ネットワークの弊害  

――必要悪の最たるものーー

シングルのフルレンジ・スピーカーを除きマルチウェイのシステムには通常ネットワークが内臓されています。但し、2ウェイの場合は、ネットワークに依らずハイパス・フィルターのみによるものもあります。

 このネットワークは、アンプから送られたフルレンジ(全音域)の周波数を、マルチ・スピーカー・システムの各ユニットに送り込む為の所定の周波数に分割するのに必要なものとされています。実は必要としながらも、これが本当は音を悪くしている張本人なのです。

 ネットワークの構造は、コンデンサーで、必要な高い方の周波数のみを通すようにして(コイルと併用して有利性を計ろうとする方法もあります・・・実質的にはこちらが多いようです)、コイルで高い周波数をカットするという構造で、3ウェイ、4ウェイとなるに従い、その数が増えていく事になります。(見た目には一個のネットワークに見えますが、コイルやコンデンサーの数が増えます) 

 今から論じますのは、このネットワークが本当は無い方が良いという話です。

 雑誌やオーディオ・ショップの話では、スピーカー・ケーブルの重要性をかなり吹き込まれた方も多いと思います。最近のオーディオ相談欄を見ますと、機器の他に「ケーブルはこれを使っています」などという相談が掲載されています。事実、「音質を変えたいのでどのケーブルが良いか」と相談に来ている人を実際に見掛けました。ハッキリ申し上げてこのようなユーザーは本当に多いらしいのです。オーディオ・ショップにとってこれ程有り難いお客様はいないのです。何故って、当たり前です。余談になりますが証明します。

 先ず、ケーブルは故障をしません(従ってアフター・サービスはゼロ)。ケーブルはお持ち帰り商品です。まさか「配達してくれ」という客はおりません(配達の経費もゼロ)。ここだけの話ですが、ケーブルは仕切り価格が通常のオーディオ製品に比べウンと割り安なのです。発売元にもよりますが、先ず通常より1割、ものによっては2割方安いのです。従ってケーブルを勧められる理由がお解かり頂けたでしょうか?(利益が大きく在庫のスペースもいらないし配達もアフター・サービスもない)。余談ですが、私が新規にセットするオーディオのケーブルは、私が準備するので無くユーザーにこんなものをと任せます(或いは指定します)。また、私に任せられる場合はスピーカー・ケーブルで70円/mクラスです。これで十分なのです。マルチ・チャンネル たかがケーブルだと笑っては済まされません。あるメーカーの銀ケーブルは40万円/mもするのですよ。これを10メートル、400万円をローンに組んで実際に使っている人を知っています。私のような常識?人間からみれば、正に狂気の世界かそれともショップは詐欺集団なのか?と思いますが、これはショップが悪いからでは無く、ましてや作っているメーカーが悪い訳でも無いと思います。結局は買い求めるユーザーがいるから「もの」は存在するのです。ユーザーが本当に「もの」を分かっておればこの様な製品は出て来ません。大事なことは「お金を出すのは貴方!受け取るのはショップです」どちらが真剣でしょうか?どうもオーディオの場合は、ユーザーが安易に金を出し過ぎます。無駄なお金は使わない

 ネットワークの話の筈なのに何故ケーブルの話だ!と思われるかも分かりませんが、密接に関係しますのでお付き合い下さい。非常に重要な、しかも根本的な問題があります

 ケーブルを大事にする理由は分からないではありません。それは、どんなケーブルであろうと取り替えれば音は変化するからです。この変化の意味は、ケーブル自体の透過率の問題もあるでしょうが、機器との接点が新しくなりますので、その方の効果が大きい部分もあります。試しに、現在使用中のケーブルの先端を切って新しい被覆の部分を剥き出してつないでみて下さい。明らかに音が蘇る筈です、つまり、ケーブルの変更効果とはそれ以上の効果がなければなりません。しかし、本当はそれほどの効果は望めません。「確かに良くなった!」と実感される方もあると思いますが、基本的には良くなっていないのです(ケーブルに限らず、機器の接点は空気中の酸素によって酸化します。この酸化皮膜を取り除けば音はクリアーになります。メガネの曇りの現象と同じです・・・曇った状況では上手く電流も流れ難いと云う訳です。その点で接点復活剤も効果があります)。金を掛けないで音を良くするテクニックの一端です。更に付け加えますと、私が推薦している70円/mのケーブルは、通常の平行線ですが、これは、規格線と云ってUL規格に合格したレッキとした規格品なのです。一般に大手の電線メーカーが作っているものは良いとして、オーディオ用ケーブルの殆どは、電線メーカーから買った電線を被覆や内部を加工して理屈をつけて売っているに過ぎません。中味の電線がどんなもので、どのメーカーのものかは分かりません。

 このケーブルのことを何故こんなに取り上げるか?と云いますと、ケーブルにそれ程の気使いをする位ならもっと大事なことがある!・・と云いたいからです。

 ネットワークの構造は先に述べましたが、本来は、アンプから送られた信号は、ケーブル以外何も通さない方がアンプの特性を損なわずにスピーカーを駆動できる道理です。ところがネットワークを通しますと、コイルの内部抵抗やアッテネーター(殆どが可変抵抗型)を通ることによって電流は減衰します。このコイルは、クロスオーバーが低いほど長くなりますので、低い方をネットワークで分割することは本来は好ましくありません。ですから4ウェイのJBL4343は、ウーファーを切り離してマルチ・チャンネルに出来るようになっています(クロスは300Hz)。これは、「ネットワークは通さない方が良いのですよ」と云っている訳です。その上の4350は、250Hzに設定されている為、初めからマルチで駆動するようにネットワークを内臓しておりません。高い方はコイルが短くなりますので、比較的影響は少なくて済みますが、それでも無い方が良いのです。

 図面を見て頂ければ分かりますが、これだけのコイルとコンデンサーを通過します。しかも、コイルの材質は、単なる銅線です。いくらアンプからスピーカーのターミナルまで高価なケーブルで持って来ても、ネットワークを通った瞬間からアンプ特性も損なわれて半端な駆動しか出来ません。ケーブルは短い方が有利としてギリギリで使用しているユーザーも多く見かけますが、普通の銅線がネットワークの中には3mも5mもに亘り内臓されているのです。ただでさえ「ひ弱な音」しか得られない低能率のスピーカーを駆動するのに苦労している所へネットワークが完全にその音を食いますので、全く音はでたらめになって再生されることになります。ヌケの良い朗々としたサウンドなどは得られる筈が無いのです。

 余談ですが、かってマルチチャンネルが持て囃された時代があって、その頃はマルチに不慣れで、良くスピーカーを破損する人が多かったのです。すると、その防衛策として、アンプとスピーカー・ユニットの間にコンデンサーを入れて安全を図る人を多く見掛けました。これではマルチの意義も薄れます。アンプとスピーカーの間は何物も介入せずストレートが理想なのです。

2005・4・25