商法改正の経緯(会社法の成立過程)

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商法改正の経緯(会社法の成立過程)

 日本の商法は商取引上の慣習法が民法に優先する。また、商法は、契約の締結・方式・内容の自由、営利目的を前提、迅速な対応、外観主義や公示主義、責任の厳格化等を基本原則とする。しかし、商法の実質的な意味は、企業に関する経済主体の私的利益を調整する法規制である。この点において、一般的な私人間の私的利益を調整する民法と区別される。

 明治以前に日本の企業は個人形態で営まれていた。日本が資本主義経済に移行すると、企業活動を法的に整備する必要が生じた。企業を擬制的に法人化し、企業活動に一定の制約を加え、会社法なる部分が明治26年(1893年)に施行された。その後、明治32年(1899年)に内容を整備した新商法典が施行され、現行商法典のベースが形成された。

 明治44年(1911年)に商法が大改正され、株式会社の取締役や監査役の民事責任が明確化され、刑事責任の規定が盛り込まれた。昭和15年(1940年)に施行された商法改正では、有限会社が認められ、企業の巨大化に伴う所有と支配の分離、それに伴う株主総会の権限の拡大と取締役の権限の制約及び民事と刑事の責任強化、金融面における転換株式や転換社債を認め、企業会計規定の改善等を行った。この時、近代的な株式会社の法的仕組みが完成した。

 第二次世界大戦後、昭和25年(1950年)の商法改正では、英米法の考え方が取り入れられた。資金調達を容易にする授権株式制度、一定枠内の新株発行や社債発行を取締役会の決定で可能とし、株主総会の権限が縮小された。そして、取締役会に業務執行の決定以外に代表取締役の職務を監督する権限が与えられた。同時に、株主に、取締役の責任を追及する代表訴訟提起権を認め、違法行為差止権や取締役解任請求権等を与えた。また、株式譲渡の絶対自由の原則や合併等に反対する株主に株式買取請求権等を認めた。

 昭和37年(1962年)の改正は企業会計の計算規定を改正した。昭和41年(1966年)の改正では、株式譲渡の絶対自由の原則を廃止し、記名株券譲渡の裏書廃止や株券不所持制度が採用された。倒産会社の粉飾決算を防止するため、昭和49年(1974年)の改正で、監査役の権限を強化した。昭和56年(1981年)の改正は、総会屋への利益供与を禁止し、株主総会での株主に対して取締役や監査役の説明請求権や提案権を認めた。また、単位株制度を導入し、会社間の株式の相互保有が規制され、子会社による親会社の株式保有を禁止した。

 株式会社の最低資本金制度は平成2年(1990年)の改正で設けられた。平成5年(1993年)の改正は、日米構造問題協議の米国要求に対応し、会計帳簿の閲覧請求、株主代表訴訟の活性化、社債法改正による金融の証券化を進展させた。平成6年(1994年)の改正は自己株式の取得規制を緩和した。平成9年(1997年)の改正では、ストック・オプション(株式取得権)の創設と自己株式消却手続の緩和及び会社合併を簡素化した。平成11年(1999年)の改正で株式交換制度を導入した。

 平成12年(2000年)は、会社分割の法制を創設し、電子認証制度が開始された。平成13年(2001年)の商法改正は、自社株取得の数量規制や取得目的制限を無くし、株式譲渡制限の廃止や新株発行規制の改正、種類株式の緩和や改正、会社関係書類の電子化を認め、株主代表訴訟を合理化し、役員の責任を軽減して監査役が強化された。平成14年(2002年)には、新株予約権を創設し、種類株式の自由化、株主総会の電子化を認めた。平成15年(2003年)には、企業統治を米国型に近付け、委員会等設置会社を認め、透明性が高く効率的かつ迅速な企業経営を可能にする。

 最近、商法が大幅にかつ頻繁に改正される背景には、IT革命によるビジネス環境の変化、企業間競争の激化と資本市場の拡大、会社法の役割に関する認識の変化等がある。しかし、商法改正の流れは、規制緩和にあり、できない事を可能にしたり、事前の手続要件を簡素化し、企業の資金の調達や返還および企業活動の活発化を促進することを狙いとする。例えば、NECでは2002年11月に半導体事業を分社化した。これは平成12年(2000年)に改正された商法の規定する分社型の新設分割によるものであり、営業を新規に設立される会社に包括承継させることを目的とする組織法的な行為である。同時に、規制緩和による商法改正は、企業倫理を外部から監視する企業統治の法的欠陥を修正することを必要とする。特に、近年の日本は、官僚やメインバンクや労働組合の力が弱まり、企業を監視する能力が無くなってきた。監査制度にも問題があり、委員会等を設置して、社外の目で会社を監視する仕組みが求められている。また、企業経営の選択肢を増やし、企業の自主性を認めることも重要である。

 社会経済環境が変化し、経済取引は国境を越え、グローバル化が進んでいる。企業の活動や組織は世界に共通する尺度が求められ、商法の改正も諸外国の動向を考慮した上でなされなければならない。それは従来の規制的な商法からの脱皮と事業の効率的な運営を認め柔軟な企業経営を可能にしつつ企業の社会的責任と倫理観を重視した法が必要になる。企業は人々の夢を実現する場であり続けられることが法に求められている。

(文責:yut)

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