企業の製品戦略と組織

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企業の製品戦略と組織

 企業の戦略的なマネジメントプロセスの基本は、企業理念と企業目的およびその目標を明確にすることから始まる。その上で企業目的達成のための基本構想が検討される。そして、企業の成長戦略に基づく、方向性の選択と資源配分の決定がなされ、事業多角化の内容や構成SBU(戦略的ビジネスユニット)を確定する。すなわち、事業のポートフォリオ計画が策定されるのである。事業戦略の策定プロセスは、一般にPPM(Product Portfolio Management)マトリックスなる手法を用いて、市場の魅力度分析がなされる。これは個々の事業に対する資源の必要度や貢献度の情報を正確に把握し、事業間の相対比較と企業全体の統一的な視点からの判断を容易にするために生まれた手法である。その枠組みは事業の魅力度を市場成長率で示し、事業の強み(競争力)を市場占有率で捉える。これを縦軸に市場成長率、横軸に市場占有率で表し、各事業の位置をプロットして、企業全体の中での比重(売上比率等)が円の大きさで示される。このようにして、事業環境や経営資源の分析がなされ、あるべき姿や他社とのギャップ分析が行われる。そこでは資源の強みと弱み、環境の機会と脅威が分析され、事業領域が確立される。この結果、戦略案の作成・評価・選択が可能になり、現製品による現市場への市場浸透や新市場への市場開拓、あるいは新製品による製品開発又は多角化経営が方向付けられる。この場合、市場浸透はシェア拡大であり、競争戦略によるコスト競争や品質競争が展開される。市場開拓は新市場創造であり、応用力戦略に基づくマーケティング力を重視する。製品開発は現市場への新技術・新製品の投入であり、ハイテク戦略による技術力が鍵を握ることになる。多角化経営は市場成長を期待して、先行投資戦略がなされ、先見性と投資力が手段となる。

戦略は「組織としての活動の長期的な基本設計図を市場環境とのかかわり方を中心に描いた構想」である 。つまり、市場環境(特に製品市場と技術)との関係に対して、長期的な展望を与え、人間の集団たる組織の活性化させ、現実的な行動に直結する企業の意志を明確にしたものである。そこでは市場において、競争相手との戦いに対する基本方針たる競争の戦略が展開される。その基本となるのは、原価低減、製品差別化、資源の集中であり、企業収益に影響する競争要因として、競争業者間との敵対関係があり、新規参入業者による脅威、代替製品やサービスによる脅威、顧客との関係では買い手の交渉力、供給業者との間では売り手の交渉力がある。すなわち、戦略は予想される需要に経営資源を配分する計画であり、組織は企業の既存の経営資源を現在の需要に合わせる仕組みとなり、組織構造は戦略に従うとされる。そこでは組織における意思決定プロセスが成功の鍵を握っており、製品と市場戦略を構成する意思決定フローに基づき、組織目的、組織期待、組織選択、組織統制が求められる。

 一方、事業は新製品開発を源泉として、事業計画や生産計画に基づく、受注・生産・販売の一連の活動が要求される。製品戦略は、技術と市場から考えられ、現状維持、製品拡大、製品革新、製品撤退のいずれかが選択される。現状維持は現有技術で現有市場へ販売する安定化戦略である。製品拡大は技術か市場のどちらかを新しくする。このために品質改良や機能向上および原価低減等を伴うマーケティング力が求められる。製品革新は新技術を新市場へ販売する製品の多角化戦略である。この場合、単純な多角化だけでなく、事業の再構築を伴うこともある。製品撤退は現有技術が陳腐化したり現有市場が停滞した場合の衰退製品に求められる戦略である。これは事業革新のために求められる基本的に不可欠な戦略である。製品ライフサイクルを考えれば、新製品、成長製品、安定製品、衰退製品からなるが、製品戦略との一義的な関係は無いとされている。すなわち、それぞれの製品がPPM分析により、どのように位置付けられ、全体からみた製品ミックスの最適化が求められる。一般的に、市場成長率が高く市場占有率の高い製品は、花形製品と呼び、最も望ましい製品とされる。市場成長率が高く市場占有率の低い製品は問題児とされる。また、市場成長率が低く市場占有率の高い製品は金のなる木と呼ばれる。そして、問題児と金のなる木は花形製品になる努力が求められる。市場成長率と市場占有率の低い製品は負け犬とされ撤退が主張される。企業の新製品開発活動を考えると、基礎研究・応用研究・実用化研究なる研究開発が新製品開発に結び付き、進歩技術としての修得技術・経験・改良技術、新規技術としての新技術・新製品・技術導入が求められる。新製品は信頼性評価と品質改善を伴って製品となるが、商品として販売するためには、企業利益の追求に基づく生産管理活動が不可欠である。そこには企業経営における人・物・金(これに情報と時間が付与されることもある)が資本の循環過程に投入され、健全経営と最大利益の飽くなき追求がなされる。

 企業内部組織の活性化とは、組織構成員間のコミュニケーションがよく、一人一人が意欲的に活動し、挑戦的なやる気をみなぎらせている状態の持続にある。その最も有効的な手段は、積極的な製品戦略の展開であり、組織活性化の方策を交互に作用させることにある。つまり、局所的な好環境による人々の創造性の発揮が企業成長の核となり、発想の転換と新製品開発を促し、人々の能力開発とやる気が組織の活性化と新製品・新事業を活発化させ、さらなる企業成長を促進させる。そして、主力製品が産業構造の環境変化に適合し、企業成長が順調な場合、積極的な新製品開発と安定製品の原価低減が要請される。このような場合、技術面での研究開発と市場面での販売促進の強化がなされ、挑戦意欲の向上を目的に、プロジェクトチームの設置、製品別・地域別の組織改変、中間管理職の意識改革、人事評価制度の改革等、組織の活性化方策が推進される。主力製品は産業構造の環境変化に適合しているが、企業の成長が停滞している場合、企業内に官僚制ができ、従来型の大量生産方式や技術至上主義が存在し、市場軽視の傾向が生まれ、新しいニーズに対応できなくなっている。このような場合、改良製品の投入と安定製品の原価低減を伴う販売強化の戦略が求められ、従業員全員の危機感醸成、経営理念や経営目標の明確化、経営者の率先した行動と現場とのコミュニケーション等、従業員の意識改革を狙った一連の方策が必要となる。主力製品は産業構造の環境変化に適合せずに、企業の成長が停滞している場合、新しい事業開発や多角化と同時に安定製品の大幅な原価低減等、積極的な戦略展開が急務である。つまり、既存の主力製品からの収益確保と事業の再構築(リストラクチュアリング)が求められる。この場合、従来組織のスリム化と同時に、スペシャリストやエキスパートの育成、従業員の能力開発、新規事業部門の設置等の方策がとられ、知識の深化による対応力向上が組織活性化の手段になる。

 製品戦略と企業内部組織の活性化との関係は、主力製品が産業の構造的な環境変化に適応しているかどうか、企業成長が順調かどうか、つまり環境変化と企業の製品戦略によって、その方策や考え方が異なる。すなわち、環境変化に適応し、企業成長が順調ならば、さらなる挑戦意欲の向上が求められる。環境変化に適応しているが、企業成長が順調でなれけば、従業員の意識改革が重要である。環境変化に適応せずに、企業成長が停滞しているならば、知識の深化が組織に課せられるといえる。挑戦意欲の向上については、分権化や組織のフラット化(階層の少ない簡素化された組織)等による組織制度の改革、減点方式から加点方式への業績評価、中間管理職の意識改革、年功主義から能力主義への移行等が有効とされる。従業員の意識改革については、従業員に危機意識を持たせ、経営理念と経営目標の明確化およびその浸透、経営者の現場歩きにより自らの哲学や考え方を教え込み同時に現場の心を掴み現場の情報に基づく行動し、あらゆる方法で従来と異なる新しい価値観と考え方による従業員の意識革命を実践する。知識の深化は、事業転換のための教育訓練とスペシャリストやエキスパートの育成および分社化や人心の一新等、各種の能力開発による組織活性化、優秀な人材補充による環境適応、新規事業部門の設置等、事業の再構築と新分野へ積極的進出するための社内蓄積が重視される。

 組織は分業とその調整の枠組みであり、その構成員が何をなすべきかの大筋を決め、同時にその仕事に対する動機付けが重要となる 。そして、人それぞれの夢・願望・欲を叶えつつ、不確実な環境に適応して、企業の繁栄を持続させなければならない。企業内部組織の活性化は製品戦略と密接に関係し、企業風土・雰囲気・組織文化なるものを形成する。そこで最も影響力を持っているのは、経営者の考え方や哲学および言動である。また、人の配置と育成、さらに組織の長にはリーダーシップが求められる。組織の本質は協働にあり、行動と学習が重要な意味を持ち、組織活動の成果となって企業業績を左右する。すなわち、行動は現在の協働の成果を決定し、学習は将来の協働のポテンシャルを決める。そこでは行動と学習の背後に一人一人の意思決定と努力(心理的エネルギー)があり、個人の目的、個人の持つ情報や知識、個人の認識と思考様式、さらに個人の個性と感情が関係する。つまり、組織は。個人の目的、情報、思考様式、感情に働きかけ、協働の条件を創り出すために、枠組みの設定、その影響力、相互作用を生み出さなければならない。枠組みの設定は、組織の構成員の選定とグルーピングを行って、その組織目的を提示することである。影響力は、組織の行動と学習、その背後にある意思決定や努力、さらには個人の目的、情報、思考様式、感情が良い方向へ向うような影響を与え、行動を委任し、その行動が適切になされ、委任した相手に様々な影響を与える縦のプロセスである。相互作用は構成員間の横のプロセスであり、情報や目的の共有化を伴って、協働の行動をうまく形成して維持することにある。このため、組織構造は、集権と分権、分化と統合、調和とコンフリクト、戦略と効率という二律背反的な選択が求められる。現在、集権と分権はグローバル化経営と持株会社制および事業部制や分社化あるいはカンパニー制等によりそのバランスがとられている。分化と統合はコンティンジェンシー理論の研究成果が活かされ、環境に応じた最適な組織編成が存在するとされる。調和とコンフリクトは、調和が妥協に堕するのを防ぎ、コンフリクトを主張の強さと捉えて競争力の強化に転化させる工夫がなされている。最後に、戦略と効率の関係は、戦略を長期的な環境に対する考え方とし、効率を短期的な組織内部志向の考え方とされ、SBUの概念を導入して、効率志向の行き過ぎを是正するために、戦略志向の組織構造がとられている。そこでは短期的な予算統制としての過去の繰り返しを前提とする差異と統制の管理、中長期的には過去の傾向継続を前提とする成長の先取りと複雑さの管理、戦略的には断絶と新傾向を前提とする戦略的展開と能力の変化を区別して管理される。

 戦略的組織は市場原理に基づく競争を前提に、集権的な統制や指揮命令による戦略の実行と権限の委譲や自由な創意工夫に基づく組織の活性化を推進する。すなわち、戦略の実行と組織の有効性は企業価値増大の2大要素といえる 。つまり、戦略の実行を重視するとワンマン企業になり易く、組織の有効性を重視すると多国籍企業のように一体性の無い企業になる。また、戦略の実行と組織の有効性は、集権と分権という意味で相反するが、この2大要素をバランスよく機能させて、製品戦略と組織の活性化を結び付けることが成功企業への道といえる。

(参考資料)
1.伊丹敬之、加護野忠男著、ゼミナール経営学入門、日本経済新聞社、1989.
2.長島牧人著、戦略的組織のフレームワーク、日科技連出版社、1999.

(文責:yut)

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