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会計の歴史的な変遷

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会計の歴史的な変遷

 会計は財産の増減をその原因別に金額で記録・分類・要約・解釈・伝達する技術であり、記録・分類の過程を簿記、要約・解釈・伝達の過程を会計報告(狭義の会計)とされている。そして、会計行為の本来の意味は、財産管理の受託者がその委託者に対して説明する行為であり、財産と損益に関する金銭価値の出納と計算及び原因と結果を対照させる実務的行為を通じ、受託者が委託者を納得させるとともに、利害関係者の意思決定のための情報提供にある。

 14〜15世紀頃、複式簿記がイタリアの商業都市で誕生した。その後、複式簿記の原理は、ハンザ都市やイギリス等へ伝播し、産業革命による大規模な企業の出現及び資本主義経済の発展によって、資本の発見と運用による利益獲得の概念を持ち、会計制度として確立していった。そこには財貨を介した人と人との関係があり、支配と被支配の関係がみられた。つまり、財貨を運用・管理する人がおり、その財貨の運用・管理を依頼する人がいる。さらに、財貨の運用・管理によって影響を受ける多くの人々が存在する。この時、財貨を運用・管理する人は、財貨を支配するだけでなく、財貨の運用・管理によって影響を受ける人を支配することになる。また、財貨を運用・管理する人は、それを依頼する人の支配を受けるが、同時に依頼する人に影響を与える。特に、企業や組織の持つ財貨の運用・管理は、広範な利害関係が存在し、その社会性が問題になり、社会的な責任が求められ、多くの社会的統制が加えられる。この場合、財貨の運用・管理に関する事実があり、その事実を財貨の運用・管理する人が認識し、表現して表示する方法が必要になる。すなわち、事実と表現や表示との対応関係を前提に、認識する人と事実を関連付ける認識と測定の規約や認識する人が表現して表示する伝達に関する規約が求められる。やがて、この規約は定石化され、会計原則、会計法規、会計基準、会計慣習等が生まれた。

 人と人との関係に基づく会計の背後には、人間への不信感が見られ、他人の財貨を運用・管理する人に対する疑惑が存在する。つまり、人を不信感と疑惑から解放させるために、財貨を運用・管理する人の会計記録と会計報告が人と人とを結びつけ、その会計報告が人々の意思決定の資料となる。歴史上の典型的な事例には、中世の英国でみられた王室の資金の出納を司る官吏に対する司法的監査がある。当時の英国は財務局が裁判所を兼ねていた。そして、出納官は、手元に王室の財貨を持っているという事実的な理由から、被告としての裁判を受け、自分の行なった出納に関して、法廷で説明して法廷を納得させ、無罪の判決を受けなければならなかった。すなわち、法廷において、徴収すべき金額や徴収した財貨の性質を記録によって証明し、出納官はそれ以外に受け取った財貨のすべてを法廷で開示しなければならなかった。さらに、徴収不能分に対する事実を証明して、その徴収義務がないことを立証しなければならなかった。また、正当な法律上の根拠に基づかない支出がなく、手元に資金を保留せずに、残金を王室へ返却したことを証明する必要があった。この会計報告は出納官が王室に対してなされたが、その後、王室の関係帳簿の監査が終了するまで交付金を認めないとの議会決議がなされ、王が王室の会計を議会に開示するに至った。

 会計は記録に基づき、スチュワードシップの報告、財産と運用の合理化、資本と利益の区分、投資家の意思決定資料として、経済社会を支えている。スチュワードシップは、財政や家事等の管理・支配を託された支配人又は家令の職や資格を意味しており、他人の財貨を運用・管理する人の心情的責任・業務遂行責任・説明責任・受裁責任が求められる。財産と運用の合理化は、目標の設定と明示、その調整と意思決定、評価や価値判断、代替案の選択等、貨幣と貨幣尺度に基づく合理的決定にある。そこには人間的感情の入り込む余地がなく、冷酷な数値の世界が存在する。資本と利益の区分は、経済社会の生産と消費の関係から、消費するものを生み出す手段を維持する必要があり、元手となる資本と消費可能な果実としての利益を分けることが要請される。特に、企業の場合、利潤の獲得を目的とし、長期間の企業の存続を前提に、一定期間の消費可能な利益計算が欠かせない。したがって、配当は利益からなされ、その損益計算のための決算手続として、資本と利益の区分が会計の基本となる。投資家の意思決定資料において、投資家は財貨を運用・管理する人の決定や行動によって影響を受ける人々の代表であり、企業に資金調達の会計が求められ、リスクの明示やその責任範囲と譲渡可能性等の制度化が必要になる。歴史的には、債権者保護のための会計制度がフランスやドイツで整備され、取引安全の視点から商法規定に真実性の原則や正規の簿記の原則が明文化された。また、投資家のための会計は、世界大恐慌を契機として、主に米国で確立され、会計目的としての期間損益計算及び取得原価計算主義等が定着化し、損益計算書や貸借対照表及び連結決算等の財務報告制度が整備された。経営管理者のための会計は、企業の財産を保全管理するという役割が簿記や会計の本源的機能とされ、企業利益を増大するための経営計画や経営統制に役立つ管理会計の手法を生み出した。さらに、企業の社会的な責任会計として、投資家・債権者・従業員・国家等に対し、情報開示に基づく会計報告制度や監査制度が導入された。

 企業の会計目的は、財産計算目的から損益計算目的へ、さらに情報提供目的へと変遷した。財産計算目的は、企業の所有主に帰属する純財産在高の算定を重視し、実地棚卸法(財産目録法)により、売却価値(換金価値)に基づく財産評価をして、財産目録が作成される。この場合、利益は期末純財産と期首純財産との差額として算定され、期中での所有主による追加出資や引出を考慮すると、「利益=期末純財産−期首純財産−期中追加出資+期中引出」で表示する。この方法は、利益の発生源泉を遡って把握せずに、結果的な純財産の増加高を利益として算定している。つまり、債権者保護思想に基づき、企業の債務返済能力を示す財産表示が重視され、企業の創業時や解散時や清算時等に、静態論的な静的貸借対照表として作成された。しかし、企業規模が拡大し、経営活動の長期継続性が求められると、一定期間の正確で比較可能な期間損益計算が重視されるようになった。株主や一般投資家の保護と収益力重視の傾向がみられ、日常の取引記録に基づき、収益と費用の差額を利益として算定し、利益を発生源泉に遡って把握することが可能になった。損益計算目的の場合、損益計算書と貸借対照表は日常の取引記録から誘導され、有機的な関連性をもって同時並行的に作成される。このため、期間損益計算と連結し、資産と収益が区別され、継続企業を前提とした企業の財政状態を表示する動態論的な動的貸借対照表が作成される。しかしながら、現代会計は、情報提供目的へ移行しており、会計情報の利用者が判断や意思決定できるように、経済的情報を識別し、測定し、伝達するプロセスと考えられている。すなわち、企業を取り巻く各種の利害関係者が拡大し、所有主(株主)や一般投資家の債権者だけでなく、従業員、消費者、地域住民、国家や徴税当局等へ環境変化を考慮した企業の実態を明らかにする会計情報の提供が求められる。この場合、会計の基本目的は、有限資源の利用に関する意思決定をすること、組織の人的及び物的資源について有効な指揮・統制をすること、資源の管理保全を維持継続してその報告をすること、社会的な機能及び統制を円滑ならしめることにある。ASOBAT(アメリカ会計学会の基礎的会計理論の表明:1966年)によれば、会計情報の有用性を具備するためには、目的適合性・検証可能性・不偏性・計量可能性を会計情報基準とし、期待される用途に対する適合性、重要な関係の明示、環境情報の包含、会計処理の一貫性、実務の期間的一貫性を伝達指針としている。

 結果的に、企業会計は財務会計と管理会計に区別される。財務会計は、企業に生起した経済的事実を会計的に記録計算し、会計報告書に表示して各種利害関係者への伝達を目的とする。一方、管理会計は、企業の経営管理層の意思決定や計画設定及び業績管理や組織統制に役立つ会計情報の提供を目的とする。特に、財務会計は、法令や慣習の影響を受け、制度会計としての企業会計原則及び商法や税法や証券法等の制約を受ける。制度会計は、損益計算目的を中心としつつ、情報提供目的も考慮して、情報開示や補足的情報の表示が義務付けられる。そして、企業会計を支える理論的な仕組と構造は、企業会計の基本的な前提条件としての会計公準、企業会計の行為規範又は行為基準としての会計原則、具体的な会計方法としての会計手続からなる。会計公準は、会計の理論や実務の基礎となる前提条件であり、企業という経済主体が出資者から独立して存在する会計単位であること、企業活動が永遠に継続するものであること、企業の経済活動の期間的な把握を貨幣額の尺度で測定することが仮定される。このことから、企業実体の公準(会計主体の公準)として、企業の資産・負債・資本が識別され「企業資産=企業負債+企業資本」の等式が成立し、会計期間の公準(継続企業の公準)や貨幣的評価の公準が前提にされる。会計原則は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準であり、企業会計の指導的規範として、一般原則(真実性の原則、正規の簿記の原則、資本と利益の区別の原則、明瞭性の原則、継続性の原則、保守主義の原則、単一性の原則)・損益計算書原則・貸借対照表原則からなる。具体的な会計方法としての会計手続は、企業の場合、原価計算や簿記会計及び税務会計等があり、総合原価計算や個別原価計算、複式簿記と帳簿体系、商法や税法や証券取引法に基づく会計手続、制度会計としての監査制度等の規約に基づいて実施される。

 会計の機能は、資本運動についての管理・統制機能と公表機能があり、特に会計の公表機能が重視される。企業会計の場合、減価償却費や引当金や棚卸資産の評価等の過大計上によって、政策的・恣意的なものとなり、実態から離れた虚構性を持つことがある。また、人と人との利害が対立する場合、利益を分配し「財貨を運用・管理する人」をコントロールすることが大切であり、そのための会計報告がなければ、その協力関係の成立が困難になる。しかしながら、会計報告書は無味乾燥な会計数値の羅列である。そして、その会計数値は、人を喜ばせ、人を嘆かせ、人を苦しめ、人を動かしている。企業においては、繁栄にも導くが、破綻にも追い込み、会計数値が市場社会での交換に干渉し、賃金・報酬・利子率・取引価格等に影響を与え、資金の流れや財・サービス等の経済的関係を決定付けている。この会計数値の持つ影響力と指標性は、会計基準や会計方法に依存するが、継続性の原則を前提にしつつも会計方法の弾力性が認められ、その実体的な裁量行動が「財貨を運用・管理する人」に任されている。このことは実質的な資源配分と富の分配に関係し、市場を動かし、価格に影響を与え、競争の在り方を変え、経済活動に対して、非効率的な資源利用に導く可能性がある。一方、会計方法の裁量性をすべて会計基準によって拘束し、会計報告の在り方を変更すると、どのようにするにしても資源配分や富の分配に影響がでる。どのような会計の在り方が望ましく、普遍的な会計方法が存在するかは、会計の機能や報告の機能を精密に分析し、会計情報の持つ影響力をひとつひとつ正確に突き止めて解明しなければならないのである。

 (参考文献)
 (1) 友岡 賛著、「歴史にふれる会計学」、有斐閣(有斐閣アルマ)、1996.
 (2) 熊野実夫著、「企業会計入門」、中央経済社、1987.
 (3) 太田哲三、飯野利夫著、「会計学(二訂版)」、千倉書房、1995.
 (4) 郡司 健著、「最新財務諸表会計」、中央経済社、1994.

(文責:yut)

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