企業活動の基本(製造業のモデル化)

企業経営
資本の循環過程
新製品開発と研究開発活動
事業戦略

企業活動の基本(製造業のモデル化)

 企業は人・物・金の経営の三要素を資本の循環過程に投入し、健全経営に基づき最大利益を得ることを目的とする。この場合、資金は株式・社債・借入金によって集められ、土地や家屋や設備などの資産・材料や部品・人件費や経費などに投入され、管理費や販売費を計上して、商品を売上に結び付ける。売上は、債権を経由して収益となり、資金に加えられ、一部が配当や利子や税金に回され、残余資金を生産のために再投入する。

<資本の循環過程>

 この場合、生産のための事業活動は、新製品開発を経て、既存製品に新製品を加えて生産するが、顧客の要求を満たす必要がある。つまり、顧客からの受注を確定するか、確度の高い受注を見込み、計画的に生産しなければならない。

<事業活動のサイクル>

 特に、新製品開発は研究開発活動を経て、最新技術や修得技術、経験や技術導入や改良技術など、新規技術と進歩技術を加えて新製品を開発する。開発された新製品は信頼性評価や品質改善を施して製品となるが、企業利益の追求を満たす生産管理活動が可能なものを商品とする。

<新製品開発活動の基本>

 これが一連の新製品開発活動の基本であり、常に生産すべき商品群に新製品を戦略的に加え続けなければ、事業は継続的に発展しない。当然、この過程において、競争相手が参入し、新規参入業者の脅威に晒され、買い手と売り手の交渉力が問われ、代替製品や各種サービスの脅威にも対応しなければならない。

 一般的に、このような事業活動は戦略的なプロセスに基づいて実施される。戦略的なプロセスは、最初に事業領域を識別して確立することであり、それに対する戦略案を作成・評価・選択することにある。例えば、既存の事業を区分し、製品のライフサイクルと経験曲線を前提にして、それぞれの市場の成長率と占有率を明確にする必要がある。そして、それが高成長で高い市場占有率を持つ維持すべき花形製品なのか、低成長ではあるが市場占有率が高く収穫すべき金のなる木なのか、高成長ではあるが市場占有率の低い育成すべき問題児なのか、低成長で低い市場占有率のために撤退すべき負け犬なのかを知る必要がある。その上で、自社の強みや弱みおよび市場の機会と脅威を明らかにして、現市場に現製品を浸透させるべきか、現市場に新製品を開発して投入すべきか、現製品で新市場を開拓すべきか、新製品と新市場で事業の多角化を狙うべきかの判断が行われる。この場合、市場浸透の戦略はコスト競争や品質競争が重要な鍵を握っている。新製品開発は新技術のハイテク戦略を伴う技術力が不可欠である。新たな市場開拓は応用力とマーケティング力を酷使した新市場創造が必要になる。また、事業の多角化は市場成長の先見性と先行投資による投資力が問われる。この上で、経済指標や市場環境を見極めて、経済的環境に基づく景気動向に注目し、市場の競争的環境に基づく市場占有率を予測した売上試算が求められる。さらに、費用構造などの内部的環境と採用すべき戦略との関係から得られる利益を把握しなければならない。

 企業は「売れる製品」を生産する必要がある。「売れる製品」をどれだけ生産すべきかが重要であり、生産量と総費用との関係に基づき、利益計画を部門別・製品別に明確にする。これは損益分岐点管理と呼ばれ、

利益=売上−費用=売上−(固定費+変動費)

で表され、生産量x、費用g(x)とし、固定費a、単位製品当りの変動費bとすれば、

g(x)=a+bx

となる。また、売上f(x)は単位製品当りの販売価格cに対して、

f(x)=cx

となる。すなわち、g(x)とf(x)との交点が損益分岐点であり、売上と費用とが等しくなれば利益は「0」になる。そして、生産量(=販売量)は、損益分岐点x0 以下になると損失が発生し、損益分岐点x0 以上になると利益が生み出される。ここで、固定費aは、生産や売上に関係なく、一定額発生する費用であり、給与や手当等の労務費、固定資産の減価償却費、事業税や固定資産税、金利やその他の経費等である。変動費bは、直接資材費、外注費や運賃及び電気代や燃料費の操業費用等である。従って、損益分岐点x0 は、販売価格cとの関係において、

x0 =a/(c−b)

で与えることができる。

ここでは、費用g(x)や売上f(x)を線形で仮定した。しかし、一般的な費用g(x)は、生産量に不変な固定費と生産量の増加によって変化する変動費との和で表される。この場合、変動費は、最初は直線的に上がるが、次第にその増加が少なくなり、ある点を過ぎると急上昇する傾向がある。一方、売上f(x)は、生産量が増えると、生産量をすべて売るために、単価を下げなければ需要が鈍化し、凸型の曲線(経済学上の収穫逓減曲線)になると考えられる。すなわち、図−2の損益分岐点図表から企業の利益を最大化する生産量(=販売量)を考察することができる。

売上f(x) 売上f(x) 損益分岐点 費用 g(x) 費用g(x) 変動費 変動費 損益分岐点 固定費 固定費 利益 利益 x0 x0 a) 線形モデルに基づく生産量と生産費用 b) 一般的な生産量と生産費用 図−2.損益分岐点図表

企業経営は、経営対象や事業構造や企業チャネルを変化させ、経営の仕組や経営資源や企業系列等に対しての経営戦略を実行しなければ、継続的に健全経営することが難しい。すなわち、経営機能の充実と経営成果を生み出しつつ、経営力を持続的に向上させなければならない。そして、環境変化に対応させて、経営サイクルを回し、企業の経営体質に基づき、企業の風土や企業の歴史が生み出される。特に、戦略計画の策定や戦略の実行および戦略の意思決定は、人事・企画・財務・生産・販売・研究開発等の経営機能に影響を与え、人・物・金・情報等の経営資源が市場・製品・技術・流通等の経営対象に投入され、競争力・収益力・安定力・成長力・規模等の経営力向上に結び付き、ビジョン・戦略・計画・管理・実行の経営サイクルを動かしている。このため、企業の基本的前提(理念・使命・目的等)と情報評価、情報の分析と問題解決、長期・中期・短期の経営計画の策定、組織化や実行が重視され、経営戦略の実行案から戦略計画を立案して、実行可能性を検証しつつ、経営戦略の立案と評価を行う必要がある。この場合、社内経営資源との有機的関連付け(経営資源の客観的評価)、戦略案の選択基準作り(経営戦略体系の構築)、外部資源との積極的関連付け(情報力と資源調達力)、既成事実の打破(企業の自己革新)、経営戦略案の事前検証(戦略案の現実化)が重要になる。

事業運営は、予算管理に基づいて実行されるが、市場の変動に左右される。この場合、中長期の売上利益計画を持ち、その年間計画を月次で管理して、計数管理力を確保しながら、計画と実績の即時対比を確実に行って、実績に基づく年度末決算の予測と不足・不十分な項目の対策を適時に展開しつつ、組織管理力の強化と販売力・開発力を重視して、市場動向に対応した運営管理と環境変化への適応力に富む柔構造の戦略展開を可能にしなければならない。狭義に考えれば、良い品(品質)を、安く(コスト)、早く(納期)生産するために、受注から出荷までの流れをよどみ(ムリ、ムダ、ムラ)なく管理することにある。この場合、市場は常に動いており、戦略計画との乖離があり、計画が予測に従って動くわけではない。また、信頼できる情報が常に入手できるとは限らない。入手した情報はすべて過去のものであり、情報を入手した時には、すでに市場は動いているのである。戦略計画の策定を形式化してモデル化することは可能であるが、形式的な戦略策定の手順では、不測の事態を見越したり、事実の事象を直接的に確認できなければ、適切な戦略や奇抜な戦略を生み出すことが不可能である。戦略計画は戦略的思考と同じではない。戦略計画は、分析に基づき、目標や目的に向かって、幾つかの段階に分け、形式的に実施し、それぞれの段階で予想される結果や成果を明確にする作業である。しかし、戦略的思考は、これらを統合する作業であり、直感力や創造力が必要であり、企業や事業の全体的な方向性を示すことが求められる。むしろ、企業の競争優位は、新しい市場の創造にあり、顧客の求める便益を明確にし、それを顧客に提供するための技術や技能が重要である。また、顧客との関係を再構築する発想と企業の有限な資源の再配分が求められ、品質・価格・調達等の業務の質と提供する商品やサービスの魅力が重要である。

(文責:yut)

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