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企業と企業家精神

企業の概念
企業家精神
新製品開発と研究開発活動
事業戦略

企業と企業家精神

1.現代企業の概念
 企業は、自らの危険負担で、自主的に意思決定し、製品やサービスを生産・販売し、それを効率的に行う人間の組織体である。企業経営の目的は長期の維持発展と利潤最大化にある。企業の利潤の源泉は、企業内部の人々の創造性の発揮にあり、経営者は戦略的意思決定、研究者は研究開発、技術者は新製品開発、中間管理者は部下の動機付けの工夫、一般従業員は作業改善等の分業体制で行われる。

 企業は市場環境との相互作用が存在する。経営方針・経営戦略餔企業構造・環境構造・経済的成果等「戦略→構造→成果→戦略→構造→・・」というサイクルである。この時、企業成長の条件は、企業倫理、企業の社会的責任、道徳的価値、倫理価値にあり、企業の活性化と成長のために、全経営過程に好循環が生まれ、トップから一般従業員まで挑戦意欲や創造性を発揮できることが重要になる。

 企業活性化のモデルは「トップ→経営戦略→組織→製品→環境→長期的成果→企業文化→トップ→・・」というサイクルの中にある。企業活性化のトリガーは新製品開発と組織活性化の間に局所的な好循環を起こすことにある。そして、企業の成長モデルは、トップとトップ、戦略と戦略、製品と製品、成果と成果の比較に見出される。

 日本企業の特質は、集団意識、イエ社会の論理、貸し借りの論理、信頼取引、職人道、勤勉性、高学歴社会などにある。日本人は集団意識が強く、信頼取引の商習慣が江戸時代に定着していた。信頼取引の利点は、細かいルールが明示的に取り決めないので、変化の激しい時代に、柔軟性を発揮する。しかし、強者が出現すると、その横暴を押さえられなくなる。なお、経済取引には、現金取引、信用取引、信頼取引がある。また、日本人の勤勉性は、仏教思想と儒教思想が重なり、職人道等の「道」としての職人意識に基づいて形成された。但し、儒教には勤勉を評価する教えは存在しない。情報化時代には、勤勉性が異なった情報を結び付け、情報の新結合により、大きなイノベーションが起こると考えられる。この結果、情報による新たな結合が発信と信頼の相互作用によって強化され、狭い土地に高学歴の人々が密集する地域が豊かになる。日本は東洋の辺境にあり、先進国の文物や技術の導入が軍事的な強化や経済的な豊さを伴うことを、歴史的に体得していた。高品質追求による新技術の発展には、製品の強力な需要者と提供能力のある供給者が常に存在しなければならない。

 経営者機能として、トップマネジメントは、企業経営の最高位に位置し、企業の長期的な維持発展のための意思決定をしたり、人々をリードしていく階層である。日本の企業は、最高意思決定機関と最高執行機関を分離してこなかった。トップマネジメントとして、社長の経営者機能は、将来構想の構築と経営理念の明確化、戦略的意思決定、執行管理に分けられる。この場合、将来構想の構築と経営理念の明確化が重要であり、明確な将来構想の構築は、企業経営に対して、環境変化の要因と戦略策定の道筋を明示してくれる。物事の変化の速度の差と重要度の差の認識が重要であり、物事の変化の速度の差は、金・情報>物>人>人の意識>制度・法律>無意識の価値観の順序であらわれ、重要度の差は、金<情報<人の順序であらわされる。戦略的意思決定は、企業をとりまく環境の機会と脅威を認識し、将来の事業領域と製品領域を決定する。社長と役員の間には、環境の認識の違い、考え方や哲学の違い、政治的な思惑の違い等があり、リーダーシップを発揮して、意思決定を迅速に処理するために、貸し借りの論理、根回し、公式決定のプロセスがとられる。執行管理は、従業員の動機付けと内部組織の活性化により、従業員に挑戦意欲を持たせ創造性を発揮させる。原価管理や予算統制の財務管理等は、企業全体の立場から調整・統制して、全体のベクトルを一つの方向に持っていくことにある。

 経営者能力には、洞察力、野心と執念、決断力、相手の立場でものを考える能力、品性が欠かせない。洞察力は物事の本質を見抜く力である。日頃の家庭生活や企業経営を深く考えて人間のヒダ(細かいシワ)を知り、客観的データを論理的・体系的にとらえて世界の動きを把握し、金・情報・人の重要性の順序と物事の変化の速度を勘案しながら、問題点を抽出して解決策を想定する。野心と執念は、野心は身分不相応な大きな望みであり、執念はあることを思い込み追い求める気力である。いずれも人間の欲求のあらわれであり、経営者のリーダーシップの原動力になる。但し、野心や執念は表に出さすに、野心を使命感とし、執念を自信を持った強い心として行動することが大切である。決断力は不確実な状況で思い切って意思決定することである。このために、まわりの人より広い視野と高い視点が必要であり、意思決定後は目的達成のために努力と情熱を注入する必要がある。相手の立場でものを考える能力は、長期的な視点に立って相手を喜ばせ、幸せにしようとする積極的な能力である。この能力によって、包容力や余裕を持つ人間になり、信頼できる人間のネットワークが構築できる。この能力は、良好な環境に育った人になかなか身につかないので、意識的に相手の立場で物事を考える訓練が必要となる。品性は道徳的価値観から見た人間の性格である。人が何をするかでなく、何をしないかによって評価される。

2.競争優位の戦略と強みネットワーク
  企業が長期的に維持・発展していくため、環境変化に対応した製品領域を支える強みネットワークを創造しながら、競争優位の経営戦略を展開しなければならない。

  競争優位の戦略
   他社にまねられない強みの強化・拡大であり、企業の個性化になる。強みは、物的より人的なもの、単独よりネットワーク化したもの、静態的なものより活性化した動態的なもののほうがまねされ難い。競争優位の戦略策定は、経営者の長期の経営理念と経営目標の明確化、企業外の環境変化やユーザー・ニーズの変化の洞察、他社にまねられない強みネットワークの確認、これらに基づく製品領域の決定という4段階のプロセスからなる。

   優れた経営理念は、従業員から共感が得られ、個性的である。経営目標は、長期的傾向として、新製品開発や多角化・事業転換をめざす企業が増加している。

  強みネットワーク
   中核となる強みのまわりに準強みがつながり、人と人とが合体して形成される。
   静態的なものは定常的・フォーマルな情報交換があり、活性化すると非定常的・インフォーマルな情報交換が多くなり情報の新結合(異なった情報の結び付き)が行われる。情報の新結合には、ハードとソフトの結び付き、技術の強みと財務の強みの結び付き等がある。

  経営過程の好循環の繰り返し
   トップ餞経営戦略餞組織餞製品餞環境餞成果餞企業文化餞トップ餞・・・・・・

3.環境適応戦略と環境創造戦略
競争優位の経営
・環境適応(適応推進、発想転換)製品領域を変えない。
・環境創造(革新推進、全面転換)製品領域を変える。

  環境適応戦略:環境変化がそれほど激しくないとき、自社の強みネットワークが活性化していれば適応推進戦略をとり、自社の強みネットワークが静態的になっていれば発想転換戦略がとられる。適応推進戦略は経営者の特別なリーダーシップを必要とせずに、プロダクト・チャンピオン等が活躍する。発想転換戦略は、強みを意識的に変更して、製品領域の強化・拡大により、競争優位の地位を確保する。技術力からコストへ変更したり、立地展開から商品管理へ変えたりする。

  環境創造戦略:環境変化が激しいとき、自社の強みネットワークが活性化していれば革新推進戦略をとり、自社の強みネットワークが静態的な場合は全面転換戦略がとられる。革新推進戦略は創成期のベンチャー企業のように個人的能力を中心に強みが形成される場合と経営者が意識的に強みを創造していく場合がある。全面転換戦略は強みネットワークの変更が必要であり、経営者が新製品・新事業の開発や組織活性化の方策によって、局所的好循環を構築しなければならない。部分的な活性化から人々の意識を挑戦意欲に変え、環境変化に対応可能な主力製品を生み出し、強みを信用・ブランドから技術力へ、健全財務体質から研究開発力への変更等を進める。

製品戦略
  製品戦略は、技術と市場の局面から、現状維持、製品拡大、製品革新、製品撤退に分けられる。

  現状維持戦略:現有技術の製品を現有市場へ販売する(安定製品)。
  製品拡大戦略:技術か市場の新しいものを改良製品や新製品として販売する。
  製品革新戦略:技術と市場がともに新しい新製品を販売する。
  製品撤退戦略:技術と市場がともに陳腐化した衰退製品から撤退する。

  製品ライフサイクル
   技術的新製品から市場的新製品に転換し、デザインや品質の改善により、製品ライフサイクルを引き伸ばす。市場的新製品は革新的な生産技術に裏付けられ、市場的新製品の継続的開発と大量販売によって、企業の利潤蓄積が行われる。

  研究開発(基礎研究、応用研究、実用化・開発研究)
   基礎研究は、期間が長いが少ない費用で進められ、企業が進めるべき応用研究や開発研究の方向を見極め、企業が進出すべき事業領域や製品領域を的確に見いだすことにある。実用化・開発研究は、期間が短く費用が大きいのでトップの参画が必要となる。応用研究はこれらの中間にあり、基礎研究の成果から開発研究の目標を明確にする。経営者の基礎研究のおよその方向付け→基礎研究の成果→応用研究や開発研究の明確化及び科学技術の評価→新事業・新製品領域の策定→経営者の基礎研究のおよその方向付けの局所的好循環が重要である。

  新製品開発
   探索・審査・経済分析・開発・製品テスト・商品化の6段階プロセスからなる。マクロ的な面より個性的な方向を探ることが重要であり、トップは経済現象や社会現象に注目していく必要がある。

4.内部組織の活性化
  企業活性化は、積極的な製品戦略が中心になり、トップから製品・組織を含む全経営過程の好循環過程である。内部組織の活性化は、このための局所的な好循環過程であり、環境変化と製品戦略が関連する。

  挑戦意欲の向上(組織改革)
   主力製品が産業構造的な環境変化と適合し、企業が順調に成長している場合、新製品開発と能力開発が相互作用して、好循環過程によって組織の活性化が進む。SBU等の分権化、コミニケーションの活性化、人々の意思決定能力の向上と自信付け等により、トップが「ほめる哲学」を標榜し、従業員の挑戦意欲を向上させる。人事評価制度を年功主義から能力主義へ、能力主義も新しいことへの挑戦能力や総合力を評価する必要がある。

  意識革命
   主力製品は産業構造的な環境変化と適合しているが、企業対応が悪く、企業成長が停滞している場合、新製品開発と能力開発の相互作用による好循環過程が期待できない。トップの高い経営理念と経営目標が必要になり、危機感の意識から意識改革から意識革命を起こさせる。この時、トップは従業員の心のヒダ(細かいシワ)まで入っていく努力が必要である。

  知識の深化(教育訓練)
   主力製品が環境変化に適合せずに、企業成長が停滞している場合、リストラクチュアリングや新分野進出のためのノウハウを蓄積しなければならない。専門分野へ深く突っ込み、複眼的視野を持つスペシャリストやエキスパートの教育・養成が必要になる。新規事業をつくり優秀な人材を送り込み、局所的な好循環過程を形成して、組織を活性化する必要がある。

5.財務要因
  財務の機能    財務は、企業の維持調整要因があり、共通尺度機能、整合性機能、インパクト機能を持っている。

  共通尺度機能
   異なった事業の各種経営資源を一つの貨幣尺度に変更して比較できる。広義の会計システム(財務会計制度や管理会計手法等)によって支えられている。

  整合性機能
   各種経営資源にバランスを持たせ、予算配分等で調整可能となる。企業が長期的に維持発展するためには、長期的な資本需給の整合性が重要であり、短期的な損益や資金収支の整合性はあまり重要にならない。

  インパクト機能
   経営資源のバランスが崩れたとき、人々に創造性を発揮させたて企業成長に貢献する。日本企業のトップに大きなインパクトを与える財務要因は、売上高と利益率であり、米国企業では株価や配当率が重視されている。また、日本では経済成長が停滞したり企業規模が小さいと、売上高伸長率を重視する傾向がある。

  日本的企業の特質
   トップにインパクトを与える財務要因は、売上高伸長率、利益額、売上高利益率、資本利益率等であり、負債比率、株価、配当率等が重視されていない。特に、金利負担低下のときの収益性の向上がトップに積極的な経営姿勢をとらせている。固定資金の調達源泉として、金利負担のない内部留保資金が重視され、企業業績が高いと、時価発行増資等で低利の資金調達が可能になる。

6.企業倫理と社会的責任
  企業倫理はすべての企業行動の影響を利他主義の立場から考ていく価値観である。企業行動は、目的的結果以外に付随的結果や間接的影響も考慮する必要があり、弱者への配慮が大切である。また、世界経済の相互依存性からグローバル化が進み、生産設備の海外移転から現地の優秀な頭脳労働によるR&Dにも力を入れる必要がある。しかも、人々の意識、価値観、政治、法律等、国内と一致していないことを配慮する必要がある。

  企業の社会的責任は、企業倫理の自己抑制や利他主義の考えを具体的に社会の中へ実現していくことである。このためには、企業を地域社会の立場から見る必要があり、雇用機会の増大や地方税の納税等のプラス面と公害発生や地場産業の衰退等のマイナス面の効果を考慮すべきである。消費者に対しては、社会経済全体にマイナスの貢献がない限り、良好な製品やサービスを安価に豊富に供給すべきである。地球環境に対しては人類や自然系の存続を脅かさないような配慮が必要である。

7.経営学研究の方法論
  経営学研究の仮説検証は繰り返し行なうことが大切である。経営目標に新製品開発を重視する企業は、企業外環境が変化しても常に業績がよい。また、高成長期には社長中心の意思決定をする企業の業績が良く、低成長期には役員の意見中心に意思決定する企業の業績が良くなる傾向がある。



8.企業家精神と経営戦略(企業家理論)

 伝統的企業理論(新古典派経済学の企業理論)
 ・伝統的企業理論は、企業の利潤最大化を目的にとり、生産物需要関数、生産要素供給関数、生産関数を企業に与えられていると考え、異なる市場構造の下での企業行動を短期と長期に区別して静学的に捉えている。

 ・基本モデル(自由市場経済の条件に基づく5つの仮定)
  @各企業は同質の製品を生産すると仮定
  A企業及び消費者は、関連する代替案について、完全な知識を所有すると仮定
  B企業は利潤を最大化して、消費者は効用を最大化すると仮定
  C買い手と売り手が多数存在して、独立に行動するという原子的競争の仮定
  Dすべての市場での参入・退出が自由であるとする仮定

 ・企業家や企業の行動は、伝統や慣習等の妨害を受けないと考え、完全合理的な行動をとり、利潤最大化目標を追求するものと位置付けられている。すなわち、市場と企業との関連を分析して、所与の条件下でインプットとアウトプットの差を最大にすることが効率的と考えられている。そして、資源の有効配分が直接的に価格機構に依存しており、完全競争の世界で有効に実現され、市場参加者は、すべて効用が最大化され、企業のすべてが効率的に生産活動を行なっていると考える。

 ・ロビンソンの不完全競争の理論
  多数の生産者の存在と輸送・商標・便宜・広告等による買手の選好により、不完全競争が存在して、価格理論が競争理論と独占理論との混合からなると考えた。

 ・チェンバレンの独占的競争の理論
  価格は独占的な力と競争的な力が結合して決定されると考え、独占要因として製品差別化(生産物分化)を考え、競争要因として代替財の提供を考慮して、現実の価格形成を分析する。

 ・伝統的企業理論は、自由市場経済を想定して、資源の有効配分を論じることが中心課題であり、モデルが単純化され、企業の組織の存在が無視される。つまり、企業と企業家を同一として捉え、企業家の意思決定活動が積極的な意義を持たずに、企業内での調整や戦略の形成についての考慮がなく、企業行動は市場価格機構への適応行動であり、自らの企業の利潤を最大化する行動をとるだけとしている。

 ライベンスタインの企業家理論
 ・企業家は、存在する経済的機会を使用して、効率的な生産活動に従事して、市場化されていない領域に対して、革新的な行為を行なう。つまり、新古典派経済学の企業理論は、厳密な均衡を仮定しており、企業家精神が入り込む余地がなく、経済理論の中に企業家精神の統合化が困難であるとした。そこで、緩やかな均衡という慣性領域の概念を考え、不完全競争市場が存在して、X非効率が働き、企業家の活動の余地があるとした。

 ・X効率理論
  組織構成員個人は、自らが職務選択の自由を持っているが、組織の他の個人との相互関係によって制約を受け、互いにコンフリクト(葛藤)を生じさせながら、組織の成員との協調関係を保ち、効用の増大が期待できないので、選択の変更をしないと判断される決定領域が存在する。この領域を慣性領域と呼び、慣性領域が存在する限り、収益的な経済活動のすべての機会が満たされることはないと考えた。つまり、不完全市場でのX非効率が存在するので、革新的な精神を持った人が、企業家的機会の存在を捉えることができるとした。

 ・日常的企業家精神と革新的企業家精神
  日常的企業家精神とは、十分に確立され明らかに定義された市場で操業し、生産関数が熟知している既存企業を経営するという活動の意味を持っている。革新的企業家精神とは、市場が確立されていても、定義されていない事業を創造するのに必要な活動及び生産関数の適切な部分が完全に知られていない事業を創造する活動を意味する。

 カーズナーの企業家理論
 ・支配的価格理論への批判
  新古典派経済学の企業理論は、支配的な価格理論が強調され、市場理解のため重要な多数の他の要素が排除され考慮されていないとした。すなわち、伝統的企業理論は、市場参加者の活動が売買される商品や生産要素の量と質及び取引価格を選択することからなり、志向や技術的可能性や資源等の基礎データが与えられれば、すべてが計画されたように遂行される一組の活動が存在して、意思決定に一致した価格と数量の組合せが推測されるとしている。しかし、競争的市場プロセスは本質的に企業家的性格のものであり、市場過程は市場参加者の予想が楽観的であったり悲観的であったりして生じるので、その発見や決定の変更をすることが市場参加者の企業の企業家的機能であるとした。

 ・企業家的要素は、受動的・自動的及び機械的なものより、活動的・創造的及び人間的なものであり、人間行動を理解する上で重要な要素として、一般的に、経済活動にとって重要な経済化・極大化・効率基準等で、分析できない要素がすべての人間の行動の中に存在する。

 シュンペーターの企業家理論
 ・企業家とは、資本主義経済の発展に中心的な役割を担って、革新を遂行して、経済構造を内部から変革し、均衡を打破していくものと位置付けている。この時、革新とは、生産手段を従来と異なった用途に転用して、生産関数の形の変化をさすものであり、新組織形態や新市場の開発等が含まれる。つまり、要素を新しいやり方で結合することが革新であり、適応的結合は革新に含めずに、創造的結合のみを含むものが革新とされ、積極的・闘争的な要素が組み込まれ、創造的破壊の過程として特徴付けられる。そして、企業家は、新結合の遂行にあたり能動的要素となるような経済主体であると定義され、個人が行う職能を意味しており、一般に永続する状態でないとされている。

 ・企業家職能
  シュンペーターの企業家理論は、19世紀的資本主義の段階の理論であり、完全競争が現実に存在せずに、資本主義の本質が静態的でなく動態的であり創造的破壊の過程であるとしている。したがって、新製品・新技術等の革新的競争が重要となるので、市場支配力を持つ大企業が現実に遂行すると考えている。この結果、企業が大規模化して、企業結合や企業経営に科学的処理方法が用いられ、経済の進歩の過程が自動機械化して、発展の原動力となる企業家職能が重要性を失うと考えた。

 コールの企業家職能の概念
 ・コールは、企業家の研究が近代的経済発展の中心的主体を研究することであり、経済学の中心的存在であると主張した。

 ・企業家職能は、経済的財貨及び用役の生産と配分とを目的とする利益志向的企業を創始あるいは拡大しようとして、個人又は共同する個人の手段が営む合目的活動であるとされる。そして、企業家的活動の根本的な機能は、ビジネスの意思決定の媒介として遂行される革新に要約され、革新的なビジネスマンの意思決定活動であるとしている。

 ・企業家職能の研究と経営管理の研究の区別
  企業家職能では経営の諸手法や諸制度の経済的・社会的な定義に関心があるが、経営管理ではその手段的性質にも注意を向ける必要がある。また、経営学者はビジネスマンの性質を所与のものとして捉えるが、企業家職能の研究者は国・文化・時代によってビジネスマンが異なった性格を持つと考える。

 ・企業家的意思決定と日常的意思決定
  企業内の意思決定は分散化していると同時に集中していると捉えられる。つまり、意思決定に多くの人々が参加し、様々なタイプの意思決定が組織全体に分散して委譲されている。一方、企業の主要政策の意思決定は、トップマネジメントに集中しており、調整的側面を持ちつつ、何らかの矛盾が生じた場合、最終的な権限の源泉として、すべての意思決定に対して優越の効力が存在して、企業体の創始・維持・拡大のための企業家的意思決定となる。

 フラハティの企業家活動
 ・企業家活動の内容
  変化先取経営:@変革の触媒(企業家活動)、A変革のエンジン(技術革新と社会革新)、B変革の燃料(知識)
  企業家の課題:@経営資源の転換(生産性の向上)、A経営資源の活用(リスク負担と機会の最大化)
  企業家活動の鈍化要因:@所有者志向の強調、A活動範囲の制約、B考慮対象期間の限定、C将来費用と期待便宜の無視、D企業に対する社会の反感の創造、E利潤動機に対する誤った強調

 ・企業家的な過程と組織化
  環境変化は自動的に自己管理しないので、企業が変化先取経営をする必要があり、企業家活動による指導が重要である。例えば、歴史的な会社の起源には、@中世の変化、A商人の変化、B市場の変化、C経営者の変化、D多国籍化の形態がある。

  市場経済の競争社会では、人々が平等化の拡大、生活水準の向上、生活の質の改善を熱望して、社会変化の完了しない未完成の社会が持続する。この時、企業の意思決定は、環境変化と連続性を相互連絡する認識として、伝統的次元、過渡的次元、変換的次元の軸を巡回すると考えられる。

  伝統的事業(現状肯定):変化先取経営の出発点、連続性原理による業務精通と事業成功の自己満足が経営の傲慢さを生む。
  過渡的事業(現状変革):新しい機会への集中、不確実性の処理(統計的な予測、未来学、環境理解と仮説設定、企業機会と進路決定)
  変換的事業(現状否定):情報不足の容認、意図的な計画化、将来の事業は何か

  経営戦略の手法:強みと弱み、機会と脅威、取引分析、ライフサイクル分析、市場細分化、財務計画、組織行動と動機付け
  企業家的経営者の役割:経営者能力と知識作業、経営風土、行動主義、時間要因、情報システム、効率化、貢献、集中、実践、献身

 グレイナーの企業成長プロセス
 ・組織の年齢、組織の規模、進化の段階、革命の段階、産業の成長率が組織発展の重要次元として位置付けられている。特に、組織の年齢と組織の規模が進化と革命の5段階を特徴付けている。
  @第一段階:創立期であり、創造性による成長がある。組織化の段階を指揮して、リーダーシップの危機を乗り越えて第二段階の成長期に入る。
  A第二段階:成長期であり、職能的な分業の組織化がなされ、指示による成長がみられ、組織の危機(自主の危機)を乗り越え第三段階に入る。
  B第三段階:大きな権限が管理者に与えられ、権限委譲による成長がある。トップ・マネジメントが多様化し、統率の危機を乗り越え第四段階に入る。
  C第四段階:進化期であり、分権化されて統合化により評価が厳密になり、調整による成長がみられ、形式偏重主義の危機を乗り越え第四段階に入る。
  D第五段階:強い個人相互間の協働と協調による成長がみられ、チームを通じてのマネジメント活動の自発性と熟練した解決が強調される。

 ・グレイナーは、組織構造に大きな順応性がなく、企業が発展段階の危機を乗り越えて成長するにつれ、組織構造が権限から分権化かつ参加的な方向へ移行すると主張した。しかし、日本企業の組織構造は、成長期や安定期には事業部制、危機的環境のもとでは職能別組織が採用され、攻めの経営が要請されれば機動性のある組織対応、守りの経営が要請されれば全社的対応をとる傾向があり、環境適応による弾力的な柔構造を持っている。

 チャンドラーの命題
 ・市場機会が企業の戦略を決定し、それが企業の組織構造を決定する。企業における意思決定は、戦略的決定(企業家的決定)と戦術的決定(管理者的決定)があり、企業体の基本的な目的を決定して、諸目的を達成するために必要な行動様式を選択し、諸資源を割り当てることが戦略的決定であり、業務を円滑かつ能率的に運営するための日常的な管理活動が戦術的決定である。

 環境変化と経営戦略
 ・企業の経営戦略に関する議論は、アンゾフの製品と市場の概念に基づく市場浸透・市場開拓・製品開発・多角化の成長ベクトルの考え方、市場の成長率と占有率によるPPMマトリックス分析、資源と環境の影響を考慮したSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析、柔軟な企業の組織的な対応能力を中心的論点とする理論、市場構造→市場行動→市場成果という産業組織のパラダイムを応用したポーターの競争戦略等が展開されている。

  @環境要因:市場的要因、技術的要因、社会的要因、政治的要因、国際的要因
  A経営戦略:新製品開発、シェア拡大、原価低減、多角化と事業転換、海外展開
  B多角化の方向:関連技術、周辺技術、非関連技術
  C研究開発戦略:基礎研究、応用研究、開発研究
  D新製品開発のタイプ:独自開発、共同開発、技術提携

 ・ピーターズによれば、環境変化の主要因は、一般的不確実性、技術革命、新たな競争相手、変化する消費者の志向等である。この結果、市場の細分化、高品質化、選択の多様化、複雑性等の現象をもたらし、これらに対処した勝利企業には、ニッチ志向、平坦組織、顧客対応の迅速化、品質意識、国際化志向がみられる。

 ・日本企業のトップ・マネジメントの意思決定パターンは、社長中心型、役員の意見参考型、役員の意見中心型に分けられるが、役員の意見参考型が最も多く、企業の業績との関連をみると、社長中心型の企業業績が最も優れている。つまり、激しい環境変化に対しては、より迅速な判断・決定・対応が必要であり、革新的・創造的なリーダーシップの発揮が、組織構成員への指示・徹底につながり、組織の活性化をもたらし、組織や文化の変革を実現して、企業業績に貢献すると考えられる。

 ・フォスターのS曲線
  競争のダイナミックスを理解するには、S曲線と攻撃側有利の原則と技術の断絶の事柄を知る必要がある。S曲線とは、ある製品もしくは製法を改良するために投じた費用と、その投資がもたらす成果との関係を示すグラフが、S字型曲線を描くことにある。つまり、資金投入当初は成果が上がらずに、開発を前進させ情報が収集されるようになると制約が無くなって急速な進展がみられ、やがて資金を投入しても技術の進歩の実現が困難になることを示している。すなわち、技術の進歩は、幼年期に開発が遅々として進まずに、情報収集により制約が取り払われ爆発的に急進し、成熟とともにゆるやかになる。この時、S曲線は技術の限界を示しており、やがて技術の不連続が起こって、古いS曲線と異なる新しいS曲線が成長する。例えば、真空管から半導体へ、プロペラ機からジェット機へ、天然繊維から合成繊維への転換等が象徴される。

 ・競争優位を確立するための研究開発と組織戦略
  戦略構築のために必要な企業の強みとして、伝統・知名度・ブランド、製品の特性や成長性、研究開発力、安定した販売先や納入先等が上げられる。つまり、企業の成長にとって、製品差別化の要因を企業の強みとして構築することが重要である。
  そして、企業の競争優位を確保するためには、研究開発と組織運営が重要であり、消費者やユーザーのニーズをトップ・マネジメントが的確に把握して、短期と長期の研究開発活動を推進する必要がある。研究開発の円滑化と効率的戦略の展開のための組織要因は、イニシアティブをとる部門の存在、営業や技術や研究開発部門の協力等が問題になり、人材の適正な評価と権限委譲の関係から、上司が厳しくチェック、上司が大枠を示し部下が自由に活動、上司と部下の相談により進める方式、下からの発案を重視する等によってコントロールされる。

 ・経営戦略の形成
  戦略形成の最初は、的確な環境把握であり、産業と消費者の関係の変化、生産技術の変化、産業構造の変化、市場構造の変化、競争圧力等から、多くの機会を引き出すことにある。このために、進化可能で創造的な組織活動が必要であり、組織共通の価値を組織全体に明らかにして、企業の進むべき方向を明確にする必要がある。つまり、環境変化の脅威から機会を見出し、経営戦略実行の場である組織の創造的活動や研究開発活動が前提になる。

 トップマネジメント・イノベーション・企業家精神
 ・トップマネジメントは、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用することである。そして、この立場の人は、企業家精神を真に発揮できる立場にいる人であり、経営戦略の形成、組織の活性化、業績の向上の役割を担っている。つまり、トップマネジメントは、意識してイノベーションを求め、企業家的役割を持ち、組織して管理することが必要である。このために、研究開発体制の整備・充実と機動的な組織の構築が重要になり、企業内での協力体制が円滑に成し遂げられるような組織風土や企業文化を存続させなければならない。また、企業家精神に富んだトップマネジメントは、企業の進むべき方向と目標を組織の構成員に徹底させ、共通の認識と価値を明確にして、組織改革をスムーズに進めなければならない。

 ・企業家は、イノベーションを担う人であり、リスクを冒す行動につながる。企業家精神とは、企業家の行動様式と捉えることができ、高い達成意欲を持つ人が、意思決定のもたらす結果を認識して、決断力を発揮し、斬新な手段で活動する行動様式とされる。つまり、変化を健全かつ当然のことと考え、論理的かつ構想的な能力をもってあらわされる。

 ・イノベーションの機会
  @予期せざるものの存在(予期せざる成功と失敗及び外部の変化)
  A調和せざるものの存在(あるべき姿と現実の姿の乖離、需要、通念、価値観等)
  Bプロセス上のニーズの存在(イノベーションの源泉としてのニーズ)
  C産業や市場の構造変化(成長と対応及び技術の合体等、内外の脅威と機会)
  D人口構成の変化(年齢構成・性別構成・雇用状況、教育水準、所得階層等)
  E認識の変化(タイミングが重要)
  F新しい知識の獲得(リード・タイム長期間、知識の合体、要素分析、リスク)

 ・企業家的戦略
  @総力をもって攻撃すること
   ・大成功しなければ完全な失敗(成功か失敗しかない)
   ・危険性の高い戦略

  A手薄なところを攻撃すること
   ・創造的模倣の戦略(後発メーカーが市場や産業を支配、機敏・柔軟・即応)
   ・市場志向及び市場追従の戦略(企業家的柔道、競合他社の弱点を攻撃)
  B生態学的地位を確保すること    ・トールゲート(道路料金所)戦略(市場限定、リスク大)
   ・専門技術戦略(体系的機会探索、特殊性と技術向上、視野狭く市場依存大)
   ・専門市場戦略(動向・産業・市場の体系的分析、イノベーション、サービス)
  C製品や市場の性格を変えること(顧客の創造)
   ・効用創造戦略(顧客ニーズ満足の追求)
   ・価格設定戦略(顧客価値に基づくコスト低減)
   ・顧客適合戦略(顧客の社会的・経済的現実への適応)
   ・価値中心戦略(顧客にとって価値あるものの提供)

 (参考資料)
 (1) Richard N.Foster,「Innovation−The Attacker’s Advantage−」,1986.
  (大前研一訳、「イノベーション−限界突破の経営戦略−」、TBSブリタニカ、1987.)

 (2) Peter F.Drucker,「Innovation and Entrepreneurship」,1985.
  (小林宏治監訳、上田惇生、佐々木実智男訳、「イノベーションと企業家精神−実践と原理−」、ダイヤモンド社、1985.)

 (3) John E.Flaherty,「Managing Change」,1979.
  (中村元一、大河内信司訳、「企業家精神と経営戦略」、日本能率協会、1980.)

 (4) 十川広国著、「企業家精神と経営戦略」、森山書店、1991.

 (5) H.Leibenstein,「A Branch of Economics is Missing : Micro−Micro Theory」,1979.
  (東洋経済編集部訳、「経済学のフロンティヤ:ミクロ・ミクロ理論の提唱」、東洋経済臨時増刊、No.52,pp.163,1980.)

 (6) H.Leibenstein,「Allocative Efficiency vs “X−Efficiency”」,1976.
  (馬場正雄、岩崎 晃著、「独占・企業規模およびX−非効率:新しい競争のために」、東洋経済臨時増刊、pp.6−18,1974.)

 (7) Israel M.Kirzner,「Competition and Entrepreneuership」,1973.
  (田島義博訳、「競争と企業家精神−ベンチャーの経済理論−」、千倉書房、1985.)

 (8) Arthur H.Cole,「Business Enterprise in its Social Setting」,1959.
  (中川敬一郎訳、「経営と社会−企業者史学序説−」、ダイヤモンド社、1965.)

 CALSの変遷
 1.1985年:Computer Aided Logistic Support
      (コンピュータによる後方支援:軍の後方支援、ペーパーレス化)

 2.1988年:Computer−aided Acquisition and Logistic Support
      (コンピュータによる調達と後方支援:装備品の調達プロセス)

 3.1993年:Continuous Acquisition and Life−cycle Support
      (ライフサイクルを考慮した一貫性のある調達:製造業の競争力強化)

 4.1994年:Commerce At Light Speed
      (光の速さでの商取引:世界の情報インフラ)

(文責:yut)

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