倫理と論理および法律と経済

倫理と論理
法律と経済
社会的規範
企業倫理

倫理と論理および法律と経済

1.倫理の判断基準
倫理は人の行為や社会関係を支配する道徳です。
そこには善と悪および公正と不正の区別が存在します。
善と悪は一人一人がその判断基準を持ち、公正と不正は社会関係から判断基準が生じます。

善なる行為は人の意志により、人の意志の特性が性格です。
性格は主観的な意志に基づき、一貫した道徳的行動をとろうとする精神的態度を意味します。

また、倫理は規範であり、社会的に拘束すれば法となります。
法は社会的規範です。
社会的規範は、人間が社会的生活を営むための、規則・ルール・掟・定め・きまりです。
社会的規範を広義に捉えれば、道徳・倫理・宗教・習俗・習慣・風習・儀礼・流行等があります。

道徳的モラルは判断に基づく行為に対する意識や感覚の問題です。
その社会的な共通意識が常識となります。

倫理はすべての人の平等性を前提にしております。
正義の大原則は「すべての人であれば平等に、類似の事態は同一あるいは類似の扱いをすること」です。

しかし、人にはそれぞれ個性があります。
この世に同じ人は存在しません。
そして、全く同じ事象が繰り返されるわけではありません。

倫理に基づく道徳は、習慣や教育によって養われる選択能力です。
それは個人の道徳的価値体系によって形成されます。

同時に、すべての人は同じ生きる権利を持っています。
そして、より良い環境やより良い生活を求めます。
つまり、各自の生存に役立つ物事を求めることは善です。
すなわち、その善と悪の判断基準と善なる行為はすべての人によって異なるのです。


2.不平等問題について
経済的な人と人との不平等は市場経済の分業に起因します。
今日の社会において、分業には社会的分業と企業内分業があります。

そこに取引や契約が生まれ、歴史的および地域的に普遍的ルールが形成されます。
そして、市場経済が生まれ、分業に基づく交換と分配の仕組みが機能します。

経済の語源は経世済民にあり「世を治め、民を救う」意味を持っています。
そこには希少性の選択問題を論理的に解決する方策が求められ、経済的な価値に基づき、需要と供給の関係が見出されました。

また、人間の生活に必要な財物の生産と分配と消費に関する行為や社会的関係が問題にされます。

分業の概念は、人々の経済的な生活をより合理的にします。
そして、生活に必要な物資の生産性を飛躍的に向上させてきました。

一方、分業が不公正や人のねたみを生む要因になりました。
結果的に、有限な資源の配分が問題になり、各自に役立つ物事を求める善なる行為が殺し合いの争いや戦争を引き起こしたのです。

市場経済は、分業に基づき、各人が生産したものを相互に交換することで成立します。
そこでは、根源的に対等な人間が、分業により、それぞれの役割を受け持ち、その秩序や規則は強制的な支配や伝統的な慣習によって維持されるのです。


3.論理の存在
論理は、筋道や物事の法則的なつながりを明らかにし、正しい判断に達するための思考の考え方です。
代表的な論理には、帰納的論理と演繹的論理があります。

帰納的論理は個々の具体的な事象から一般的な命題や法則を導き出す方法です。
演繹的論理は普遍的な命題から特殊な命題を導き出す方法であり、一般的な理論を用いて特殊な課題を説明します。

経済的な倫理と論理を考える上で、大切なことは、
時間軸と空間軸を超えた普遍的な価値と規範の存在を求める努力、
国家の枠組みを超えた人と人とのネットワークの構築、
価値の一様化ではなく個性を認めて生かす工夫、
過去の集団的な慣習による価値観から未来に向けての集団的な価値観の形成、
この道筋を見出すことです。

それは個人の自己中心的な考え方やそれに基づく行動をある程度は自制し、分業に基づく必要な援助が相互に提供される仕組みが不可欠なのです。
それが欲得ずくの交換であっても、
社会的に一定の共有できる価値と評価に基づくものが求められます。
その普遍的な仕組みとして、市場経済社会が生まれたのです。


4.企業倫理
ここで企業に目を向けると、企業倫理は、個人の道徳的規範を営利企業の活動や目標に対してどのように適用するかです。
何が倫理的かを皆で決め、すべての利害関係者に受け入れられる内容でなければなりません。

それは人間同士の相互関係について、
あるべき姿で進められる規範や規律となり、
企業の成功条件として、
企業活動を支える社会全体が積極的に支持できるものでなければならないのです。

特に、市場経済では、正直な行為と期限を厳守するという徳性が重要になります。
それは商品の内容、品質や価格であり、納期を厳守する行為です。

企業倫理と企業のコンプライアンスを考えれば、
個人の倫理と組織の倫理がビジネスの倫理との共通領域になり、
法令の遵守や社会規範および社内規則を守ることです。

企業倫理はビジネスにおいての誠実性であり、
企業活動は社会に認められるものでなければなりません。

それが法人であれば、その存在は法に基づいており、
営利企業の利潤追求は法に従ってなされなければならないのです。

しかし、企業は自然人と異なり、
企業自体に意志はなく、
企業活動は組織の構成員の行為を通して行われます。

したがって、法に基づく企業活動はその組織の構成員である一人一人の行為の結果となるのです。
法は個人や企業が自己責任原則の下で自由な活動をするために不可欠なルールです。
法の機能により個人や企業の権利が守られているのです。

また、企業倫理は、
法の存在に対する選択、
法の枠組みを越えた経済的あるいは社会的な問題に対する選択、
自己の利益優先に関する選択等、
道徳的かつ倫理的な要素が含まれます。
この場合、
倫理的問題を認識する能力を持つこと、
悪い倫理を合理化しないこと、
顧客満足に基づく価値創造を心掛けること、
倫理的行動により自己の価値を高めること、
が求められます。

利益指向そのものに善悪はないが、
利益を得れば良いのではなく、
倫理的な行動によって利益が得られるという動機付けが重要です。

すなわち、企業倫理において、
自己利益の追求よりも、
顧客への奉仕と価値創造を重視する考え方が大切です。

したがって、善なる企業行動が求められ、 激変する市場、激しい競争、文化の多様化等の環境において、
組織の誠実さを構築し、その維持が重要なのです。

それは、正直さ、信頼感、公正さ、等の倫理的な理想の追求だけでなく、
自己管理、責任感、道徳的健全性、忠実原則、目的意識の明確性を含み、
他人に対する自己の行為の基準が問題になり、
権利や義務や責任等の倫理的概念に対する行為の選択が問われます。

企業倫理の典型は、
自己利益モデルにおける利益極大化の方法や法および慣習に基づく行動が対象になり、
少なくとも、独占禁止法、下請け法、消費者保護法、製造物責任法、刑法の業務上過失、民法の不法行為等
が倫理的選択の基準になります。

企業倫理に関する不祥事の事例としては、
利益供与、損失補填、不正取引、インサイダー取引、不良商品販売、談合、贈収賄、類似商品やデザイン侵害、薬害、企業情報の漏洩等 が代表されます。

贈収賄、談合、総会屋の悪用など、
反社会的な数多くの企業行動が問題になります。

すなわち、企業に求められるものとして、効率性、競争性、社会性、人間性があります。

効率性は、最小費用で最大効果を追求することであり、費用削減や生産性向上、利益の極大化を目指し売上増や利益増を重視する視点があります。

競争性は、他社との比較で優位性を確保することであり、商品やサービスのコストや品質およびデリバリーなどの競争となります。

社会性は、社会のルールを尊重し遵守すること、社会の発展に寄与すること、地球環境保護や社会貢献などが含まれます。

人間性は、企業の人間らしさの実現であり、従業員の雇用や処遇、安全衛生や職場環境の改善、身分や性や人種などによる差別の撤廃など、やる気を起こさせる福祉の充実が重要になります。


5.企業の存在
本来、企業は法的に人格権が与えられた社会の擬制的な構成員です。
自然人は自己の生命を維持できなればこの世に生存できないが、企業は社会に認められ利益を生み出せなければ社会的に存続できません。

企業は組織を持ち「組織の論理」によって運営されます。
組織は2人以上の人の集合体であり、企業は経済的機能を持つ共同体です。

人々が組織の一員として行動する場合、組織への服従と貢献によって、組織に認められ社会的な存在価値を獲得しようとします。
そこに、競争原理が働き、対立や抗争が生じます。

組織への服従と貢献は、個人が自分の意志で行動する自主性と異なり、何らかの外的調整に基づく統制に服することになります。

簡単なモデルを考えれば、組織の階層的な関係による上位の権威に服従することになり、服従することで金銭や昇進の報酬が与えられます。

この場合、上位の権威は組織を代表する代理的な性格が備わり組織を支配します。
組織を支配するには、利害関係による支配、権威による支配、合理的規則に基づく合法的支配等があります。

典型的な利害関係による支配は市場の独占的な支配です。
権威による支配は命令する権力に服従する義務によって成立します。

合理的規則に基づく合法的支配の典型は官僚制的な支配であり、法や規則に基づく権限によって個人が職務誠実義務を持ち合法的に支配されます。


6.企業の目的
企業の目的は、
人・物・金(情報・時間)の経営の3要素(5要素)を資本の循環過程に投入して、
健全経営による最大利益を得ることです。

株式や社債や借入金が資金となり、
設備や材料や人材へ投資され、
経費や管理費や販売費を使い商品やサービスに変換させ、
これを市場で売上げて債権化し債権を回収することで資金が得られます。

この資金は配当や利子や税金によって社会に還元されますが、
その一部は新たな投資を可能にします。

企業の宿命は「生産→販売→(信用の獲得)→受注→計画→生産」というサイクルにあり、
常に新商品や新サービスを提供し、
社会的な信用を獲得し続けなければ生き残れません。

企業の活力はこのサイクルのスピードであり、
商品やサービスの量と質であり、
サイクルを流れるパイプの太さと速さが重要です。

特に、企業は再生産可能な企業能力を持ち、
適正な利潤を確保し、
活動に関係する人々の生活を維持し、
その組織集団や社会と円滑な関係を保持する責務があります。

企業は自社の保有する経営資源を活用し、
その活動を安定に保つ努力が求められます。

このために、企業は経営資源を市場環境と対応させ、
有効に活用すべく戦略を策定し、
現実的な企業行動を論理的に展開しなければなりません。


7.企業経営とマネジメント
企業経営とマネジメントを考えた場合、
歴史的には、合理的な企業経営のための組織化とその管理運営にテイラーの科学的管理法があります。

これは分業化された生産現場の管理の計画化と標準化を目的とし、
計量可能な基本動作に基づき、
科学的にかつ合理的に課業の職務を規定します。

この方法は、非人格的であり人間的側面が軽視されていると指摘されましたが、
インダストリアル・エンジニアリング(IE)として、
その技術的側面が引き継がれました。

一方、企業組織内の効率性と人間性との関係は、
労働者の意識的怠業に関するホーソン工場の実験から始まり、
人間関係論や人間行動科学として理論化されました。

そして、リーダーシップやコミュニケーションとモチベーション、
集団内人間関係とモラール、
モラールと生産性の関係、
社会的コントロール等、
個人の社会的・心理的満足感が生産効率に深い関係があることが見出され、
企業内の組織管理に適用されました。

人間関係論と組織内人間の問題として、
マグレガーのX理論とY理論、
マズローの欲求段階説、
自己実現の概念、
ハーズバーグによるモチベーションの研究、
衛生理論による動機付けなど、
の成果が見られました。


8.企業のあり方
市場社会において、企業は、資本の集中化と組織の大規模化かつ複雑化が進みました。
そして、マネジメントと組織に関する実践的な合理性と効率性が求められました。

この時、組織の構造と機能は、目標・専門化・調整・権限・責任・明確化・対応・監督範囲・バランス・継続性等の組織構造の諸原則が重要です。
しかし、静的な組織構造には、組織活動の効率性や経済的な合理性の追求に限界があります。
したがって、計画化、組織化、命令、調整、統制の諸機能の動的プロセスが組み込まれます。

静的組織から動的組織へ「P→D→C→A」のサイクルを回し、
権限の委譲と分権制を導入し、
事業部制組織、マトリックス組織、プロジェクト組織、委員会組織等、多様な組織体系が展開されます。

同時に、マネジメント・プロセスに基づく機能面だけでなく、
意思決定、組織的行動、経営計画、目標管理等、多様化され体系化されます。

このような経営管理を全体的に捉えれば、作業の科学から管理の科学へ、そして経営の科学へ発展し、経営計画論、連邦的分権制、事業部制、プロジェクト管理、経営計画の策定プロセス、コンテンジェンシ・プランなどが展開されるのです。


9.情報技術との関係
情報技術の進展により、経済のグローバル化が進み、モノ・ヒト・カネ・情報・企業、さらには犯罪までもが容易に国境の壁を越える時代になってきました。

インターネットなどの開放系の情報システム、企業の多国籍化によるグローバルな活動、地球規模を一体化して捉えなければなりません。
この場合、企業は経営の比較優位に基づき、海外事業を利益確保の手段として展開されます。

しかし、同時に企業は世界市場の構成員となり、その世界秩序を持続的に維持する責任を負う必要があります。

つまり、世界市場の倫理基準に注意を向け、それに沿った行動をとる自主規制が重要になります。

また、企業の社会的な信用の基盤は、土地や設備などモノのストックではなく、流動的に利益を生み出すフローの概念が重視されるようになってきました。

市場経済において、企業の生き残りを賭け、合併や分割あるいは一部の資産売却や企業買収などが活発化します。
そこには「会社とは何か」「会社は誰のものか」「会社は何のために存在するのか」とい問い掛けが前提にあります。

単純に優良企業を安値で買収し、企業の存続価値を無視し、それを切り売りし、その配当による利益を確保するのが倫理的に正しいとは考えられません。

本来、企業や個人は、経済市場において、自己の利益と効用を最大化するために、最も合理的な選択に基づく経済的な行動をするとされます。


10.最後に
人の人たる道、民の平和と心の安定、法や規制などの外からの強制でなく、能動的な心のものさし、善を知る人の心、技術や利益より大切な人間の思想、人間を根底としない技術は意味をなさないのです。

ホンダの哲学、三つの喜び(買う喜び・売る喜び・創る喜び)を求める企業経営の精神は参考になります。

グローバル化が進み、個人情報保護など、企業の社会的責任の重要性を再認識しなければなりません。

企業の社会的責任は、一般的に、法令遵守、消費者保護、環境保護、労働、人権尊重、地域貢献など純粋に財務的な活動以外の分野において、企業が持続的な発展を目的として行う自主的取組」(経済産業省)と解されます。

企業は、社会の一員として、お客様、お取引先、株主・投資家の皆様、地域住民の皆様、従業員をはじめとする関係者(ステークホルダーズ)との良好な関係の構築・維持・向上に配慮して、法令の遵守、企業倫理に適合した事業活動の実践、環境保護、社会貢献等に取組んでいくことが求められます。

孫子の兵法「敵を知り己を知れば百戦危うからず」です。
自覚と独立自尊の精神が求められているのです。

(文責:yut)

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