経済成長を考える

経済成長
新古典派経済成長論
ソロー・モデル
内生的経済成長論
ローマー・モデル

経済成長を考える

 経済成長は、簡単に定義すると、国民総生産の規模の持続的拡大である。そこには現在の消費を抑えて蓄積に回し、将来の生産力を上昇させるというメカニズムが存在する。この場合の理論 は、時間の経過を通じて、経済全体を動学的に捉える必要があり、その基本的な考え方として、個人の最大化行動を基礎とする。新古典派経済成長論の代表となる理論モデルは、ソロー・モデルであり、資本と労働の代替を仮定した生産関数と資本蓄積方程式を中心に構成される。一方、内生的経済成長論による理論モデルは、ローマー・モデルがあり、単純なAKモデルがある。ローマー・モデルは、生産関数にアイデアの蓄積が考慮され、内生的技術変化が重要な要素になっている。そして、労働は新しいアイデアの創出と産出物の生産に向けられる。単純なAKモデルは、資本ストックを広義に捉え、労働も質で捉えることで、人的資本を含むと考える。つまり、資本ストックは生産に貢献し、人的資本や知識等も蓄積でき、蓄積可能なあらゆる生産要素を集めたものとされる。

 ソロー・モデルにおいて、生産物は資本と労働を生産過程に投入することで得られ、総生産物(国民所得)Yは、資本Kと労働Lからなる生産関数、

       Y=F(K,L)               ・・・・・・ (1)

で与えられる。この場合、モデルを単純化するために、コブ=ダグラス型の生産関数を仮定すると、

                 α   1−α
       Y=F(K,L)=K   L         ・・・・・・ (2)

と表される。ここで、αは0≦α≦1にある正の定数である。そして、この生産関数は規模に関して収穫不変の性質がある。式(2)は、労働者1人当りの生産量y=Y/L、労働者1人当りの資本k=K/Lとすると、

          α
       y=k                    ・・・・・・ (3)

となる。この関数は労働者1人当りの資本が増加すると、企業の生産する労働者当りの生産量も増大する。しかし、労働者1人当りの資本の収益は逓減する。

 資本の蓄積過程を記述する資本蓄積方程式は、

       dK/dt=sY−mK            ・・・・・・ (4)

で与えられる。すなわち、資本ストックKの時間変化は、総投資額sYから生産過程での資本の減耗mKを引いた額になる。ここで、資本ストックの変化dK/dtは、期間当りで考えると、Kt−Kt-1を意味する。また、総投資額sYは、労働者であり消費者である個人がその所得から、一定割合sを貯蓄すると仮定され、貯蓄と投資が等しいと仮定している。資本の減耗は、定率法に基づき、毎期の資本から一定割合mが減耗すると仮定される。そして、個人の所得は賃金と資本収入からなり、

       Y=wL+mK                ・・・・・・ (5)

で与えられる。つまり、企業は労働者に労働1単位当り賃金wを支払って、資本1単位を1期間賃借するのに対価mが支払われる。そして、この市場経済は、多くの企業と消費者が存在し、完全競争の下で、企業は利潤を極大化しようとする。この場合、労働者は人口に等しく、外生的に与えられた一定率nで成長する。したがって、

       dL/dt=nL               ・・・・・・ (6)

が成立するものとされる。さらに、資本蓄積方程式は、労働者1人当りの資本の関数として表示でき、

       dk/dt=sy−(n+m)k        ・・・・・・ (7)

となる。この場合、労働者1人当りの消費は、労働者1人当りの産出量yと労働者1人当りの投資syの差で与えられる。この式(7)の意味することは、右辺が正である限り、労働者1人当りの資本は時間とともに増加し、負ならば減少する。問題はyがkの関数であり、式(3)で与えらるが、kが十分に大きくなると、sy≪(n+m)kとなり、kが時間とともに減少することになる。一般には、kが増えると、新規労働にそれだけの資本を与えるだけで過重負担となり、既存労働の資本増に回す部分が無くなって、kは時間の経過に従って一定の大きさに近づき、定常状態が存在するとされる。なお、経済成長は資本ストックの変化dK/dtでもあり、成長率は(dK/dt)/Kで与えられる。そして、この成長と成長率の概念は自然対数を用いた数学的手法で表示することができる。すなわち、k=K/Lの自然対数をとると、

     lnk=lnK+lnL              ・・・・・・ (8)

     (dk/dt)/k=(dK/dt)/K−(dL/dt)/L                               ・・・・・・ (9)

となり、式(3)からは、

       lny=αlnk               ・・・・・・ (10)

       (dy/dt)/y=α(dk/dt)/k   ・・・・・・ (11)

を得る。

 新古典派経済成長論の理論モデルは、資本ストックに基礎を置き、物的資本や人的資本の蓄積をモデル化することに焦点が当てられている。このため、新古典派型の経済成長理論は、定常状態において、労働人口の成長率や技術進歩率を外生的に与え、その和が経済成長率に等しくなるという特徴がある。すなわち、経済成長率は、外生的なパラメータによって与えられ、貯蓄率も技術水準も経済成長率に影響を与えない。新古典派経済成長論から得られる基本的な結論は、貯蓄性向が大きいほど労働者1人当りの産出量・資本量ともに大きくなる。結果的に産出物も資本も消費目的に使われ、1人当りの消費を最大にする条件として、資本の限界生産力(市場利子率に等しい)が人口成長率に等しくなるように貯蓄性向が決まれば、1人当りの消費は最大になる。これは蓄積の黄金律(新古典派定理)と呼ばれている。

 しかし、経済成長は技術進歩がなければ起り得ない。技術進歩が外生的に起るとすると、経済によって技術に差が生じることを説明することができない。現実の市場経済では、企業が技術開発のために巨額の資本を投下し、この資本投下が収益性や経済状況によってなされる。このことから、技術進歩は内生的に決まり、その量と質が経済成長に多大な影響を与えていると考えられる。結局、新古典派経済成長論の特徴として、どのような経済も長期的に定常状態に達すること、この定常状態での労働者1人当りの産出する経済成長率が外生的な技術進歩率に等しくなる。この結果、経済成長に及ぼす経済政策の影響はかなり否定的に捉えられる。何故なら、経済政策は定常状態に達した労働者1人当りの資本ストックkを変更することであり、一度経済が定常状態に達すると、経済成長率は外生的な技術進歩率に等しくなり、経済政策によって長期的な経済成長の持続ができなくなることを示している。

 内生的経済成長論はこれを克服した新しい理論であり、その方法論的な特徴として、経済成長をミクロ的な最大化原理から説明しようと試みている。単純な内生的経済成長モデルはAKモデルと呼ばれる。その生産関数は、

       Y=AK                   ・・・・・・ (12)

とされる。ここで、Aは、ある正の定数であり、資本ストックの生産性である。労働者1人当りの生産量y=Y/L、労働者1人当りの資本k=K/Lを用いれば、

       y=Ak                   ・・・・・・ (13)

となり、広い意味で1人当りの資本ストックの蓄積は、

       dk/dt=Ak−c             ・・・・・・ (14)

で与えることができる。これは総生産量から消費を差引いたものが貯蓄となって資本ストックの増加に回ることを意味する。資本の蓄積過程を記述する資本蓄積方程式は、新古典派経済成長論の理論モデルと同一であり、

       dK/dt=sY−mK            ・・・・・・ (15)

で与えられる。これは両辺をKで除して書き直すと、

       (dK/dt)/K=sY/K−m=sA−m  ・・・・・・ (16)

となる。また、生産関数Y=AKの対数をとり、微分すると、資本の成長率と産出の成長率が等しくなり、

       (dY/dt)/Y=sA−m         ・・・・・・ (17)

が成立する。これはAKモデルの重要な結論を示しており、この経済の成長率は投資率sの増加関数になることを意味する。すなわち、投資率を増加する経済政策は、恒久的に経済を成長させる。また、資本ストックの生産性Aが大きければ大きいほど成長率が大きくなる。さらに、消費者が貯蓄に回す度合いが大きく、将来財よりも現在財を選好する度合い(時間選好)が小さいほど成長率は大きい。そして、AKモデルは成長を内生的に生み出している。つまり、1人当りの成長を生み出すために、技術や人口等が一定の外生的役割で成長するという仮定が必要ないのである。そこでは、成長率の低下を凌駕する別の効果として、技術や知識の外部性、人的資本の蓄積あるいは教育や研究の効果等、これらの要素を取り入れて内生的経済成長が説明される。結論としては、式(17)の右辺において、sA>mであれば、この式は常に正となり、経済は留まることなく成長する。この点が新古典派経済成長論との決定的な違いである。このことは、貯蓄率sや資本の生産性A等を技術的・制度的に変化させることで、定常状態における経済成長率を変化させることができ、経済政策による経済成長率の持続的な上昇が可能であることを示している。

 過去の経済成長を考えると、成長率の急上昇は、その大部分が個人の長期投資による収益への期待とその財産権の確立等に負う所が大きい。日本の高度経済成長時代は、為替の固定レートを背景に、政府の産業政策による所が大きいが、新しい技術や知識の導入と創造および教育と研究への投資が内生的経済成長を支えたといえる。しかし、その効果は恒久的ではない。すなわち、必ずしも長期的経済成長は内生的であるといえないが、ソロー・モデルのような外生的モデルが正しい結論を導くとはいえない。むしろ、経済成長は弛まざる利益指向の人々による努力の成果から、常に新しくより良い知恵と工夫を探求し、現実の場に実現する政策的な枠組みを含め、広義の人的資本の蓄積が経済を内生的に成長させていると理解すべきと考えられる。このように考えると、新古典派経済成長論は、経済成長のメカニズムについて一部の理解を得ることができたが、外生的な要因で経済成長が決まってしまうという論理がある。このため、政策的な働きかけの余地がみられない。これに対して、内生的経済成長論は、経済成長の要因が外生的に決まるのでなく、経済内の経済主体による合理的な意思決定が内生的な変数として扱えるという特徴がみられる。したがって、成長要因を現実的データで把握すれば、政策的な介入の余地を見出す手法が存在することになる。例えば、貯蓄率は各国によって異なるが、国民の合理的に意思決定の結果として捉え、自らの生涯所得の不安定性や消費に関する物価と貯蓄による利子との比較等、将来性やリスクに対する国民性の違いが貯蓄率を決定している。その結果、貯蓄が増えると、投資に回すことができ、経済の成長率が高くなる。このことは、貯蓄率が経済外で決まるのでなく、内生的に決まることを意味する。同様に、技術に関する発明や発見は外生的要因で与えられるのでなく、国民の能動的な働きかけが技術進歩に結び付き、その研究開発投資が生産関数に影響を与えて経済成長を持続させると考えられる。しかし、新技術は規模の経済性があると、先行企業に有利に作用し独占や寡占が進み、経済全体に望ましくなく、他企業へ好影響を与えるような政策が望まれる。労働を考えれば、労働者数の増減は経済成長に影響するが、その質に着目して教育投資等の人的資本を充実させることで生産力が上昇し、労働者の質が経済成長に関係する。この内生的経済成長は、金融市場の質的向上によるリスク分散や各種のプロジェクト活動が経済成長に影響する等、多くの関連付けが存在するので今後の研究が期待される。

(参考資料)
1.C.I.ジョーンズ著(香西 秦監訳)、経済成長理論入門−新古典派から内生的経済成長理論へ−、日本経済新聞社、1999.

(文責:yut)

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