カートリッジの理想
―アナログの理想的再生――

CDが音楽を再生しない以上、音楽を聴くことを諦める訳にいかない音楽愛好者としては、それでも面白くないCDで我慢して音楽を聴くか、それともコンサート・ホールに足を運ぶか以外に方法はないのでしょうか?実際に「ナマの音楽会でなければ、再生音楽は真の音楽鑑賞とは云えない・・」と主張する私の友人もいます。それも一理あるとも云えますが、私自身は大いに異論があるところです。

 最近は(かなり以前から)、演奏会の入場料も高くなり、名の通った指揮者やオーケストラになると、3万円クラスはザラです。余談ですが私が行ったオーケストラ演奏会の最高額は10年前で3万2千円(セルジウ・チェリビダッケ指揮のミュンヘン・フィルハーモニーとピアノ独奏は、アルテュール・ベネデッティ・ミケランジェリ{最後の日本公演になった}・・人見記念講堂)で、オペラは5万4千円(夫婦で10万8千円・・ボローニア歌劇場の引越し公演・・オーチャード・ホール)。このような状況で、月に1回平均足を運ぶ人は、そんなにいないと思います。よしんば毎月演奏会に足を運んでも年12回、クラシック・コンサートでは、せいぜい3曲程度の曲しか演奏できません。つまり、12×3で、1年間に36曲を鑑賞しているに過ぎません。  それに比べ、オーディオで鑑賞する場合は、1日おきに2曲を聴いたとしても、365日÷2×2曲で365曲を聴く計算になります。実に10倍の音楽が聴ける。しかも好きな曲を、好きな時間に、好きな演奏家で。更に繰り返し聴ける。これがオーディオの最大のメリットと云えますが、もう一つは、すでに他界した人達の演奏です。トスカニーニやワールター、ベームやバーンスタイン等々、それでも、クラシックは演奏が違うとは云え鑑賞は可能です。しかし、ジャズはどうする?・・ということです。ジャズは、演奏そのものが作品ですから、その時代のその演奏は二度と聞けません。コルトレーンやマイルス、ベイシーやエリントン等々は全く再生音楽の真骨頂だと思っています。

 それらをオーディオで真剣に鑑賞しようとした時、生半可な音で聞いたのでは、演奏者にも失礼だし、また音楽を間違って聴くことにもなりかねません(私は、クラシックでもジャズでも或いは演歌でも聴く時は真剣に聴きます。そうすると下手な歌手や、下らない歌や演奏などは、自然と淘汰されて聴かなくなります)。

 音楽を間違って聴かない為にも、オーディオが一定ランク以上の能力を必要とすることは必須条件だと云えます

 それが、CDでは不可能な以上、アナログこそが希望を叶えてくれるのです。そして、レコードにはそのような音が入っているのです。それも限界がある!とお考えの方があるかも分かりませんが、実は、非常に高度なランクのオーディオでは、ナマより生々しく聞こえます。それは、録音に際しては、もっとも有利な条件を確保して行われます。しかし、実際の演奏会では、ホールも違えば座席の位置が必ずしも万全の理想的な場所で聴けるとは限らないからです。そのようなオーディオが実際に存在する以上、音楽愛好者の方々は、予算とリスニング条件の許す限りそのような音に近づいて頂きたくて、全てを公開します。このページでは入り口のもっとも先端にあるカートリッジの理想について述べます。かなり長文で申し訳ありません

 オーディオでは、カートリッジで拾い上げた音以上の音は、その後のアンプやスピーカーに何千万円注ぎ込んでも再生されることはありません。全ての音はカートリッジの拾い上げた音が決定します。更に申しますと、スピーカー・ユニットの性能を超える音も再生されることはありません。スピーカー・ユニットの理想

 カートリッジについて、その問題点、又は理想的なカートリッジについて少し検討してみます。

 現在、もっとも人気のあるのは、デンマークのオルトフォンではないでしょうか。或いは国産のマニア向けの某製品などでしょう。一般的には、国産のプロ用(放送局等で使う)と称される製品が多いと思います。これらに頼る限り、ありきたりの再生音しか味わえません。

 カートリッジには、MM型とMC型があります。かってはMM型全盛の時代がありました。現在でもジャズファンの方の中には、MM型の本家のシュアーを使用中の方も結構おられます。しかし、現在は多くの方がMC型をご使用のようです。音楽をそれらしく再生するにはMC型が有利ですが、これにも条件が色々あります。

MM型は、アメリカのシュアー社が特許を持っていましたが、それが日本に及ばなかった為に、日本ではシュアー社に気兼ねなくMM型を作る事が出来ました。その為MM型全盛になりましたが、オーディオがある程度普及を始め、また高額製品が出始める頃からMC型の使用者が増え始めました。日本でMC型を普及させたのは、多くの放送局が使用している、所謂プロ用としてのものでした。しかし、プロ用とコンシューマー(民生)用とはコンセプトが違います。局用は、必ずしも音が良いから採用するのでは無くて、酷使に耐える頑丈な製品であることが条件なのです。モニター・スピーカーにも同じような事が云えます。モニターする事と鑑賞する事とは全く違います。送り手と受け手ですから全く逆になることを考えずに「プロと同じものを使っている」と満足感に浸っている人が結構いるようです。このことは、車で考えると理解が早いと思いますが、プロ用のF−1に使うような車と乗用車との差がある訳です。まさかレース用のプロ用車を自家用のドライブに使う人はいないでしょう。それと同じことです。(プロ用で民間でも使えるのは、テープ・レコーダーの回転機構のみです。これは民生器より遥かに優れていますが、価格は法外なものになります)

 局用のMCはMC型とは云えハイ・インピーダンスで、出力も大きいものでした。従って、アマチュアにも使い易かった面もあります。ロー・インピーダンスのMCはオルトフォンが高級機としてお目見えしましたが、当時は、一部の人だけが使用していました。MCが認識され始めたのは、新しく発足したフィデリティ・リサーチ社(略称FR)のFR−1が最初です。この当時FR社はまだ昇圧トランスを持たず、電池を使ったヘッドアンプで昇圧していました。その後、トランスが開発され、トーンアームも開発されて、一気にFR社は人気を飛躍的に上昇させました。中でもトーンアームのFR−24に始まり、FR−64S、66Sに及び、恐らくFR製品を使った経験のないオーディオ・ファンはいないのではないかと思われるほど普及しました。

 カートリッジもFR−1はMKU、MKVへと発展し、FR−7(シェル一体型)が発売されてFR−7Zで頂点を極めました。因みに世界初の純銀コイルをカートリッジに採用したのはFRの製品です。しかし、銀はコイルの材質としては、(音質的に)必ずしも万全ではなく直ぐに廃番となりました(今でも銀コイルを最高と位置づけているメーカーはあります)

 更に、世界初として、昇圧トランスにトロイダルコアを使ったことです。当時トロイダルコアには批判的なトランス・メーカーもありましたが、今では専業メーカーでもトロイダルコアが主流になっています。

 FRの創業者、池田勇氏は長年トーンアーム、カートリッジの名門メーカー品川無線(製品名はグレース)の工場長を務め、一世を風靡したMMカートリッジ、「F−8」の原型「F−7」の開発者でもあります。(F−8はF−7のデザイン変更型)F−8をもってMMの全盛時代が終焉を迎えます。池田勇氏がMMの限界を作ったことで、それ以上はMC以外になく、会社でMCの製造・開発を認めない以上、自社ブランドのMCを開発するしかないとFR社を興したからです。

 しかし、FR社は大きな実績を残しながらも社員が多くなり、労働組合が第二組合まで結成されるなどして、倒産しました。以後、池田氏は、かねてから暖めていた、これも世界初の画期的なカートリッジ作りに着手することになります。実に2年間もの間、多くの負債を抱えながら、その日の米も買えないほどの窮乏生活の中、
1985年5月世界初のダイレクト・カップリング・カートリッジ「イケダ#9」(特許・実用新案特許)を完成し、発売に至りました。

 カートリッジの理想は、この「イケダ製品と他社製品との違い」及び「カートリッジの抱える問題点」を検証しながら、併せて現在のイケダ製品の驚くべき構造の発展などを解明していくことになります。

 カートリッジの抱える問題点

 カートリッジの説明などでは、コイルの材質や、カンチレバーの材質などに多くを費やしていますが、本当は、カンチレバーは無い方が良いのです。カンチレバーは、スピーカーのネットワークと同様、必要悪なのです。必要悪は無い方が良いのです。外国も含め、カートリッジ・メーカーの技術者(今は専門家は殆どいないと思って正解)は、この必要悪のカンチレバーを無くする方法を検討した形跡もあるようですが、誰も成し得ませんでした。これを完璧に実現したのがイケダ#9なのです。正に画期的な製品の誕生となったのです。カートリッジの構造の中で、カンチレバーの問題、ダンパー(振動系)の問題は避けて通れません

では何故カンチレバーが必要[悪]なのかを検証します。

 チップ(針先)がレコードをなぞって行く時の状況を検証してみましょうか。レコードの溝(音溝)は、音楽のダイナミック・レンジの大小の影響で一定の円曲線になっていません、結構蛇行しています。演奏中のチップの動きを見ていますと、左右に首を振りながら蛇行している様子が見えます。この時、トーンアームがチップの動きに追従して、正確に動いてくれれば良いのですが、動きが鈍いと、カンチレバーのみが左右に亀の頭のように動いてしまいます。現在のチップは殆どが楕円針です。丸針なら変わりませんが(丸針が良いと云っているのではありません)、楕円ですと、この首振りの時、チップの左右の接触面が正確に音溝に接触していないことになります(右と左の接触点がずれる)。音が正確に出てきません。もう一つ、反りのあるレコードの場合、反りに向かってトレースする際に針圧が変化します。つまり、反りに対して坂道を登る時は、カンチレバーがカートリッジのボディの方に押し上げられています。逆に下り坂の時はボディから離れます。つまり、カートリッジの本体(ボディ)は上下していない時でもカンチレバーだけでチップが上下して上がる時は針圧が増し、下がる時は針圧が減少します。規定針圧が常時変化しながらトレースしていることになります。

敏感なカートリッジでは「スー、スー」という音になって鑑賞を妨げます(FR−1MKV、FR−7)。また、カンチレバーの材質により、材質そのものの金属の音を加味します。

重箱の隅をつつくような話と簡単に片付けてはいけません。ここは、音の入り口で、しかも此処で拾った音は、目一杯増幅されてスピーカーを駆動する訳ですから、この不正確なトレースは再生音に大きな影響となって表れます。無視できません。

 此処までの話で、トーンアームにについて、「トーンアームはロングタイプでダイナミック・バランスの方が有利」と気付かれた方は、相当にオーディオを理解していると思って大丈夫です。その通りなのです。

 (トーンアームについては、昇圧トランスを含め別項で詳述致します) プレーヤー周辺機器

しかしながらカンチレバーには、もっと重要な欠点があるのです

 チップで拾い上げられたレコードからの振幅は、カンチレバーを通ってカンチレバーを支えているダンパーに到達します。ここでカンチレバーが背負っているコイルを動かしマグネットから発せられた磁力線を横切ることで発電し音信号(電流)になります。(スピーカー・ユニットの逆構造です)

 先ず、その振幅を辿ります。チップで拾い上げられた振幅は、カンチレバーを振動させながら、ダンパーに至ります。カートリッジのカンチレバーをシッカリ眺めて下さい。ダンパーに至るまで距離があります。特にこの距離を短くしますと、ボディの腹が盤面を擦りますので、大体余裕をもって長く作られています。この方が使い易くトラブルも少ないからです。しかし、かってのFR製品は、極力短くしていました。その理由は、

振幅伝送中のロスを極力少なくする為です。(音信号はカンチレバーの長さだけ縮小されます)

 少し、余談になりますが、カンチレバーは、軽いほど良いのです。更に動きやすいものが良い訳です。そのためメーカーでは、見た目に細く、なるべく動きやすいヘラヘラした材質を使うメーカーもあります。これは、苦肉の策なのです。細く見えても中は空洞になっていませんので、見た目ほど軽量ではありません。また、ヘラヘラのカンチレバー(ハイ・コンプライアンス)は、振幅に対して十分な動きをするように思われますが、動くことは良いとして、その振幅が止まらないのです。ですからピアノの音などが必要以上に余韻を持ってフヤケた音になります。これを「柔らかい音」などという馬鹿な考えは決して持ってはいけません。

(ハイ・コンプライアンス・カートリッジは、全てが良いとは限らず条件付きである事を認識すべきです)

 スピーカーもそうですが、変換器は全て動きやすく止まりやすい・・という相反する動きを求められます。

つまり、トランジェントの良さを求められるのです。FRがカンチレバーを短くして、しかもアルミの空洞パイプとして、軽量化を重視したのは、このトランジェントを有利にするためです。トランジェント・・(過渡特性・・・入力に対し時間的にも忠実に動けるかどうかの性質)自動車のショックアブソーバーと同じです。スプリングが柔らかいだけでは振動が収まりません。揺れたら直ぐに止まる必要があります。

 本題に戻って、このカンチレバーに伝えられる振幅は、伝送中に幾らか減衰して行く事は想像できると思います。問題は、それだけでなく、その振幅は、ダンパーに接した際に、幾分かは跳ね返されて、再びチップへ戻ってきます。音楽は、連続的な振幅ですから、跳ね返される途中にも新しくチップから送られた信号と合体します。更に跳ね返された振幅は、チップを揺すって本来の音とも合体します。これを連続的に常時繰り返しているのがカンチレバーの実態です。結果、音質的にどうなるかと云いますと、微細な信号は伝播中に吸収されて消滅する代わり、合体により、ありもしない音を作り出して余分な音を増幅することになります
 分かりやすいレコードの一例を挙げますと、エリー・アメリンクの歌うシューベルトの歌曲集(EMI)で、A面1曲目の冒頭でまずクラリネットが出ます。このクラリネットは小さな音から次第に大きくなっていくのですが、(ppppからクレシェンドでmf位になる)これがかなり優れたカートリッジでもpp位から突然入ってきます(磁界の中に鉄芯があるとこうなります・・・振幅が大きくならないと音にならないのです)。その前のpppp及びpppは消え去って再生されていないのです。つまり、カンチレバーに吸収されてしまっているのです。それが、跳ね返された音と本来の音が合体してやっとppから音になったのです。

 この例は、イケダ#9を持って伺ったお宅でのテストで、ご本人はイケダ#9の音を聞き、初めてその前の音があったことを認識されたのです。これでカンチレバーの弊害はご理解頂きましたでしょうか?

ダンパーの問題 一般的なカンチレバー付きカートリッジでは、一個のダンパーでカンチレバーを支えています(つまりワンダンパーの一点支持となっています)。そのために、余り柔らかいものでは支え切れません。ダンパーも本当は無い方が良いのですが、これは無くす訳に行きません。一点でカンチレバーを支えていることは多分クロストーク(左右の分離感)にも影響すると考えられます。先に、音振幅のダンパーでの跳ね返りを指摘しましたが、ダンパーが硬いということは、この現象も顕著になります。また、ダンパーは、経年変化により硬化することは良く知られています。ですから、MMの場合でも針先を交換すると音が良くなったと感じるのです(ダンパーが新しくなりますから)。

 では、イケダ#9の場合はどうでしょうか?

 イケダのカートリッジは、カンチレバーを持ちません。チップはコイルに直接装着されています。そして、レコードをなぞった、その現場で発電します。途中のロスはありません。コイルは、左右が独立して二個のダンパーで支えられます(ツーダンパーの二点支持)。コイルは、サスペンションの役目もこなします。クロストークの問題も一挙に解決しています。ダンパーは最初の製品(第一世代)では、マッシュルームタイプのもので、自由に動き易く、また、マッシュルーム内部の空気圧が、振幅を妨げないように取り付け側にエアー抜きを設けるなど細心の注意が払われました。この時点で全く異次元のサウンドを体験させられました。イケダ・カートリッジの発展の歴史は、振動系の軽量化との試行錯誤(戦い?)であったと云って過言ではないと思います。マッシュルーム・ダンパーの質量を軽減させる為に、コニカルT型が作られました(第二世代・・製品名は#9R)。これは、銅ベースの壁面から前方へダンパーを突き出すタイプで、明らかに分解能が上がりました。しかもダンパーは、内部を空洞にして軽量化を計ったものでした(これにもエア抜きは装備)。

 これで音質的には、今まで聞いた事も無いサウンドで、多くのファンは「これが限界だろう!」と思ったものでした。同じレコードとは思えないほどの重低音を実感しました。しかし、#9Rの更なる重要な発展は、それだけでなく、初めて磁気回路のヨークにパーメンジュールを使用したことです。元来池田氏は、磁気回路の強力化と振動系の軽量化を命題としていました。これは、スピーカー・ユニットにも求められる重要なポイントでもあります。パーメンジュールの使用で、ギャップ部の磁力線の数は飛躍的に増し、音の緻密さは計り知れないものとなりました。しかし、更なるダンパーの軽量化を計る為に第三世代が作られました。コニカルU型です。構造は#9Rと同じですが、ダンパーを更に細くして(中が空洞なのは同じでエア抜きも装備)質量をコニカルT型の35%という軽量化に成功しました(実に65%を軽減・・製品名は#9Ω)。池田氏という技術職人(もの作り・・ご本人の言葉)は、新製品が出来るとその日から次の製品の開発に没頭するのが常です。質量を65%も軽減したことに満足はせず、次は、本当に驚くべき構造を発明しました。私には、多分作られるであろう事は予想していましたが、予想をはるかに超える、技術の集大成とも云えるものが出現しました。ツーダンパーの二点支持は、従来のカートリッジからは考えられない魅力的サウンドを実現しましたが、コニカル型ダンパーを銅ベースに、其々左右に<一点>で取り付けていることに不満があったようです。私自身、次は絶対ツーダンパーの四点支持だ!と内心思っていましたが、私如きが考える事は池田氏は十二分にお見通しで、本当に実現したのです。

 コニカル型の一点支持は、謂わば水を入れたバケツを片手で持ち、前方に捧げているスタイルです。これを、もう一人の人が向こうから持ってくれると楽になり、安定します。これがパラレル型です。二箇所の銅ベースにワイヤーのダンパーを橋渡しにして、その中間にコイルを取り付けたものです(左右各一本)。しかもワイヤーの大きさは0.3mmφという細いもので、これに切り込みを入れてコイルを装着してあるのです、私は「サーカス構造」と呼んでいます。これで異次元のサウンドは更に究極のものと思われました(製品名は#9REX)。これが画期的なパラレル型が世に出た最初です。(1993年10月)これは、カートリッジとしては、究極の構造で、以後、改良は次々となされますが、この構造は基本的に変わっていません。

 二つのダンパーを各々両側で支持する「ツーダンパーの4点支持」。これが究極のカートリッジで理想の構造なのです。世界中の誰もが考え付く事すらなかった構造です。

 ここに至りダンパーの質量は、コニカルU型の実に25%まで軽減できました(75%の減少)。コニカルU型がコニカルT型の35%、パラレル型は更にその25%。計算して下さい。

 先に、ダンパーも無い方が良いと書きましたが、無くする訳にいかないならば、無くしたと同じ状況に近づくこと。その為に極限まで質量を軽減すること。これがイケダの最大の目標だったのです。

 従来、イケダのカートリッジは、ヘッド・シェルに取り付けるタイプを作っていましたが、私及び私の顧客は当初(#9の時)からシェル一体型を特注で作って貰っていました。これは、圧倒的に一体型が音質的に有利だからです(シェルに取り付けるタイプは、どうしてもブレが出て音に悪影響を及ぼします)。しかし、イケダのカートリッジは、マグネットの強化で自重が重いのです(他社製品が6〜8gなのに対しREXで16g)。そのため、商売としては、市販のトーンアームでなんとかバランスさせることは必須条件だったのです。しかし、音質の追求という観点からみれば、そのことは妥協に過ぎません。妥協は堕落だと思います。ただ、このREXはレコードのビリツキやサチリ音を非常に拾いやすく、使いにくい製品でした。私も幾度となくクレームをつけました。しかし、上手に再生できた時の音は何物にも代え難い音を実現していました。池田氏も十分考えて解決策を練りました。結局、余りの振動系の軽減により、再生能力が異常に高まった結果、磁気回路がそれについていけない・・・という結論のようでした。
その頃(1996年4月)イケダでは、画期的なトーンアームが発売になりました。恐らく現存する最高の能力を持つトーンアームと云って良いものです。このアームだとイケダの重量カートリッジも十分バランスします(ショートがIT−345,ロングタイプがIT−407)。音的にもハッキリ分かる優れものです。イケダではFR時代からFR−64S、66Sでダイナミックバランス型のトーンアームには実績がありました。勿論今度のアームもダイナミックバランス型で、細部に亘り池田氏のノウハウがタップリ組み込まれた逸品です。

 しかし、先のREXの現状を解決せねばなりません。結局、カートリッジとしては異例の巨大マグネットを使用し(勿論ヨークにはパーメンジュールを使用)しかもシェル一体型の超重量カートリッジが作られました。

 製品名は#9スプレーモで、シェル込み自重はナント47g(今までの重量カートリッジはオルトフォンのシェル一体型SPU−AまたはGで32g)しかもシェルは、ステンレスの一体削り出しという凝ったもの。(一体削り出しはブレや共振が少ない)またまた更なる異次元の音の世界を覗けるようになりました。しかし、イケダ・アームはこの重量を予想していなかったので、さしものアームでも辛うじてバランスする状態で、これでは不味いと、スプレーモ用の重量ウェイトが出来て、理想的なバランスがとれるようになりました。と同時に、ウェイトがアームの後ろにある場合と、前方にある場合と、理屈では分かっていてもこれ程違うかと唖然とするほど音が改善されることを実感しました。これも、イケダ・カートリッジの敏感さが更に顕著にその違いを出してくれたと思います。

 実はこの話はこれで終わりでは無いのです。スミマセン。

 イケダのカートリッジは、新製品が出るたびに「もうこれ以上は無いだろう、限界のサウンドだ!」と

そのように思わされて来たものですが、今度もスプレーモの音に酔い痴れて同じ感慨を持ったものでした。ところが、池田氏は、どうもシェルとカートリッジ本体がシックリ馴染んでいないと、シェルを新開発し、シェルとカートリッジの取り付け部分を徹底的に解明し、内部の共振をこれも徹底的に追及し、新製品#9MUSA(自重43g)を発売、ここに至って究極のサウンドをハッキリ理解させられる結果になりました。スプレーモの時から「もう上は無い!と思ったのに上には上があるものだ」と実感すると同時に、カートリッジの変遷により、レコードの音が見事にその差を再現させてくれることに対し、レコードの潜在能力が如何ほどのものかと驚きました。トコロガ、まだ上があったのです。結局、金属のシェルには特有の共振がある・・ということで、木製のシェルが作られました。#9MUSA/Wです(自重43g)。目下、これが究極のイケダ・カートリッジで、今までの、スプレーモ、MUSAとは完全に一線を画すサウンドで、柔らかい音は飽くまで柔らかく、大迫力は完璧に再生し、これがアノ、コンマ数ミリ厚さのレコードにこんなに凄い音が本当に入っていたのかと改めて驚嘆するほどの音を再現してくれます。しかし、池田氏は「まだ60%引き出しているかなァ・・」と呟きます。どうやらまだ先があるみたい・・・。

 このように、ほんの微細な妥協でも逃さず、それらを一切排除したのがイケダ・カートリッジで、カンチレバーの所で述べました重箱の隅をつつくような・・・と申しましたが、それ以上に微細な所までを追求した結果、それは確実にハッキリと分かる音の変化となって表れているのです。カートリッジの理想とは、イケダのMUSA/W以外には現在のところありません。 (参考までにイケダ製品価格

オーディオ機器を持つ場合、折角なら最高を揃える・・これが絶対的基本です。(価格でなく音質的に

カートリッジに関連する取り扱いの注意点や、トーンアーム、トランス、フォノモーター、プレーヤー設置法などは、ページを改めます。―――→ プレーヤー周辺機器 アナログの再生      

「(有)イケダ・サウンド・ラボの監修済み」