時間と空間の不思議

時間と空間
宇宙
素粒子
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相対性理論

時間と空間の不思議

 現代は、宇宙の果てからミクロの素粒子まで、広範囲の時間と空間の世界を考えることができる。私達の日常生活は、人間の寿命を約百年と考え、一年毎の繰り返しと毎月や毎日の活動空間の中で時間が経過している。人類の誕生は約百万年前、文明の進化は約一万年前を遡ることができる。宇宙空間では、遥か遠くの星について、光の速さを基準に、何万光年とか、何百万光年あるいは何億光年などのように呼び、巨大な距離を定義している。光の速さは約30万km/秒である。宇宙が誕生したのは約150億年前、とすると150億光年の遠くの星の光は150億年前の宇宙を覗いていることになる。

 150億年前の宇宙は、ビッグバン説によると、小さな塊のようであったという。その宇宙は膨張を続け、今でも膨張しているとされる。そのような状態の中で、150億光年もの遠くの宇宙は小さな塊の外壁になるのだろうか。もしも、そうだとすると、その宇宙の中に存在する私たちは小さな塊の中に存在していることになる。

 一方、ミクロの世界を覗く時、膨大なエネルギーを必要とする。粒子と粒子を衝突させて、粒子を破壊し、その奥の現象を調べるのだ。そこには気の遠くなるような小さな世界が存在する。特に、粒子の運動量と位置を同時に正確には測ることができないという量子力学的な事実現象が存在する。これは不確定性原理と呼ばれ、ある2つの物理量の組合せにおいては、測定値にばらつきを持たせずに2つの物理量を測定することはできない。量子力学上において、ある物理量AとBに対して、Aの測定値の標準偏差とBの測定値の標準偏差との両方を0にするような量子状態は存在しない。または、ある物理量AとBに対して、Aの値の測定精度、および物理量Aの測定というプロセスによって生ずるBの測定値への擾乱の両方を0にすることはできない。つまり、ある物理量と、量子状態を指定するパラメータとの間の不確定性関係がある。それは、時間とエネルギー、位相と個数の不確定性関係などである。

 量子力学で記述される粒子の位置と運動量について考えると、粒子の位置を正確に測ろうとするほど対象の運動量が正確に測れなくなり、運動量を正確に測ろうとすれば逆に位置があいまいになってしまう。すなわち、この両者を完全に正確に測る事は絶対に出来ない。なぜなら、位置をより正確に観測する為にはより正確に「見る」という観測行為が必要だからである。極微の世界でより正確に見る為には、波長の短い光が必要、波長の短い光はエネルギーが大きいので観測対象へ与える影響が大きくなる。この結果、観測対象の運動量へ影響を与えてしまうのである。

 アインシュタインは1905年に特殊相対性理論(運動する物体の電気力学について)を発表した。光の速度が、光源の速度によらずに、常に一定であるという従来の実験結果を矛盾無く説明したのである。一般的には、速度の合成則が成立する。電車の中で、進行方向に走れば、電車の速度に走った速度を足した速度がその人の速度となる。もしも、逆向きに走れば、その人は電車の速度よりも遅くなる。しかし、光の速度は光源の運動によらず一定である(光速度不変の原理)。アインシュタインの考え方は、動いている物体は止まっていた時よりも長さが縮み、時間の進みが遅くなるというものであった。

 さらに、アインシュタインは、特殊相対性理論の論文に前後して、同じ年に、光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明の論文と質量とエネルギーが等価であるという論文(物体の慣性はその物体の含むエネルギーに依存するであろうか)を書いている。特に、質量とエネルギーの等価は「E=mc2」という質量とエネルギーの関係式を見出した。また、ブラウン運動の理論の構築や固体における比熱の理論である「アインシュタインモデル」の提唱など、現代物理学の基礎となる考え方も提示した。なお、加速度系と重力の等価を見抜き、重力場による時空の歪みを含むリーマン幾何学を用いて記述した一般相対性理論の発表は1915年以降であった。

 自然界の現象の記述は空間内の位置を指定する座標系とこの座標系に固定された時間軸を必要とする。この時、等速直線運動を前提にして、慣性形が無数に存在し、自然法則はすべての慣性系で同一となる。そして、異なる慣性系の物体との相互作用は、瞬時的に起こり得ずに、ある時間を必要とする。この概念を相対性原理と呼び、相互作用の伝播速度は光の速度を超えることができない。しかも、光の速度はあらゆる慣性系で一定の値を示し、光源や観測者の運動状態によらずに不変である。これが光速度不変の原理であり、相対的に運動している座標系では別々の時間の流れが存在することを意味する。

 いま、2つの慣性系として、KとK'を考え、K系を静止させ、K'系を速度vで等速運動させる。この時、K系のx軸とK'系のx'軸を運動の方向に一致させると、K系(x,y,z,t)とK'系(x',y',z',t')との間には、

  t={t'+(v/c2)x'}/√(1−v2/c2)
  x=(x'+vt')/√(1−v2/c2) , y=y' z=z'

が成立する。ここで、cは光速度(真空中ではc=2.99792458×108 m/sec)である。この関係はローレンツ変換と呼ばれ、2つの慣性系の間に変数変換の関係を与えている。ここで、v<<cとすれば、古典的なガリレイ変換に移行する。

 ローレンツ変換は、K'系の物体が速度u'でx'軸に平行に動く時、

  u=(v+u')/(1+u'v/c2)

を与える。また、K'系でx'軸に平行な物体の長さL'は、K系で眺めると、

  L=L'/√(1−v2/c2)

となる。これはローレンツ短縮と呼ばれる。さらに、K'系の時間t'とK系の時間tとの関係は、x'=0の時には、

  t=t'/√(1−v2/c2)

となり、運動系K'の時間の流れが静止系Kの時間の流れより遅くなる。

 ここで時間と空間の関係について幾つかの思考実験を試みる。いま、x軸方向に走る電車を考えて、電車内の座標系をK'とする。電車の中央に光源を置いて一瞬の光を出すと、車内では前後の壁に光が同時に到着する。電車内の前部と後部に時計を置けば、時計も同時刻を示す。しかし、車外の静止系Kから眺めると、光の速度は車内と同一であり、走っている電車内の前壁は光に追われ、後壁は光を迎えることになり、光は後壁に到着した後で前壁に到着する。光が後壁に到着した時はそこで時計が車内の到着時刻と同一時刻を示す。この時、前部は光が届いていないので、前部の時計は後から光が到着してから車内の時刻と同じになる。これは時刻の同時性が2つの慣性系によって異なることを意味し、後部の時計が前部の時計より先に進んで見え、時間が場所に依存することを示している。

 次に、運動系と静止系にいる人の時間の流れを考える。ここでは、電車内で光が下から上へ進み、反射して下に折り返すとする。車内の観測では、光が垂直に進み、反射して再び同じ軌跡を戻ってくる。しかし、車外の静止系の観測では光が運動方向に向って斜め上へ進み、折り返すと斜め下に向う。この光の軌跡は斜めであり、車内での光の軌跡より長い距離を進む。このことは等速運動をする車内では時間が車外の静止系よりもゆっくりと進むことを意味する。

 最後に、ローレンツ短縮による長さの相対性を考える。再び、電車内中央から前後の壁に向けて光を放つ。この時、光が前後の壁に到着すると同時に、車内から車外の静止系に目印を付ける。これを車外の静止系から観測すると、光の伝播は前後対称にならず、後壁に到着してから前壁に到着する。目印は光が前後の壁に到着した瞬間に付けるので、光が前壁に到着した時には、電車の後壁の位置は目印より先に移動している。すなわち、車外から眺めると、電車の前後の壁の位置が静止系の目印の位置より短くなっている。

 これらのことから、時間と空間が渾然一体となって関係していることがわかる。この裏付けとして、二重星や光の速度に近いπ中間子の出す光の速さの測定から光速度不変が確認されており、加速器による実験から素粒子寿命の延びがわかり、ジェット機を用いて地球の自転と逆の西回り一周による時計の進みや東回り一周による時計の遅れなどが確かめられている。

(文責:yut)


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