フルレンジ一本(左右2本)で、音楽の全体像を再現することは、絶対に無理だと私は思っていますが、現実にはフルレンジ派の方々がおられるのも事実です。
フルレンジ派の方々の言い分は、マルチウェイはバランス(チューニング)が取れない。また位相が合わない。等々だと思います。中には、モノラルこそ最高だ!と、ステレオのソースまでモノラルにして聞いている人もいます。オーディオは、趣味の世界だから何をやっても良い!ことは事実として受け入れますが、何をやっても良い趣味の世界を他人に押し付けるとこれは迷惑以外の何物でも無い! フルレンジで事が済めばこれほど簡単なことは無いし、また、ステレオ時代に何故モノラルが良いのかも理解できません。人間には耳が左右二つついていますから、自然界の音を聞くときでもステレオで耳に入ります。では、フルレンジが何故音楽を再生出来ないか?の問題を少し書いてみます。
スピーカーの構造は大体お分かりのことと思いますが、スピーカーが、音を表現するのに、二通りあります。
一つはピストン運動。もう一つは分割振動です。
ピストン運動は、本来のスピーカーの振動板の動き・・・ということが出来ます。分割振動は、ピストン運動ではまかなえない領域の振幅のことです。つまり、分割振動は、“歪”なのです。ピストン運動の領域は、一概にいえませんが、ほぼ3オクターブと云われます。フルレンジは、全体が歪の固まりと思って間違いありません。
フルレンジは、今では懐かしい「ダイヤトーンの610」や「JBLのLE−8T」などがありましたが、
申し合わせたように音量を上げるとウルサク感じます。これは、歪の固まりですから、音量を上げるとウルサクなる訳です。歪の固まりでは、音楽は聞けません。
結局、マルチウェイになります。マルチウェイ・システムについてジックリと検討してみます。
タンノイは、2ウェイです。アルテックのA−7も2ウェイです。国産品では、各放送局がモニター用として使用していた、ダイヤトーンの2S−305があります(2ウェイ)。タンノイのクロスオーバーは1000Hz〜1200Hzです。アルテック・A−7は500Hzまたは800Hzです。この違いは、上部のホーンの大きさにあります。ホーンの大きさは、再生周波数と密接な関係があります。2S−305は1200Hzですが、これは、高域はコーン・ツイーターでした。現在でもTADは2ウェイを作っています。この場合は、500Hzに設定されています。
ここで、ひとつの問題を提起します。
タンノイは1200Hz(又は1000Hz)がクロス・オーバーですから、ウーファーは、30センチまたは38センチで、1000Hz又は1200Hzまでを受け持つことになります。タンノイは同軸型の2ウェイですから、高域のホーンの開口部の大きさがウーファー・コーンとの関係で制限されますので、クロス・オーバーが高くならざるを得ません。実際のタンノイのホーンは、1200Hzはぎりぎりの所で、本来なら2000Hz以上にしか使えない大きさとホーン・ロードだと私は思います。しかし、ウーファーを2000Hzまで再生させることは無茶!ということになりますので、1200Hzで妥協するしかない訳です。
ウーファーをぎりぎりまで引っ張り、高域のホーンもぎりぎりのところで使いますのでかなり無理をしていると考えるべきです。さらに、高域のホーン一発で、完璧な倍音の再生や、高周波の再生が無理なことはお分かり頂けると思います。これが、スタジオ等の音声用モニターであれば、なんとか問題は無いにしても音楽鑑賞用として使うには、万全でないことは明らかです。
アルテックのA−7は、高域のホーンが大型になっていますので、500Hzまで下げられています。このことは、ウーファーにとっては有利といえます(TADも同じ)。A−7の特徴は、ウーファーを500Hzまで有利に働かせるために、エンクロージャにショート・ホーンを取り付けて中域を確保していますし低音部の補強にバスレフ(位相反転)を採用しています(バスレフについては後述)。、高域のホーンとの繋がりもまずまずですが、問題は、あの大型ホーンで高域全体をまかなっていることです。従って繊細な高域は望むべくもありません。
本来、ウーファーの上限クロス・オーバーは低くとるほど有利なのです。理想的には300Hz以下です。
300Hzがぎりぎりのピストン運動の領域なのです。かって大評判になり、その割りに使い方に苦労させられたJBLの4343は、この300Hzを確保するために4ウェイとしていました。300Hzから使えるホーンは非常に大型になりますので、JBLでは、コーン型のミッドバスを使っていました。ウーファーとミッドバスを同じエンクロージャにマウントする場合、お互いの干渉を避けるためにミッドバスを後面密閉(ミッドバスを別な函体で密閉する)にしています。当然、容積不足からくるコーンの動きは制限されますので十分な振幅を阻害します。4343を多くの人がもて余したのは、このミッドバスが上手く機能しなかったからです。(他にも4343はクロスの設定にも疑問がありました)。
ウーファーの有利なクロスを確保するには、4ウェイが必要となることをご理解頂けたと思います。
ならば、4343(同じJBLの4350も4ウェイ・・・Wウーファーのため5スピーカー・・で、こちらは250Hz)の4ウェイが理想的か?と云いますと残念ながら違います。高域の中音とツイーターが、万全なものでなく、しかもクロス・オーバーのとり方が誤りで、非常に荒い音になっています。特にツイーターの2405は使えません。最も重要な倍音再生が万全でないからです。 スピーカー・ユニットの理想
そこで、理想的なスピーカーとは・・・という本題ですが。
先ず、スピーカー・ユニットが如何に優れた製品かということは無視できません。如何なる高価なアンプを使用し、理想的なカートリッジを使用したとしても、スピーカー・ユニットの各々の性能を超える音は再生されません。市販のメーカー品の中に万能完璧なシステムは一本も無い!と私が断言するのは、このユニットが理想的に作られていないからです。このことは、商品として考えた時、止むを得ない部分もありますが、それでいながら、価格が法外なのは全く理解出来ません。量産型のユニットは、作りやすさ、コストの問題から、あのような製品しか作れず、また、エンクロージャにコストが掛かりすぎます。エンクロージャは木工製品ですので、どうしても手間がかかります。タンノイなどは恐らくエンクロージャにもっともコストがかかっているのではないかと思えるほどです。 従って、理想的なユニットを使うことが、先ず第一です。
次は、少なくとも3ウェイ以上でないと音楽成分を万全に再生することは不可能です。3ウェイは、クロス・オーバーを800Hzと6kHz〜7kHzにとりますが、リスニング・ルームの条件で、3ウェイが一杯の場合は止むを得ません。
4ウェイの場合は、200Hz、1kHz、7kHzにとれますので、各ユニットの受け持ち周波数は、全部が3オクターブ以内に収まります。(ピストン運動のみで再生出来る)
リスニング条件が恵まれている場合は、5ウェイが最も理想的です。この場合は、ホーンの大きさも大きくなり、その分スケール感も増し、全く異次元の世界を現出させます。本来の音楽ホールと変わらない雰囲気を再生できます。この場合、ウーファーは、ホーンとコーン型の二通りを選べますが、一般的にはコーン型ウーファーでも本格サウンドは得られます。エンクロージャは、私の設計で万全なものが実績として存在します。
クロス・オーバーは、80Hz、500Hz、2500Hz、7kHzです。各ユニットの受け持ち周波数は、ごく僅かですので、一切の歪は存在しません。音楽にドップリ浸れるオーディオ・システムとなります。
スケールの大きな、それでいて静かで、繊細で、また雄大な音楽を苦も無く再生します。(ウーファーの80Hzに注目して下さい)。ここにいたるグレードアップ方法は、おいおい解きほぐして参ります。
エンクロージャについて・・・現在は市販品も含め、エンクロージャは殆どバスレフ(位相反転)が主流になっています。スピーカーは、前後に音を出しますので、後方に出た音を、ダクトを通して前面に出し、低音の量感を増す方式がバスレフですが、このようなマヤカシの低音が本当の低音を出す筈はありません。引き締まったシッカリした低音は、密閉型のエンクロージャでのみ可能となります。バックロードシステムなどは全くの論外です。エンクロージャは、密閉に限ります。バスレフで良い音に巡り合ったことは一度もありません。