モーツアルト・セラピー
  ――病気が治る?――

 最近はモーツアルトの研究が医療分野でも広がり、その音楽の効用について色々と取り沙汰されてテレビのワイド・ショー番組などでも取り上げられています。

 モーツアルトの音楽が、なんらかの効用があると云われだして大分なります。例えば、「酒の醗酵中にモーツアルトを鳴らすとまろやかな味の酒になる」とか「乳牛にモーツアルトを聞かすと乳の出が良くなる」「鶏の産卵率が増える」などなどです。

 モーツアルトの音楽が、リラックス効果のあることは誰も異存は無い事だと思います。私自身は、私が主宰するレコード・コンサートでジャズの部が終わり、クラシックの部に移る前の休憩時間には好んでモーツアルト(ディベルティメントなどが多い)をかけて雰囲気の転換を図ります。

 酒の場合は、音の微小振動が醗酵に影響するのかも分かりません。また乳牛や鶏も音楽によるリラックス効果がストレスを少なくし効果を挙げているのかもわかりません。

 最近の医療分野での研究では患者にモーツアルトを聞かせ、どのような効果があったかを臨床的に研究しているようで、交響曲何番は、何の病気に効果があったと曲を限定してその効果を実証しているようです。曲のリラックス効果が人間のストレスを和らげ、その結果が人間の自然治癒能力を高め、病気が快方に向かうということは考えられますが、一定の曲が、一定の病気に効果があるとはチョット考えにくい場面もあるように思います。

 モーツアルトの音楽は、ハイドンに比べても抑揚の少ない音楽に感じます。旋律が流麗で、ハーモニーが優しいと思います。ベートーヴェンやワーグナー、果てはブルックナーやマーラーなどでは少し無理かナ?と思われます。それらに比べますと抑揚がウンと少なくリラックスして楽しめます(勿論モーツアルトの音楽はそれだけではありませんが・・・)。その辺はバッハとも違い、モーツアルトが独特の雰囲気をもっていて治癒効果があることは想像できます。

 その原因を、テレビに出ていた現場の医師は「モーツアルトの音楽には高周波成分が多く含まれていてそれが病気に効果がある!」と説明していました。さらに、「高周波は3.500Hzだ」とも説明していました。その時、「アレッ?」と思ったのですが、お医者さんだから音響的なことは云い間違えたのだろうと思っていました。

 先日のこと、再びモーツアルトのことを取り上げた番組で、今度は局のアナウンサーが原稿を見ながら「原因は3.500Hzの高周波・・・」と云っていましたので、前回のお医者さんの言葉は云い間違いではなくて、医療界では「3.500Hzが高周波」と決めてかかっているようだと思いました。このページをご覧の皆様は、3.500Hzが高周波でないことは当然ご存知のことと思います。

 3.500Hzは高周波ではありません。それどころか、ヴァイオリンやピッコロの高音部の演奏可能領域で、オーディオ的に云いますと基音の部分です。更に、スピーカーで云いますと、最近のドーム型などを使ったスピーカーでは、2ウェイではウーファーとのクロス付近です。また、3ウェイや4ウェイ、更に5ウェイでも中音部に入り、最も耳に感じやすい領域でもあります。

 高周波とは「音響学用語。周波数の大きな波動で、可聴周波に対して高い周波をいう」(音楽の友社・新音楽辞典・樂語編)となっています。つまり、人間の耳に聞こえない周波をいうわけで、私共は概ね20kHz以上を高周波と理解しています。

 3.500Hzを高周波ということに対して、放送局には技術の人もいる筈なのに指摘しなかったのでしょうか?

 私自身は、高周波による効果では無い!と思っています。

 その理由は、どんな音楽であれ、高周波を含まない音楽は存在しない!からです(特にアコースティック演奏では)。ましてや、3.500Hzの周波を持たない音楽などは有り得ません。医療界でいう高周波が原因だとすれば(3.500Hzを無視したとしても)どんな音楽でも治癒効果があって然るべきです。それがモーツアルトに限定されるのは、モーツアルトの音楽の独自性にあると思っています。

 つまり、旋律の流麗さ、ダイナミック・レンジの極端な大きさを含まない、さらに独自のハーモニーだと思います。後期交響曲の傑作のひとつ、交響曲四十番にはティンパニーを使っていません。このように音楽の流れの中に、「意外性を含まない」音楽だからではないか?と思います。

 高周波について考えることは、高周波が人間に対してリラックス効果を持つことは証明されています。文部省の大橋力教授の実験では、アナログ・レコードを聞かすと脳内のアルファー波が増えていくことを確認しています。逆にCDを聞かすとそのアルファー波が減少していくことも確認されています。これが高周波の効果なのですが、CDは高周波を含みません(人間は耳に聞こえない高周波でも脳内で感知する能力があることは周知の通りです)。しかし、現在、医療界で使われているソースは全てCDと考えて間違いありません。現に治癒効果のためのCDのアルバムがセットになって発売されているようです。結局、云われるような高周波が原因なのではなくて、モーツアルトの音楽のもつ独自性がなんらかの効果をもたらす・・・と考えるのが妥当だと思います。このような現状にモーツアルトも驚いているでしょうか?あるいは「してヤッタリ!」と微笑んでいることでしょうか?

 これでモーツアルトのファンが増えれば良いのですが、3.500Hzの高周波・・・などと間違った解釈や理屈付けをやっているようでは少し淋しい気がします。

 モーツアルト・ファンの方々は如何お考えかご意見を承れれば幸いに思います。

2005・8・31