美空ひばりとCD

演歌の世界から見たCDの初期


 私の記憶に間違いが無ければ、美空ひばりが最後にアナログ録音した曲は、あの「奥飛騨慕情」「紬の女よ」の大ヒットで知られる盲目の作曲家兼歌手の竜鉄也氏(作詞、作曲、唄)が作曲した「裏町酒場」(さいとう大三郎作詞)だったと思います。この曲は1982年5月の発売です。非常に味わいのある、竜鉄也の作曲が注目されてヒットしました(ドーナツ盤)。

 その翌年1983年1月に美空ひばりの恐らく最初のCDアルバム「エバー・グリーン」が発売になりました(現在は廃盤らしい)。

 このCDは、全ての曲をデジタルで新録音したもので、従来の録音からの吹き込み直しは一切ないという触れ込みのCDです。(ひばりのヒット曲集と言えるものです)本来、日本コロムビアは、PCM録音を開発して世界に先駆けてデジタル録音を行っていましたので(音質に様々の批判はあったものの先駆者であったことは間違いありません)このCDもPCM録音となっています。

 問題は、このアルバムの中に「裏町酒場」も入っていることです。ここから話は派生して行きます。

 当時のCDはやっと陽の目を見たばかりで、漠然とデジタルってどんなものだ!位の認識で、一般的には相当な期待を持たれていたことも事実です。今では笑い話にもなりませんが、デジタルを真空管のアンプで鳴らせばどうなるだろうか?などと話しながら「ヤッパリ鳴るジャン」と・・・そりゃー鳴りますわナ。そんな時代もあったのです。CD制作の歩留まりが悪くて、なかなか商品が入荷しなくて奪い合いに近い状態もありました。そんな頃のひばりの初CDアルバムは注目を集めたものです。特にソニー(私の店はソニー・ショップでもありました)では、新作のエスプリ・シリーズ(オーディオの高級ブランドで、普通のソニー・ショップでも取り扱いは出来ない。私の店は契約店でした)の試聴用にこの「エバー・グリーン」をもって回りました。カルチェのライターに似た形のスピーカー・システム(平面ユニット)で、恐らくデジタル対応と銘打った最初の商品ではなかったかと思います。この「エバー・グリーン」の中に「悲しい酒」が入っていて、このギターが効果的で良く聞かされました。また私自身もCDプレーヤーのセールスにこれを使い、一曲目の「りんご追分」の出だしの尺八の音で結構商売になりました。この尺八の部分が、CDプレーヤーの音を聞き分けるのに重宝したのです。

 さて、このCDが発売になって間もなく、私の店でCDとアナログの聞き比べをやってみようと云うことになり、選ばれたのが「裏町酒場」のドーナツ盤との対決です。その日は、ソニー販売の社員も4〜5人が来ており楽しみにしていました。大方の予想は、ドーナツ盤より圧倒的にCDに勝ち目があるとの思いでした(ドーナツ盤はLPより音が悪いと云うのが定説)。先ず、ドーナツ盤の方を鳴らします。次がCDです。最初の音が出た瞬間居合わせた殆どが一様に「CDの方が悪いんじゃないか?」と云い出しました。

 私が、「CDは音が悪い!」と感じた最初の出来事で以後その思いを覆すほどの音にはお耳にかかっていない!・・・というお話です。

後日談があります。それから22年を過ぎて、私が東京で催しているレコード・コンサートで、この「裏町酒場」を掛けました。参加者には結構評判は良かったのです。何しろ超大型ホーンの5ウェイ・マルチ・チャンネル・システムで「ひばり」を鳴らす訳ですから・・・。、現在のカートリッジは、22年前とは比較にならないサウンドが得られます。曲が終わった後、CDがあるならそちらも聞かせて欲しい・・とのリクエストです。「わかりました」序にCDで同じ曲を掛けました。一番の歌詞が終わらない内に殆どの人から「ブーイング」で「もう良いよ」となりました。
 このことは、オーディオの完成度が高いシステムほどアナログとCDの差が顕著に出る!という証拠でもあります。やはり、CDはカセットと同程度と考えて間違い無さそうです。

それでも今はCD全盛時代となり、本物のサウンドは失われつつあります。嗚呼!

追伸

 このCDアルバムの最後の曲「人生一路」は編曲(斎藤恒夫)も良く、オーケストラも張り切っていて聞かせます。音質は無視して大音量で鳴らしますと結構楽しめますよ。この曲は作曲が「かとう哲也」となっています。かとう哲也と云えばひばりの弟です。これだけの曲を作れる才能があれば、他にヒット曲があっても良さそうだと思いますが、記憶にありません。だれかゴースト・ライターがいたに違いない・・・・とどうでも良いような事まで考えてしまいます。
 また、お節介のようですが「裏町酒場」をカラオケで歌ってみたいと思われる「男性」の方は、音程を1度乃至2度上げて歌われる事をお勧めします。ひばりの音程は元々低く、この「裏町酒場」は特に低い部分が出ません。女性の声は男性より高いと思っている人が多いのですが、音程的には1度乃至2度低いのです。ですから、高い音を苦手の方でも、女性歌手の歌なら高い方も歌いやすいことになります。田端義夫などの曲はそのままの音程では、余程のテナーでないと高い音は出せませんし、ピンカラの宮史郎などは、音程の幅が非常に広いのです。

2005・7・29