次世代社会について

雇用形態
知識社会
企業経営
ビジネスモデル
グローバル化

次世代社会について

1.雇用形態の変化
 高齢者の増加と若年人口の急減が顕著になり、雇用形態が変化する。人口維持に必要な出生率2.2を下回ると、家族形成が減少し、中高年者中心の国内市場となる。また、外国人労働者や移民の受け入れが問題になり、国内市場が激変する。高年者の多くは誰もが70歳代半ばまで働かなくてはならなくなる。この場合、その多くはフルタイム労働でなく、契約ベースに基づき、非常勤、臨時、パートタイムで働くようになる。企業内で働く多くは、雇用関係を持たない人達となり、その人達をどのように管理するかが問われる。

 次世代社会は高度な知識社会となり、知識労働者が働き手の中核になる。しかし、農業や漁業などの一次産業、製造業を中心とする二次産業が皆無になるわけではない。相対的にその比率が極めて小さくなる。知識社会は知識が資金よりも容易に移動し易く、上下関係及び国境や地域間の境界が無い社会になる。教育の機会が人々により等しく与えられ、社会の上層部へ容易に移動できるようになるが、激しい競争社会になる。多くの人々は生産手段としての知識を容易に入手できるが、すべての人が競争社会で勝てるわけでなく、成功と失敗が並存する社会になる。情報技術(IT)が次世代社会に重大な影響を与える。知識は瞬時に伝えることができ、すべての人々の手に渡り、その伝達の容易さとスピードが地球規模の競争を要求する。すでに、インターネットは世界中のユーザーに対して、何をどこから、いくらで入手できるかを知らせてくれる。次世代の知識社会は知識を基盤とする経済であり、その経済社会の担い手は知識労働者が肉体労働者と取って代わる。農業社会から工業社会に変化した時、農産物の保護が主張され続けた。工業社会から知識社会に変化すれば、同様に製造業の保護が主張される。つまり、農業や工業の比率が相対的に小さくなると、その急激な変化が社会不安をもたらす。そして、域内では自由貿易を、域外に対しては保護貿易を顕著にする可能性がある。それは関税による保護ではなく、補助金や輸入割当など、様々な規制による保護主義となる。

2.企業のあり方
 従来の企業、特に製造業は、社員が企業に雇われ、企業が社員を必要とする以上に、社員が企業を必要とし、企業が生産手段の所有者であった。社員はフルタイムで働くものとされ、そこで得られる所得が生活の原資のすべてであった。企業の経営者は事業展開に必要なあらゆる活動を管理下に置いてすべてをマネジメントできる権限があるとされた。また、企業と市場との関係は、製品やサービスの供給(メーカー)側が主導権を持ち、需要(消費者)側はそのブラントを信頼して購入していた。あらゆる技術はそれぞれの産業に属し、それぞれの産業が特有のあらゆる技術を持つとされた。このため、各企業は企業内研究所を持ち、それらの研究所がそれぞれの産業のための技術開発に取り組み、その成果はそれぞれの産業が使うものとされた。このような考え方に変化が見られたのは1970年頃のことである。知識が生産手段になり、知識労働者の所有する知識が資本となった。フルタイム労働の正社員に代わり、パートタイム社員、臨時社員、契約社員などが多くなり、社員のアウトソーシング化が進み始めた。企業活動に必要な知識が高度化し、より専門的になり、すべてを企業内でマネジメントすることが困難になった。しかも、知識は常に変化し、使わなければ劣化する。必要な知識を必要に応じてその時々に取得していたのでは十分に仕事の成果を上げることができなくなってきた。この背景にIT革命があり、一般的なビジネス能力の拡大現象が無視できなくなったのである。大企業では人事や総務の間接業務のアウトソーシングにより、専門的な代行業務委託を積極的に取り入れた。

 需要の多様化が進み、企業が必要とする情報は、供給側から顧客側にシフトしてきた。すなわち、シーズ情報よりニーズ情報が重視され、情報を持つ者が力を持つ時代になった。市場は売り手から買い手に主導権が移行し、供給者たるメーカーは売り手ではなく消費者のための買い手にならなければならなくなった。このような背景からSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)が重要視されるようになった。さらに、いかなる産業や企業にも独自の技術が存在しなくなり、必要とする知識や技術は異質の分野から生まれるようになった。事業の発展は、企業の内部からでなく、他の組織や技術とのパートナーシップ、合弁や提携などによってもたらされるようになった。そして、いかなる製品やサービスも、その市場を独占することができなくなってきた。このことはコア・コンピタンスに代表されるように、最も得意な事業分野で企業を再定義することが必要になった。

企業のコンセプトが変化した。従来の企業モデルは所有権に基づく管理権限によって事業活動の統合がなされた。それが次第に所有重視ではなく、マネジメントの統合による企業連合体へ変身している。企業の分社化、関連企業の分離独立、保有株式の放出など、積極的に企業体の再構築がなされた。部品調達は世界中のどこからでもeコマース(VMIやロゼッタネットはその代表的な仕組み)などを活用して最も望ましい形で調達する。つまり、企業は、自社製品にこだわることなく、ユーザーのために最適な商品を提供する商人になろうとする。トヨタ生産方式の「かんばん」にもこれらの狙いが内在している。また、eコマースの発展は、世界中の消費者から直接注文を受け、近くのコンビニェンスストアで商品を引き取りにきてもらうか、宅配便で配達するシステムが構築されている。この方法は、商品を置く棚の場所を確保する必要がなく、売れ残りの商品を抱えるリスクも少なく、正当な利益を手にすることができる。この結果、ストックよりもフローが重視され、このことが企業収益に重要な影響を与えた。

3.ビジネスモデル
 新しいビジネスモデルは、商品と代金の相対的取引でなく、商品情報を顧客に提示し、インターネットで代金決済を済ませ、商品はメーカーから直接配送することも可能になった。つまり、商品という物を直接的に扱わずに取引可能な世界が生まれた。情報と対価の流れを見ると、顧客へ情報を提供して顧客からの支払いを受けるのでなく、情報の内容によりメーカーからの支払いを受けることも可能である。前者のビジネスモデルの典型は「アマゾン・ドット・コム」が実現した。後者のビジネスモデルの典型は「ヤフー」に見ることができる。インターネット内で逆オークションの仕組み(例えば、航空券を安く入手する方法)を実現したビジネスモデルは特許にもなった。メーカーの下請けは競合関係にある他社からも特定な自社の得意業務を引き受け始めた。メーカーは市場調査や開発設計から各種の製造工程を世界規模で組合せ、物流までも最も効率的なネットワークを組合せ、顧客へ商品を提供することが可能になった。カード会社は、銀行のためのカード事業を立ち上げ、マーケティングや請求業務を専門に行っている。この場合、銀行は資金を供給するだけである。中小企業は異業種間のシンジケート(世界規模の協同組合)のメンバーになり、それぞれの企業は独自性を維持し独自に製品を開発し、自社工場での生産および独自の市場を持って企業活動をする。しかし、世界規模の市場では、シンジケートのメンバーが所有する工場や現地の下請けで商品を生産して、シンジケートが商品の販売と流通を受け持ち、アフターサービスまで行う。この場合、シンジケートとメンバー企業は相互に株式などによって分担所有する。

4.グローバル化
 経済がグローバル化すると、グローバル企業が出現する。グローバル企業は、事業の論理に従って、世界規模で事業を展開する。所有による支配関係から、戦略に基づく企業の一体性が保たれるようになる。特に、海外に子会社を持つ多国籍企業はグローバル企業に変身し、地球規模のグローバル市場に対して、経営戦略、部品調達、生産、マーケティング、価格決定、財務、マネジメントをグローバルに展開する。しかし、販売、アフターサービス、広報、法務は現地で行うことになる。従来型の多国籍企業は、現地で販売する製品は現地で部品調達し、現地人を雇い現地で組立、自己完結型の事業展開をしていた。グローバル企業は現地の国の法律やルールに従うが、その技術や行動は国家の枠組みを超え、独立した存在として行動する。このため、いかなる国家や政府あるいは中央銀行の管理下にないグローバル・マネーが扱われるようになる。次世代社会はこのようなビジネスモデルを容易に可能にする。

企業や組織が市場経済社会で存続する場合、経済的側面を重視するか、社会的側面を重視するか、人的側面を重視するか、によってその対応が異なる。一般的に、アメリカは企業の株主主権に基づき経済的側面を重視した社会とされる。したがって、株主への短期的な見返りが企業に求められる。ドイツは組織の社会的側面を重視した社会であり、社会的な安定性に貢献する企業が求められる。日本は会社中心の人的側面を重視した社会とされる。したがって、働く人たちのための組織が追及され、企業中心の社会モデルになっている。次世代社会はこれらのバランスが求められ、企業や組織の価値と使命とビジョンを明確にすることが問われる。組織が生き残るためには、自ら変化を作り出し、組織全体が思考態度を変えて、変化を脅威ではなく機会と捉える風土にしなければならない。

5.まとめ
 今日の社会の大きな流れを捉えると、若年人口の減少、労働力人口の多様化、製造業の変身、企業とそのトップマネジメントの機能・構造・形態の変容等が予測される。特に、これらの大きな流れは雇用・製造業・企業(およびそのマネジメント)などに影響を与える。知識社会では個人の継続的な勉学が必要不可欠であり、1つの企業に頼ることが出来なくなる。何故なら、雇用主たる企業の寿命よりも知識労働者の労働可能年限の方が相対的に長くなる可能性がある。次世代社会は、市場と雇用形態の多様化、高度な競争社会、知識労働者への主役交代が予想される。一般に、知識には公共的な形式知と個人的な暗黙知がある。公共的な形式知は学校や書物から得られ、個人的な暗黙知は実際の仕事や生活体験から得られる。形式知と暗黙知は仕事をする上で欠かせないが、知識社会で競争力に差が生じるのは主に暗黙知の差である。暗黙知は個人の固有なものであり、その習得には多大の労力と期間を必要とし、容易に他へ移動したり教えたりできない。また、人と人とのコミュニケーションや物事への理解力は暗黙知が前提になる。

 人間社会の若年人口の減少と少子高齢化は、地球規模で考えると、人類が異常に繁殖し始めた結果、正常な状態に戻る過程と捉えることもできる。地球上の人口は、1600年頃、約5億人であった。10億人になったのは1830年であり、1930年には約20億人になった。1990年で53億人、2003年では62億人になり、加速度的に人口増加した。地球上の動植物の比率はある程度のバランスの上に存在しており、人類の異常繁殖は相対的に他の動物を絶滅の危機に陥れた。地球上で消費可能なエネルギーは有限であり、自然が人類の増加を無限に認めているわけではない。急激な人口の増加や減少は一時的に大きな問題を引き起こす。しかし、少子高齢化は大きな歴史の流れの中で自然が人口調整する過程であると考えることもできる。

(参考資料)
1.P.F.ドラッカー著(上田惇生訳)、ネクスト・ソサエティ、ダイヤモンド社、2002.

(文責:yut)

戻る