宇宙を考える

宇宙
太陽系
銀河系
ビッグバン

宇宙を考える

1.太陽系の話
 宇宙を考える時、地球と太陽系を理解するところから始まる。地球の半径は約6400km、太陽の半径は地球の約100倍あり約70万kmである。太陽は核融合エネルギーにより自ら輝く恒星、太陽系には8個の惑星(水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星)と3個の準惑星(冥王星、ケレス、エリス)、そして多数の太陽系小天体と惑星間塵が太陽を中心に公転軌道を周回する。火星と木星の間には多数の小惑星の軌道が集中している小惑星帯がある。また、惑星には地球の月のように衛星を持つものがある。なお、冥王星は1930年に発見され9番目の惑星とされたが、その後、海王星軌道の外側で太陽を公転する外縁天体が次々と発見された。そこで、比較的大きな質量を持つ小惑星や外縁天体を準惑星と呼ぶことになった。


太陽系の惑星とその衛星(画像クリックで拡大)

 太陽系は銀河系に多数存在する惑星系の一つ、銀河系の中心から2.5〜2.8万光年ほどの位置にあると考えられ、約220km/secの速度で銀河系内を周回し、約2億2千6百万年で銀河系内を1公転する。銀河系は数多くの恒星や星間ガスなどの天体の集まり、全質量は太陽の約6千億〜3兆倍と見積もられる。銀河系の形状はほぼ円盤状、その有効直径は約10万光年、中核部の厚さ約1.5万光年とされる。銀河系外には、私達の銀河系と同等の規模構造を持つ他の銀河系が幾つもあり、楕円、レンズ状、渦巻、不規則型などの系列が存在し、これらが銀河と呼ばれる巨大な天体を構成している。そして、さらに大きな銀河群、より大きな数千個の銀河を含む銀河団が存在する。銀河団の大きさは銀河の数百倍以上、2千万光年程度である。さらに、多数の銀河団からなる2億光年程度の大きさを持つ超銀河団へと続いている。超銀河団になると、物質分布は網状になり、何も存在しない空間がボイド状に孤立して存在する。つまり、銀河分布は一様でなく、銀河が存在する場所と存在しない場所があり、泡状の表面に銀河が存在し、特に泡と泡が接触する領域に大量の銀河がある。


2.宇宙の構造
 宇宙空間を観測する手段は望遠鏡、代表的な望遠鏡に光学望遠鏡と電波望遠鏡がある。光学望遠鏡には屈折望遠鏡と反射望遠鏡があり、大きいもので口径30〜40インチの屈折望遠鏡、200〜300インチの反射望遠鏡が世界に存在する。宇宙の観測、それは過去の宇宙を見ることを意味する。なぜなら、光の速さが有限のためである。ガリレオが月のアバタ面や木星の衛星を望遠鏡で発見して以来、望遠鏡は宇宙の神秘を次々と明らかにした。特に、エドウィン・ハッブルは最大級の望遠鏡を酷使し、アンドロメダ星雲が星の集団であること、さらに外部銀河系の星の運動を調べて膨張宇宙の証拠などを発見した。つまり、すべての銀河が我々から遠ざかっており、その遠ざかる速度が距離に正比例することを明らかにした。その比例定数はハッブル定数と呼ばれ、最新のNASAの観測結果によると、1Mpc(メガパーセル:距離で約326万光年)当り71±4km/secとされている。この結果、宇宙年齢は約137億年とされた。

 このような成果が生まれた背景に分光学の進歩がある。分光学では光の持つ波長を調べ、そのスペクトルによって物質を特定することができる。この世の物質はすべて固有のスペクトルを持ち、元素の原子に存在する電子の遷移過程で飛び飛びのエネルギー準位に対応し、固有の波長の光を吸収あるいは放出する。つまり、光は物質の持つ固有のスペクトルに対応し、物質の元素とスペクトル線との対応関係が存在する。このことから、物質の元素を同定できる。宇宙から来る光の分光技術の進歩により、初期宇宙の元素組成が次第に明らかになった。宇宙の元素構成の質量比は、水素71%弱、ヘリウム27%強、その他2%弱である。観測結果は水素やヘリウムなどの軽い元素が初期宇宙に生成されたと考えられる。また、より遠くの星から来る光の波長(固有のスペクトル)が少しずつ長波長へのズレることが判明した。これはドップラー効果と呼ばれる現象で、赤方偏移と呼ばれ、遠い銀河ほどその距離に比例した速度でより遠くへ速く離れていることを示している。


3.ビッグバン宇宙
 これらのことから、ビッグバン宇宙の概念が生まれた。ビッグバン宇宙とは、宇宙の最初期の状態がとてつもなく高い密度と温度の状態あるいはその状態から膨張(一種の爆発)して宇宙が生成されたとする説である。そして、ビッグバンは約137億年前にあったとされている。私達が観測している宇宙の果ては3次元空間の球体の地平線あるいは水平線に相当するものを4次元の時空で見ており、その先に4次元的に閉じた宇宙空間が存在する。そして、約137億年前の時空で1点に集中し、その近傍から発せられた光は時空の持つ質量で曲げられ、私達の現在の場所に光の情報を届けていると考えられる。地球の大気は、呼吸に必要な酸素や窒素を供給し、有害な紫外線やX線などの防壁にもなり、生命に多大な恩恵を与えてくれる。しかし、天体を観測するためには、大気の揺らぎ、星の光を散乱させ、紫外線やX線など短波長の電磁波を吸収してしまう。宇宙観測には大気圏外の宇宙に巨大な望遠鏡を設置するのが望ましい。そこで1990年に人工衛星軌道上に口径2.4mの反射望遠鏡を載せることに成功、ハッブル宇宙望遠鏡と命名された。当初は画像がぼやけるなどの失敗もあったが、1993年末に修理に成功?、驚嘆すべき多くの宇宙情報を届けている。宇宙の膨張速度が加速しているという証拠、多くの銀河の中心部にブラックホールがあるという観測、銀河系を取巻く暗黒物質の存在等、次々と宇宙の仕組みを解く鍵や証拠となるものを提供してくれている。

 広大な宇宙を考える場合、光の速さで1年を費やす距離を1光年とする。つまり、1光年は約9.45×1012kmである。宇宙が膨張しているならば、より遠くの天体は離れる速度が次第に速くなり、やがて光速度へ近付くことを意味する。アインシュタインの相対性理論によれば、光速度で動く天体の時間は停止する。単純に考えれば、137億光年の遥か彼方の天体は我々の銀河と相対的に光速度で離れ、そこでの時間は停止している。つまり、137億年前の宇宙がそこに存在し、全方位で137億年前の時空が一点に集中していた。幾何学的には、直線が円になると線の長さは有限な2次元空間に収まる。平面が球になるとその表面は有限な3次元空間に収まる。同様に、3次元空間に時間軸を考慮することで閉じた空間が存在する。相対性理論の基本的な骨子は光速不変の原理と等価原理にある。光速不変の原理は、真空中の光(電磁波)の速度が座標系の採り方によらず一定であり、光源の運動状態に無関係であることを意味する。この結果、別々の慣性系が相対的に光の速度で運動するにつれて、時間の進み方が遅くなる。一方、等価原理は加速度系と重力場が物理的に同一の概念であることを意味する。光速不変?原理は特殊相対性理論の基本原理であり、等価原理は一般相対性理論を考えるときに付与される基本概念になる。一般相対性理論によれば、強い重力場は直進する光をも曲げる。超銀河団の総質量は太陽の千兆倍もある。時空の一点から発せられた光は空間を旅し、宇宙を満たす物質の重力場に曲げられ、私達の観測する場所に届けられている。

4.宇宙の始まり
 宇宙空間の全域からほぼ均等に観測される様々な周波数の電磁波がある。宇宙背景放射と呼ばれる。特に、宇宙マイクロ波背景放射は宇宙全体から観測され、その周波数分布は2.725Kの黒体放射にほぼ完全に一致する。この放射はビッグバン宇宙の証拠であるとされている。宇宙マイクロ波背景放射は観測可能な最も遠くの宇宙から来る最も古い宇宙の光である。最近の宇宙論によると、宇宙マイクロ波背景放射は、ビッグバンの約40万年後、宇宙の温度が下がって電子と陽子が結合して水素原子を生成し、宇宙が放射に対して透明になった頃の痕跡である。この頃、宇宙の温度は約3000Kであったが、その後の宇宙の膨張により放射温度が約1/1100にまで下がった。ビッグバン直後は超高温度・超高密度のため、物質の陽子や電子が分離して激しく飛び回っている。これらの粒子は激しく運動して光を放出するが、周囲に激しく飛び回る電子が存在し、光は電子と衝突して散乱するので直進できない。このような物質はプラズマ状態にあると呼ばれ、温度が均一で熱平衡状態にある。しかし、宇宙が膨張して温度が約3000Kに下がると、陽子は電気的な力で電子を捉えて原子(最初は水素原子)を構成する。その結果、飛び回る自由電子が少なくなり、次第に光が邪魔されずに宇宙空間を直進する。この間、宇宙は膨張を続け、より低温状態になり、光の波長は引き伸ばされて、約137億年後の地球に届き、宇宙マイクロ波背景放射が観測される。この他に、宇宙背景放射として、宇宙赤外線背景放射や宇宙X線背景放射なども観測される。これらは最初に生成された初期の恒星からの光ではないかとされている。特に、宇宙X線背景放射の大半は点源からの光であることが確認されている。

5.宇宙の大きさ
 宇宙の大きさを考える場合、最初に、光行距離、共動距離、固有距離の概念の違いを理解する必要がある。また、地球上の人間が観測できる宇宙の大きさは、人類が電磁波(光)で観測可能な宇宙の果てとなり、観測可能な光の内、最も古い時代に放たれた空間を意味する。この宇宙の果てとなる空間は約137億年前に存在した。光はビッグバン後の宇宙の晴れ上がりで、空間に放たれた。その後、光は、光の旅した道のりで、約137億年後に地球へ到達した。光行距離とは、この光が地球に届くまでの間に、光が旅した道のりを意味する。

 しかし、この間、宇宙は膨張しており、宇宙の晴れ上がりの直後から約137億年の間に、宇宙は約1100倍に膨張したと考えられている。また、この空間は、当時、地球が存在していた位置から光の約60倍の速度で遠ざかっていたという。この現象は、空間の中で物質が光以上の速度で動く現象ではなく、空間自体の膨張を意味する。すなわち、約137億年前、最も古い時代に光が空間に放たれた時、この空間は、地球がある位置から地球を中心とする全方向に、宇宙論的な固有距離で、約4200万光年離れた位置にあったようだ。したがって、宇宙の果てとなるこの空間までの現在の距離(共動距離)は、約465億光年と推定されている。

 つまり、共動距離とは、2点間の距離を空間の伸縮の比と一緒に伸縮する(共動する)定規で測定した距離を意味する。この場合、定規自体が空間と一緒に伸縮するので、この定規で距離を測定すれば、距離は常に一定に測定されることになる。一方、固有距離は、2点間の距離を空間の伸縮には関係なく、一定の大きさの定規で測定した距離を意味する。この場合、定規自体は空間の伸縮と無関係に一定の大きさを保つので、この定規で距離を測定すると、距離は空間が膨張すれば大きくなり、逆に空間が縮小すれば距離は小さくなる。

 結局、観測可能な宇宙の果てとは、後退速度が光速度となる約137億光年であり、その地点からの光は約137億年を費やして地球に到着している。しかし、現在、地球に届いている約137億年前の光は、実際には現在の地球から約4200万光年離れた地点からの光であり、宇宙があまりにも速く膨張したので、光でも地球に届くのに約137億年も要したのである。この約4200万光年の距離が(宇宙論的な)固有距離と呼ばれている。そして、約137億年前に、約4200万光年の距離に存在した宇宙の果ては、現在、約137億光年の距離に見えるが、実際には、宇宙の膨張により、約465億光年の距離に遠ざかっている。この約465億光年の距離のことを共動距離という。また、この共動距離は、地球から可視宇宙の端まで、全方向の距離であり、可視宇宙は直径約930億光年の球体とも云える。

 なお、人間の観測可能な領域を超える宇宙は、共動距離的な意味で、インフレーション理論に基づくと、より広大であると推測されるが、現在、その大きさは有限なのか無限なのかすら明らかになっていない。光行距離的な意味で言えば、約137億光年以上の距離では、宇宙の晴れ上がり以前となり、光が閉じ込められて空間を直進できない。つまり、そのような距離そのものが存在しないことになる。しかし、もしも重力波が観測できるようになると、重力波も光速度で移動するが、光をも閉じ込めるブラックホールからの信号を捉えることができ、光行距離で約137億光年以上の距離からの信号を人類が受け取れるようになる可能性はあると思われる。

6.宇宙の神秘
 強いエネルギーが空間の一部に加えられると、そこの空間がひずみ、物質としての粒子対が生成される。例えば、光が消滅するとそこから電子と陽電子の対が生成し、電子と陽電子は合体して光になって消滅する。これらは対生成と対消滅とも呼ばれ、素粒子物理の世界で観測される。陽電子とは電荷が電子と反対のプラス電荷を持つ粒子で電子の反粒子と呼ばれる。電子が陽電子と合体して光を放出する時、陽電子の存在を未来から過去に時間を遡る電子と考えることができる。そして、過去に遡った電子は光を吸収して再び未来に進む電子になる。何も無い真空とは無と有の間を揺らいでいる状態、真空中から突然に電子と陽電子が出現し、すぐに結合して無になることが実験で確かめられる。量子論的には、無は完全な無ではなく、有と無の間を揺らいでいる。宇宙は無の揺らぎの中から生まれた。物理学的な無とは時間も空間も定義できない混沌とした状態のことである。しかしながらエネルギーはゼロでない。ホーキングの宇宙論は、時間と空間は有限で境界を持たないという着想に基づき、虚時間なる概念を用いて、ビッグバン宇宙説の特異点を解消した。約137億年前の宇宙は虚時間の中で生まれ、プランク時間(約5.4×10−44sec:量子力学における不確定性原理との関係上で測定可能な最小時間)を経て実時間の世界になり、想像を絶する超高温度で超高密度の空間になった。光のエネルギーは極めて高く、クォークが出現し、各種の素粒子が生成された。同時に、インフレーションと呼ばれる急激な膨張が起った。それは10−34secの間に大きさが1043倍になったという凄まじい膨張であった。やがて、陽子と反陽子の対消滅、電子と陽電子の対消滅が起った。温度が約千億度Kになると、陽子と中性子が近づきヘリウム原子核などが生成される。ビッグバンから約1秒後のことであった。

 インフレーション理論では、宇宙は誕生直後の10−36秒後から10−34秒後までの間に、エネルギーの高い偽の真空からエネルギーの低い実の真空に相転移したとされる。この過程で負の圧力を持つ偽の真空のエネルギー密度によって、引き起こされた指数関数的な膨張(インフレーション)があったとされている。この膨張は空間自体の膨張であり、空間の中の物質が光以上の速度で動く現象ではない。この急膨張が宇宙を一瞬にして均一化したと考えられている。しかし、量子論的なゆらぎが無くなったわけではなく、その後の宇宙を構成したようだ。このような宇宙は、空間的に果てがなく、時間的に始まりも終わりもない。

(文責:yut)


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