2007年10月、大分県のAさんより初めてのメールが入りました。Aさんは当時福岡にあったジャズ・クラブ「ブルー・ノート」に良く通われたようです(現在は閉店、東京の青山のみ)。ブルー・ノートで聴いて自宅のオーディオを聴くと音が全く違う!と言うことでした。私の、このページにあるツイーターの追加で変わるだろうか?との質問です。次は「ツイーターの設置に予算はどれくらい?」答えました。次の日にはその予算が振り込まれてきました。決断が早い方とお見受けしました。

 早速、ツイーターを発注、届くと同時にお伺いしました。伺う前に、地図(グーグル)で確認しますと、その番地は大きな病院で、病院名も地図に記載されていました。お医者様だったと初めて分りました。病院内の三階の一室が自宅のリスニング・ルームで、Aさんなりの音響環境を作っておられました。システムは、エクスクルーシヴの2404(2ウェイ)(1本100万円もします、ネットワークは別売)の上部に同じエクスクルーシヴのリボン・ツイーターが載っています(リボンが駄目なことは他の項目に書いてあります)。このシステムを10年ほど使い込まれておられるそうです。ツイーターの差は歴然で、間も無く中音も追加されて3ウェイトなりました(この時点で完全マルチ化)相当に音の改良も進み満足を戴きました。写真がその時のもので、エクスクルーシヴの高音は使用しません。 

 その頃、Aさんは家の新築を計画されていました。「土が恋しいので家を作る」とのことです。考えますと、病院と駐車場だけの広い敷地には土がありません。納得しました。私も20年のマンション暮らしで、やはり土が恋しくなり、鹿児島へ単身で移住したのが2007年6月でしたので良く理解できました。

 Aさんは新築に伴い、オーディオ専用ルームを設置したいとの希望を述べられました。天井の高さを5mにとり、部屋は約24畳、スピーカーやアンプの後ろに結線を容易にする部屋を設けたい(人間が入れるような)。これは私がもっとも重視する方法で、私自身が苦労してきましたので大賛成です。ただし、天井高5mは少し「?」でした。

 私も真剣に考えた結果、九州には存在しない本格的なコンクリート・ホーンを作られてはどうだろうか?と云うことでした。九州にもコンクリート・ホーンは存在しますが、大抵はショート・ホーンで、9mの本格ホーンはありません。決断が早いことは先刻の通りで、即決で「作りましょう!」。

 2008年の7月でした。鹿児島市内に、エールの5ウェイをセットしたお医者様がおられました。ウーファーのみはオーディオ・ノート製(当時エールにはコーン・ウーファーは無かったのです)。ここのシステムは、中音、中高音、ツイーターの3ドライバーは、エールの最高峰、オールパーメンジュール製でした。この方が、59歳の若さで、突然、急死されました。前日まで私にメールを下さっていた方です。驚いて通夜に出席しました。通夜の席で奥様に「何かありましたらご相談下さい」とは言ったものの、本当に相談されたらどうしよう・・・というのが本音でした。このシステムは、院長室の隣の部屋にセットされていました。あとの建物を他のお医者様に貸すにあたり、こんな大きなものがあっては貸すわけにいかない・・・と、葬式が済むと直ぐに「ナントカしてくれ」との依頼がありました。その日のうちにAさんに「緊急!」とのメールを発信し、「買い取って貰えませんか?価格はあとで提示します」と伝えました。また気の早いことは先刻の通りで、その日のうちに「買い取りましょう」とメールが入りました。このような一式揃う出物はしょっちゅうある訳ではありませんので、助かりました。話が決まったあと、Aさんから「亡くなられて日も浅いうちから、故人がもっとも大事にされていたものを、こんなに早く譲り受けて良いものでしょうか?」との質問を受けました。Aさんのお人柄を垣間見た感じがしました。相手方の事情を説明して、納得して戴きました。中低音のホーンは大きくて、通常の出入り口からは搬出できませんので、クレーン車を頼み、窓から搬出。一式は日通のコンテナを依頼して大分へ送り込みました。

 家が出来るまではセッティングはできませんので、取り敢えず、ツイーター、中高音、中音のオール・パーメン・ジュールドライバーを使用し、ウーファーもオーディオ・ノートに変更し、4ウェイのマルチが出来上がりました。この時点でエクスクルーシヴの役目は終了しました。

 コンクリート・ホーンの図面は、設計士に渡してあります。勿論、私が訪問し、設計士、建築家と共に打ち合わせをして万全を期します。と云いますのは、如何に優秀な設計士、建築家と雖もホーン作りの経験は無いからです。技術のある方は得てして「やり過ぎる」きらいがあります。そこを特に念を押したかったからです。

 立派な家とシステムが完成しました。

 見られるとおりのシステムの完成です。大きな黒い幕(4ヶ所)がスピーカー部分です。上にある4個の黒い部分は飾り窓になっています。本当は、アンプ部分も扉が閉まり、普段はこの部屋にオーディオが有ることすら分らない設計です(下の写真)。実は、私もこれが理想の姿だと思っていました。その姿をAさんが実現して下さいました。分りますように、アンプとスピーカーの後方には人間が立って入れる広さを確保してあります。

 一般的に、オーディオは、室内の正面にドーンとある部屋が多く、言葉を悪くしますと「これ見よがしに」置いてあります。しかし、私は、基本的にオーディオは生活の一部として部屋の中に自然にあるべき!と思っています。主役は「音楽」であってオーディオでは無いと思うからです。オーディオは飽くまで脇役であるべきです。それがどういう訳かオーディオが主役のようなセッティングが非常に多く、なかにはオーディオ屋と間違えるほど満艦飾(数セットのスピーカー・システム)のシステムを置いている方も何人もおられます。重ねて言いますが、オーディオは脇役なのです。主役は「音楽」です。ここを間違えるので「オーディオは泥沼だ!」などと分ったようなことを云いたくなるのです。

 音を出しました。流石に音のヌケは特筆に価します。ストレスが何も感じられません。調整は少し手を加えましたが、この大きさで音の定位の良さは信じられないほどです。正にオーケストラが目の前に浮かび上がります。楽器の音色もそのまま出ます。改めてコーン・ウーファーは、「良く出来ているものでもストレスはあったのだ」と実感しました。幾ら大音量で鳴らしても平然と再生します。大編成のオーケストラでも音の混濁は一切ありません。私が懸念していた5mの天井高は完全にプラスに働き、ホール感を十分に果たすのに役立ちました。

  では、サランネットを外してみましょう 

 アンプ部分は扉で閉じられています。

上のホーンがウーファーで、コンクリートで出来ています。本格的な施工者により、実に綺麗に仕上がっています。大きさは、横幅2メートル、高さは1.5メートルあります。下に見える次ぎの大きさのホーンは、中低音で、これでも横幅1.26メートルあります。高さは96センチです(ホーンの長さは2メートルの折り曲げです)。上に中音、中高音、ツイーターが載っています。

 それぞれのホーンにドライバーが後方にセットされています。しかし、ウーファーだけは、違います。ホーン・ロードが、後方で下に曲がっています。更に床下のところで手前に曲がり、リスニング・ルームの床下を通り、リスニング・ポジションの左右に1個ずつセットされています。低い周波数の場合、折り曲げホーンが有利なことも別項に記載があります。

  このように床下にセットされています。新聞紙は、当初はコンクリートが生渇きで、湿気を吸収するために入れられました。今はありません。ホーンからドライバーまでの長さは9メートルです。9メートルもあると、音に遅れが出て音がまとまらない!などという人がいますが、机上の論を信じるとこんな発言が出ますが、聴いてから文句も言って欲しいですね。絶対にそんなことは無いのです。


 次ぎに使用ユニットを説明します。

 ウーファー・ホーンはコンクリートで、これは家の建築費の中に入ります。ドライバーは、エールの低音用の160(直径25cm、65kg)、ミッド・バス(中低音用)は、EX−70ホーンに中低音用ドライバー126(直径25cm、60kg)をセット、中音は(写真の中央左)EX−250ホーンに7550DEP(Pはオールパーメンジュールを指します)、中高音はEX−800ホーンに4550DEP、ツイーターは1750DEPと言う陣容です。中音以上にオールパーメンジュールが使用されたことによって、このシステムを更に充実させたことは間違いありません。


 これで九州唯一・最大・最高のオール・エール製品によるオール・ホーン・システムは完成した訳です。

 これまでは、スピーカーについて述べましたが、前に述べた音質の根源には、イケダ製品が絶大な威力を発揮しているのです。如何に最大・最高のオール・ホーン・システムと雖も、イケダ製品なくしてこのサウンドは得られません。カートリッジはイケダ・MUSA―U、トーンアームはロング・タイプのIT−407、トランスはイケダのST−200となっています。重ねて言いますが、雑誌等でいくら評価が高いカートリッジでも、カンチレバーが付いているものはダメで、イケダでなければこのサウンドは得られません。

 新築のAさん宅です。左の白い部分がリスニング・ルームです。右の黒い部分がお住まいスペースです。中央が玄関で、玄関のタタキは、3メートルはある広いものです。最近はどこも玄関のタタキが狭い家が多いのですが、広いタタキは私の好みです。リスニング・ルームと住まいとの間は通路になっており、中庭が設えられています(ガラス張り)。手前の駐車場が病院の駐車場の一部です。

 さて、このシステムのアンプ関係については一切触れられていませんが、私は、担当では無いからです。偶然にも、私の古い友人で、ラックスの九州地区を担当していた男が、Aさんと知り合いで、アンプは一切を彼に任せてあります。このお宅では年に3回、病院の従事者、とAさん、ラックスの男の数人で、コンサートを行っています。私がプログラムを組み、レコードを持ち込みます。楽しい会です。 Aさんは、決断は実に早いことは紹介しましたが、逆に非常に慎重な面も持ち合わせておられます。例えば、この家を作る時も、ドックに入り、身体をくまなく検査して、異常なし!と確認してからローンを組むなどです

 私が伺った時の最初のシステム(エクスクルーシヴ)は、10年間使っておられました。それが良かったのです。あれこれ買い換えて予算をつぎ込んだ後では、今度のようにスムーズにオール・ホーンに進むことは出来なかったかもわかりません。音楽の趣味も一変し、今ではジャズとクラシックを、どう見ても7千枚程度は保有されています(CDは除く)。お医者さんだから出来ることだ!と思われる方も居られるかも分りませんが、Aさんは病院からの給料は全て奥様に渡し、自分の物は講演や警察医関係の報酬で賄われて、家計からは受け取っておられないそうです。従って「金にものを云わせて」といったことはありません。買い物にも非常に慎重なのです。 

 リスニング・ルームに対して、目標を持っておられたように、オーディオにも目標を持っておられて、それが今回のシステムが、目標にマッチしたということです。
 「ブルー・ノートの音と変わらない!」と今では大満足のAさんです。

 オーディオのランクとリスナーの感覚のレベルは一致しなければ宝は生きて来ない・・・というのは私の持論ですが、Aさんはピッタリとそのランクが一致したのです。出来上がるまでの約2年半。「先生は、実にピッタリとオーディオに付いてこられましたね」と云いますと「イヤー、相当な駆け足でした」と云われました。分っておられたのです。

 

2013・4・25