電磁現象を探る
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電磁現象を探る
1.電気の源と電気の力
電気の源は電荷、電荷の最小単位は電子の持つ電荷量、その大きさは正負の違いはあるが陽子の持つ電荷量に等しい。電荷の単位はクーロン(C:coulomb)と呼ばれる。1クーロンの電荷は1アンペア(A:ampere)の電流を1秒間流した時に運ばれる電荷である。電荷の素量はeで表され、e=1.602×10-19クーロンである。
電荷の大きさqは、電荷の素量eがN個集まったもの、q=N・eである。電流Iは、その時間的な変化、I=dq/dtで与えられる。電荷は物質の構成要素の分子や原子に存在する。分子や原子を構成する原子核の陽子にはプラスの電荷、原子核を取り巻く電子にはマイナスの電荷が付与されている。また、その電荷は陽子や電子の運動と供に移動し、その電荷が消滅することはなく、電荷は保存される。
なお、一般的な電磁現象は、物理的に無限小の体積要素内で平均化された物理量として取り扱う。つまり、物質の分子構造などに関係した微視的な変動は考えない。したがって、連続的な媒質中の電磁現象は、現象を平均化することで、微視的な方程式から巨視的な方程式への移行が可能になる。この場合、その物理量は、媒体や物質の物理的性質や場の時間的変化に依存することになる。
電荷と電荷の間には力が働き、電気力が存在する。力の単位はニュートン(N:newton)、プラスとプラスあるいはマイナスとマイナスの場合は引き離す力(斥力)、プラスとマイナスの場合は引き合う力(引力)になる。点電荷q1と点電荷q2に働く場合、その電気力の大きさFは、点電荷q1と点電荷q2の積に比例し、2つの点電荷の距離rの2乗に逆比例する。これはクーロンの法則と呼ばれる。数式で表示すれば、
F=k・(q1・q2/r2)・(r/r)
で与えられる。ここで、rはq2からq1へ向かう位置ベクトルであり、r/rはq2からq1へ向かう単位長さのベクトルである。なお、
このクーロン力のベクトルは、2つの点電荷を結ぶ直線上にあり、F<0のとき斥力、F>0のとき引力となる。また、比例係数kは、SI(国際)単位系で、
k=1/(4πε0)=c2×10-7 newton・meter2/coulomb2
で与えられる。ここで、cは光の速度で、c=2.998×108 meter/sec である。したがって、真空の誘電率ε0は、ε0=8.8537×10-12 coulomb2/(newton・meter2)となる。
つまり、点電荷q2の近くに点電荷q1を近付けると、点電荷q1に力が働く。この現象は点電荷q2の周辺の空間が点電荷q2の影響で変化していることを意味する。そこで、点電荷q2によって、その周辺に電気力の場(電界)Eが生じ、点電荷q1がその電界の影響を受けると考えられる。この時、電荷q(coulomb)に働く力F(newton)は、F=qEで表示される。したがって、電界Eは newton/coulomb の単位を持っている。
この時、電界の中にある電荷は位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)を持っている。いま、ある電荷に対して、電界の力Fが働いているならば、ある電荷を動かすには、それに逆らった外力−Fを加えなければならない。すなわち、この外力による仕事が位置エネルギーとして蓄えられていると考えることができる。そして、q=1とした時の位置エネルギーは電位と呼ばれている。電位の単位はボルト(V:volt)、1voltは1joule/coulombである。
電界Eと電位Vの関係は、E=−gradVで表示される。この場合、gradは演算子、1つの成分を持つスカラー関数から3つの成分を持つベクトルを導き出す働きをする。そこで、電界Eは、x,y,zの直交座標系で成分表示をすれば、
Ex=−∂V/∂x , Ey=−∂V/∂y , Ez=−∂V/∂z
となる。すなわち、電界Eは、電位(ポテンシャル・エネルギー)Vの傾きである。
電位の等しい点を繫げた面が等電位面、電気力の様子を視覚的に表現する仮想的な線が電気力線である。電気力線は、正の電荷から負の電荷へ向っており、電荷の無いところで途切れたり、電気力線が交わったりすることはない。また、電気力線は、弱い電気力の領域では疎、強い電気力の領域では密になる。電気力線は方向を持つ曲線、点電荷の有無に関係なく生ずることがあり得る。例えば、磁場による磁束の変化があると、この電気力線は突然に出現する。この場合、点電荷が存在しない閉曲線になる。
物体の内部に電界があると、電荷が移動して電流が流れる。電界Eと電流密度iの間には、物質の種類や状態によって異なるが、オームの法則による比例関係i=κ・Eが成立する。ここで、κ(ampere/volt・meter)は電気伝導度と呼ばれる。物質は電気伝導度の大きさによって、導体、抵抗体、絶縁体などに区別されることがある。
電界の中に絶縁体を置くと、絶縁体の表面に電荷が表れる。この電荷の作る電界は、絶縁体の内部にも作用する。当初の電界を打ち消すように作用し、絶縁体の内部の電界が減少する。この現象は、導体を電界の中に置いた場合の静電誘導と似ているが、導体の場合は静電誘導によって内部の電界がゼロになる。しかし、絶縁体の場合は内部の電界が減少するだけでゼロにはならない。導体の内部には自由に動く電荷(自由電子)が存在し、これが静電誘導を起こす。絶縁体の内部にある電荷(束縛電子)は、動くことが出来ないわけではなく、平衡状態から多少の変位を生ずる。
絶縁体の中に電界があると、その電界の影響で内部の電荷が平衡状態の位置から変位し、その結果、絶縁体の表面に電荷が表れる。この現象は誘電分極と呼ばれ、分極の生ずる物質を誘電体という。誘電分極Pは、分極電荷の移動した方向で、その大きさはこれに垂直な単位面積の断面を通って動いた分極電荷の量である。この場合、等方的な物質の中では、分極の方向は電界Eの方向と一致し、電界がそれほど大きくなければ、分極Pは電界Eに比例し、P=χe・Eが成立する。ここで、χeは電気感受率と呼ばれる。また、物質中の電場の状態は、電束密度Dを用いて、D=ε0E+P=(ε0+χe)E=εEの関係がある。ここで、εは誘電体の誘電率と呼ばれる。
2.磁場と磁気の力
導線に電流を流すと、導線の周囲に磁場(磁力線)が発生する。この現象は、1820年にデンマークの物理学者エルステッドが発見した。また、フランスのアンペールは、導線に電流を流すと、電流の方向を右ネジの進む方向として、右ネジの回る向きに磁場(磁力線)が生じることを見出した。これはアンペールの右ねじの法則と呼ばれる。この場合、電流の流れる導線の同心円上の半径rの周囲で、磁場の強さHと電流Iとの間に、I=2π・r・Hの関係が成立する。
コイル状の導線の近くで永久磁石を動かすと、コイルに電流が流れる。永久磁石を固定して、コイルを動かしても同じようにコイルに電流が流れる。磁界と電流から力が生まれ、磁界と力から電流が生まれる。この現象は電磁誘導と呼ばれている。1831年にファラデーによって発見された。
電子はそれ自身が永久磁石でもある。その源は電子の持つスピンにある。一般に、永久磁石には、S極とN極がある。磁極とも呼ばれるが、磁極は単独で存在しない。また、同じ磁極、S極とS極あるいはN極とN極は反発する力が働き、S極とN極は引き合う力が働く。この場合、力の向きは、N極からS極に向かうと定義される。
磁場の中で電流が受ける力は、運動する荷電粒子が磁場から受ける力に基づいている。たとえば、真空中を流れる電子は、磁場を加えると、その進路が曲げられる。運動する荷電粒子が磁場から受ける力は、ローレンツ力と呼ばれ、フレミングの左手の法則に従う。この場合、荷電粒子が負の電荷を持つ電子の流れならば、電流の流れは逆向きになる。なお、フレミングの左手の法則とは、左手の中指を電流の向き、人差し指を磁場の向き、親指を力の向きに対応付け、それぞれの指を互いに直交させる。
すなわち、速度vで動く電荷qが受ける磁気的な力Fは、ベクトル積で表現され、単位面積当たりの磁束、すなわち磁束密度Bを用いて、F=qv×Bで与えられる。ここで、磁束密度Bの単位はテスラ(T:tesla)、newton/(ampere・meter)、あるいは weber/meter2 で表示さる。なお、ガウス(G:gauss)で表示すれば、1テスラ(T:tesla)=104ガウス(G:gauss)である。
結局、電界Eと磁束密度Bの存在する空間を速度vで運動する電荷qの荷電粒子に働く力F(ローレンツ力)は、
F=qE+qv×B
となることが知られている。
物質には、磁性を帯びる性質を持つことがある。物質は、反磁性体・常磁性体・強磁性体の3つに分けられる。一般には、強磁性体のみを磁性体と呼ぶことがある。
磁性体の中に磁場があると、磁場の影響で物質は磁化する。この場合、物質中の磁場の状態は、磁束密度Bを用いて、B=(μ0+χm)H=μHの関係が成立する。ここで、μは磁性体の誘磁率、χmは磁気感受率と呼ばれる。この時、誘磁率は、μ=μ0+χm=μ0(1+χm)=kmμ0となり、kmを比透磁率と呼び、km=1は真空の透磁率、μ0=4π×10-7 henry/meter である。また、km>1を常磁性体、km<1を反磁性体という。特に、強磁性体は、BとHの関係が直線的でなく、ヒステリシス(履歴現象)がみられる。さらに、物質が超電導状態になると、μ=0、km=0(完全反磁性体)、B=0となる。これはマイスナー効果と呼ばれる。
つまり、透磁率μは、物質(媒質)の磁化のしやすさを表すパラメータである。媒質が均質的、等方的、線形の場合、磁束密度Bは、磁界の強さHに比例し、B=μHの関係がある。
SI単位系を考えれば、透磁率μは henry/meter 、磁束密度Bは weber/meter2 、磁界の強さHは ampere/meter であり、1henry=1weber/ampere 、1weber=1volt・second の関係がある。
3.マクスウエルの電磁方程式
マクスウエルの電磁方程式は、電界E、磁界H、電束密度D、磁束密度B、電流密度i、電荷密度ρの間に、
rotE=−∂B/∂t
rotH=i+∂D/∂t
divD=ρ
divB=0
と記述される。
第1式は、時間的に変動する磁束密度Bがその周囲に渦状の電界Eを作ることを意味しており、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいている。第2式は、
電流密度iおよび時間的に変動する電束密度Dがその周囲に渦状の磁界Hを作ることを意味しており、広義のアンペールの法則に基づいている。
つまり、電流が存在しなくても、電場(電束密度D)の変動によって、磁場(磁界H)の渦が出来ることを表している。
第3式は、電場(電束密度D)の源が電荷分布(電荷密度ρ)になっていることを意味しており、クーロンの法則をより一般化したガウスの法則に基づいている。
第4式は、磁場(磁界H)に湧き出しや吸い込みがないことを表しており、磁場(磁界H)の源が単独では存在せずに、常に対になった状態で、ガウスの法則が成立する。
ここで、第2式のdivを作ると、div rotH=0、div ∂D/∂t=∂(divD)/∂t=∂ρ/∂tの関係になり、
∂ρ/∂t+divi=0
はつまり
を得る。すなわち、ρとiは、常に、この関係(電荷の保存則)を満たしている。
また、第4式、divB=0は、任意のベクトル関数Aのrot(回転)で表示でき、B=rotA=∇×Aで与えられる。
一般に、Aはベクトルポテンシャルと呼ばれる。
なお、D(coulomd/meter2)とE(volt/meter)、B(weber/meter2)とH(ampere/meter)、i(ampere/meter2)とE(volt/meter)の間には、物質の内部において、次の関係が成立する。
D=εE
B=μH
i=κE
ここで、εは誘電率(farad/meter)、μは透磁率(henry/meter)、κは電気伝導度(1/ohm・meter)である。
特に、真空中では、D、E、B、Hの間に、次の関係がある。
D=ε0E
B=μ0H
この場合、真空の誘電率ε0=(1/4πc2)×107=8.854×10-12 farad/meter、
真空の透磁率μ0=4π×10-7=1.257×10-6 henry/meter が与えられる。
但し、光の速度c=2.998×108 meter/sec である。
(参考)ベクトル微分演算子の成分表示
A.直交座標系(x,y,z)
divD=∇・D=∂Dx/∂x+∂Dy/∂y+∂Dz/∂z
{rotE}x={∇×E}x=∂Ez/∂y−∂Ey/∂z
{rotE}y={∇×E}y=∂Ex/∂z−∂Ez/∂x
{rotE}z={∇×E}z=∂Ey/∂x−∂Ex/∂y
B.円筒座標系(r,θ,z)
divD=∇・D=(1/r)∂(rDr)/∂r+(1/r)∂Dθ/∂θ+∂Dz/∂z
{rotE}r={∇×E}r=(1/r)∂Ez/∂θ−∂Eθ/∂z
{rotE}θ={∇×E}θ=∂Er/∂z−∂Ez/∂r
{rotE}z={∇×E}z=(1/r)∂Eθ/∂r−(1/r)∂Er/∂θ
C.極座標系(r,θ,φ)
divD=∇・D=(1/r2)∂(r2Dr)/∂r+{1/(rsinθ)}∂{sinθDθ}/∂θ
+{1/(rsinθ)}∂Dφ/∂φ
{rotE}r={∇×E}r={1/(rsinθ)}∂Ez/∂θ−∂Eθ/∂z
{rotE}θ={∇×E}θ={1/(rsinθ)}∂Er/∂φ−(1/r)∂{rEφ}/∂r
{rotE}φ={∇×E}φ=(1/r)∂{rEθ}/∂r−(1/r)∂Er/∂θ
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4.電磁波の波動方程式
真空中では、マクスウエルの電磁方程式、
rotE=−∂B/∂t
rotH=i+∂D/∂t
において、i=κE=0(κ=0) であり、
D=ε0E
B=μ0H
を代入すれば、
rotE=−μ0∂H/∂t
rotH=ε0∂E/∂t
となる。ここで、第2式を時間tで微分して第1式に代入すると、
ε0μ0∂2E/∂t2+rot rotE=0
を得る。直交座標系では、rot rotE=grad(divE)−ΔEであり、真空中では、divE=0であるから、
ε0μ0∂2E/∂t2−ΔE=0
となる。同様にして、
ε0μ0∂2H/∂t2−ΔH=0
を得る。これらは、電界Eおよび磁界Hの各座標成分が波動方程式を満たし、真空中では、速度c=1/√(ε0μ0)で伝わる波動が存在することを意味する。すなわち、これが電磁波であり、光の速度c=2.998×108 meter/secondで伝搬する。
結局、真空中において、電界Eも磁界Hも、次の波動方程式が成立する。
(1/c2)∂2E/∂t2−ΔE=0
(1/c2)∂2H/∂t2−ΔH=0
なお、この波動方程式は空気中でも成立すると考えられる。
(文責:yut)
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