私の人生物語その13
我が人生の指針「座右銘選」

12. 私の人生物語・その13
我が人生の指針「座右銘選」

 最後に、我が人生の指針となる幾つかの格言と指針など、過去の歴史から代表的な「座右銘選」を掲載する。


 論語−学而篇より−

子曰く、学びて時に之を習う、亦た説ばしからずや。
朋有り、遠方より来る、亦た楽しからずや。
人知らずして、慍らず、亦た君子ならずや。



 論語(衛霊公第15−31)

子曰く、吾れ嘗て終日食らわず、終夜寝ねず、以って思う。
益なし、学ぶに如かざるなり。

先生がいわく、私は以前に一日中食事もせず、
一晩中寝もしないで考えたことがあるが、無駄であった。
学ぶ(書を読み、師に聞く)ことには及ばないものだ。

史実の記述や解釈は、時代により、地域により、異なることが多い。
とは云え、歴史を学ぶことが、今日の社会を理解するための第一歩ではないだろうか。
歴史の真実は、残された記録に隠されている。歴史は人を育てる。



 江戸時代の学者「佐藤一斎」から、

少にして学べば壮にして試すこと有り
壮にして学べば老いて衰えず
老にして学べば死して朽ちず



 上杉鷹山(治憲)の残した言葉から、

為せば成る 為さねば成らぬ何事も 為さぬは 人の為さぬなりけり



 福澤諭吉の著書から

学問の本趣旨は読書のみに非ずして精神の働きに在り(学問のすすめ)
至善を尽くして之に達せんことを勉む(福翁百話)



 古代中国の「徳」と「知」

−徳の語源は得、根本的なものを得ること(管子)−
徳とは道の宿る場所、物はその徳を得て生命が生まれ、知を得て道の本質を知る。
故に徳とは得ることである。

−礼も楽も知識、その知識を得たものが有徳者、徳の基本は知(礼記)−
礼と楽とをともに心得たことを有徳という。徳とは得のことである。

−徳は高度な知(荘子)−
目の徹るのを明、耳の徹るのを聡、鼻の匂いに通じるのを顫、
口が味に通じるのを甘、心が物事に通暁するのを知という。
知が通達するのを徳という。

古代ギリシャでも「知」が「徳」の基本と考えられていた。
徳には道徳の概念が含まれ、徳は知の上に成立する。



 −六中観(安岡正篤著より)−

忙中、閑有り(忙しい中に閑が有り)
苦中、楽有り(苦しい中に楽しみがある)
死中、活有り(死の中に活を知り)
壷中、天有り(壷の中に別天地がある)
意中、人有り(心の中に人があり)
腹中、書有り(腹中に書を持っている)

−人世の三宝:健康、知識、富有(西周)−



 四不殺の銘(崔子玉−後漢の大学者−)

嗜慾を以って身を殺す無かれ
貨財を以って身を殺す無かれ
政事を以って民を殺す無かれ
学術を以って天下を殺す無かれ



 三不忘(易経の名言)

治まって乱を忘れず
存して亡を忘れず
安くして而して危を忘れず



 陶潜淵明(雑詩)

人生 根蔕なく 飄として陌上の塵のごとし
分散して風を逐いて転ず 此れ己に常の身に非ず 地に落ちて兄弟と為る
何ぞ必ずしも骨肉の親のみならんや 歓を得ては当に楽しみを作すべし
斗酒もて比鄰を聚む 盛年 重ねて来たらず
一日 再び晨なり難し 時に及んで当に勉励すべし 歳月は人を待たず



 サムエル・ウルマンの青春(訳:岡田義夫)

青春とは人生のある期間を言うのではなく、
心の様相を言うのだ。
優れた創造力、逞しき意志、燃ゆる情熱、・・
(中略)
こういう様相を青春というのだ。
年を重ねただけで人は老いない。・・
(中略)
歳月は皮膚のしわを増すが、情熱を失う時に精神はしぼむ。
苦悩、狐疑、不安、恐怖、失望、
こう言うものこそ恰[あたか]も長年月の如く人を老いさせ
精気ある魂をも芥に帰せしめてしまう。・・
(中略)
人は信念と共に若く、疑惑と共に老いる。
人は自信と共に若く、恐怖と共に老いる。
希望ある限り若く、失望と共に老い朽ちる。



 アベル・ボナールの友情論
  1. 誠の友には、限りない信頼の歓喜、いつでも理解してもらえるという確信があるから、 何もかも言える楽しみ、雄々しく、また赤裸々な生活の陶酔がある。
  2. 多数の俗人から認められず、少数の友人から認められることは楽しい。
  3. 真の友交は、精神の宮殿における心と心との楽しい饗宴である。
  4. 信友同志の集まりは、いかにささやかに見えるものであっても、そこに集まった人々を、 凡俗とは異なった別の人間にし始めるものである。
  5. 偉大な魂の主はその敵を軽蔑するものではなく、実は忘れるものなのである。
  6. 寛容は超脱の最も丁寧な形式である。
  7. 感情を害し易い性格の人々には春がない。



 我が家に掲げる「日常生活の15ケ条」(「安岡正篤」の著書から引用修正)
  1. 適正な飲食、腹八分。
  2. 安眠と熟睡に心掛け、惰眠するな。
  3. 良い習慣を身に付け、悪い習慣を無くせ。
  4. 自分自身に適当な運動をせよ。
  5. 自己に主体性を持ち、感情を乱すな。
  6. 激せず、操がず、競わず、随わず、驕らず、平常心で仕事せよ。
  7. 絶えず仕事への打込みを反省し、修養せよ。
  8. 自分の能力を計り、適正を見つめよ。
  9. 一生涯の仕事への工夫と努力をせよ。
  10. 人生の冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、閑に耐え、貧に耐え、孤に耐え、時を無駄にするな。
  11. 追求する問題を持て。
  12. 人に誠実であれ。
  13. 教養に努めよ。
  14. 知識技術を修め、一芸一能を持て。
  15. 信仰、信念、哲学を持ち、不滅な心を養え。



 素心規(安岡正篤−活眼活学−より)
  1. 禍が福か、福が禍か、人間の私心で分かるものではない。長い目で見て、正義を守り、陰徳を積もう。
  2. 窮困に処するほど快活にしよう。窮すれば通ずる、また通ぜしめるのが、自然と人生の真理であり教えである。
  3. 乱世ほど余裕が大切である。余裕は心を養うより生ずる。風雅を却ってこのところに存する。
  4. 世俗の交は心を傷めることが少なくない。良き師友を得て、素心の交りを心掛けよう。
  5. 世事に忙しい間にも、寸暇を偸んで、書を読み道を学び、心胸を開拓しよう。
  6. 祖国と同胞のために、相共に感激を以って微力を尽くそう。
    (一燈照隅、萬燈照國)



 知識と見識と胆識
  • 知識はある事柄を知ること、その内容は理論と結びつくと智慧になる。
  • 見識は知識に体験や人格、ある悟りのようなものが身に付いたもの、物事の判断基準になる。
  • 胆識は決断力と実行力を持つ知識あるいは見識のこと、節操と深みのある器量や度量を持つ人になることができる。

−活学は知識・見識・胆識を活かすこと−



 道を志す者の七見識−安岡正篤−
  • 人情の識:人間の情の理を理解する識、浮世の経験を積み苦労した者でないとわからない。
  • 物理の識:自分の人生、暮らしに役立てて行く識、自然の起こす事象の本質に迫って理解する。
  • 事体の識:現象の根元にあるものをしっかりとつかむ識、表面に現れた現象に振り回されないこと。
  • 事勢の識:問題や事件が持つ背景の動きを捉える識、これが掴められないと解決が難しい。
  • 事変の識:絶えず流動する事勢の変化を捉える識、どう変わって行くかを捉える。
  • 精細の識:一局にこだわらず細部を捉える識、細部にわたって突っ込んで知っていないと判断を誤る。
  • 濶大の識:大局を見て論断・決断する識、小さいことにこだわらず、大きく物事を捉える。



 物事を見る眼力:五眼−安岡正篤−
  • 天眼:神通力により、普通は見えないものを見透す超人的な天人の眼
  • 肉眼:人間の肉体の持つ眼、人間の肉眼のこと
  • 法眼:諸法を観察する智慧の眼、諸法の真相を知り、衆生を済度(迷い苦みから悟りの境地へ)する菩薩の眼
  • 慧眼:差別・迷執の念を離れて、真理を洞察する眼、声聞(教えを聴聞) ・縁覚(独自に悟りを開く)の眼
  • 仏眼:一切衆生を救おうとする仏が諸法実相を照見(照見五蘊皆空:身も心もすべて空を見通し)する仏の眼

五眼を備えるには凡人に不可能、徳の智慧を磨き、修業を積んで備える



 胆大心小と智(知)の本質
  • 胆は大ならんことを欲し、而して心は小ならんことを欲す。智は円ならんことを欲し、而して行は方ならんことを欲す。
  • 胆は胆肝、心は心臓、大きな実行力を持ち実践力の伴う見識が胆識、実行するには綿密な観察と細心の注意力が必要、 その智力が心である。胆と心の両方が相伴って危気なく実行できる。
  • 智(知)の本質は、物事を分別し、認識し、推理すること。分別の働きは抹消化すると、生命の根源から遠ざかる。 本当の智は物事を分別すると同時に、物事を統合統一しなければならない。抹消化すれば常に根本に還らなければならない。 これが円、仏教の大円鏡智、分別智は同時に円通でなければならない。
  • 方は方角、行は現実に実践すること、そこに必ず対象が生じ相対的になる。これが方、方は比べて相対的関係を正す意味、 正しく処理されると義、方義、義方ともいう。



 人物を観る原則(六験と八観)
    六験
  • 之を喜ばしめて以て其の守を験す。
  • 之を楽しましめて以て其の僻を験す。
  • 之を怒らしめて以てその節を験す。
  • 之を懼れしめて以てその独を験す。
  • 之を苦しましめて以てその志を験す。
  • 之を哀しましめて以てその人を験す。


  • 八観
  • 富めば其の養ふ所を観る。
  • 貴ければ其の挙ぐる所を観る。
  • 居れば其の親しむ所を観る。
  • 習へば其の言ふ所を観る。
  • 止れば其の好む所を観る。
  • 聴けば其の行ふ所を観る。
  • 貧すれば其の受けざる所を観る。
  • 窮すれば其の為さざる所を観る。



 王者の将選(六韜三略・龍韜の将論より)
    五材十過・五材
  • 勇:勇なれば犯すことができぬ。
  • 智:智なれば乱すことができぬ。
  • 仁:仁なれば人を愛する。
  • 信:信なれば欺かぬ。
  • 忠:忠なれば二心がない。


  • 五材十過・十過
  • 勇にして死を軽んずるもの。
  • 急にして心速きもの。
  • 貧にして利を好むもの。
  • 仁にして人に忍べぬもの。
  • 智にして臆病なもの。
  • 信にして好んで人を信ずるもの。
  • 廉潔にして人を愛せぬもの。
  • 智にして心緩きもの。
  • 剛毅にして自ら用いるもの。
  • 懦にして人任せのもの。


  • 将士の外貌と中情が一致せぬもの十五種
  • 賢に見えて不肖なもの。
  • 温良に見えて盗みをするもの。
  • 貌は恭敬で心は慢なるもの。
  • 外は謙謹で内は一向恭敬ならぬもの。
  • 努力するが情のないもの。
  • 落着いているが誠のないもの。
  • 謀を好んで決断のないもの。
  • 果敢なようで能くやりきらぬもの。
  • 正直なようで信ならぬもの。
  • うっかりしているようで反って忠実なもの。
  • 詭激にしてしかも役立つもの。
  • 外勇にして内怯なるもの。
  • つつましく見えて反って人を易るもの。
  • やかましくってその実おだやかなもの。
  • 一向風采揚がらずして、どこへ出しても、何に使っても、役に立つもの。


  • 将士を弁別察知する八法(八微)
  • 問うに言を以てしてその弁を観る。
  • 窮むるに辞を以てしてその度を観る。
  • 間諜をやってその誠を観る。
  • 明白に試問してその徳を観る。
  • 使うに財を以てしてその廉を観る。
  • 試みるに色を以てしてその貞を観る。
  • 告ぐるに難を以てしてその勇を観る。
  • 酔わしむるに酒を持ってしてその態を観る。



 人間交際術(素交と利交)
  • 素交:素は白い生地の意味、地位や名誉のない交わり、自然な付き合い、裸の付き合い。年を忘れ、 先輩や後輩の年令の差を超越した心と心の付き合いをする忘年の交、地位や身分を忘れて交わる忘形の交である。
  • 利交:何かを求むる交わり。勢力のある人と交わる勢交、目的達成の手段に金品を贈って付き合う賄交、 話し相手やイテオロギーで付き合う談交、窮をまぎらし同情などで付き合う窮交、打算的に付き合う量交などがある。 絶交論では利交は早く絶つのが良いとされる。



 朋友と親友
  • 師を同じくするを朋、志を同じくするを友という。朋は多く、友は少ない。
  • 文を以て友を会し、友を以て仁を輔く。志を同じくするは理想や教養による文の関係、 それによって、生命や人格を補い輔けてゆくことができる。
  • 明月清風を道友、古典今文を義友、弧雲野鶴を自来友、怪石流水を娯楽友、山果橡栗を相保友とする。 南宋の游炳はこれを五友とし、片時も放せぬものとしている。
  • 華友は花の如く、好き時は頭にも挿すが萎めば棄て、富貴を見ては附き、貧賤なれば棄てるような友のこと。
  • 称友は重ければ頭を垂れ軽ければ仰ぐ称(秤)の如し、物をくれる者を敬いくれぬ者を馬鹿にするような友のこと。
  • 山友は金山の如く、鳥獣之に集まれば毛羽為に光り、己貴くして能く人を栄えしめ、富楽同じく歓ぶような友のこと。
  • 地友は百穀財宝一切地に仰ぐ、施給養護して恩徳の薄からぬような友のこと。
  • 親友(阿難が仏に問う)とは:与え難きを与う。作し難きを作す。忍び難きを忍ぶ。密事を語ぐ(包み隠しせぬこと) 。 密事を他に向かって語らず。苦に遭うも捨てず。貧たるも軽んぜず。この七つを具する者を親友と為す。
  • 友にもいろいろあるが、結局は次第に進んで、古人を友とするに至る。之を尚友という(孟子・尽心より)。



 人生の出処進退(身の処し方)
  • 出処進退とは「出る」「処る」「進む」「退く」のこと。
  • 最も難しいのがその退き方、人の全節を決める。
  • 身体の生理現象を考えると、血流の静脈、便通など、その排泄機能が生命維持に影響する。
  • 特に、正しいと信ずる主義・主張・行動、節操の全節を全うすることが重要である。
  • 地位や名誉は偶然、大切なのは自分自身にある。
  • 志ある者は進を己に求め、人に求めない。

論語:人の己を知らざるを患えず、人を知らざるを患う
吉田松陰:至誠にして動かざるものは未だこれあらざるなり
ケインズ:人はいかに善を為すかより、いかに善であるかがより重要



 −六然(明末:崔後渠さいこうきょ)−
    自ら処すること超然、人に処すること藹然、有事斬然、無事澄然、得意澹然、失意泰然
  • 超然(ちょうぜん):物事にこだわらずに、そこから抜け出ている様子。
  • 藹然(あいぜん):なごやかに、のんびりと、温かい気分になる様子。
  • 斬然(ざんぜん):すっきりと、活気があって、きびきびしている様子。
  • 澄然(ちょうぜん):水のように、澄みきっている様子。
  • 澹然(たんぜん):あっさりして、謙虚な気持ちのある様子。
  • 泰然(たいぜん):落ち着き払っていて、ゆったりと物事に動じない様子。


  • −逆の六然(自処紛然、処人冷然、有事茫然、無事漫然、得意傲然、失意悄然)−
  • 紛然(ふんぜん):入り混じって、ごたごしている様子。
  • 冷然(れいぜん):ひややかで、情に欠けている様子。
  • 茫然(ぼうぜん):気ぬけがして、ぼんやりした様子。
  • 漫然(まんぜん):これという目的や意識がなく、とりとめのない様子。
  • 傲然(ごうぜん):尊大で、高ぶった様子。
  • 悄然(しょうぜん):元気がなく、しょげて、憂い沈んでいる様子。



 三国志から学ぶ知恵
  • トップの選択と決断:責任ある地位に立つ者(曹操、劉備、孫権など)の選択と決断、対立と機会、 敵と味方の区別、状況判断など、組織の論理とリーダーの条件を学ぶ。
  • 人間関係の妙味:人の生きざまとけじめや駆引き、人の心の揺れ方と行動様式、部下の掌握と人材育成、 信義と背徳、誠実と公正などのあり方。
  • 人材の生かし方:人望と人の和、虚名と実力、多彩な登場人物による出処進退を見る。
  • 勝者の条件:己を知り敵を知る。敗者から学ぶ教訓、勝者と敗者の違い。地形や自然環境の把握の重要性を知る。
  • 栄枯盛衰の理法:歴史と人物に学び、人間学と治乱興亡の法則、草創と守成、興隆と衰退、 トップの資質から組織の原理原則を明示している。

知謀と計略、選択と決断、信義と背徳、虚名と実力、勝者と敗者



 −三国志の諸葛孔明に学ぶ−
    将苑(心書)−孫子・呉子・六韜・春秋左氏伝の集大成−
  • 将苑(心書)は主に統率者の道と兵法を論じている。将たるの道を論じ、言葉は簡潔だが、その意味するところは広く、 人を深く反省させる。兵法論は中国古代の兵法の精髄が濃縮され、統率者の道を詳細かつ具体的に説いている。
  • 統率者の道:組織(軍権)掌握の鉄則、内部崩壊の要因(組織内悪質分子の排除)、人物鑑定法、最高最良の統率者(九つの顔)、 統率者の器量・失格事項(幹部の欠点)・職責、統率者に必要な五善四欲、優れた統率者の条件、統率者のタブーと五強八悪、 全権委任の強み(権限の与え方)、部隊(組織)編成の秘訣、成功(勝利)への三大条件(天に従い時に応じ人に依存)、 統率者の知略と心得など
  • 兵法論:奇襲の極意、戦力の比較:敵を破る先決条件、地勢の最大活用、失格統率者への対応、敵情の探索法、 組織統制の条件、部下に対する心得、成功と失敗の分岐点、人の和を重視、敵情の観察法など


  • −(幾つかの事例)−
  • 人物鑑定法(知人性):ことの是非を判断させて、その志の所在を観察する。巧妙なことばで追い詰めて、相手の態度の 変化を観察する。相手の計画を求めて、その学問や知識を観察する。災難の状況を告げて、その臨機応変の能力と勇気を 観察する。酒に酔わせ、その本性を観察する。ちょっとした恩恵を与え、その廉潔さを観察する。仕事をやらせてみて、 その信用度を観察する。
  • 五善四欲(将善):敵の情況把握、的確な進退判断、国力を弁え、天の時を知り人の事を知る、地形の険阻を知る。戦い は相手の意表を衝く、謀は秘密厳守、兵の統率に留意、全将士の統一をはかる。
  • 五強八悪(将彊):高節によって部下の奮起を促し、孝悌によって名をあげ、信義を重んじで友と交わり、深慮によって 包容力を身に付け、全力を傾注して軍功をたてる。謀に欠ければ是非の判断はできず、礼に欠ければ有能な人材を登用で きず、政治に疎ければ法の正しい執行ができず、経済力があっても窮民を救済せず、智が劣れば未知に備えられず、思慮 に欠ければ極秘事項の漏洩を防げず、栄達しても旧知の者を推薦せず、敗戦すれば非難にさらされる。
  • 智者が智者に勝つ三つの機(機形):事機(事態の変化)、勢機(態勢の変化)、情機(情勢の変化)
  • 部下に対する心得(励士):よい地位と待遇を保証すれば、有能な人材は懸命に働こうとする。丁重に信義ある態度で接 すれば、部下は死をも恐れずに戦う。たえず恩恵を与え、法規を厳正に施行すれば、部下は心から服従する。率先してこ とにあたり、その上で他人にも要求すれば、部下は勇敢に全力を傾注する。小さくても善行があれば必ず記録し、小さく ても功績があれば必ず褒賞する。そうすれば、部下は自発的に力をつくす。
  • 陣中での統率者の心得(将情):井戸から水が出ないのに喉が渇いたと言ってはならない。食事の準備が出来ないのに腹 が減ったと言ってはならない。火が付けられないのに寒いと言ってはならない。テントが張られないのに疲れたと言って はならない。夏は扇子を使わず、雨が降っても傘をささず、すべて兵士と同様にする。



 諸葛孔明の将苑(心書)−孫子・呉子・六韜・春秋左氏伝の集大成−
  • 兵権:「それ兵権は、これ三軍の司命、主将の威勢なり」
  • 逐悪:「党を結びて相連なり、賢良を毀譛す」
  • 知人性:「それ人の性を知るより察し難きはなし」
  • 将才:「これを導くに徳をもってし、これを斉えるに礼をもってす」
  • 将器:「上は天文を知り、中は人事を察し、下は地理を知り、四海の内、視ること室家のごときは、これ天下の将なり」
  • 将幣:「それ将たる道に八弊あり」
  • 将志:「兵は凶器にして将は危任なり」
  • 将善:「将に五善四欲あり」
  • 将剛:「よく将たるものは、その剛折るべからず、その柔巻くべからず」
  • 将驕悋:「将は驕るべからず。将は悋むべからず」
  • 将彊:「将に五彊、八悪あり」
  • 出師:「上に天なく、下に地なく、前に敵なく、後に主なし」
  • 択材:「各その能に因りてこれを用う」
  • 智用:「智者は天に逆らわず、また時に逆らわず、また人に逆らわず」
  • 不陳:「よく戦う者は敗れず、よく敗れる者は亡びず」
  • 将誠:「兵を行うの要は、務めて英雄の心を攬る」
  • 戒備:「備えなきは、衆しといえども恃むべからず」
  • 習練:「それ軍に習練なければ、百もて一に当たらず。習いてこれを用うれば一もて百に当たるべし」
  • 腹心:「それ将たる者には、必ず腹心、耳目、爪牙あり」
  • 習律:「それ軍を敗り師を喪うは、いまだ敵を軽んじるに因りて禍を致さざる者あらず」
       (出陣前の心得:慮、詰、勇、廉、平、忍、寛、信、敬、明、謹、仁、忠、分、謀)
  • 機形:「よく将たる者は、機に因りて勝ちを立つ」
  • 重刑:「将の麾するところ、心移らざるなし。将の指すところ。前死せざるなし」
  • 善将:「古の善く将たる者に四つの大経あり」(軍の大原則:禁、礼、勧、信)
  • 審因:「もしよく因を審にしてこれに威勝を加えなば、万夫の雄将も図るべく、四海の英豪も制を受けん」
  • 兵勢:「それ兵を行るの勢に三あり、一に曰く、天、二に曰く、地、三に曰く、人」
  • 勝敗:「賢才上に居り、不肖下に居る。三軍悦楽し、士卒畏服す」
  • 仮権:「それ将たる者は、人命の懸かるところ、成敗の繋がるところ、禍福の倚るところなり」
  • 哀死:「古のよく将たる者は、人を養うこと己の子を養うがごとし」
  • 三賓:「それ三軍の行くや必ず賓客ありて、得失を群議し、もって将用に資す」
  • 後応:「難を易に図り、大を細になし、先ず動きて後に用い、無刑に刑するは、 これ用兵の智なるものなり」(用兵の巧拙、最高の勝ちパターンは戦わずして勝つ)
  • 便利:「少をもって衆を撃つは、利、日の莫るるをもってす」
  • 応変:「それ必勝の術、合変の形は、機に在り」
  • 揣能:「古の善く兵を用うる者は、その能を揣りてその勝負を料る」(戦力比較のポイント)
  • 軽戦:「戦士のよく勇なるは、その備えを恃めばなり」
  • 地勢:「戦地を知らずして勝ちを求むるは、いまだこれあらざるなり」(地勢に応じた戦略)
  • 情勢:「貪にして利を喜ぶ者は、遺くるべし」
  • 撃勢:「古の善く闘う者は、必ず先ず敵情を探りて後これを図る」
  • 整師:「それ師を出し軍を行るは、整をもって勝ちとなす」
  • 励士:「小善は必ず録し、小功は必ず賞すれば、士勧きざるなし」
  • 自勉:「聖人は天に則り、賢者は地に則り、智者は古に則る」
  • 人和:「それ兵を用いるの道は、人の和にあり」
  • 察情:「利を見て進まざるは、労るるなり」
  • 将情:「それ将たる道は、軍井いまだ汲まずして、将、渇を言わず」



 便宜十六策−諸葛孔明の政治論と兵法論−
  • 便宜十六策:「治国」「君臣」「視聴」「納言」「察疑」「治人」「挙措」「考黜」「治軍」「賞罰」「喜怒」「治乱」「教令」「斬断」「思慮」「陰察」の十六篇、 政治論は兵法論の延長
  • 治軍:「治軍の政とは、 いわゆる辺境を治めるの事、大乱を匡救するの道にして、威武をもって政をなし、 暴を誅し逆を討ち、国家を存し社稷を安ずるゆえんの計を謂う」「それ将は、人の司命にして、国の利器なり」 「よく戦う者は怒らず、よく勝つ者は懼れず」「軍は奇計をもって謀となし、絶智をもって主となし、よく柔によく剛に、 よく弱によく強に、よく存しよく亡す」「それよく攻むる者は敵その守るところを知らず。よく守る者は敵その攻むるところを知らず」 「九地の便を知らざれば、九変の道を知らず」「五間その情を得れば、民用うべくして、国長く保つべし」
  • 考黜:「考黜の政とは、善を遷し悪を黜(しりぞ)くるを謂う」「明主上に在り、心は天よりも昭らかにして、 善悪を察知し、広く四海に及び、あえて小国の臣を遺さず、下は庶民に及び、賢良を進用し、貧懦を退け去り、 上下を明良し、国理を企及し、衆賢雨集す。これ善を勧め悪を黜くるゆえにして、これを休咎に陳ぶ」「故に考黜の政は、 人の苦しむところを知るを務む」
  • 賞罰:「賞罰の政とは、善を賞し悪を罰するを謂う」「必ず殺すべきを生かし、必ず生かすべきを殺し、 忿怒詳らかならず、賞罰明らかならず、教令常ならず、私をもって公となす。これ国の五危なり」 「姦を防ぐには政をもってし、奢を防ぐには政をもってし、忠直には獄を理めしむべく、廉平には賞罰を使わしむべし」
  • 斬断:「斬断の政とは、 教令に従わざるの法を謂う」「斬断の後、これ万事すなわち理まる」 (命令違反の7パターン:軽視、怠慢、窃盗、詐欺、違背、混乱、錯誤)
  • 思慮:「思慮の政とは、近きを思いて遠きを慮るを謂う」



 孔明が残した訓戒[甥(若者)へのアドバイス]
  • それ志はまさに高遠に存すべし。先賢を慕い、情欲を絶ち、疑滞を棄て、庶幾の志をして掲然として存する所あり。 惻然として感ずる所あらしめよ。屈伸を忍び、細砕を去り、咨問を広め、嫌吝を除かば、淹留ありと雖も、何ぞ美趣に損せん。 何ぞ不済に患わされん。若し志強毅ならず、意慷慨せず、徒に碌々として俗に滞り、黙々として情に束ねらるれば、 永く凡庸に竃伏し、下流を免れざらん。

    (意 訳)
  • 志はどこまでも高く掲げるべきである。そのために、先賢の生き方に学び、色恋を絶ち切り、心のわだかまりを棄て去ることだ。 そして、あるべき志を常に自分の中に抱き続けるべきだ。逆境に陥っても耐え忍び、つまらぬことに思い悩むことはやめよ。 わからないことがあれば、何でも遠慮なく人に尋ね、人を疑ったり怨んだりしてはならない。 これらを実行すれば、大きな進歩は望めなくとも、人から後ろ指をさされることはないだろうし、 着実に自分を向上させていくことができる。もしも志が弱く、意欲も乏しく、人情に流されて平々凡々の生活に甘んじていたなら、 どうなるだろうか。いつまでも凡庸な人間にとどまり、一生下積みのままで終わってしまうことになる。



 人を動かす極意−中国の兵法書『兵法三十六計』を拡張−
    (詭計)
  • 瞞天過海(まんてんかかい)の計:天を 瞞 ( あざむ ) きて海を 過 ( わた ) る。
  • 反間(はんかん)の計:敵の間を離反させる。
  • 治気の計:その場の気を治める。
  • 笑裏蔵刀(しょうりぞうとう)の計:笑いの裏に刀(かたな)を蔵(かく)す。
  • 李代桃僵(りだいとうきょう)の計:李(すもも)が桃に代わって僵(たお)れる。
  • 掩目捕雀 (えんもくほじゃく) の計:目を掩って雀を捕える。
  • 擒賊擒王(きんぞくきんおう)の計:賊を擒えるにはまず王を擒える。
  • 苦肉(くにく)の計:わが身(肉)を苦しめて敵を欺く。
  • 無能安示の計:無能を示して敵を安んずる。
  • 掘抗待虎の計:抗を掘って虎を待つ。


  • (謀計)
  • 連環(れんかん)の計:環を連ねて敵を葬る。
  • 順手牽羊(じゅんしゅけんよう)の計:手に順(したが)いて羊を牽(ひ)く。
  • 破釜沈舟(はふちんしゅう)の計:釜を破り舟を沈める。
  • 無中生有(むちゅうしょうゆう)の計:無の中に有(ゆう)を生じる。
  • 遠交近攻(えんこうきんこう)の計:遠くと交わり近くを攻める。
  • 欲擒姑縦(よくきんこしょうの計:擒(とら)えんと欲すれば姑く縦つ。
  • 関門捉賊(かんもんそくぞく)の計:門(もん)を関ざして賊を捉(とら)う。
  • 釜底抽薪(ふていちゅうしん)の計:釜の底より薪を抽(ぬ)く。
  • 称薦の計:称めそやして推薦する。
  • 美人(びじん)の計:美人をもって敵を籠絡(ろうらく)する。


  • (奸計)
  • 借屍還魂(しゃくしかんこん)の計:屍を借りて魂を還す。
  • 二虎競食(にこきょうしょく)の計:二虎を競わせて共食いさせる。
  • 駆虎呑狼(くこどんろう)の計:虎を駆って狼を呑む。
  • 趁火打劫(ちんかだこう)の計:火に趁(つけこ)んで劫(おしこみ)を打(はたらく)く。
  • 借刀殺人(しゃくとうさつじん)の計:刀を借りて人を殺す。
  • 混水摸魚(こんすいぼぎょ)の計:水を混ぜて魚を摸(と)る。
  • 仮道伐?(かどうばつかく)の計:道を仮(か)りて?(かく)を伐(う)つ。
  • 抛磚引玉(ほうせんいんぎょく)の計:磚(レンガ)を抛げて(投げて)玉(宝石)を引く。
  • 反客為主(はんかくいしゅ)の計:客を反して主と為す。
  • 偸梁換柱(とうりょうかんちゅう)の計:梁を偸(ぬす)み、柱に換(か)う。


  • (奇計)
  • 金蝉脱穀(きんせんだっこく)の計:金蝉が穀を脱する。
  • 暗渡陳倉(あんとちんそう)の計:暗(ひそ)かに陳倉に渡る。
  • 声東撃西(せいとうげきせい)の計:東に声して西を撃つ。
  • 囲魏救趙(いぎきゅうちょう)の計:魏を囲んで趙を救う。
  • 指桑罵槐(しそうばかい)の計:桑を指して槐(えんじゅ)罵る。
  • 空城(くうじょう)の計:城を空に見せて敵を欺く。
  • 敗面?口(はいめんかこう)の計:面を敗めて口を?める。
  • 樹上開花(じゅじょうかいか)の計:樹上に花を開(さか)す。
  • 十面埋伏(じゅうめんまいふく)の計:十面に伏兵を埋める。
  • 調虎離山(ちょうこりざん)の計:虎を調(はか)って山を離れさせる。


  • (秘計)
  • 錦嚢(きんのう)の計:錦の嚢を託す。
  • 面従腹背(めんじゅうふくはい)の計:面は従い腹では背く。
  • 上屋抽梯(じょうおくちゅうてい)の計:屋(おく)に上げて梯(はしご)を抽(はず)す。
  • 打草驚蛇(だそうきょうだ)の計:草を打って蛇を驚かす。
  • 二桃三士 (にとうさんし). の計:二桃をもって三士を争わせる。
  • 隔岸観火(かくがんかんか)の計:岸を隔てて火を観る。
  • 以逸待労(いいつたいろう)の計:逸を以って労を待つ。
  • 仮痴不癲(かちふてん)の計:痴(愚か)を仮るも癲(狂わ)せず。
  • 走為上(そういじょう)の計:走(に)ぐるを上(じょう)と為(な)す。
  • 進退(しんたい)の計:進んでは退く。


  • (参考)−兵法三十六計−
  • 勝戦計: 1. 瞞天過海 | 2. 囲魏救趙 | 3. 借刀殺人 | 4. 以逸待労 | 5. 趁火打劫 | 6. 声東撃西
  • 敵戦計: 7. 無中生有 | 8. 暗渡陳倉 | 9. 隔岸観火 | 10. 笑裏蔵刀 | 11. 李代桃僵 | 12. 順手牽羊
  • 攻戦計: 13. 打草驚蛇 | 14. 借屍還魂 | 15. 調虎離山 | 16. 欲擒姑縦 | 17. 抛磚引玉 | 18. 擒賊擒王
  • 混戦計: 19. 釜底抽薪 | 20. 混水摸魚 | 21. 金蝉脱殻 | 22. 関門捉賊 | 23. 遠交近攻 | 24. 仮道伐?
  • 併戦計: 25. 偸梁換柱 | 26. 指桑罵槐 | 27. 仮痴不癲 | 28. 上屋抽梯 | 29. 樹上開花 | 30. 反客為主
  • 敗戦計: 31. 美人計 | 32. 空城計 | 33. 反間計 | 34. 苦肉計 | 35. 連環計 | 36. 走為上


(文責:yut)

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