深夜特急(Midnight Express)
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それは赤いバックラム装幀の痛んだ古本。モーティマーが十二歳の時に父親の書斎 にある本棚の上段で見つけたものだった。広いだけが取りえの屋敷が闇に沈む時、彼
は寝室に持ち込み、蝋燭の灯で読むのだった。それは言い付けに背くことだったが、 彼はいつもそのことだけを考えていた。寝室は他から離れた小部屋だったので、家中
の者が闇に寝静まっている時、こっそり持ってきた燃えさしの蝋燭の灯りで辺りの暗 闇を押し止めることが出来た。年長者たちが眠りにつくのに反し、幼いモーティマー
の神経や脳細胞は生き生きと目覚めるのだった。
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