私が試聴用に良く使うレコード

―― その聴き所のポイント ――

 オーディオのチューニングが万全であるか、或いはそうでないのか、また、システムの能力が如何程のものなのかなどを確かめる際に、試聴するレコードは、大体限られてきます。その一部をご紹介致します。ここでは「ジャズ編」です。

 通常のオーディオ試聴会や、オーディオ・フェアなど、或いはショップの店頭などで鳴らすものは、一般的な観賞用レコードの場合は少なくて、特にそれ用に作られた録音重視のソフトが多いようです。

しかし、リスナーが自宅で音楽を聴く場合、そのようなレコードは殆ど聴きません。音楽には意外と無関心で、オーディオが中心としている方々の中には、そんなものも必要でしょうが、一般的には必要ありません。従って私が使用するレコードは、観賞用のごく普通のレコードです。この方がむしろ、音が自然で、音楽性も高いので、より本当の試聴が出来るのです。クラシックの場合も同じです。

1)       カンサス・シティ・7 / カウント・ベイシー&カンサスシティ・7    <インパルス>
 このレコードは、ベイシー・ファンを自認する方ならきっと愛聴盤の筆頭に上げられる方も多いと思います。岩手のジャズ喫茶「ベイシー」に私が初めて伺った時も、店主の菅原さんは真っ先にこのレコードを掛けてくれました。先ず、一曲目のベイシーのピアノを始め、全曲が聴き所ですが、再生に際して、通常のシステムではなかなか本領が発揮出来ないのがA面3曲目の「I WANT A LITTLE GIRL」です。ここのサド・ジョーンズのワンワン・ミュートのトランペットです。実に細い音で、しかもミュートを完璧に効かせて、さらに粘っこく演奏します。サドの名人ぶりが遺憾なく発揮されている場面です。私の場合は、イケダのカートリッジ「スプレーモ」のとき初めてこの音を本当に味わいました。息子に聴かせましたら言葉も出ませんでした。また、別な音楽ファン(ジャズ・クラシック共に堪能でレコードも6千枚を保有している人)に聴かせましたら「イヤー・・・これは!・・・」と云ったきり絶句して仕舞いました。このトランペットはイケダのスプレーモ及びその後の製品でしか再生されない音です。

 この曲では、ベイシーはオルガンを演奏しています。このオルガンが、音量は控え目ですが、後でやや大きくなり、グンと下降するシーンがあります。この部分は、大型ホーン・システムでは唸るほど素晴らしいのですが、一般のオーディオでは通り一辺に聞こえます。勿体無いほどの演奏です。

 またフランク・フォスターのテナーのバックで、オルガンの高い音が小さく「チリチリ・・」と入っているのも聞き逃せません。気付いておられましたか?当然気付いておられますよね。

2)       ジス・タイム・バイ・ベイシー / カウント・ベイシー楽団       <リプリーズ>

 再びベイシーです(ベイシー大好き!)。ベイシーのアルバムには聴き所の多いものが沢山あります。例えば、ソニー・ペインのドラムスとか、フランク・ウエスのフルートだったりしますし、ベイシーのピアノの時のバックのリズム・セクションにあったりします。フレディ・グリーンのギターだったりとか・・・・。

このアルバムは、鬼才クインシー・ジョーンズが当時のポピュラー・ヒット曲をベイシー楽団に提供したクインシー編曲集です。このアルバムも全編が楽しめますが、これもA面3曲目の「ONE MINT JUREP」に聴き所があります。二箇所あります。一番目は、ベイシーのピアノのあと、サックス群が2コーラスのテーマを奏します。それを補佐するように金管が「プワーッ」と合いの手をを入れます。ただの一回きりの合いの手ですが、この音が広がりのある、十分にインパクトのあるサウンドかどうかです。大型のホーン・システムでは「オーッ!」と声が出るほど感嘆します。普通は聞き逃します。続いて暫く全合奏が続きますが再びベイシーのソロが、バックのリフに乗って奏されますが、トゥッテイのあと、フランク・フォスターのテナーが図太い低音を吹きます。この音が十分に図太くまた、サックスの魅力あるトーンが十分に感じられるかどうかです。ここが二箇所目の聴き所です。貴方のシステムではどのように聞こえますか?余談ですが、A面最後の、レイ・チャールズの大ヒットで有名な「I CAN‘T STOP LOVINNG YOU」では一箇所、テナーが間違って吹く音が入っています。気付いてました?。でも演奏には些かも関係はありません。このレコードは二通りのジャケットがあります。これは外盤のジャケットです。

3)       ザ・ポピュラー・エリントン / デューク・エリントン楽団         <RCA>                                          

 カウント・ベイシーを取り上げてデューク・エリントンを取り上げないとエリントン・ファンに怒られそうですのでここに取り上げます。このアルバムもエリントン・ファンに限らずジャズ・ファンなら、またビッグ・バンド・ファンなら必ず持っておられるでしょう。このアルバムのジャケットには右の写真のものと、一時期の国内盤のようにエリントンの顔が一杯に写ったものとの二通りありますが、この右の写真がオリジナル・アルバムのジャケットです。このアルバムは、エリントン・ファンならやはりA面一曲目の「A列車・・・」でしょうが、聴き所としてはB面1曲目の「ザ・トゥイッチ」です。エリントンのピアノにのってブラスがテーマを2コーラス奏しますが、その2コーラス目にバスター・クーパーのトロンボーンが豪快に入ってきます。このトロンボーンの豪快さがどれほど感じられるか・・・です。その豪快さが十分であればあるほど、次のジョニー・ホッジスのアルトが生きます。大事な場面です。「ホッジスは流石に良いなァ!」と感じるには、前のトロンボーンの役目は重要です。十分に再生出来ることが望ましいと思います。次のクーティ・ウィリアムスのトランペットは全くお馴染のサウンドです(A列車と同じ感じ)。次は、きかん坊のポール・ゴンザルベスのテナーです。ここでジックリ味わったあと、今度はバスター・クーパーがソロで登場します。このトロンボーンも前と同じく独特の豪快さが感じられれば正解です。「そんなことをいちいち考えて聴いていたのでは音楽が楽しめないだろう」と思われますか?全く逆なのです。その通り鳴った時の感動は、ただ聞いて楽しむ場合とは月とスッポンほどの楽しさの違いがあるのです。ですから「音楽を間違えて聴かない!」ためには、オーディオが一定ランク以上であるべき必要性がある訳です。何も馬鹿高いオーディオを勧めている訳ではありません。音楽を正しく再生出来るオーディオをセットした方がよりオーディオ・ライフが楽しめる!と云っているのです。音楽も深く楽しめると。


4) ザ・ララバイ / ケニー・ドリュー・トリオ                 <RVC>

 ’82年のケニー・ドリューのヨーロッパ録音です。このシリーズは7〜8枚が発売されています。何れも録音が良くて、演奏も楽しめるシリーズです。

 このアルバムは、タイトルの通り「子守唄」を集めて収録したものです。聴き所のポイントは、A面最後(4曲目)の「サマー・タイム」です。

 この曲の全てを通じてニールス・ヘニング・オーステッド・ペデルセンが凄く良いのですが、ポイントは冒頭の一発です。いきなり「ブゥ〜ン」というペデルセンのベースが一発響いてスタートします。ここが、強力に「ブゥ〜ン」と感じられるかどうかです。ペデルセンは、軽く弾き流すタイプのベーシストと思われ勝ちですが(弾き方がギターのように早かったりするので)、実際は、レイ・ブラウンに匹敵するようなサウンドも持っています。ここでは、その重量感のあるベース音を聴いて頂きたいのです。ラストがフェイド・アウトするところが少し気に入りませんが・・・・。

4)       ファースト・タイム / デューク・エリントン楽団&カウント・ベイシー楽団  <CBS>

やっぱりこれが出なければイケマセン。実は、このレコードは私のレコード棚に凡そ25年もお蔵入りになり、全く聞くことは無かったアルバムです。25年位経って、たまたま引っ張り出し、曲目を点検していたら、私の大好きな「セグエ・イン・C」が入っていたので、試しに聴いたのが陽の目を見るきっかけになりました。「セグエ・イン・C」はベイシー・ナンバーで、楽員のフランク・ウェスの作曲になるもので、レギュラー盤では、「チアマン・オブ・ザ・ボード」に収録されています(ルーレット、名盤です)。約25年ぶりに聴いて圧倒されたのが此処に紹介する「セグエ・イン・C」です。直ぐにベイシー命!で、ビッグ・バンド大好きの鹿児島の友人に電話をしました。「もしもし、早速ですが、ベイシーーとエリントンの演奏で最高のものは何でしょう?」「さァねェ。色々ありますからねェ」「それがあるんですよ。ファースト・タイムをお持ちでしょう?」「アノ、音の荒いヤツ?」彼氏も25年間聞いていなかったのです。「兎に角、B面2曲目のセグエ・イン・Cを聞いて下さい。我々の感じ取り方が間違いだったみたい」

そうなんです。私たちが入手した頃は、多分カートリッジの再生能力がイマイチで、大変荒いサウンドだったのです。それで、これはキツイ音だ!とそれから聴く気になれなかったのです。それが今聴くとこれ以上の演奏も録音も他に無いほどの音を聴かせますし、演奏は別格に凄いのです。私自身が「音楽を間違って聴いていた」のですね。油断もスキもありません。だからオーディオは素晴らしい!。

このアルバムの先に述べました「セグエ・イン・C」の演奏の中にポイントがあるのです。

 この演奏は本当に素晴らしく、エリントンのメンバーとベイシーのメンバーとの掛け合いや、全体のサウンドがエリントン・バンドも含め、ベイシー・サウンドになっているのも微笑ましいことと思います。エリントンとベイシーのピアノの会話も素晴らしい効果を出しています。兎に角、エリントンとベイシーの最高傑作は、両バンドの史上一回きりの合同演奏(他にも行っていますが、録音で残されたのはこの一枚しかありません・・・スタジオ録音)によるこの「ファースト・タイム」だと私自身は思っています。

 後半に至り、サックス・セクションが、メロディともつかないリズムを心地よく続けていく内に、突然、金管楽器が「プワーッ」と大合奏を強烈に5回も繰り返します。これは、オリジナルの「チアマン・オブ・ザ・ボード」には含まれていません。作曲者のフランク・ウエス(この演奏にも参加)のアレンジか分かりませんが、此処がハイライトで、この部分がなかなか再生出来ないという話です。先の私の友人が実は私が日本一との評価を惜しまないオーディオの持ち主なのです。彼も全く圧倒されて私が伺うたびに鳴らしてくれます。この金管の音は、ホーン・システムでなければ絶対に再生されないサウンドです。それもイケダのカートリッジでなければ・・・・。

 尚、このアルバムはCDでは2通り発売になっています。1枚はレコードと全く同じです。もう1枚は、レコードの収録曲は全部入っていますが、他にレコードに入っていない部分が7曲入っていて、その中には、演奏中に中断したり、エリントンとベイシーの会話が入っていたりします。価格は同じですから、どっちが得でしょうね。

5) プリーズ・リクエスト / オスカー・ピーターソン・トリオ
 このアルバムは、一頃、デモ用としてアチコチで利用されましたので、ジャズ・ファンに限らず、ご存知の方は多いと思います。やはり、問題はB面一曲目の「You Look Good To Me」だと思います。勿論問題は、レイ・ブラウンのベースです。このアルバムは、通常のオーディオでも結構音が良く入っていますので「オレのオーディオも捨てたものじゃない」と考えている人は多いと思いますが、実は、クラシック編で述べました「未完成交響曲」同様、低音が本当は下がり切っていないことが多いのです。最低音の箇所で、音程が上がります。実際に「基音」として最低音が万全であるかどうか、一度本物のオーディオで味わってみて下さい。グンと下がっているのが確認できます。

 このようにジャズを楽しみながらオーディオもチェックできる。これも音楽とオーディオを楽しむ醍醐味のひとつだと思います。

 ここに取り上げたアルバムは、頻繁に使用する内の限られたレパートリーですが、他にも多くのアルバムがあります。それらは折に触れ追加の形で項目を改めます。

一例  ジョン・コルトレーン  「マイ・フェバリット・シングス」

    カーティス・フラーー  「ブルー・スエット」

    キャノンボール・アダレイ「マーシー・マーシー・マーシー」

    オスカー・ピーターソン 「メロウ・ムード」

    ライオネル・ハンプトン 「スターダスト」 (モノラル)

    M・J・Q       「ラスト・コンサート」

    ルイ・アームストロング 「プレイズ・W・C・ハンディ」 (モノラル) etc 

         

 ジャズは取り上げるのが多くて大変ですが、それだけ楽しみも大きいと思っています。

またジャズファンだからジャズだけ・・・というのも淋しいと思います。折角オーディオがあるのですからクラシックも是非お楽しみ頂ければ嬉しく思います。ご相談には応じますよ。楽しみは2倍にも3倍にもなって人生は3倍にも生きたことになります。ある人がテレビで、「生まれてきたのは人生を楽しむ為だ。人生は楽しむ為にある!」と云っていましたが、そうですね、苦しむ為、或いは悲しむために人生を神さま(どんな神でも)は与えたものでは無い!と思います。この世には素晴らしい楽しみが多くあります。たまたまオーディオを楽しみとして知り得た私たちはトコトンその楽しみを味わい尽くしたいですね。

2005・7・1