胡十六国、南北朝を経て、唐の時代にはその書物が亡佚したとされていた。 ところが、1972年に、山東省の前漢初期の墳墓から、孫嬪兵法の竹簡が他の兵法書とともに出現した。発見された竹簡は、440枚、全30篇に分かれている。 しかし、その竹簡の文字のすべては公表されていない。いずれ、全貌解読が期待されている。
【上篇】
擒龐涓見威王威王問陳忌問塁簒 卒
月 戦八 陣地 葆勢 備兵 情
行 簒殺 士延 気宮 一強 兵
【下篇】
十 陣十 問略 甲客主人分善 者
五名・五恭兵 失将 義将 徳将 敗
将 失雄牝城五度九奪積 疏奇 正


呉子の兵法
 呉子の兵法は、古代中国で呉起と武侯との出会いに基づき、次の六編がある。
  # 図国:政治と戦争について記している。
  # 料敵:敵情の分析の仕方を記している。
  # 治兵:統率の原則を記している。
  # 論将:指導者について記している。
  # 応変:臨機応変(法家思想)について記している。
  # 励士:士卒を励ますことについて記している。

司馬法
 司馬法は、中国の秦代に司馬穰苴(田穰苴)によって書かれたとされる兵法書、次の五編が現存する。
  仁本
  天子之義
  定爵
  厳位
  用衆

尉繚子
 尉繚子は、中国の戦国時代から遅くても秦代にかけての著作とされ、現存するのは、
 1. 天官
 2. 兵談(竹簡本にあり)
 3. 制談
 4. 戦威
 5. 攻権(竹簡本にあり)
 6. 守権(竹簡本にあり)
 7. 十二陵
 8. 武議
 9. 将理(竹簡本にあり)
 10. 原官(竹簡本にあり)
 11. 治本
 12. 戦権
 13. 重刑令
 14. 伍制令
 15. 分塞令
 16. 束伍令
 17. 経卒令
 18. 勒卒令
 19. 将令
 20. 踵軍令
 21. 兵教上
 22. 兵教下
 23. 兵令上(「守法等12篇」にあり)
 24. 兵令下(「守法等12篇」にあり)
の24巻で構成される。

李衛公問対
 李衛公問対は、中国の唐代の兵法書とされ、李世民(唐太宗)と李靖(李衛公、字は薬師)が歴代の兵法と兵法家、もしくは将軍や宰相などの人物を話題に話し合う形で展開されている。
 1. 巻之上
 2. 巻之中
 3. 巻之下
の三篇からなる。具体的討論の内容では、太公望の六韜、三略、孫子、呉子、司馬穰苴、張良、韓信、曹操、諸葛亮の兵法、八陳・六花・五行の陣法、歴代の兵法家や将軍や宰相が出てくる。

 要点は、味方の戦意を高めて勝利につなげること。平時から愛と威信を以ち、部下を纏め、戦いの前に十分な計画を立てる。戦いに際し、先手を取り、常に主導権を握る。その為には戦争に内在する法則性を把握しておく。戦争のやり方は「正」と「奇」の組み合わせから成り立ち、その変化は無限である。その土地の民族の長所を発揮して全体として勢いに乗せ、現地には現地の指揮官を配置する。兵士には愛情を持って臨み、刑罰は後で示すことが必要、信頼を持って対応することで心服させる。

参考
 1. 兵法塾
 2. Web漢文大系(その他)
 3. 中国関連書籍(兵書)

(文責:yut)


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