熱の正体

温度
エネルギー
熱の仕事当量

熱の正体

1.熱の特性とその利用
 物体を熱すると温度が高くなる。温度の高い物体と低い物体を接触させると、高い方から低い方へ、熱が移動して、双方の温度が等しくなる。熱の伝達はエネルギーの移動である。熱はエネルギーの一つの形態である。

 熱がエネルギーと同等であることは、イギリスのジュール(1818年−1889年)によって確かめられ、熱の仕事当量が測定された。現在、精密な測定結果によると、「1カロリー=4.1855ジュール」であることが確かめられている。

 熱の移動には、伝導、対流、放射の三形態がある。固体や流体の内部に温度の不均一が生じると、内部を熱が伝わり、温度の不均一を無くそうとする。

 流体の内部で物質の移動が起こらなければ、固体や流体の内部では、熱だけが輸送される。この現象が熱伝導である。この場合、単位時間に単位面積を通過する熱量(熱流束)は、温度勾配に比例する。この比例定数は熱伝導係数と呼ばれる。この関係は、1804年にビオー(Biot)がその基本的な法則を導入したが、1822年にフーリェ(Fourier)が数学的理論と厳密な実験との比較結果を報告した。このために、この分野ではフーリェの貢献が著しいので、フーリェの法則と呼ばれている。

 流体の内部で温度の不均一性が大きくなると、熱による流体の膨張によって、流体内部で重力と浮力の不均衡が生じて、物質の移動を伴う熱の輸送(熱対流)が起こる。対流による熱の輸送は、対流熱伝達とも呼ばれ、物質の移動が伴うので、熱伝導よりも効率的に熱が伝えられる。このため、対流を強制的に生じさせる方法(強制対流熱伝達)も考えられている。

 放射は電磁波を伴って熱が伝わる現象である。電磁波は真空中でも伝わるので、真空中での熱の輸送が可能である。一般に、あらゆる物体は、その温度に応じた振動数および強度の電磁波を放出している。この場合、物体の温度が高くなるにつれて、大きな振動数の電磁波ほど強く放射される傾向にある。

2.状態方程式の発見
 気体を熱すると膨張する。膨張した気体を冷やすと収縮する、熱したり冷やしたりして、気体が膨張したり収縮したりする現象は強い力に変換することができる。その典型が蒸気機関である。この力を利用すれば、人間や家畜は重労働から開放される。しかし、極度に膨張した水蒸気はシリンダーやボイラーの中で高圧蒸気になる。この高圧蒸気は良く爆発事故を起こした。ワットの蒸気機関は、外部で蒸気を冷やす復水器を取り付け、ピストンの往復運動を回転運動に変える機構を付与して、大幅な改良を加え、安全性と効率性を高めた。そして、17世紀から18世紀にかけての産業革命が始まり、熱力学が発展した。

 その後、燃料をシリンダーの外で燃やすのではなく、シリンダーの中で直接的に燃やす内燃機関が登場した。現在の車のエンジンと同様の方式が、開発され、改良されたのであった。熱が気体を膨張させ、それが力に変換される仕組みの中で、一定の関係式が見出された。それが「ボイル・シャルルの法則」である。

 「ボイル・シャルルの法則」は、状態方程式とも呼ばれ、

   圧力×体積/温度=一定

という関係を見出したのである。この時、気体の温度と体積の関係を調べると、温度が低くなるにつれて体積が減少する。この関係はほぼ直線、体積が0になる温度を求めると、およそ−273℃となる。その後、この温度は絶対零度と呼ばれ、絶対零度を基準にした温度(絶対温度)を使用すれば、体積と温度の関係が比例するという法則が生まれた。この関係がシャルルの法則である。一方、圧力と体積の関係、これはボイルの法則と呼ばれ、反比例の関係にある。

 次の問題はこの一定値にある。すべての種類の気体に適用できる一定値の存在が検討され、気体分子のモル数nと気体定数Rの積で表現できることが判明した。ここで、モル数とは、現在、0.012キログラム(12グラム)の炭素12の中に存在する原子の数と等しい数の要素粒子又は要素粒子の集合体(組成が明確にされたものに限る)で構成された系の物質量とされる。また、気体定数RはR=NA・k=8.31451(ジュール/モル/K)であり、NA はアボガドロ定数(NA=6.0221367×1023/モル)、kはボルツマン定数(k=1.380658×10-23ジュール/K)である。なお、アボガドロ定数とは1モルに含まれる構成要素の粒子数である。

 厳密には、圧力P、体積V、絶対温度T、モル数n、気体定数Rとして、

  P・V=n・R・T

の関係式に従う気体を理想気体と呼び、現実の気体はこの関係式から、諸々の事情が存在し、若干の乖離が見られ、気体の種類により実験的な多くの補正式が提案されている。

3.熱の分子運動論
 すべての物質は分子や原子から成り立っている。熱の正体は、激しい分子運動であり、熱の移動は分子の運動エネルギーの移動である。つまり、熱はエネルギーの一形態である。

 温度の高い物質から温度の低い物質への熱の移動は、2つの物質が接触すると、相互の分子や原子が衝突を繰り返し、それぞれの持つ運動エネルギーを分け与えて平均化する現象である。しかし、物質の中の分子や原子の運動は、激しく動くものもあれば、たまたま遅くなるものもある。温度が高い物質には、動きの激しい分子や原子が多くある。物質の中の粒子の運動は、やがてそのエネルギーがどの粒子も同じようになる。それは衝突によるエネルギーのやり取りの結果である。この状態は、粒子の運動が平均化され、熱の流れが無くなることを意味し、「熱平衡」と呼ばれる。

 熱は物質ではない。分子や原子あるいは様々な粒子の運動であり、その粒子運動の持つエネルギーが熱の正体である。このような系(システム)は、統計的な考え方(統計力学)に基づいて取り扱われる。つまり、熱力学は統計力学でもあるといえる。

 そこで比熱を考えてみる。比熱とは1gの物質の温度を1℃(1K:1度ケルビン)上げるのに必要な熱量である。水の場合、1gの水を1℃(1K:1度ケルビン)上げるのに必要な熱量は1カロリーである。したがって、水の比熱は、1カロリー/(gK)=4.1855ジュール/(gK)となる。これはジュールによる熱の仕事当量から求められる。

 この比熱の概念はマクロの世界の物理量である。そこで、これをミクロの世界の分子や原子の運動から関係付けてみたい。

 いま、x軸とy軸とz軸からなる立方体の容器を考えて、その中に気体を入れ、気体の分子がx軸方向に平均の速さvxで運動すると仮定する。この場合、容器の壁面に気体分子が衝突して、壁面に加わる圧力を求めると、

  気体の圧力×気体の体積=気体の全質量×vx2

という関係式が成立する。

 次に、1モルの気体を考え、気体分子1個の質量をmとして、ボイル・シャルルの法則は、

  気体の圧力×気体の体積=R×気体の絶対温度

が成立する。ここで、Rは気体定数(R=NA・k=8.31451 ジュール/モル/K)である。

 また、1モルの気体の質量は、

  1モルの気体の質量=m・NA

で表せる。ここで、NAはアボガドロ定数(NA=6.0221367×1023 /モル)である。

 これらの結果、x軸方向の気体分子1個の運動エネルギーは、

  (1/2)・m・vx2 =(1/2)・k・T

が成立する。ここで、kはボルツマン定数(k=R/NA=1.380658×10-23 ジュール/K)である。これは、気体分子1個の運動エネルギー(右辺)と温度Tの気体の熱エネルギー(左辺)とが等しいことを意味している。

 しかし、この考え方は、気体分子1個の運動は、x軸方向のみを対象にしている。実際には、x軸とy軸とz軸からなる立方体の容器において、気体分子の運動は、x軸以外に、y軸やz軸の方向の速度成分を持っている。そして、どの方向を考えても、気体分子1個の運動エネルギーと温度Tの気体の熱エネルギーの関係は同様の結果になる。したがって、気体分子の平均速度をそれぞれvx、vy、vzとすると、分子1個の平均エネルギーは、

  (1/2)・m・(vx2+vy2+vz2)={(1/2)・k・T}×3

となる。これは分子運動の3つの成分が平等に等しい熱エネルギー{(1/2)・k・T}を担っていることを意味する。一般的には、統計力学上、全ての力学的自由度に対し、運動エネルギーは、それぞれの独立した自由度毎に{(1/2)・k・T}の熱エネルギーとして分配される(エネルギー等分配則の法則)。

 さて、1モルの理想気体(各分子間に働く力が無視できるような希ガス状の気体)を考えると、1モルの中にアボガドロ定数NA だけの個数の分子が存在する。この場合、1個の1原子分子ならば、その自由度は、x,y,zの3自由度、1モルの原子分子の全自由度は、3×NA となる。

 水素分子(H2)や酸素分子(O2)は2原子分子、ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)は1原子分子である。2原子分子の場合、自由度は、x,y,zの3自由度に、1つの原子を中心にもう1つの原子の自由度として、θ方向の回転とφ方向の回転が可能であり、さらに2自由度の動きが加わり、1個の分子が5自由度を持つことになる。したがって、1モルの2原子分子の全自由度は、5×NA となる。

 このことから、1モルの1原子分子と2原子分子の全エネルギーは、エネルギー等分配則の法則を適用して、

  E1=(3/2)・NA・k・T=(3/2)・R・T  ・・・ 1原子分子の場合
  E2=(5/2)・NA・k・T=(5/2)・R・T  ・・・ 2原子分子の場合

となる。

 この結果、これらの理想気体の1モル当りの比熱(モル比熱)を考えると、

  1原子分子のモル比熱=E1/T=(3/2)・R=12.47 ジュール/(モル・K)

  2原子分子のモル比熱=E2/T=(5/2)・R=20.79 ジュール/(モル・K)

となる。

 この結果は、現実の気体のモル比熱の測定値と比較すると、かなりの一致を見る。代表的な希ガスのモル比熱の測定値は次のようである。

  1原子分子の気体      モル比熱(ジュール/モル/K)
    ヘリウム(He)        12.64
    アルゴン(Ar)        12.52

  2原子分子の気体      モル比熱(ジュール/モル/K)
    水素(H2)          20.09
    窒素(N2)          20.34
    酸素(O2)          20.85

 固体の場合、分子間あるいは原子間の結び付きが比較的強く、希ガスのように分子や原子をバラバラにして、それぞが空間を自由に運動できるとするモデルで捉えることができない。むしろ、隣接する分子あるいは原子がバネのようなもので四方八方に結び付いているとするモデルが考えられる。つまり、分子や原子という粒子の数のバネの集合として捉える。この場合、1つの粒子(分子や原子)は、x,y,zの3方向の自由度が許され、1モルの中に3×NA のバネが存在し、1つのバネには「k・T」のエネルギーが等配分されていると考える。したがって、1モルの固体の全エネルギーは、

  E=3・NA・k・T=3・R・T

になると考えられる。この結果、固体のモル比熱は、

  固体のモル比熱=3・R=24.94 ジュール/(モル・K)

となる。

 この考え方は、デュロン・プティの法則 (Dulong & Petit)の法則とも呼ばれ、固体元素の定容モル比熱が、常温付近(デバイ温度より大きい領域)ではどれもほとんど等しく、気体定数のほぼ3倍になるということを1819年に発見された。

 代表的な固体の金属元素のモル比熱の常温での測定値は次のようである。

    金属元素        モル比熱(ジュール/モル/K)
   マグネシウム(Mg)       24.91
   アルミニウム(Al)       24.28
   チタン(Ti)          24.87
   バナジウム(V)         25.37
   クロム(Cr)          23.94
   マンガン(Mn)         26.45
   鉄(Fe)            25.70
   コバルト(Co)         24.40
   ニッケル(Ni)         25.79
   銅(Cu)            24.45
   亜鉛(Zn)           25.03
   ニオブ(Nb)          25.24
   モリブデン(Mo)        26.50
   タングステン(W)        25.41
   白金(Pt)           25.62
   金(Au)            25.70
 ここまでは、分子運動に基づいて、うまく説明できた。しかし、温度を低くすると、モル比熱は次第に小さくなり、絶対零度に近付くと、モル比熱も限りなく0に近くなる。この問題を解決するには量子力学的な概念の導入が必要であった。

4.熱の放射の問題
 イギリス産業革命は、鉄鋼の時代、鉄を精錬する溶鉱炉で、精度の高い温度測定が不可欠であった。溶けた鉄は温度が高くなるにつれて、赤い色から白っぽく変色する。炉を熱すると、炉壁の温度が高くなる。温度の上昇はエネルギーが高く強くなること、炉内の温度が高くなると、空間をエルルギーが伝わる。

 空洞放射は、黒い炉壁を熱した時、空洞中には壁からのエネルギーで満たされ、そこから空間をエネルギーが伝わる現象、この現象が放射、輻射とも呼ばれる。放射の強度は光(電磁波)の色の変化、色の変化は光の振動数の変化、波長の変化である。光の振動数と光の強さの関係は、ある振動数で光の強さがピークになる。低温では振動数のピーク値が低く、高温になると振動数のピーク値が高くなる。

 空洞放射の振動数νに対する光の強度Uはウィーンの式で関係付けられていた。

  U=a・ν3・exp{−b・ν3/(cT)}

ここで、a,b,cは実験値に合せて決めていた定数である。この式は振動数の高い領域では高い精度を持っていた。しかし、振動数の低い領域では実験値を再現することができなかった。

 レイリー・ジーンズは気体分子運動論から、光の強度Uと振動数νとの関係を導いた。

  U=(8・π・k・T/c3)・ν2

ここで、kはボルツマン定数、cは光の速度である。この式は振動数の極めて低い領域ではからりの精度があった。しかし、振動数が高い領域になると実験事実を全く説明できなかった。

 そこで、プランクは次のような式を発表した。

  U=(8・π・ν/c)・h・ν/[exp{h・ν/(k・T)}−1]

この式は、振動数が高い時にウィーンの式なるように、振動数が低い時にレイリー・ジーンズの式なるように、巧妙な細工が施されている。それはexp{h・ν/(k・T)}の存在にある。h・ν>>k・Tならば、ウィーンの式に近付く。逆に、h・ν<<k・Tならば、レイリー・ジーンズの式に近付く。注目すべきは、定数hの存在にある。これは、プランク定数と呼ばれ、

  h=6.626×10-34   ジュール・秒

と与えられる。なお、ボルツマン定数は、

  k=1.38066×10-23   ジュール/K

である。

5.熱力学の法則
 熱力学には、次の重要な4つの基本法則がある。

  1.熱力学第零法則
    物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならば、AとCも熱平衡にある。

  2.熱力学第一法則(エネルギー保存則)
    系の内部エネルギーの変化は外部から系に入った熱と外部から系に対して行われた仕事の和に等しい。

  3.熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)
   @熱が低温の物体から高温の物体へ自然に移動することはない。(クラウジウスの表現)
   A温度の一様なひとつの物体からとった熱は全て仕事に変換できる。
    それ以外に何の変化も残さないことは不可能である。(トムソンの表現)
   B第二種永久機関は存在しない。
   C断熱系で状態変化が起こる時、エントロピーは必ず増加する。(エントロピー増大の法則)
    但し、可逆的な変化ではエントロピーの増加は0となる。

  4.熱力学第三法則(絶対エントロピーの定義)
絶対零度でエントロピーはゼロになる。

この場合、第0法則は、温度が一意に定まることを示している第1法則は、閉鎖された空間では外部との物質や熱、仕事のやり取りがない限り、熱(そしてエネルギー)の総量に変化はないということを示している。第2法則は、エネルギーを他の種類のエネルギーに変換する際、必ず一部分が熱エネルギーに変換されるが、熱エネルギーを完全に他の種類のエネルギーに変換することは不可能であるということを示している。つまり、どんな種類のエネルギーも最終的には熱エネルギーに変換され、どの種類のエネルギーにも変換できずに再利用が不可能になるということを示している。第3法則は、絶対零度よりも低い温度はありえないことを示している。

6.熱の量子論的な考察
 現実的な物質を構成する粒子(分子や原子など)の運動は非常に複雑で自由度の大きな力学系である。したがって、多数の粒子から出来ている系は、任意の瞬間における系の状態を決定することが不可能である。

 系の中の粒子の運動は、微視的に見れば、不規則な運動をしており、外部からエネルギーを得たり、外部へエネルギーを与えたりしている。この時、系は微視的なエネルギーのゆらぎ(粒子の密度のゆらぎ)を起こしながら、巨視的にエネルギー保存則が成立している。

 統計力学では、系の巨視的な物理量を捉え、系の平均的な値を求めることになる。系の状態は、自由度の数だけ、その座標に対応する運動量で表すことができる。そして、これらの座標と運動量は、運動方程式を満足しながら、時間と供に非常に複雑な変化をする。この場合、時間的な経過を辿る内に、座標と運動量のある値は、確率的に取り扱うことが可能になる。

 古典的な近似では、飛び飛びのエネルギー準位を与える系の中の量子状態の数が粒子の数に比べて、極めて大きいとする。この場合、系のエネルギー状態は連続的に考えることができ、あるエネルギー状態の粒子数の平均は、マクスウエル・ボルツマン統計によって与えられる。この統計は古典統計とも呼ばれる。

 量子論的に見れば、粒子の座標と運動量を同時に観測できないので、飛び飛びのエネルギー準位が存在する。この量子状態のエネルギーを無視できない時、量子統計が用いられる。この場合、量子状態を占める粒子数niに関して厳格な規則があり、

  ni=0 or 1      半整数スピンを持つフェルミ粒子
  ni=0,1,2,・・・  整数スピンを持つボース粒子

が存在する。したがって、量子統計では、フェルミ・ディラック統計とボース・アインシュタイン統計が用いられる。そして、それぞれの統計力学に基づいて、あるエネルギー状態の粒子数の平均を求めることが可能になる。

 物理的に知られている粒子の性質は、大きく2種類に区分できる。フェルミ粒子(フェルミオン)とボース粒子(ボゾン)である。

 フェルミ粒子は、同一のエネルギー準位の軌道を占める粒子の数が「0」か「1」になるような、排他原理に従う粒子である。排他原理では、粒子のスピン(スピン角運動量あるいは固有の角運動量)が半整数倍になる。ここで、軌道とは、1個の粒子の系に対する波動方程式(シュレディンガー方程式)の状態を表す。

 例えば、電子を考えると、一般に、電子が定めることのできる軌道の数は無限個ある。しかし、N個の電子はその内のN個の軌道を占有する。したがって、電子はフェルミ粒子である。

 ボース粒子は整数値のスピンを持つ粒子である。そして、1個の軌道を占めるボース粒子の数は何個でもよい。光子(フォトン:電磁場の量子)や音子(フォノン:物質内の弾性波の量子)は代表的なボース粒子である。

 特殊なボース粒子もある。ヘリウムの同位体のヘリウム4(4He)はボース粒子とされている。但し、ヘリウム3(3He)はフェルミ粒子である。ヘリウム4の特徴は、液体ヘリウムの低温相(T<2.17K)で超流動性を示す。超流動とは、極低温において液体ヘリウムなどの流動性が高まり容器の壁面を這い上がって外へ溢れ出たり、原子1個が通れる程度の隙間に浸透したりする現象である。量子効果が巨視的に現れたものとされ、1937年にヘリウム4が超流動性を示すことをカピッツア (P. L. Kapitza) が発見した。ヘリウム3では超流動性は観測されない。したがって、超流動性はボース粒子の特徴的な物理的性質と考えられる。

 このことから、ボース粒子は2種類が存在する。ひとつは閉じた容器の中でも、孤立した試料の中にあっても、その数が変化するようなボース粒子である。光子や音子などであり、光子は、閉じた容器の中で、容器の温度が上昇すると、その数も増加する。もうひとつは閉じた容器や孤立した試料の中で、その粒子の数が不変なボース粒子である。ヘリウム4は閉じた容器の中で、漏れがない限り、その粒子数(原子の数)は不変である。

(文責:yut)

戻る