アナログの再生
――音楽を聴くのに横着をしない!――

 CDの再生には、何もテクニックは要りません。CDをセットしてリモコンのボタンを押せばOKです。プリのヴォリュームもリモコンでOKです。これで心理的にも本当に音楽を鑑賞する状況が生まれるのか私自身は疑問に思っています。(甚だ勝手な言い分かも分かりませんが・・・)

 かって、東京文化会館(上野)に、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮のレニングラード・フィルハーモニー交響楽団(現・サンクトペテルブルク・フィルハーモニー)の演奏会があるので、わざわざ鹿児島から上京して聴きに行ったことがあります。

 演奏前に、食堂に行き腹ごしらえをしようとしていたら、直ぐ隣の席に、著名な音楽評論家で、レコードのライナー・ノートも多く執筆し、NHKの音楽番組の解説も担当している人(評論家の代表的大御所)が食事をしていました。以前お会いしたこともあったので、挨拶はしましたが、この評論家大先生は、カレー・ライスを食べていました。「別にいいじゃん」と思われますか?「それはねェだろう!」と思われますか?どの業種によらず、「評論家」という人たちに疑問を持つ発端になったことは事実です。(ホールには、評論家用の席が設けられていて10人位の評論家が並んで座っていました。私の直ぐ前でしたので良く見えましたが、その鑑賞態度たるや実に許せないデカイ態度でした)・・失望!・・

(高尚な音楽を解説する有名な方でも、人格まで高尚とは限らないのですね)・・・失望!・・・

 私自身は、自宅でクラシックを鑑賞しようとする際は、カレーライスだろうが、焼き鳥だろうが構いません。しかし、音楽会に行く時は演奏者に失礼が無いように(演奏者は燕尾服を着ています)スーツにネクタイ姿で出掛けますし、食事も雰囲気を作る為に少し張り込みます。間違えてもラーメンを食べて臨むことはありません。音楽を真剣に聴く場合は、その事前の心構え(雰囲気作り)は大事だと考えています。もっともジャズの場合は、それなりにまた違いますが・・・・。

 その点で、CDはどうもカレーライスに近いな・・と思えます。アナログはそうは行かないのです。

 CDは手間を掛けても殆ど音には変化がありまえん。「いや、そうじゃないCDプレーヤーだって、その置き方、台座の問題などそれなりにあるんだ!」とCDマニア?の中には言われる方もおられると思いますが、CDは音楽を再生しないに書きました「ハナグスリ」ほどの差もないと断言できます。

 しかし、アナログは全く違います。アナログの再生と、その調整法についてこれから述べますが、非常に残念なことに現在アナログに堪能なオーディオ・ショップがいないのです。あるショップの店主(経営者)が「云われる事は良く分かっているけれど、正直な話、CDを売る方が楽ゥー」と云われます。これが実態でしょう。この経営者もアナログをなんとかしたいと思っていても、「ユーザーがCDを求めるなら黙って売るのが商売だ!しかも取り付けの煩雑さが全く無い。CDはつなげば音が出る」良心的なこのお店の店主にこうまで言わせるのはなんでしょうか?ひとつには、ユーザーがマスコミに毒されてアナログを求めていない!・・という現実があると思います。心あるショップは、ジレンマを抱えていることは事実ですが、それでも、今となってはアナログのノウハウも持ち合わせていないのです。

 CDにかまけてアナログの勉強をするヒマが無かった・・・というだけです。

 しかし、相当なキャリアがあり、尚且つアナログを重視して、高価なプレーヤーも目一杯売り込んでいる店主は、実はアナログが判っていなくて、私がアドバイスしても「オーバーハング」(後述)を理解していませんでした。この店主が理解していない位なら全国が駄目だ!と思ったものでした。

 こんな状況ですので、なるべく詳しく述べてみたいと思います。

プレーヤー周辺機器で、フォノ・モーターについては詳しく述べてありますので、ここでは、トーン・アームの取り付け、調整、留意点など、さらにカートリッジの留意点などを述べていくことになります。

トーン・アーム・・・トーン・アームの取り付け・調整はアナログ再生の重要なポイントです。

 取り付け位置の決定は、トーン・アームに実態図が付属していますが、本当は図面でなく、実際に測定して決めます。決め方は、トーン・アームごとにオーバー・ハングが決められておりますので、その値に合わせます。例えば、オーバー・ハング12mmと指定されている場合は、トーン・アームに使用するカートリッジを装着して、カートリッジの針先の位置が、ターンテーブルのセンター・スピンドルの中心から12mm先になるようにセットします。ヘッド・シェルに装着するタイプのカートリッジの場合は、シェルに装着する際にシェルへの取り付け位置で調整は可能ですが、イケダやオルトフォンのSPUタイプのようにシェル一体型の場合は、それが不可能ですから、キチンとセットしなければなりません。そのために有利な方法はトーン・アームをセットするアーム・ベースが可動式になっているのが望ましいのです。プレーヤー・キャビネットに直接セットする場合は、アームの取り付け穴を少し余裕をもって大きく開けて若干の可動の余裕を持たせておくと良いでしょう。そうすれば微調整が可能となります。一般のカンチレバーつきカートリッジの場合は、1mmくらいのずれはそれ程音に影響しませんが、イケダのようにダイレクト式カートリッジで、しかも超敏感なカートリッジは、この調整ひとつでめまぐるしく音は変化しますので、この調整は大事です。さらに、アームの高さ調整ですが、カートリッジをレコード盤面に乗せた状態で見ます。本などでは、アームが盤面に対して平行(つまり水平)が望ましいと書いてありますが、カンチレバーつきのカートリッジでは、やや尻上がりのほうが良いのです。それと、カンチレバーが針圧でどれほど沈むかということを目で確認して下さい。この沈み方で、適正な針圧かどうかも判るほどです。

 イケダのダイレクトの場合は、針の沈み具合は判りません。これは、針圧をキチンと1.8g〜2gに設定する以外にありません。イケダの場合のアームの高さ調整は、「限りなく水平に近い尻上がり」が望ましいのです。カンチレバーつきでもイケダでもアームの尻下がりは絶対に避けるべきです。また、カートリッジによって高さは変化しますので、カートリッジを取り替えた際は、その都度調整の必要があります。

カートリッジ・・・カートリッジの留意点は、レコードのクリーニングと密接な関係があります。試しに、お持ちのレコードをそのまま掛けて聴いた音と、今度は、そのレコードをぬるま湯に浸したガーゼに中性洗剤を薄めて浸し、そのガーゼでゴシゴシこすって盤面を綺麗にして完全に水分を拭き取って再びかけて見て下さい。まったく違う音になった事を確認される筈です。これは、レコード盤面に空気の被膜が付着していたのです。つまり、被膜の上から再生していたことになります(メガネの曇りと同じで、何もしなくても空気の影響で被膜ができます)。これは通常のカートリッジ(カンチレバーつき)で再生する場合は気付きません(音として感知しません)。しかし、イケダのダイレクト式では完全に音として再生されます。シュルシュルという異音になって再生されます。そのたびに、レコードを完全にクリーニングしていないと音楽を楽しむ事ができません。逆に言いますと、被膜の音を見逃すようなカートリッジは感度が鈍い!。つまり、音楽成分も万全に再生していない!・・・と言えます。(解決法は後述)

 もう一つ、アナログ再生に欠かせないことがあります。レコード面の埃の問題です。当然、レコードを再生する事前には盤面の緻密なクリーニングは欠かせませんが、それでも埃は付きます。目には見えない微細な埃もありますし、中には針先によって小さく削られたレコードの盤の削りかすもあります。

 これらは、カンチレバーつきの場合は、針先(チップ)を伝わってカンチレバーと針の取り付け部分に押し上げられて固まります。音としてはなかなか気付きませんが、肉眼で見えるほど溜まっていることも多いのです。この部分を馴れた人に削り取って貰うと音が蘇る事を実感します(不慣れな人は絶対にしないで下さい。チップを飛ばす事もあります)。どうしてもやってみたい場合は、剃刀の刃で、ユックリ横方向へ(カンチレバーに沿って針の取り付け部分の方へ)削り、またチップの下方から取り付け部分の方へ削ってみて下さい。但し、失敗しても私は一切責任を負いません(笑)。だからしない方が良いですよ・・と・・・。

これがカンチレバーつきですから、この程度で済みますがイケダのダイレクト・カートリッジでは、音が出なくなります。つまり、埃がチップとヨークのギャップの隙間(肉眼では見えないほどのギャップ)に入り込み再生不能になります。従って、イケダの場合は、レコードが片面終わるごとに針先をクリーニングする事が望ましいのです(本当はカンチレバーつきでもそれが理想的です)。針先のクリーニングは、筆の先や、メガネ拭きのような微細な編み方の布で、針先の奥から手前方向に軽く拭き取ります。

強くやりますと、チップを飛ばしかねません。面倒に感じられるかも判りませんが、慣れればそれが普通のことになりますし、アナログを使う際の一種の儀式のようなものです。しかし、再生されるサウンドを考えますと、他のものに替える気持ちも失せるほど音楽が楽しめるのです。また、レコードのクリーニングに最近売り出されているクリーニング液等を使用の場合は、その水分が内部に入り込み思わぬ事故を起こします(非常に多いのです)。

 アナログの再生には、特にイケダのような最先端のサウンドを得ようとすれば、随分手間が掛かります。この手間を掛けた分だけ音は何物にも代え難い素晴らしいサウンドを得られます。マルチ・チャンネルと言い、このアナログの再生と云い手間が掛かります。その分だけオーディオに愛情も湧きます。音楽にも真剣になります。するとオーディオの方でもその努力に応えてくれます。

 ここまで留意して初めて本当のサウンドになります。カレーライスとは違う訳です。

 音楽を聴くのに横着をしない・・・このタイトルがご理解頂きましたでしょうか?

※       レコード・クリーニング・・・いちいちガーゼと中性洗剤は、大変な労力を使いますので、実用的ではありません。更にオーディオ・ショップ等で売っているクリーニング液も私は信用しません。

かって、レコード用品のトップ・メーカーであった「ナガオカ」が東芝と共同開発した「クリヤトーン・スプレー」というスプレーがあります。揮発性に富んでいますし、静電防止効果も優れていますので、これをお勧めします。現在も「クリヤトーン558」としてレコード・ショップで発売しています(メーカー名はナガオカ・トレーディング・・一本¥1500−)。

 このスプレーを、クリーナーにタップリ吹きつけ、盤面を強めに拭き取ります(何回も)その後別なクリーナーでもう一度拭き取ります。一度で完全に拭き取れない場合は繰り返します。これで、イケダのシュルシュル音も完全にとれます。但し、クリーナーは、同じナガオカの「アルジェント・113」クリーナーが理想的ですが、最近はイタリー製のベルベットが入手困難で、材質が変わっています。ナガオカに残っていたアルジェント(ブランド名を印刷前の白物)クリーナーを全て私が買い取り、少し在庫があります。(20人まで分・・・12個で1万円、送料・税込み、お一人様 12個まで) 1月現在、在庫が僅少になりました。最後の在庫で、以後の入手は出来ません。アナログ・ファンの方は、この際入手される事をお勧め致します。ご注文は、末尾の「ご相談・お問い合わせ」欄のアドレスからお願い申し上げます。

これは現在市販のもの(アルジェント114〜116)とベルベットが違いますので効果が大きいのです。

113は当時¥1000−で現在の114は¥1200−だと思います。

お知らせ
アルジェント・113 クリーナーの問い合わせがございますが、2009年4月現在すでに完売となっております。

2005・5・1