邪    道   

 20年のマンション暮らしを解消し「土」が恋しくなり、2007年6月に郷里に移住した関係で、2年間も放ったらかしの土地の草刈や整備に追われ、更新を出来ずにおりましたら「最近、更新がなされていないが元気か?」とのメールを頂き、この分では死んだことにもなりかねないと、心を新たにして、また更新を始めます。至って元気ですので当分は続けられます・・と思います。(2012年12月)

 さて、今回のタイトルは「邪道」です。

「邪道」とは、1)よこしまな道。不正な教え。邪教。2)不健全なやり方。3)魔法。妖法。とあります。(三省堂・広辞林。第五版)

 この「邪道」と云われるものがオーディオの世界にもあると初めて知らされ、面白い!と思う反面、そのような考えもあるのかな?と感じましたのでそのことを書いてみます。

 2006年、東京にお住まいのさんから電話が入り相談を受けました。お名前を聞いて9年前大阪から私のところに電話をされた方ではないか?と伺いますと確かにそうだ!とのことです。その後横浜を経て現在は東京に住んでおられるとのことでした。9年前のシステム(特にスピーカーシステム)と基本的には大きく変っていないシステムをお使いとのことを伺いました。

 スピーカーシステムは、アノ“名器”との誉れ高い「タンノイ・オートグラフ」です。

 オートグラフはタンノイの最高位にランクされるシステムで、あの作家の五味康輔氏も使っていて、よくその素晴らしさを本などに発表されたことでも有名です。私なりには問題点も多々あるシステムですが、そのことは本題ではありませんので追求は避けます。

 さんは、これにツイーターを加えたらどうだろう・・と考えられたのです。伺いました。山手線の駅近くの豪華な高級マンションにお住まいでした。ツイーターを加えた結果は、さんを十分に納得させられる音を現出しました。大いに喜んださんは、その変わりようを友人に聴いて貰いたかったのだろうと推察します。ご友人も褒めてくれると考えてのことでしょう。

 友人の方は「オートグラフのような名器にツイーターを加えて本来のものと違う音を出すのは「邪道」だ!」と云われたそうです。タイトルの「邪道」はここに起因します。 つまり、名器はそのまま使ってこそ名器だということでしょう。笑いました。オーディオにも「邪道」があるのかと・・・。

 それでもさんは友人の言葉には頓着無く次ぎのステップへ進まれました。今度は中音を加えようと言う訳です。その際、私の進言で、オートグラフのウーファーのみを生かして3ウェイにすることにしました。つまり、オートグラフのネットワークを外してウーファー直結のマルチチャンネルにする訳です。タンノイのクロスオーバーは1kHzです。 これを3ウェイのマルチにしますと、クロスオーバーは800Hzに設定できます。ウーファーの苦手とする高域の難点も解消されます。

さんはチャンと見越してチャンネルデバイダーとメイン・アンプを準備されていました)

 諸悪の根源のネットワークが外され、ウーファーがパワー・アンプ直結となったことで信じられないほどの低音を再現することになりました。因みに中音とツイーターとのクロスオーバーは7kHzにとります。完全な3ウェイのマルチチャンネルとなった訳です。 これでオートグラフはウーファーだけを使い、他はエールに置き換えられましたので無理していたオートグラフの高域の低い部分の難点も解決されました。タンノイの欠点は2ウェイのため、クロスオーバーが双方共に苦しいところまで使わざるを得ないということにあります。

「邪道」は更に進化したことになります。

 オートグラフの上部にツイーターと中音ホーンが入っていて同じ生地のサランネットをつけました)

 サランネットの中をお見せしましょう。このようにただ置くだけです。オートグラフの本体には何処にも触れておりませんので、売却の場合はネットワークを取り付けるだけで元の状態になります。何回も書いていますが、グレードアップの要点は、元のシステムに傷やその他の改造を加えない!ということです。特にこのような“名器”とされるものは、売却の場合を特に留意すべきです。

 これで立派な「邪道製品」が出来上がりました。

 これでオートグラフは完全に別物に生まれ変わりました。姿はオートグラフの形ですが、音は圧倒的に優れたサウンドに生まれ変わりました。タンノイをお持ちの方は試しにウーファーのみを直結にして鳴らしてみて下さい。その能力に驚かれるはずです。ネットワークは本当に諸悪の根源なのです。このような実力のウーファーを虐めていたわけですから・・・。これこそが本当の「邪道」なのかも・・・?

 ここまで来ますと、もう次ぎのステップを考えるのは当然の成り行きです。つまり、エールのみの4ウェイに進みたい・・・と(お部屋の関係で5ウェイは無理なのです)。オートグラフは結局この部屋を出て行かざるを得なくなりました。30年近く楽しませて貰った“名器”とのお別れです。でも、流石に名器だけあってファンは多く、思っていたより随分高い値段での引き取り手があったようです。このへんは、素性のハッキリしない最近のシステムと違い、名のあるシステムは有利だといえます。ですから、スピーカーシステムの購入は慎重に・・・というのは理由の無いことではありません。結局オール・エールの4ウェイに進まれることになりました。いよいよ「邪道の極致」に至ることになったのです。

見られるとおりタンノイは消えました。

サランネットが紺地ですので、判り難いと思いますから、サランネットを外した写真もお目にかけます。                                       
                                     

 私の設計したウーファー・エンクロージャにエールのウーファーをセットした上にツイーターとスコーカーが載っています。スコーカーとツイーターはキャビネットにマウントされています。このスコーカーのホーンは、4ウェイ用で、3ウェイの場合よりやや小さい口径のホーンに換えてあります。この方がツイーターとの繋がりが無理なく行えるからです。上の黒いところは中低音のホーンです。後ろにホーンのロードが立ち上がり、その上に中低音用ドライバーがマウントされています。

(クロスは200Hz、1kHz、7kHzです)

かくして「邪道システム」は完成しました。

 思えば私の推奨するオーディオ・システムは、その全てが邪道の極」にある!ということになりそうですね(笑)。

「邪道こそ最高!」という言葉が聞こえてきそうです。

セットして7年、ほどよくエージングも進み、満足の行くサウンドに変身しているそうです。0さんは大いに満足されておられるようです(最近のメールより)。

                  2012年12月記

 ご本人より次のとおりの指摘をうけましたので、原文のまま追加いたします。

 「ふれて欲しいこととして、ステレオパワーアンプは、10W×2 3台(高音、中高音、中低音用)30W×2 1台 (低音用)を使用して高能率スピーカーからアンプの残留雑音が出ないように選択し ました。 
市販品でマルチアンプシステムに適した小出力パワーアンプが非常に少ないのが残念です。 」ということです。