私が試聴用に良く使うレコード 

―― その聴き所のポイント ――

私は、新製品のカートリッジ(イケダ)やトランス(イケダ)などを初めて聞く場合は当然として、お客様に製品を発送する場合も(地方のお客様、東京近辺は持参します)私自身が必ず発送前に事前テスト試聴を行います。池田さんを信用していない訳では決してなくて、自分が安心するためです。池田さんも私がテストすることで安心されるのです。また、自身がテストした事で、お客様から質問などがあった場合に、その製品個々に対して的確に答えられるのです。但し、スピーカー・ユニットはテストをしません。これは取り付けには私が必ずユーザー宅へ参りますのでそこで確認できます。〔全国〕

その試聴の際に使用する一部のレコードとそのポイントをご紹介して参考に供したいと思います。

 以下に紹介するレコードは必ず使用する訳ではありません。特に、お客様のお宅にお伺いする際は、お客様のご要望が特に無ければ試聴用のレコードを持参することはありません。クラシック専門のお客様であれ、ジャズ専門のお客様であれ、お客様のコレクションの中から適当に選んで(或いは選んで頂いて)テストします。そのためには、そのレコードの演奏や演奏者の音を含め、こちらで理解しておく必要があります。

 少し余談になりますが、こんな実例を紹介しておきます。

 あるお客様宅へ、新製品のイケダのカートリッジ、トーン・アーム、トランスを持参して聞いて頂こうと伺いました。この方はジャズ中心の方です。先ず、適当にお客様にレコードを掛けて頂きました。

一聴して私には直ぐに演奏者がわかりました。ご本人は、今までも「これで良い」と思っておられたようです。私が質問します。確認のために「このレコードはCTI(レーベル名)ですよね?」「そうです」「では、このトランペットはフレディ・ハバードですよね」「そうです」「フレディ・ハバードの音はこんな音ではありませんよ」「エェッ!」次にテナーが鳴ります。「これはスタンレイ・タレンタインでしょう?」「そうです」「タレンタインもこんな音ではありませんよ」「エェッ!」・・・・「では、先ず、トランスだけを替えてみますよ、トーン・アームとカートリッジはそのままです」音が変わります。近づいてきました。「次はカートリッジはそのままでトーンアームを取り替えます(取り替える為の私なりのパーツは持参していました)」更に近づきました。お客様は固唾を呑む雰囲気です。「近づいてきましたね。最後にカートリッジを取り替えますよ」・・・・・「これがフレディ・ハバードの音です。・・・これがスタンレイ・タレンタインですよ」シッカリと独特のハバードのトランペット、タレンタインのサックスが鳴りました。ハバードの音は幅があって独特な音で心地よいのです。一方のタレンタインも豪快で幅のあるトーンです。それが失われては本当の音楽は聴けません。私の云う「音楽を間違って聞く!」ことになっている訳です。ご本人は「だまされた!」と今までのトランスを放り投げそうな勢いです。「じゃ、とりあえずトランスとアームをお願いします」。後日、取り付けに伺いました。それから3日後、留守電にこの方から3回も留守録が入っています。帰ってから「どうしました?」と電話を入れますと「速くカートリッジを入れて下さい」・・・結局、トランスとアームだけではあの時の最終サウンドが得られなかったようです。以後ここのオーディオは発展し、現在はエールの5ウェイになっています。

「お客様ご本人の了解済みで掲載しています」

 このような場合、トランペットは違うが、サックスは良い・・・ということは絶対に起こり得ません。ヴォーカルは悪いがベースの音は良いんだ・・・というようなことも起こり得ないのです。一つが悪いと言う事は、音そのものの再生が万全で無い事の証明ですから、トランペットが悪ければ当然サックスも悪いとなる訳です。

では、ハバードとタレンタインのトーンがどんなものか、この時とはレコードは違いますが、端的に分かるレコードがありますのでご紹介しておきます。(ジャケット写真)

 CTIオールスターズの演奏するライブ録音で「CTIカリフォルニア・コンサート」(1971年録音・・・2枚組み)に収録されている「シュガー」(2面の2曲目)です。最初のソロがタレンタイン。次に司会者の紹介でハバードのソロが入ります。印象的な名演です。

さて、本題に入ります

クラシック

1)       ブルックナー作曲 交響曲第四番 変ホ長調 「ロマンティック」 第一楽章 

     カール・ベーム指揮ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団       <ロンドン>

この曲の冒頭はp(弱く)が3ッ付いています(ピアノ・ピアニシモ)。弱くが3ッですから「最も弱く」、または「非常に弱く」との指示です。聞こえるか聞こえない位の音で、全弦楽器がさざ波のように小刻みに奏されます。ここの刻み音がシッカリ明快に聞き取れるかどうかです。この小刻みが限界的な小刻みに聞こえれば正解です。ここは、カートリッジのトランジェントの実力が試される場面です(カンチレバー付きでは無理?カナ?)。またスピーカーの再生能力も試されます。間もなく(3小節目から)ホルンのソロが入ります。このホルンはmf(メゾ・フォルテ・・・やや強く)です。従ってpppの弦樂合奏に対してホルンはソロとは言えmfですから、油断をすると、弦楽のpppは聞き逃して、ホルンのこの音から曲が始まると錯覚を起こし兼ねません。ここはシッカリ弦から聞こえなければなりません。ホルンの奏する間にもチェロやコントラバスが下降旋律を奏し始めます。ここもシッカリ聞き取るべき場面です。緊張感が高まります。その後、他の管楽器が加わり、クレッセンド(段々強く)がきて、緊張感と共にティンパニが加わって全合奏になります。ここはff(フォルティシモ・・・もっとも強く)です。ここで爆発したように壮大なサウンドになります。ここで、十分に大きなダイナミック・レンジが感じられるかどうかです。スピーカーの実力が試されます。(ジャケット写真)

楽譜1 ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」の冒頭

 中間で管楽器がゆっくりと奏する場面があって、ここではベームのうめき声が入っているのですが、それはどうでも良い事です。最後の終結の部分で、4本のホルンが2本ずつに別れて奏します、最後はこの4本が同じ音程で奏します。この場面は、前からズットffですが、オーケストラが全休止してホルンのみが残ります。特に最後は圧巻で長く(2倍)伸ばして終止となります。このホルンが、豪快にしかも美しく更には咆哮するように響くかどうか。此処は全くホーン・システムの独壇場と云わなければなりません。まず、コーンやドームでは全く再生されません。「ウイーンのホルン」と云われる独特の響きを、そのままのサウンドで再生して欲しい場面です(ウイーン・フィルは、その音質の良さから、わざわざ演奏の難しい古いタイプのホルンを100年以上も前から今も使用しているのです・・・その音をキチンと再生して欲しいものです)。

楽譜2 ブルックナー作曲 交響曲第四番 「ロマンティック」 第一楽章終結部

 私にとって、このレコードの第一楽章は、オーディオの実力を試すのに最良のもので、チューニングもこの一枚で十分なほどです。あらゆる部分が含まれていて、これでチューニングすれば、何を鳴らしても大丈夫!と云うほどの多彩な内容が含まれています。

2)       ベルリオーズ作曲 「幻想交響曲」 作品14

     ロリン・マゼール 指揮   クリーヴランド管弦楽団         <テラーク

この曲が、ベートーヴェンが没した3年後(1830年)に発表されたことは全く音楽史上の大変革だと思いますが、このテラーク盤は、デジタル録音ながら聞かせどころを多く持っています。

大体、テラークは録音レベルが少し高いようです。従って注意しないとウーファーがビリついたりすることがありますし、許容入力の小さいウーファーなどでは、最近の高出力アンプではボイスを飛ばさないとも限りません。しかし、この曲は、大音量で、その大迫力を鑑賞しないと意味がありません(実際のホール演奏でも大迫力です)。(ジャケット写真)

 その意味で、このテラーク盤は鑑賞にも堪えられる良い演奏である上に録音も抜群で、試聴用には最適なのです(「幻想」は他にも名演は多くありますし、録音の優れたものもあります)。この曲の第四楽章からは大迫力の連続で終曲へ進みますが、途中で驚くような大太鼓の音が突然入ります。この音が通常の大太鼓の音のように「ドドドーン」と響くようでは立ち上がりの悪い音と云わなければなりません。此処は実に歯切れの良い、しかも重量感のある「ダダダン!」と響くのです。あたかも太鼓の皮を目一杯張り切った感じの音でなければ本当ではありません。これもカートリッジのトランジェントの良さと、ウーファーを含む中低域のユニット自体の立ち上がりの良さを求められる所です。コーン・ウーファーを500Hzあたりまでも使ってはこの音の再生は無理です。最低でも200Hz以下でなければ、更に200Hz以上がホーンでなければ出ません。コーンやドームでは無理なのです。アンプはそれほど重要ではないの項に述べましたJBLの4343を使ったコンサートでは、この場面はかなり肉迫したサウンドが得られました。その原因は、ウーファーを300Hz以下で、しかもマルチにして単独のアンプで直接駆動したことと、エールのツイーターを加えて万全な倍音を得ていたこと。加えて入力側は最新のイケダ製品で固められていたことです。カンチレバーつきカートリッジがこの大太鼓の立ち上がりに追従することはチョィト無理ですね。(多分)

 それともう一ヶ所注意したい場面があります。曲が終わりの部分に近づいてきて一段と緊張感が高まった頃、急に静かになり、一般には馴染みの無い音が聞こえます。「カシャカシャカシャ」というようなリズムとも旋律とも取れない部分が入ります。ここは「コル・レーニョ」という部分で、ヴァイオリンの弓の背中(木の部分)で弦を叩いて(或いはこすって)弾いている部分です。

 この楽章は八分の六拍子です。八分音符6コが一小節にあります。この場合一拍目を強く、2・3拍目を弱く奏します。一小節のなかでこれを2回繰り返すことになります。このレコードのこの部分は、キチンと強弱を演奏しています。これがキチンと聞き取れるかどうかです。カートリッジの再生能力と、スピーカーの再現能力が試されます。通常はこの部分は「カサカサカサ」と聞こえるのみで聞き逃します。(カシャカシャカシャの3回の内の最初の「カ」の部分が強なのです)注意して聞いて下さい。

(コル・レーニョとは、イタリア語で「木で」の意味です。通常に戻す記号は「arco」です。(arco「アルコ」はイタリア語で「弓」の意味・ピッツィカートから弓に戻す場合もこの記号を使います)

3) モーツァルト作曲 ヴァイオリン協奏曲 第五番 イ長調 「トルコ風」 第一楽章

      コリン・デイヴィス 指揮  ロンドン交響楽団

      ヴァイオリン独奏  アルテュール・グリュミオー        <フィリップス>

  この曲も、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲中もっとも有名で演奏会でも頻繁に取り上げられる名曲です。中でもこの演奏が最も優れていると私自身は思って愛聴しています。この曲の聴き所は、出だしの「ジャン!」と鳴る序奏部分のテュッティ(全合奏)だけです。勿論鑑賞の為には全曲通して聴きますが、最初の「ジャン!」の一拍でその日のオーディオのご機嫌が分かるのです。

これは、全体のチューニング・バランスが狂っているか、いないかを見る時に最適です。この一発で「ホッ」とするか「アレ?」と思うかです。この演奏は優しいし、グリュミオーのヴァイオリンが小気味よいし、非常に楽しめる演奏です。是非、モーツァルトの音楽のハーモニーを堪能して頂きたいレコードだと思います。ある、著名なオーディオ専門家?(評論家ではない・・・・何冊もオーディオ関連の本を出している人)は「外国製のMCカートリッジに頼らなくても、国産のMMカートリッジでも、十分にグリュミオーのヴァイオリンが柔らかく聞こえる」・・と書いています。グリュミオーのヴァイオリンが柔らかく聞こえたらそれはグリュミオーではありません。この演奏が証明します。「エ?柔らかく聞こえますか?」それはいけません。カートリッジがヤワで、ソフト・ドームのスピーカーではありませんか?「音楽を間違って聴いておられますよ!」

 

 4) シューベルト作曲 交響曲第八番 ロ短調  「未完成」 第一楽章

    カール・ベーム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 <ドイツ・グラモフォン>

  この曲の場合は、どのレコードであっても構いません(演奏内容は別として)。再生に対して問題の箇所は第一楽章の冒頭、有名な序奏の旋律です。チェロとコントラバスで奏されます。ここの、この旋律が第一主題だと思っている人が多いのですが、これは第一主題ではありません。しかもこの旋律は第二楽章にまで影響している重要な旋律ですから誰でも始めは主題だと思います。この旋律のなかで、実は、最低音の音が下がりきっていない!と云うことなのです。通常のオーディオでは・・・。これは、単発ユニットとして発売されているウーファーでも下がり切れません。これではマトモにメロデイを再生していない事になります。このメロディをご記憶の方はメロディを辿って下さい。(或いはスコアを見ながら確認して下さい)、そうです一番低い音があるでしょう?その部分です。ここは、通常の中央「ハ」(ド)の音から約2オクターブ低いのです。チェロなら何とか再生出来るにしてもコントラバスは更にオクターヴ低くて、しかもこの音はコントラバスの最低音なのです。(コントラバスの実音は記譜音より1オクターヴ低いのです)。その前の2分音符は半音高いだけで、この部分から音程が上がって聞こえます。次の最低音は、四分音符ですが、これは全く高く聞こえます。ウーファーの低域再生が万全でないので、このような現象が起こります。国内大手の単発ユニット・ウーファーでも再生されません。5ウェイで80Hzから上をホーンでもってしても出ません。これも音楽を間違って聴いている事になります。スピーカー・ユニットの理想に紹介したエールのウーファーのみが万全に再生します。・・・・因みに第一楽章の第一主題は、次のヴァイオリンの十六分音符と低音弦のピッチカートに支えられて木管(オーボエとクラリネット)で奏される旋律です。

楽譜3 シューベルト作曲 交響曲第八番「未完成」冒頭のチェロとコントラバスの旋律

5)       ベートーヴェン作曲 交響曲第九番 ニ短調 「合唱つき」 第二楽章

   ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団   <ドイツ・グラモフォン>

 この曲の第二楽章は、音楽史の上で初めて第二楽章にスケルツォを据えたとして注目されますが、本来第三楽章に据えられていたメヌエットをスケルツォとしたのはベートーヴェン自身ですから問題は無いわけです。その後の作曲家でも第二楽章をスケルツォにした人はいます。有名な所ではブルックナーの第八番です。彼もベートーヴェンを意識したのかどうか知りませんが、ティンパニが大活躍します。この第九もさながらティンパニ協奏曲の感のある楽章ですが、このティンパニの演奏になかなか私を満足させてくれる演奏が少なかったのですが、このレコードは大推薦です。

 通常、スケルツォはメヌエットから発生していますので、大抵は四分の三拍子で三部形式です。

 つまり、第一部、中間部、第二部の構成ですが、この曲は、第一部と第二部がソナタ形式を構成するという膨大な小節をもっています。その第一部の冒頭、弦楽器の4小節のあと、ティンパニが同じようにヘ音のオクターブの強打を出します。この部分で、十分な迫力あるサウンドをどこまで再生出来るかが鍵です。他の演奏は兎も角、この演奏は別格に凄い音が入っています。展開部に入り、正確にはスコアの195小節目からティンパニとフル・オーケストラの掛け合いが始まります。ここでは、オーケストラを圧するティンパニが聴かれますが、これもトランジェントがシッカリしないとフヤケてしまいます。此処では連続4回強打音があって5回目がディミニエンドで叩かれます。最近は、途中で弱くしたり、一回目だけを強くして後を弱くする指揮者もいますが、楽譜では、4回目まで「f」になっています。勝手に解釈を変える指揮者の演奏は聴いても余り楽しくありません。それを超えるサムシングの素晴らしさがあれば別ですが・・・。兎に角、このティンパニを試して下さい。もっとも鑑賞の為には全楽章共、お聴きになることをお勧め致します。終わった後は声も出ません。

楽譜4 ベートーヴェン作曲 交響曲第九番 第二楽章の冒頭

楽譜5 ベートーヴェン作曲 交響曲第九番 第二楽章の195小節目から
      下から6行目の低音記号がティンパニーです。

6)       モーツアルト作曲 歌劇「後宮からの誘拐」序曲

   オトマール・スウィトナー指揮 ベルリン・シュターツ・カペレ      <エテルナ>
 この曲は、クラシック・ファンなら誰でも聴いたことのある有名な序曲です。お馴染みだと思います。これは、当時として(1882年初演)は珍しく各種の打楽器を使用していますが、この演奏のトライアングルの音が聞き取れるかどうかです。カートリッジの再生能力と、スピーカーの再生能力を求められます。キチンと聞き取れたら正解です。

 ここに取り上げたレコード以外に、その演奏表現が上手く表現出来なかったり、今ひとつ感動に乏しくなる(オーディオによっては)ものなど色々あります。
 また折に触れそのようなレコードもご紹介するページを設けていきたいと考えます。 ジャズ編は別項とします。是非ともジャズにもご理解を頂ければ大変嬉しく思います。ジャズに造詣を深めるとクラシックも更に楽しめるものと思います。私のお客様で、クラシックのみ、ジャズのみと言われる方は一人もおられません。皆さんが一様に双方を同じように楽しんでおられます。楽しみは多い方が、よりオーディオの楽しみも増えると考えています。シャズもクラシックも双方を楽しめるのがオーディオの本来の姿ですから・・・。      

2005・7・6