このタイトルも多くのオーディオ・ファンから反論を受けそうなタイトルですが、実はアンプにはそれほどお金を掛ける必要はないのです。と云えばアンプ・メーカーから目をむいて怒られそうですが事実は変えられません。
アンプにお金を掛けるのは、冷静に考えればスピーカーがうまく鳴らないからではありませんか?
うまく鳴らないスピーカーはスピーカーに責任があるのであってアンプの所為ではないのです。しかし、一般的なオーディオ・ファンやオーディオ・ショップ、更に雑誌類も含め「スピーカーとアンプとの相性」を考慮すべき!と云う考えが蔓延しているように思います。「スピーカーとアンプとの相性などはあって然るべきものではない!」と云うのが私の基本的な考え方です。それは、相性なるものがあるとすればそれはスピーカーの能力が万全ではないことの証拠だと考えます。
例えば、少しキツイ音がするので柔らかい音を出すアンプ(真空管アンプとか)にしたいとか又はその逆であったりだと思います。このような考え自体がすでに誤った考えだとまず指摘しておきたいと思います。スピーカーがもし万全であるとするならば、アンプによってそんなに変化はありません。
アンプには、プリアンプとパワーアンプがありますが、直接スピーカーを駆動するのはパワーアンプですから、パワーアンプの話が先になりましたが、ハッキリしていることは、今雑誌やオーディオ・ショップで奨める100万円や200万円もするアンプに金額を投入する位なら「良質なスピーカー・ユニット」に投入した方が圧倒的に目の覚めるような音になります。 無駄なお金は使わない
大方のユーザーが使用されているスピーカーは、既製品のメーカー製システムが多いと思います。まず上手く鳴りません。スピーカー自体が採算性重視の妥協の産物だからです。ですからアンプの責任などでは無い訳です。これをアンプの所為にして高額なアンプを売りつけるのは一種の「仕組まれた詐欺」に等しいと私は思います。詐欺には引っ掛からない方が賢明と考えます。 大体、最近のアンプは高額になり過ぎています。100万円や200万円と云えば自動車が買えます。自動車は、5人の生命を乗せて100km/hで走っても安全なものです。それに比べアンプにそれ程の中身があるとは考えられません。輸入品は、輸入商社が勝手に値段をつけ、雑誌等で取り上げられる為に交際費(ワイロ?)をタップリ使い、また広告も派手にして立派なカタログも作り・・・それらを全部価格に上乗せします。輸送費に経費が掛かる事は十分承知。しかし、国産品も海外品と似たような価格のものが大手を振ってまかり通ります。不思議!としか言いようがありません。パソコンの価格と、パソコンの実力を考えても(販売台数が比較にならないとは云え)腑に落ちません。高価なものを持つことがオーディオ・ファンのステイタスだ!などと考えると益々付け上がりますので、そのような考えは一切持たず実用一点張りでいきたいものです。
では何故既製品スピーカーは万全でないのでしょう、価格は法外なのに。儲けが大事だからです。勿論商売は儲けなければなりません。「儲けない事は悪だ!」と云われます。一方で「適正利潤」と云う言葉もあります。それがどうもオーディオ製品、輸入アンプもそうですが特にスピーカーには「適正」という言葉が感じられません。
極端な話ですが、一個どうみても原価が数百円程度の安物スピーカーを50個も着けて1千万円以上というシステムがあります。正に満艦飾です。音は・・とても鑑賞に堪える代物ではありません。精々レストランのBGMになら何とか使えるかな?というものです。これでも専門家?といわれる人達の文章では大いに褒められています。こんな例は枚挙に暇がありませんが、何故鳴らないか本題が先です。
スピーカー・ユニットに求められる条件は、磁気回路がシッカリしていること、音信号に完璧に追従する為に、更に振動系が軽量であることなどなどです。スピーカー・ユニットの理想
それが正直な話、それらの全てが不完全なのです。その割りに見かけは豪華に作りますので、ユニットよりキャビネットに金を掛けます。キャビネットが大事なことは、過去に100本以上のオリジナル・エンクロージャを設計・製作した経験のある私には良く分かっていますが、キャビネットを重視すべきはウーファーに対してのみです。肝心のウーファー・エンクロージャは不完全なのでウーファーを4本もつけたりして誤魔化すのです。こんなシステムにはどのアンプをつないでも上手く鳴る道理がありません。
金を掛けるだけ馬鹿らしい訳です。ではどう解決すれば良いのか。結論を出さないと単なる理想論で終ってしまいます。
実例で説明致します。やや自慢話的かも分かりませんが、私の周囲では常時ある話です。お付き合い下さい。
私が東京の駒込のある会社ホールでレコード・コンサート(CDは使いません)を定期的に行う事になり、オーディオ一式を任されました(6年前)。予算は100万円です。会場は60人を収容出来ます。並みの家庭用では先ず無理です。選んだのはJBL−4343です。中古が溢れていますから簡単に安価で入手できます。私が、もっともユーザーに勧めたくない4343を何故使ったかと申しますと、私には使いこなせる自信があったことと、4ウェイなのでどうにでも調整が可能だと言うこと。さらに60人もの客が入って十分な大音量が確保できるのは4343しかない!と思ったからです(物は使いようTPOが大事)注:アルテックのA−7やA−5も使えますが、この会はジャズやクラシックその他あらゆるジャンルの音楽を取り上げますのでアルテックでは無理なのです。
しかし、4343をそのまま使っては単なる4343で幾ら調整しても普通よりは良く鳴らせますが決定的に良く鳴らすのは無理です。そこで、付属のツイーター(2405)は完全に絞込み鳴らないようにして、エールの一番下のランクのツィーター(1710)をエールに協賛して貰い借り受けこれを使いました。
アンプは日本製の定価45万円クラスのプリメインアンプの中古を20万円で、プレーヤーはたまたま私が推奨するイケダのアームを搭載した高級機の中古がありましたのでこれに決定。イケダのアーム付を中古で出したこの人は本当にアナログとオーディオを分かっていない人なのでしょうが、こちらとしてはラッキーでした。〆て100万円。カートリッジと昇圧トランスは私が持ち込めば良い訳です。
さて第一回目の日、大音量で鳴る(プリメイン・アンプでも鳴るのですよ)4343に、「本当にこれがJBLなのですか?」或いは「本当に4343でこんな音が出るのですか?」の質問攻めでした。
つまり、JBLでクラシックのオーケストラが苦も無く再生されていることに驚いた人が多かったようです。私にとっては当たり前のことなのですが・・・。
中古の20万円のプリメインアンプで客を驚かすほどの音は出るのです。その原因は、入り口のカートリッジやトランス、さらにトーンアームなど、私の満足するラインナップに加え、ツィーターにエールを使ったことです。たったこれだけでこれほどの、どちらかと云えばオーディオには半端な常識しか持ち合わせない謂わば素人さんを感動させる音出しが可能なのです。(オーディオに詳しい人も驚き)
この話には続きがあります。
4年程が経ちました。客は順調に増えて満員御礼の状態です(有料なのです)。
因みに、このコンサートの選曲、レコード提供、解説、オーディオ調整は全て私の一存で、音楽のジャンルはクラシック、ジャズがメインですが、時には演歌(美空ひばりや都はるみなど)、時にはマンボ、ロックと正に多彩です。それらを苦も無く再生します。4343でも・・。当たり前ですが・・。
この頃、この会社のオーナーは、私のセットで自宅にオール・エールの大型5ウェイをセットされました。如何に4343を上手く鳴らしてもエールの5ウェイに匹敵するサウンドはこの世に存在しません。「会場の音をなんとか更に良くする方法はないですか?」「ありますよ」 つまり、4343は、ウーファーとその上を切り離すことが出来ますのでマルチ・チャンネルにすれば良い訳です。
「予算はどれだけ必要になりますか?」「まア30万円もあれば」「エエッ?!」
結局、今までのプリメインは、プリとメインが分離出来ませんので、次の機会まで引退して貰い、新たに11万円(今は12万6千円)のプリメインを導入、他に9万円(今は10万5千円)のメインアンプ1台、他にラックスのチャンネルデバイダー1台。これでアンプはオシマイ。4343は2チャンネル・マルチ4ウェイ・システムに生まれ変わりました。掛かった費用は30万円と少し。
これの第一回のコンサートは「スイングジャズ・オン・パレード」とクラシックはテラーク盤の「幻想交響曲」でした。スイングの楽しさは当然として、居並ぶ客の度肝を抜いたのは幻想交響曲の大太鼓の音でした。腹に応える重低音でした。4343はこのような大音量で本領を発揮するということと、ネットワークが如何に音を阻害しているかを実感させられたサウンドに生まれ変わりました。(再びモノは使いよう)ですから4343を自分の部屋で鳴らすことは本領が発揮されないと言うことです。僅か30万円でこれだけのインパクトを与えるサウンドを実現することは可能なのです。ポイントさえシッカリ理解するなら・・。ネットワークの弊害
この日、私の学生時代の友人がスイングは大好き!と初めて出席しました。聞き終えて「おれは、今はCDかMDの時代なのでLPは廃棄しようと思っていたが、今日の音に感動した。俺もステレオを揃えたい、400万円出せばこれ位の音が出せるか?」と云います「400万円ならこれより圧倒的に素晴らしい本格的な音が出せるよ」「本当か!それなら頼むよ」となりました。この友人は、今は東京暮らしですが、3年後には鹿児島に帰るので今の内にセットしておいてくれないか・・とのことで、早速彼の部屋を見に鹿児島へ行きました(私はそこまでします・・無料)部屋を確認し、それから設置場所を確認し、エンクロージャの設計に取り掛かり2ヵ月後には見られるとおりのオール・エールの3ウェイ完全マルチ・チャンネルが完成しました。ネットワークは一切使いません。(下の写真)
JBL4343でもアンプに全部で30万円投入すればこれ程の感動を与える音が実現しますし、鹿児島の友人のシステムもオール・エールの高級ドライバーを使用し、カートリッジ、トランスもイケダの最高品を投入し、400万円と云えばアンプはどれほどのものか想像できると思います。(内訳をザット紹介しますと、全てがエールのユニットのみで180万円と少し、これを私の設計したエンクロージャにマウントして、プレーヤー関係は、オール・イケダのみで80万円、それにフォノモーターが加わります。アンプ群はプリメイン1台、チャンネルデバイダー2台、他にメインアンプ2台の陣容。アンプにどれだけ投入したか想像して頂けると思います。この全てで400万円、この中には、これだけのものを東京から鹿児島まで搬送した搬送費用も含みます)ステレオ開きを行いました。居並ぶ鹿児島のライオンズ・クラブの方々は、「アノ歌い手は本当はこんな声だったんだ」とか「楽器の本当の音が感じられる」などの連発でした。彼は現在ジャズを中心に2000枚のLPを保有しています。
結論です
アンプはそれ程重要ではない。
しかし、これを実感する為には、現在オーディオの世界で常識と思われているものを全て否定し、常識と思っていた自分の考えが実は非常識だったと大変辛い事と思いますが、そこから脱却しない限り本当の女神は微笑んでくれません。
貴方は非常識のマスコミを信じますか?非常識と思われそうな私を信じますか?選ぶのは貴方!。
補足
因みに現在の東京・駒込の会場は、オーナーのオール・エールの大型ホーンによる、5ウェイ・フル・マルチ・チャンネル・システムをホールに移してコンサート・ホールさながらのサウンドを実現しております。出席者は現在60名の満員で、これ以上増やさない事に腐心している状況になっています。
(一曲終わるごとに拍手が沸くほどです)
アンプの問題は、使用スピーカー・システムとの問題と不可分ではありませんが、ユーザーがアンプに事の他熱心にならざるを得ないのは、一つには、最近のスピーカーの低能率化があります。ユニット自体の能率が低いところへもってきて内蔵ネットワークを通しますので、余計に本来の音まで小さくなるので大きく鳴らそうとしてハイパワーのアンプを求める傾向にあります。しかし、実際に家庭で鳴らす場合10wの出力で使用することは殆どありません。ウェスターンの300Bの真空管をシングルで鳴らしている人もいます。300Bは7wしか取り出せません。(300Bが良いと云っているのではありません)出力のマジックと云えそうな問題でもあります。更に注意したいことは、なるべくならアンプは日本製が問題は少ないのです。日本製は、どのオーディオ機器にも接続出来て問題が無い汎用性を持っていますが、外国製は他の機器と接続しても、インピーダンスやその他が唯我独尊的考えで設計されていて他の機器との接続を考慮に入れていない場合が多いように思います。事実、アメリカ製の有名機器のプリは、国産のフォノ・イコライザーを接続しても必要な出力を取り出せませんでした。受け口のゲインが低すぎて実用にならないのです。そうなりますとユーザーはどう感じるかと云いますと、このプリの方が高価なのでこちらを信用します。つまり、国産のフォノ・イコライザーが悪いと・・。
こんな例は多いのです。結局、同じメーカーのイコライザーを接続しないと駄目なのですが、プリとメインに300万円近く使った上に更に数十万円のイコライザーは二の足を踏みます。おまけに雑誌等で評判の超低能率のスピーカーですから、やはり鳴りません。結局アナログを諦めてCDで音楽を楽しむ(CDは出力ゲインが高い)という悲惨な状況です。正に悲劇です。雑誌に書かれた美辞麗句を信用するとこんな結果になるのです。これでも売った側のショップも一切の責任は取りません。由々しき問題だと思いますが如何でしょうか?
プリアンプの問題は、現在はその殆どがフォノイコライザーを内臓しないタイプになっています。これは本当は、高級な切り替えスイッチと高級なアッテネーターがあれば済む話と思いますが、とても高価なプリが闊歩しております。プリは、本当は通さない方が音の減衰は少ないのです。かって私のプリが故障した際、チューナーを直結でパワーにつないだことがあります。余りの音の鮮明さに驚きました。
シンプル・イズ・ベストなのです。ラックスのプリで、手作りによる本格的なアッテネーターを搭載したものがあります。これは、アッテネーターとしてはもっとも理想的なものです。しかし、手作りですから(オートメーションでは作れない)コストは当然掛かります。売り価格には納得しますが、ここまでしなければ本当の音楽が聴けないか?となると問題は別!と云わざるを得ません。
プリとイコライザーを別にすることは、イコライザーによる音質のグレードを選べますのでプリごと交換するよりは経済的だと思いますが、それにしても、どうも価格の高いプリが多過ぎます。また、フォノイコライザーにMC用の昇圧ヘッドアンプを内臓しているのは余計なことです。そのクラスのアンプを使うユーザーは、それなりのトランスかヘッドアンプをすでに持ってるっての!・・。
アンプは増幅器ですから、入力に反応します。良質の音を入力してやればそれなりに反応して良質なサウンドをスピーカーに送り込みます。良質な音を送り込まないで、アンプの所為にするのは主客転倒だと云えます。もう一度云います。アンプはそれほど重要ではないと・・。
但し、アンプ選びの条件は、名の通ったメーカー品に限ります。失礼ながらガレージ・メーカーの真空管アンプは避けた方が賢明かも分かりません。ガレージ・メーカーは「このアンプは・・」と理屈がつきますが、理屈は音に先行しない訳ですから・・・。(真空管アンプはすでに30年以上も前に技術・回路面で完成したと言われています)
アンプ・メーカーさんにお願いです。もっと、実用的なアンプを作って下さい。必ず売れますから。
売れないのは、ユーザーの本音を知ろうとしないか、たぶらしかているかどっちかです。現に、国産のメーカーの中で、キチンと応えているメーカーもあります。
マルチチャンネルにはより具体的にこの文をフォローしてあります。
2005・4・20