素粒子を考える


 物質を限りなく分割すると、いずれはもうそれ以上に分割できない究極の物質に到達するという。そのような最後の物質はアトムと呼ばれる。現在、このアトムと考えられるものとして、電子、陽子、中性子がある。その内、陽子と中性子は原子核を形成し、原子核と電子とで元素(原子)を構成している。元素は、水素、ヘリウム、リチウム、・・・など、100種類以上が発見されている。それは原子核の持つ電荷量で区別され、同じ電荷量の元素でも原子量(原子の静止質量)の異なるものがある。原子量の異なる同じ電荷量の元素は同位体と呼ばれる。元素は単独で存在するものもあるが、複数の元素が組合わさり、分子を構成して、多様な物質を生み出している。つまり、アトム(原子)が集まって物質を造る。

 原子核と電子は荷電粒子の持つ、プラスとマイナスの電荷が引き合う力、クーロン(coulomb)力による電磁相互作用によって結び付いている。しかし、原子核を構成する陽子と中性子あるいは陽子と陽子は別な力(強い力)が働いて結び付いていると考えられている。運動する二つの荷電粒子間に働く電磁相互作用は、電磁波(光)が媒介しており、波と粒子を結び付ける考え方(ド・ブロイの物質波)から、光子と呼ばれる粒子が作用している。同様に、原子核の粒子(核子)を結び付ける光子と異なる別な力(強い力:核力)を媒介する粒子として中間子(湯川秀樹のπ中間子)が考えられた。また、量子力学の発展により、粒子は飛び飛びの量子状態(エネルギー準位)で存在することが判明している。そして、同一の量子状態で排他的な振る舞いをする粒子(フェルミオン)と同一の量子状態に複数の存在を許す粒子(ボゾン)に区別される。物質を構成する電子や陽子や中性子はフェルミオンの性質を持ち、光子や中間子などはボゾンと呼ばれる性質を有している。つまり、ボゾンはフェルミオンを繫ぎとめる糊のような役目をしていると考えられている。

 その後、極めて短い時間にしか観測されない多くのボゾンやフェルミオンが発見された。そのほとんどは電子や陽子や中性子を破壊しようとする試みから観測された。大きく分類すると、電子の仲間の軽粒子、陽子や中性子の仲間の重粒子、粒子を繫ぎとめる中間子の仲間、光子のような働きをするケージボゾンと呼ばれる仲間がある。特に、原子核の陽子や中性子をさらに破壊しようと試みられたが、結果的に破壊に成功しなかった。中性子は原子核から飛び出すと、平均15分強の寿命で、陽子と電子とニュートリノに崩壊する。中性子は原子核の中でしか安定に存在できない。その後、陽子や中性子はクォークと呼ばれる素粒子によって構成されていることが判明した。クォークの存在が明確になったのである。

 クォークは単体では存在できない。電荷は−1/3あるいは+2/3を持ち、6種類のクォークが見出された。それは色や匂いと呼ばれる性質を持つとされた。質量の軽いものから順に、アップ(uクォーク:電荷+2/3)、ダウン(dクォーク:電荷−1/3)、ストレンジ(sクォーク:電荷−1/3)、チャーム(cクォーク:電荷+2/3)、ボトム(bクォーク:電荷−1/3)、トップ(tクォーク:電荷+2/3)と呼ばれた。その結果、原子核の陽子はuud、中性子はuddの3つのクォークからなる組合せで構成されることが判明した。しかし、クォークを単体で取り出すことは不可能であった。また、それぞれのクォークには反クォークがあり、電荷の異なる反粒子の存在も明らかになった。中間子は2つのクォークからなる組合せで構成されていることも判明した。

 電子や陽子は安定した粒子であるが、多くの素粒子は不安定で幾つかの崩壊の型が存在する。クォークの組合せで生まれる粒子はハドロンと呼ばれる。ハドロンはクォークを結び付けるグルーオンという糊粒子が介在している。一方、電子などの軽粒子はクォークから生まれる粒子ではなく、レプトンと呼ばれる。そして、レプトンとクォークにはある類似性がある。現在知られているレプトンは、電子(電荷−1)、電子ニュートリノ(電荷0)、ミュー粒子(電荷−1)、ミューニュートリノ(電荷0)、タウ粒子(電荷−1)、タウニュートリノ(電荷0)の6種類である。また、それぞれのレプトンには電荷の異なる反粒子が存在する。

 レプトンとクォークには、電荷が1単位だけ違う2つの素粒子からなる3つの世代がある。第一世代は、uクォーク(電荷+2/3)とdクォーク(電荷−1/3)、電子(電荷−1)と電子ニュートリノ(電荷0)である。第二世代は、cクォーク(電荷+2/3)とsクォーク(電荷−1/3)、ミュー粒子(電荷−1)とミューニュートリノ(電荷0)である。第三世代は、tクォーク(電荷+2/3)とbクォーク(電荷−1/3)、タウ粒子(電荷−1)とタウニュートリノ(電荷0)である。これらは世代内の2つの素粒子が弱い力で互いに転換する。例えば、陽子内のuクォークがdクォークに転換すると中性子になる。中性子内のdクォークがuクォークに転換すると陽子になる。この現象は核反応としても知られ、質量の増減に伴う相当なエネルギーが介在する。電子は比較的容易に電荷を持たない電子ニュートリノに転換する。そして、これら3つの世代は質量以外に同一の性質を持っている。しかし、レプトンとクォークにどのような関係があるのかはいまだに知られていない。

 結果的に、物質は少数のクォークとレプトンから成り立っている。そして、それを支配しているのは、4種類の自然力であるという。これらの自然力は、すべて粒子を交換することで働く。4種類の自然力とは、重力、電磁気力、弱い力、強い力、である。その力の程度は、強い力を基準にすると、「強い力:電磁気力:弱い力:重力≒1:0.01:10-5:10-40」である。

 重力は重力子と呼ばれる力の伝達粒子が介在する。すべての素粒子に引力(万有引力)として働き、その力は遮断されることなく、無限遠まで作用し、マクロの世界(宇宙)を支配している。重力は重力子の交換によって伝達され、重力子そのものの質量は無いとされるが、重力は物質の質量に比例することが知られている。質量はエネルギーと等価(E=mc2)であり、素粒子の質量は極めて小さいので、素粒子間に働く重力の作用はほとんど無視できる。

 電磁気力は、電気力と磁気力として作用するが、この2つの力は同一のものである。日常で経験されるのは、重力以外はほとんどが電磁気力である。特に、原子核と電子を結び付ける力、原子と原子を結び付け分子を作る力は電磁気力による。電磁気力は光子を交換することで伝わり、光子に質量は無いとされ、遮断されなければ遠くまで届く。なお、電磁気力は電荷に比例し、電荷を持つ粒子は、光子を交換しながら運動している。

 弱い力は、電磁気力に比べてはるかに弱く、極めて短い距離の間で働き、すべてのクォークとレプトンに作用する。この力は、原子核の崩壊(ベータ崩壊)や中性子あるいは中間子などの粒子の崩壊に作用し、粒子の種類を転換することのできる力とされる。弱い力を媒介する粒子は、W粒子とZ粒子の交換にあるとされる。W粒子とZ粒子は、光子と同様な質量を持たないゲージ粒子であったが、真空中のヒッグス場との相互作用で質量を持ったとされている。ヒッグス場とは、素粒子の質量を決定する重要な役割を演じ、真空中を含む、すべてにヒッグス場が存在し、空間の至る所に潜むヒッグス粒子を介して、その強さが強いほど素粒子の質量が大きくなるという性質を持つ粒子である。ヒッグス粒子は、1964年にピーター・ヒッグスによって提唱され、2012年にヒッグス粒子とみられる新粒子が発見された。

 強い力は、クォークのようなカラー荷を持つ素粒子に働くとされる。電磁気力の約100倍程度大きさを持ち、クォークとクォークを結び付け、陽子や中性子を形成し、原子核の中では、電磁気力に打ち勝って、陽子と陽子を結び付けることができる。強い力は質量の無いグルーオンと呼ばれる粒子が介在し、カラー荷に比例するとされ、その力は距離が離れる程強くなる。

 なお、今後の素粒子論の進展は、素粒子の質量の決定に関与するヒッグス粒子の解明にあるとされている。そのことによって、自然界を支配するより基本的な概念が明確になると考えられる。

(文責:yut)


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