「あ―――…いい景色だなぁ」


 屋根の上から見下ろす外の景色

 高層ビルなんて存在しないこの世界では、
 見事な大自然の風景が遠くまで見渡せる




「こういう景色は、高い所から眺めるのも良いけど…
 自動車でドライブしても気持ちが良いんだろうなぁ…」


 本当は休みの間に取るはずだった運転免許証

 自動車すら存在しないこの世界では
 当然ながら免許の取得など出来ないだろうが…



 それでも、長年過ごした日本のことを度々思い出してしまう

 もしここに携帯電話があったら
 もしここにパソコンがあったら―――…

 そんな、あり得ない事を何気なく考えてしまう
 長年の習慣は、そう簡単には忘れることなど出来ないのだ




「あぁ…でも、やっぱり免許は取っておくべきだったな
 たとえ運転できなくても、持ってるってだけで違うもんなぁ…」

「………何の話…?」

「あぁ、ちょっと…な
 俺の故郷の話だよ」



 隣に座っているメルキゼデクが不思議そうに首をかしげている
 彼にとっては想像も出来ない世界に違いない

 いつか、元の世界に戻る方法が見つかったら
 その時は―――…こいつも一緒に連れて行ってやりたい

 きっと、腰を抜かすほど驚くに違いない





「運転免許証は、モテる男のステイタスだよなぁ…
 女の子と話すときだって『免許持ってる?』って話になるもんなぁ…
 運転できるのと出来ないのとじゃ、雲泥の差だからなぁ―――…」

「ふぅん…そんなに便利なものなんだ…?」

「ああ、まぁ…な
 この世界にはないと思うけど…
 でも俺の世界では持ってる奴、結構多いんだ」

「ん―――――…」




 突然、宙を見上げながら何かを考え始めるメルキゼ

 ちょっと嫌な予感
 また妙なことを考えているに違いない

 頼むから常識を逸脱したことだけはしないで欲しいものだが―――…




「…お、おい、メルキゼ…?」

「ねぇ…カーマイン」

「な、な、何だ?」


「その免許というもの…
 私に作って欲しい」

「はぁ!?」



「だってカーマインは知っているものなのに、
 私はそれを見たことがないんだよ?
 それってズルいじゃないか…私だって実物を見たいよ」

「い、いや、ええと……」


 ズルいとか、そういう問題じゃないような気が
 というより一体こいつは何を言い出すんだ

 好奇心旺盛なのは結構なことだが…



「本物じゃなくても良いんだ
 ただ、どのようなものなのかが知りたいだけで…」

「えーっと…あぁ、そ、そうだな…
 じゃあ俺が適当に作ってやるよ、それっぽいやつを」



 きっと、言葉で説明してもダメだろうから

 長年鍛えてきた同人誌やイラストの技術を駆使して、
 メルキゼ専用の免許証だって作ってやるさ


 カメラ持ってなくても大丈夫
 俺が似顔絵を描いてやるよ―――…萌え絵しか描いた事ないけど

 …本当は偽造免許を作るのって犯罪なんだけど、
 そんなことはこの際気にしちゃダメなんだろうな…





 ―――…翌日




「ほら、お前専用の運転免許だ
 一応普通免許ってことにしたから」

 ―――…どう見たって普通じゃないけど


「えっ…もう出来たの!?」

「ああ、見てみろよ」


 厚紙で作った免許証
 メルキゼデクの似顔絵もちゃんと描いてある

 まぁ…ある意味、身分証明書としても使えるだろう



「うわあ…!!
 これが免許証か…!!」

「本物じゃないけどな
 で、どうだ…感想は?」


「うん、手作りならではの適当っぷりだね」

「だってあまり真面目な作りにすると、
 偽造免許扱いされそうだからさ…念の為にさ
 でも、ここまで適当だとオモチャ扱いで済むかなって…」



 ただ、想像以上に遊び心が強すぎた
 思った以上に冗談丸出しの代物になってしまった

 まぁ…メルキゼでならこれでも大丈夫だろう…




「ありがとう…大切にするよ
 みんなに自慢してみようかな…
 カーマインが私のために作ってくれたんだって」

「いや、頼むから製作者が俺だってことは言わないでくれ」


 流石にちょっと恥ずかしい
 いくらなんでも、もう少し真面目に作るべきだったか――…






 数ヵ月後、俺は貴重品入れの中に、
 明らかにその場にそぐわない、一枚の紙を見つけた

 …俺が描いた免許証だった

 路銀として使用している貴金属類や、
 彼の母親の形見であるブローチと並んで、
 厚紙に描かれた妙に派手な免許証が鎮座している



「…な、なにも…貴重品扱いしてくれなくたって…」

「だって貴重品だから
 カーマインから貰った私の宝物だよ」


 あぁ…これは、アレだ

 少し昔に描いたまま行方不明になっていた手紙やイラストを、
 大掃除なんかの切っ掛けで発見してしまった時の気持ち


 そんな、悲鳴を上げて転げまわりたくなるような―――…羞恥心



「い、いつまでも持ってるなよ、そんなもの…」

「嫌だよ…ずっと持っているよ
 だって、これは私の宝物だから」

「……マジかよ……
 こ、こんな事なら、もっと真面目に描くんだった…!!」


 一度、人にあげてしまったものだ
 自分が勝手に廃棄するわけにも行かない

 頬や耳が熱くなっていくのを感じながら、
 俺は羞恥心と後悔の念に身を震わせるしかなかった





  






「た、頼むから…さ、
 もう一度、作り直させてくれないか?」

「イヤだよ
 だって私、気に入ってしまったから
 …よく見ると意外と可愛いよ、これ…」


「せ、せめて文字だけでもっ…!!」

「これはこれで、イイ味出ているよ
 とにかく、これは作り直し不可だからね」


「い、生き恥だあぁぁっ…!!!!」



― END ―





えー…57000番を踏んだ納豆氏へ捧げるブツにござります
リクエスト内容は『メルキゼデクの免許証』だったのじゃが…

流石に唐突に免許証をポンとアップしても不自然だったので、
何となくSSを添えてみたり…ど、どうじゃろう…?


余談じゃが拙者、大掃除の際に学生時代に描いたイラストを発見致しまして…
その時の痛々しい羞恥心をネタとして交えて描かせて頂きました

もう…ポエムなんか発見した日には…悶えて転げ回りたい気持ちになりまするな

この気持ちを第三者と分け合いたくて、
カーマインにも似たような羞恥を味わっていただきました(黒笑)


えー…納豆氏よ…こんなのしか描けなかったのじゃが…
このくらいで勘弁してやってくださりませ…orz