世紀予言と21世紀の特徴

二十世紀の予言
科学と技術の歴史的背景
技術と環境の変化

社会の変動

1.1901年(明治34年)1月2〜3日付の報知新聞に掲載された「二十世紀の予言」−23項目の予言から−

 十九世紀は既に去り、人の世も共に二十世紀の新舞台に現はるることとなりぬ、十九世紀に於ける世界の進歩は頗る驚くべきものあり、形而下に於ては「蒸気力時代」「電気力時代」の称あり、また形而上に於ては「人道時代」「婦人時代」の名あることなるが、更に歩を進めて二十世紀の社会は如何なる現象をか呈出するべき、既に此の三四十年間には、佛国の小説家ジュール・ベルヌの輩が、二十世紀の予言めきたる小説をものして読者の喝采を博したることなるが、若し十九世紀間進歩の勢いにして年と共に愈よ増加せんか、今日なほ不思議の惑問中に在るもの、漸漸思議の領内に入り来ることなるべし、今や其大時期の冒頭に立ちて遥かに未来を予望するも亦た快ならずとせず、世界列強形勢の変動は先づさし措きて、暫く物質上の進歩に就きて想像するに、

1.無線電信及び電話:マルコニー氏発明の無線電話は世界諸国に連絡して東京に在るものがロンドン、ニューヨークに在る友人と自由に対話することを得べし。

2.遠距離の写真:数十年の後欧州の天に戦雲暗溢たることあらん時、東京の新聞記者は編集局にいながら電気力によりてその状況を早取写真となすこと得べく、而して其写真は天然色を現像すべし。

3.野獣の滅亡:アフリカの原野に至るる獅子、虎、鰐等の野獣を見ること能わず、彼等は僅に大都会の博物館に余命を継ぐべし。

4.サハラ砂漠:サハラの大砂漠は漸次沃野に化し、東半球の文明は漸々支那日本及び亜弗利加に於て発達すべし。

5.七日間世界一周:十九世紀の末年に於て少なくとも五十日間を要したり世界一周は、二十世紀末には七日間を要すれば足りることなるべく、また世界文明国の人民は男女を問わず必ず1回以上世界漫遊をなすに至らむ。

6.空中軍艦空中砲台:チエッペリン式の空中船は大に発達して、空中に軍艦漂ひ、空中に修羅場を出現すべく、従って空中に砲台浮ぶの奇観を呈するに至らん。

7.蚊及蚤の滅亡:衛生事業進歩する結果、蚊及蚤の類は漸次滅亡すべし。

8.暑寒知らず:新機器発明せられ暑寒を調和するために適宜の空気を送り出すことを得べし。アフリカの進歩も此為なるべし。

9.植物と電気:電気力を以て野菜を成長することを得べく、而してそらそら豆は橙大となり、菊、牡丹、薔薇は緑黒等の花を開くものあるべく、北寒帯のグリーンランドに熱帯の植物成長するに至らん。

10.人声十里に達す:伝声器の改良ありて、十里の遠きを隔てたる男女互いに延々たる情話をなすこと得べし。

11.写真電話:電話口には対話者の肖像現出するの装置あるべし。

12.買物便法:写真電話によりて遠距離にある品物を鑑定し、且つ売買の契約を整へ、其の品物は地中鉄管の装置によりて瞬時に落手することを得ん。

13.電気の世界:薪炭、石炭ともに尽き電気之に代りて燃料となるべし。
                        (以上が明治34年1月2日付)

14.鉄道の速力:十九世紀末に発明せられし葉巻煙草型の機関車は大成せられ、列車は小家屋大にてあらゆる便利を備へ、乗客をして旅中にある無からしむべく、ただに冬期室内を暖むるのみならず、暑中には之に冷気を催すの装置あるべく、而して速力は通常一分時に二哩、急行ならば壱時間に百五十哩(240キロ)以上を進行して、東京、神戸間は二時間半を要し、また今日四日半を要するニューヨーク、サンフランシスコ間は、一昼夜にて通ずべし。また動力は勿論石炭を使用せざるを以って、煤煙の汚れなく、また給水の為停車すること無かるべし。

15.市街鉄道:馬車、鉄道及び鋼索鉄道の存在せしとは老人の昔話にのみ残り、電気車及び圧搾空気車も大改良を加えられて、車輪はゴム製となり、かつ文明国の大都会にては街路上を去りて、空中及び地中を走る。

16.鉄道の連絡:航海の便利至らざる無きと共に、鉄道は五大州を貫通して自由に通行するを得べし。

17.暴風を防ぐ:気象上の観測術進歩して、天災来らんとすることは一ケ月以前に予測するを得べく、天災中の最も恐るべき暴風起らんとすれば、大砲を空中に放ちて変じて雨となすを得べし、されば二十世紀の後半期に至りては難船海嘯等の変無かるべし、また地震の動揺は免れざるも、家屋道路の建築は能く其害を免るるに適富なるべし。

18.人の身幹:運動術及び外科手術の効によりて、人の身幹は六尺以上に達す。

19.医術の進歩:薬剤の飲用は止み、電気針を以て苦痛無く局部に薬液を注射し、また顕微鏡とエッキス光線の発達によりて、病源を摘発して之に応急の治療を施すこと自由なるべし、また内科術の領分は十中八九まで外科術に移りて、後には肺結核の如きも肺臓を摘出して腐敗を防ぎパチルスを殺すことを得べし、而して切開術は電気によるを以て、毫も苦痛を与ふること無し。

20.自動車の世:馬車は廃せられ、之に代ふるに自動車は廉価に購ふことを得べく、また軍用にも自転車及び自動車を以て馬に代ふることなるべし。従って馬なるもの僅かに好奇者によりて飼養せらるるに至るべし。

21.人と獣との会話自在:獣語の研究進歩して小学校に獣語科あり、人と犬猫猿とは自由に対話することを得るに至り、従って犬が人の使に歩く世となるべし。

22.幼稚園の廃止:人智は遺伝によりて大に発達し、且つ家庭に無教育の人無きを以て幼稚園の用無く、男女共に大学を卒業せざれば一人前と見做されざるにいたらむ。

23.電気の輸送:日本は琵琶湖の水を用ひ、米国はナイヤガラの瀑布によりて水力電気を起して、各々其全国内に輸送することとなる。

以上の如くに算え来らば到底俄かに尽し難きを以て先ず我予言も之に止め余は読者の想像に任す兎に角二十世紀は奇異の時代なるべし。
                        (以上が明治34年1月3日付)

出典:報知新聞社・社史刊行委員会編、世紀を超えて−報知新聞120年史 郵便報知からスポーツ報知まで−、報知新聞社(pp.50-51)、1993. (当時、このような予言は何が実現するかの可能性よりも何を実現して欲しいか又は何を実現すべきかの願望と期待が強かったとも考えられる。)
参考:岡野行秀著、2010年の日本−ケーススタディ−、東京大学出版会(竹内 啓偏、未来の構想−21世紀へ−、pp.205-222)、1990.



2.20世紀の技術の進展経過とその代表事例

・エレクトロニクスの分野:白熱電球から真空管(電子管)が生まれ無線電信を実用化した。

・材料技術の進歩:半導体の発明から集積回路へ発展し、高度情報化社会を実現するための基本コンポーネントとしての各種の電子デバイスを生み出した。

・数理科学の分野:物理現象の数式モデル表示から、プログラム内蔵方式のコンピューターの出現で、数値シミュレーションや大規模な情報処理が可能になり、新しいソフトウエアの世界を構築した。

・コンピューター文化:CAD/CAMやFA/OAの普及、人間の脳の働きに近づいたニューロ・ファジィ・コンピューターの開発、インターネット時代が到来した。

・人々の生活を取り巻く環境:便利さとともに環境への汚染や自然の破壊が進み、情報量の増大とともに自然界への認識や社会のしくみを変え、コミニケーションが世界の平和に大きく貢献、世界規模での情報処理が益々必要になっている。

・21世紀へ向かっての変化への対応:人々の知恵と努力に期待、過去の失敗や経験を踏まえた土台の上に継承すべきである。

 技術はあらゆる知識の集大成、アイデアだけで製品は生まれない。21世紀の技術課題は有限の資源と有限の空間を使う工夫および自然環境と人間社会との共存が前提になる。



3.21世紀社会の特徴と可能性

1)情報の世紀
 誰もが容易に必要な情報を入手でき、情報を適切に加工し、多様なメディアで、蓄積された膨大な情報から、効率よく選択して、安価に取得できる。曖昧な情報を検索可能にしたり、個人の好みに基づく個性的な情報が多様に提供される。人間の意思決定ツールとして、情報の質的向上と価値ある情報に加工する技術を確立し、情報に対して適切な経済的価値を認め、不正な複製や盗用等が行われないようにする必要もある。

2)環境の世紀
 大気汚染、砂漠化等、地球環境の悪化を解決する方法が模索され、有限な地球資源が一層顕著になる。この結果、宇宙への進出が居住を伴う形で進められ、宇宙空間の利用や月面及び火星への基地建設がなされる。また、問題となる行為を規制したり、環境悪化の原因を取り除き、新たな環境の創造等、より影響の少ない方法を見出す技術が望まれる。

3)人間の世紀
 人間とは何かの追究がテーマとなり、人間の知的活動である認識、理解、記憶、学習、思考、推論、判断、創造などの解明が進み、それを機械等に代替する技術に挑戦する。脳や遺伝子(DNA)の解明も進み、治療への応用及び音や映像、光や電磁波や音波による電子環境との関係も究明される。一方では、人間の尊厳をどこまで許容するかの問題がある。個の尊重から個性の多様化が進み、価値観の個別化など、精神文化が進展する。


(21世紀夢の技術)
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            (日本経済新聞社、2000年6月19日付17面より抜粋)

(文責:yut)

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