何故CD全盛になったのか?の考察

 恐らく現在の音楽鑑賞の環境で、CDに頼っていない人は殆どいないでしょう。実際、私が初めて伺うユーザー宅でも全ての人がCDだけのソースに頼っていました。しかし現在は、その全ての人たちがアナログに変更して、CDは予備的か或いは全く使わなくて処分したかのどちらかです。

 私自身のことを申しますと、私の55年の音楽鑑賞人生の中で、集めたLPレコードは2000枚程度(昔は高くて買えなかったのです。レコード店主の私ですら)ですが、CDは30枚程度。そのうち10枚以上が講談、落語、浪曲の100円のものです(100円ショップで売っている)。CDでは音楽は楽しめないからです。楽しめないどころか腹が立って来ます。これで音楽なのかと・・・。

 では、何故CD全盛になったのかその経緯の考察を初めましょうか?

それについて、私が15年くらい前に著した論文がありますので、それを少しアレンジして掲載してみます。
私はCD初発売の当時、レコード店とオーディオ専門店の二店舗を鹿児島で経営していました。レコードとオーディオは最も深い相互関係にありながら、レコードは楽器との併売店が多く、オーディオは一部専門店を除き、冷蔵庫などを売っている家電販売店で売られていました。その点で私は幸か不幸かレコード業界とオーディオ業界とを同時に眺める、比較的数少ない目撃者の一人となった訳です。

 CDはご存知の通りオランダのフィリップス社と日本のソニーの共同開発になるものです。初めてCDの見本が晴海のオーディオ・フェアで出た時、厚紙に今のCDのスタイルを印刷してCDに見せかけたものを会場で配っていたのを思い出します。親しいソニーのオーディオ事業部の人に聞いても「ハハハ」と笑って「そんなものが出るんですよ」という程度で、とても現状を予言できる雰囲気ではありませんでした。その一年後か一年半後にCDプレイヤーが発売になりました。当時私は前記商売をしていましたので、当然ソニーのCDプレーヤー(CD−101と云いました。レコード開発101年目のニューメディアという意味らしい)の売り上げは地区随一を誇りましたが、ソフトが思うように入荷しないのには参りました。それが今ではご存知の通りの状況です。何故か?

当時のレコード業界は、メーカー・販売店ともに惨憺たる状況にあったのです。私の店は、ジャズとロック・クラシックを専門にしていましたので当初それほどでは無かったのですが、他の店は、全盛時の5割、6割減は当たり前だったのです。原因は、貸レコード屋の出現です。大体レコード屋は、最近でこそ新規の店もありますが、以前は親の代からなんていう老舗が多かったのです。新規開店を阻止するシステムが出来上がっていたのです。全国レコード商組合連合会(略称・全レ連)という任意の団体があって、これがメーカーに対して無言の圧力を持ち、全レ連の会員でないと取引が出来ないという不文律がありました。つまり、レコード屋を始めようとすると、先ず全レ連に入らないといけない。ところが其々の地区に会員がいて、利害がらみで入会を阻止するから新規開店が出来ないという図式です。更にレコード業界には当時は中間業者が存在しなかったのです(今は違います)。どの店もメーカーとの直取引だったのです。しかも、全レ連の支部長は、地元の最大手の店の社長がなる例が多かったのでメーカーへのニラミは大変なものでした。                 

ところが異変が起き始めました。異変はふたつ起きました。ひとつはレコード・メーカーはかって作詞家、作曲家、歌手を専属で抱え、今で云うプロダクションの役目もこなしていたのですが、これがプロダクションの台頭で様変わりし、曲をプロダクションから買ってレコード化するという安易な道を選ぶようになりました。経費も減る代わり実入りも減る訳です。同じ曲が競作で各社から出るのもこういった事情からです。当然、メーカーの台所も一頃ほどの元気は出ません。因みに当時のレコード会社は例外なく電機メーカーの傘下にありました。

もうひとつは中間業者の出現です。東京の板橋のレコード店が卸し業を始めました。全レ連を無視して全国に卸して回り、尚且つ新規開店を促進させたので全国にレコード屋が増え始めて、一種寡占状態にあった既存レコード屋の利益を脅かすことになりました。

こうしてメーカーも販売店も力を失い始めた頃、追い討ちを掛けて来たのがレコード・レンタル業なのです。

こちらは、著作権法の盲点を突いて瞬く内に全国に広まり、更にいち早く法人組織の組合を組織し全レ連と真っ向から対立、ついにはメーカーをも巻き込んで市民権を得ました。結局は不本意ながら共存の形をとって現在に至っていますが、レンタル屋の出現はメーカー、販売店の売り上げを激減させました。(現在は法整備が進み問題は少なくなっているようですと云うより、音楽産業が今の状態では問題にもなりませんテカ?)

こういう時に出現したのがCDなのです。レコードをレンタル屋が荒らすならCDで行くしかないと、レコードの歴史も文化的意義も全く意に介せずCDに乗り換えたとしても、メシが先・・ですから誰も責められません。メーカーも販売店も雪崩を打ってCDに駆け込んだ!・・・と云う次第です。

一方オーディオの方はどうか?こちらも曰く因縁があります。  オーディオ界の現状 と関連します。

克ってのオーディオ・ブームと云われた時代、今は故人となった評論家大先生が一本70万円以上もするアメリカ製のスピーカーを大推薦して飛ぶように売れて、あたかもスピーカーの代名詞のようになりました。その事は良いとして、このスピーカーはジャジャ馬で経験不足のにわかマニアの手に負える代物ではありません。このシステムを自称マニアがにわかマニアに薦めるものですから、どこへいってもこればかり。(大体、自称マニアなる人種は自分が欲しくても買えない物を素人に勧めて買わせる「ヘキ」があります。要注意です)これをくだんの大先生が、「15万円程度のインテグレーテッド・アンプでも十分駆動できる能率の高さをもっている」などと書くものだから、セット140万円のスピーカーを15万円のアンプで鳴らす羽目になってしまいました。当時は、スピーカーのペア140万円は法外な価格で、これをローンで買うと当分背広や靴その他のものを買えない程の価格と収入状況(サラリーマンの場合)でした。私の最大の懸念はここにありました。向こう3年間(ローン支払いの間)は何も売れなくなると・・。
本題に戻って、オーディオを全然判っていない自称マニアやにわかマニアが、いきなり140万円のスピーカーですから価格も音もビックリ、15万円のアンプでは鳴りようがありません。(どうもスピーカーが高いので、アンプまで予算が回らないだろうと、スピーカーを売らんがために大先生が考えた策略だったと思います。大先生は、スピーカー・メーカーのヒモだった訳ですから・・・こんな事は日常茶飯事)。
それでも悪戦苦闘して良く鳴らそうとするのはまだ良い方で、元来音楽と深く関わっていないにわかマニアが大半ですから諦めるのも早い。中古品が市場に溢れ出す頃はブームは幻と終わっていました(因みに私はこのシステムは1セットも売りませんでした)。国産の中にもあったのです。Y社のモニター・スピーカーと称するものです(当時は・・今もそうですが・・モニターとつけば売れる傾向にありました。しかし、モニターはあくまでモニターであって家庭用ではない!と考えるべきです)このY社のモニターも労せず売れたものですが売れた割には良い音で鳴ってくれません(実際は能率も低く、大パワーのアンプで大音量で鳴らさないと本来の音が出ない代物・・・これはモニターに共通します。家庭の6畳や8畳間では無理です)。先生方が記事を書くための視聴室や使用する機器と一般のリスニング条件とが全く違うのです。それを無視して、
「作られた評判で有名になった機器」をやみくもに購入しても、当然期待通りには鳴ってくれません(このメーカーには別なヒモ大先生がいました)。勿論周囲で売られる状況が演出されて、その他のメーカーも潤ったという事実はあります。バブル景気の例を引くまでもなく、調子が良い時には真面目な製品もそうでない製品も一緒に俎上に上がります。にわかマニアのブームを当てにした業界があわて始める頃は景気はどんどん下火になり、恥も外聞もなく、メーカーは営業所を引き揚げ、スーパーはオーディオ部門を閉鎖し、家電店もオーディオ・コーナーを縮小したりしました。ブームにあやかった弱小メーカーは倒産し(中には惜しまれるような良心的メーカーもありました)、業界地図が大きく変わりました。家電メーカーは今ではオーディオ製品を作っていたことさえ思い出さないほど知らん顔です(今は、コンピューターで忙しい)。
この現象は、オーディオの本当の楽しみを判らせる努力を怠り、やみくもに高額な商品を(安易に)売り込んだ結果と私はみています。反動の大きさは真面目なオーディオ・ファンをも失望させるのに十分過ぎました。

そのような時、救世主の如く現れたのがCDプレーヤーなのです。

15万円クラスのアンプに、そこそこのアナログ・プレーヤーをつないだシステムでは、CDの音が驚異的に良く聞こえた事は想像するに難くありません。その神話は今も生きています。いや、生きているとしなければ現状では止むを得なくなっています。

かくしてCD全盛時代は到来しました。

このように、レコード業界の惨状とオーディオ業界の衰退の時期が、全く異なる原因で期せずして合致した事が、急速にCD時代を作り上げた原因である!と私は断じています。

こうしてオーディオの楽しみは少しずつ剥奪され、真面目な音楽ファン(オーディオ・ファン)を嘆かせる時代となりました。しかし、目先の変動に惑わされる事無く、メーカーも、オーディオ・ショップも雑誌類も、シッカリとしたポリシーで本当のオーディオの楽しみ方をもう一度見直す雰囲気を作り出してはどうでしょうか?。それには余りにも堕落し過ぎましたかな?ここへきて、中古アナログレコード屋が繁盛し、レコード針を求める客が今でも後を絶たない事実もあります。

いち早くLPプレス機等を処分してしまったメーカーも、冷静にその役割を見つめ直して欲しい。それが結局、長い目でみて良い結果を生むような気がします。また、一連の雑誌、および執筆者の先生方も、全く責任なしとは云えないと思うのですが・・・・。

この文は、一部加筆をしましたが、凡そは15年前の原文のままです。今、改めて読み直しますと、この時代から全く変わらないか、もっと悪くなっているようにすら感じます。駅前のレコード屋(今はCD屋)などを夕方の掻き入れ時に覗いても客が二人も入っておればオンの字の状況ですし、秋葉原などに行けば道路で段ボールに入れたCDを500円で売っています。駅のコンコースでも1000円均一でCDを売っています。このような状況で果たして音楽文化が発展するでしょうか?CDがもたらした弊害の一つです。

また、オーデイオ業界もCD発売以来景気は益々厳しくなって回復しません。それは、コンピューター関連などの多様化がオーディオ・ファンを減少させたこともあるでしょうが、音楽界は、外来の演奏家が引きもきらず来日し、潤っています。音楽ファンはいるのです。それがオーディオ・ファンと繋がらないのは何故でしょうか?業界の大きな反省点ではないでしょうか?

パワー・アンプにン百万円、プリ・アンプもン百万円、CDプレーヤーもン百万円(D/Aコンバーターもン百万円)、スピーカーに至っては一千万円以上。それらが何れも音質と無関係で、納得出来ない代物ばかりとなれば、誰が真剣にオーディオに取り組もうとするでしょうか?全く異常な世界です。いい加減にして貰いたい!と書きながら大いにイカッています。

2005・3・4