10万円でオーディオのスタート

――68才でオーディオに初挑戦――

 私の45年来の友人のA君とは、45年もの間、音楽やオーディオに関しては殆ど話をしたことがありませんでした。A君は大阪暮らしが長く、その間は、互いに行き来しながら年1度会うか会わないかの付き合いでしたが、一昨年(2005年)大阪を引き払い、東京に移り住みました。それが再び昔のような付き合いを始める結果となりました。元々以前からJAZZに関しては興味をもっていたようです。

 私が主宰している「泡盛の会」(東京・駒込)や「楽々会」(埼玉県・狭山市)に出席するようになり、また、私と鹿児島に旅行して、鹿児島にあるTさん所有の、私が日本一と太鼓判を捺すサウンドに圧倒される内に彼も少しずつ音楽への気持ちが強くなっていったようです。

 自宅にはボーズのCD再生器(7万円程度の据置き型)を食卓の横に置き、常にJAZZやPOPSをBGMとして鳴らしていましたので、元々音楽には関心は普通の人より高かったのですが、機器の方は殆どそれで満足していたようです。

 泡盛の会や楽々会に出席する内、エール音響の遠藤氏、イケダの池田氏や周囲の音楽ファンとも親しくなり、オーディオの世界の様子も分かってくると、自分も・・・と思うのは成り行きでしょう。かといって68才になって今更、何百万円も投入してオーディオをセットする気持ちは当然ありません。彼を踏み切らせるキッカケは、たまたま中古レコード店に私と同道したときです。

 「こんなに多くのLPが、しかもこんな値段で・・・」と感じたそうです。「ならばオーディオでLPを鳴らしてみたい!」と思うようになりました。彼はCDとLPの音楽的な違いについては、すでに理解はしていました。

 そこで、オーディオ設置の為の作戦が開始されました。

 タダで貰えるスピーカー・システムは何処かにないか?フォノ・モーターはどうしよう?などです。

 トーン・アームとカートリッジ、トランスは私の保有がありますので、当面これを貸し出せば良い!と。

 鹿児島のTさんに連絡しました。Tさん行きつけの鹿児島のオーディオ店に適当な下取り品のスピーカーがありました。ダイヤトーンの3ウェイです。そのオーディオ店は私とも親しい古参の社員がおり、快く無償提供してくれることになりました。次はフォノ・モーターです。Tさんは現在2台のプレーヤーを使用し、2台共にイケダのトーン・アーム、カートリッジを搭載していますが、以前にソニーのダイレクト・ターン・テーブルTTS−8000(専用キャビネットに搭載)を使用していて、現在も保有しているとのことで、これを提供しよう・・・となりました。Tさんは早速テストして異常の無いことを確認し、例のオーディオ店に持ち込み、スピーカーと一緒に発送して貰いました。 

 肝心のアンプは、当然マランツのPM17SA(定価¥126.000−)です。

 スピーカーを送って貰う際に、オーディオ店に1万円程度のピン・ケーブルを1本送って貰うことも忘れません。これは、トランスとフォノ入力を繋ぐもので、ここはケチれません。アンプはプリ・メインですから、ケーブルは不要です。

 アンプ、スピーカー、フォノモーターは同日に着くように手配してあります。その日は、アーム(FR−64FX),カートリッジ(イケダ#9REX・・針交換をしたばかり),トランス(イケダST−100)を準備して私が待期しています。昼前に到着して早速取り付け開始です。

 フォノ・モーターの専用キャビネットは重量があり、アナログ全盛期の特質を思い出させます。アームの取り付け穴は、ロング用とショート用が開けてあります。

 思い出しました。当時のFRはオール・ステンレスのFR−66Sが発売になるまでロング・タイプがありませんでした。66が発売になるまではショート・タイプを使わざるを得なかったのです(FR−64S)。それで、2ヶの取り付け穴が付いている訳です。FRとイケダは同じ人(池田勇氏)の設計ですから、取り付け位置、取り付け穴の寸法などは全く同じに作られております。従って、ウェイトやアーム・ベースなどの変更も自由に問題なく出来ます。(メーカーの良心)

 出来上がりました。(写真)

見られるとおりのシステムが出来上がりました。掛かった費用はアンプとピン・ケーブルのみ。

それと鹿児島からの送料です。梱包費用もサービスです。実質10万円で完成です。

完成記念に私がプレゼントした「MJQラスト・コンサート」でテスト中のものです。

音は、繊細、迫力、緻密、滑らか、一級品のサウンドです。それは、私がこのページで再三述べているとおり、入り口をシッカリ固めたからです。良質な信号を送り込めば、アンプも、タダで貰ったスピーカーもキチンと応えてくれるものなのです。

 A君は、早速中古レコードの専門店に私と出向き、店主が倉庫から出してくれたものも含め、ジャズ・クラシック共に充実したコレクションが出来つつあります。現在、すでに200枚。全部聞くにはかなりの時間を要するほどですが、まだまだ欲しいらしい。この分では500枚になるのは早い勢いです。

 A君は低音に気を使うようです。「スーパー・ウーファーをつけたい」と云い出します。適当な価格のものが見当たりません。再びTさんの出番が来ました。以前、Tさんが使っていたスーパー・ウーファーがある・・・とのことです。これはオンキョーが出したスーパー・ウーファーの草分け的製品で、SL−1(当時15万円)というものです。この製品の素性は、私は良く知っていて、私自身が5ウェイに使っていましたし、顧客にも殆どの方に使って貰いました。当時のウーファーは低い方まで再生が無理でした。今は、エールが作っていて、スーパー・ウーファーは不要になりました。

 オンキョーではこれのオーバーホールをしてくれるとの話です。このスーパー・ウーファーは経年変化で、例外なくエッジが駄目になります。ユニットのみを取り出して依頼すれば修理をしてくれるとの事で、Tさんは早速、例のオーディオ店に依頼して修理をして貰いました。比較的短期間に修理が終わり、それも東京へ送り込まれました。早速取り付けて試聴です(これもTさんの無償提供)。(写真)少し見えにくいかも分かりませんが、左側の下です。

 音に深みが増しました。低音の素性も悪くありません。これだったら低音に不足を感じませんし、深みとゆとり感は申し分ありません。こうして、68才の初挑戦は、10万円からスタートしました。 

 A君はテレビを見る時間がメッキリ少なくなったと云います。時間があるときは必ずスイッチを入れてレコード鑑賞に余念がないそうです。68才で初挑戦し、周囲がみんなで彼に応援した事で、彼は今、人との出会いの大切さ、人の無心の協力に大いに感謝して、オーディオ・サウンドにいつもその心をプラスして聞くので、余計に満足したサウンド(音楽)に聞こえるはずです。

 結局、彼はイケダ・カートリッジの最新モデル「MUSA/W」を購入することに決めました。(いつも「泡盛の会」や「楽々会」で聞かされているせいか?)更に、トーン・アームをイケダのロング(IT―407CR1)に交換して、更にエールのツイーター(この場合は、1710で十分)を追加すればそれで完璧だ!と先の計画を立てています。多分、年内には実現するでしょうが、それでも、あと実質90万円で、全てで100万円。これで高度のサウンドの完成となります。多分、その頃は、レコードも500枚になっていることでしょう(音が良くなって行くのと、レコードの保有数の増加は比例します・・・例外なく)。本人は「とうとうドつぼにはまった!」と云っては周囲を笑わせています。この程度の出費では「ドつぼ」とは云えないと周囲も分かっているし、本人の満足げな表情に、周囲の笑いも楽しげです。オーディオはシャカリキではイケマセン。このように楽しみながらグレードを上げていけば良いのです。A君は分かっています。今後の変更・・・カートリッジ、アーム、ツイーターの追加・・・それらを行えば、「間違いなく今より良く鳴る!」ということを!・・・。その安心感が音楽をより楽しく聴けて、満足感も十分に味わえるものだと思っています。

 余談:プレーヤーの上にクリーナー(アルジェント)が右に1ヶ、左に1ヶ、右に筆が1本。これがレコードを正しく再生させる七つ道具の一部なのです。右のクリーナーにスプレイ(クリアトーン)を十分に吹き付けてレコード面を強く拭きます。次に左のクリーナーでもう一度盤面を強く拭いてクリーニングを万全にします(完全に乾燥したクリーナーで拭き上げます)。筆は、レコードの片面の演奏が終るたびに針先を掃除します。これで万全な再生が出来ます。一般のカンチレバー付きカートリッジでは、ここまでしなくても異常音は出ません。出ないのでそのまま「良し」として再生を続けますが、音が悪くなっていることは事実です。ただ気付かないだけです。イケダのカートリッジは敏感に反応しますので、この手順は必須なのです。横着は許されません。右にある白くて丸いものはカートリッジ・カバーです。尚、ロング・アーム用の取り付け穴も見えます。

※クリーナーでスポンジ状のものにフェルトを付けたものは、柔らかいので、万全な拭き取りは出来ません。表面のゴミを除くだけです。肝心なことは、レコード面の被膜を取り除くことです。盤面にホコリがあるなどは論外です。

 「初めてオーディオをセットする人へのアドバイス」にも書きましたが、その実例を紹介致しました。


後日談 : グレードアップしました。

 通常は、グレードアップと云えばアンプを交換したり(より高価なものなどに)スピーカーを取り替えたりするものですが、私はそうはしません。何より上質のサウンドを送り込むことが重要であることは、このページでも再三に亘り述べています。

 A君はその方針に従い、一挙にプレーヤー部の充実に踏み切りました。折角なら推奨される最高のものをということで、トーン・アーム、カートリッジを一新することにしました。

 今までのものは、アームが25年以上も前に作られたFRの64FX(ショート・タイプ)で、カートリッジも、イケダのパラレル型の最初の作品#9REXでした。これを最新のものに変更しようという訳です。

 トーンアームは、今度塗装が変更になったイケダのIT−407・CR1(ロングタイプ)です。カートリッジは当然MUSA/Wですが、今回のものは従来のものと異なり、ヘッドのネックが木製からステンレスに変更になっています。その第1号となりました。アームは従来のIT−407と同一品ですが、塗装が変わり見た目にも眩しいほどの光を放ち、しかもロングタイプなので、一種の風格さえ感じさせます。アームの変更だけで音の落ち着き感、充実感を実感します。カートリッジも最新のものとなり、オーケストラの楽器が増えたように緻密さが増し、音に奥深さも出てきてユッタリしたサウンドです。やはりロングタイプの魅力は特筆物です。ショートタイプとは一味も二味も違います。〆て約70万円の投資ですが、根本的な音質の変化をハッキリ理解できます。投資額以上の効果です。70万円で、どんなシステムであれ、この音を保証できるのです。A君は「これでますますテレビを見なくなる」と笑います。「またレコード買いに行かなきゃ・・・」とも。タダで貰ったスピーカーでも入り口を充実させれば非常に品位の高い音楽の再生が可能となります。その段階で十分に音楽を鑑賞する習慣がつけば以後のオーディオを誤ることは無いのです。アイマイな理解でオーディオをいじろうとするので間違うのです。余計な出費にもなり、悩む結果になります。オーディオに泥沼は無いわけですから、正統な手順で進めば良いのです。A君の10万円のオーディオはこれで80万円になりました。これからスピーカーに手をつける段取りですが、急ぐ事は私が勧めません。当分この状態でシッカリ音楽を楽しんでもらいます。

 2007・5・21