対ベガ星連合軍戦におけるダブルマジンガー不参戦の解明について

 
 凡そマジンガーシリーズの物語において最大の謎と目されるものは、衆目の見るところ「UFOロボ グレンダイザー」においてダブルマジンガーが参戦しなかったことに尽きるのではないだろうか。
 だが、このダブルマジンガー不参戦の理由に関して、直接その事情を説明する文献というものは、私もマジンガーの資料を蒐集すること二十有余年となるが、残念ながら未だ発見することを得ていない。
 目を転じてみると、ファンの間で長きにわたって唱えられてきた説というものは多々存在している。しかし残念なことには各説が各々乱立しており統一された定説というものが出てこない状況下にある。これは結局のところは各説ともに、充分にダブルマジンガー不参戦の理由を説明出来るものではないということの証左であろう。
 この長きに渉る謎の完全なる解明こそは、全マジンガーファンの等しく希求するところのものであろう。また、この謎に魅せられた一人として、ダブルマジンガー不参戦の秘密を解き明かすことは長年の求望であった。
 この「あえて設定の触れざる部分」に足を踏み入れることは蟷螂の愚に似て己にいかばかりの力があろうやと危具するところではあるが、後人の更なる研究の研鑚の礎とならば幸いである。


 先ずは、「ダブルマジンガーの対ベガ星連合軍戦への不参加」の真相を解明するには、これまでに先人たちの考証した説に立ち入って、その説の妥当性を確認してゆく作業が必要であると考える。
 
 「ダブルマジンガー非力説」
 これは、
【グレンダイザーより戦力的に劣るダブルマジンガーではベガ星連合軍に敵し得ず、そのため参戦を見送った】
とする説である。

 しかし、この説の誤りであることは拙稿『三大マジンガーの強弱比較論』で論じたとおりであり、マジンガーZ・グレートマジンガーは単体でもグレンダイザーに追随する力を有していることが証明されており、更にはダブルマジンガーが揃えばグレンダイザーをも凌駕するということが明らかになっている。況やTFOとマジンガーZを比較すると、天と地ほどにその戦力差があるといって良い。
 そのため、仮に「ダブルマジンガーが円盤獣に敵わない」と仮定しても、それをもって兜甲児が更に弱いTFOで戦わなければならない理由が見出せないのである。ミニフォー編隊と戦うにしてもTFOで戦うよりもマジンガーZで戦うほうが確実に戦力として強力であることは論を待たないからだ。ついでながら、ダイザーチームが結成されるとき、当初欠員のあったドリルスペイザーに、ベテランである弓さやかなどをパイロットにするのが常識的差配であろう。
 ところで、この仮定は映画『UFOロボグレンダイザー対グレートマジンガー』で示されたように、マジンガーは十二分に円盤獣に対抗出来たことから呆気なく崩れる。
 この説は、以上の点において棄却せらるるべき類のものであろう。

 尚、近年この説の亜流として「マジンガーは高高度の戦闘に耐えられない」とする説も出てきた。
【マジンガーは高高度の戦闘が不可能であり、そのためにフレームから大幅に改造を余儀なくされて、結局ベガ星連合軍との戦いには間に合わなかった】
とする説である。

 が、この説も「マジンガーが高高度の戦闘に耐えられない」とするだけの積極的根拠が成立しておらず、むしろマジンガー本体は宇宙ですら戦える可能性のほうが高いということは、これも上記拙稿で述べたとおりである。スクランダーの問題さえクリアしてしまえばすんでしまうことである。ならば、三つのスペイザーを作る手間を省いて、マジンガーの大気圏離脱ブースターとしてのコズモスペシャルを作るほうが利口というものである。コズモスペシャル自身は製作期間4ヶ月という短期間のものであったので、ベガ星連合軍との開戦早々に取り掛かっておけば良いことである。
 しかも、もしマジンガーを改造していたというのであれば、何ゆえベガ星連合軍との開戦から半年も経っていた『UFOロボグレンダイザー対グレートマジンガー』の時ですらマジンガーZとグレートマジンガーを博物館に展示していたというのであろうか。改造が必要であるという結論が出たのであれば、早急にマジンガーは博物館からは撤収し、光子力研究所なりに引き取って改造していなければならない時期である。この事実も、この説を否定する方向にある。
 また、もしマジンガーZが「高高度の戦闘に耐えられない」としても(もちろんその根拠を論証した上での話だが)、それはダブルスペイザーを初めとする三大スペイザーも全く同様ということになってしまう。比較するとダブルスペイザーは限界高度6万メートルである。超合金NZ換装後のマジンガーZ&ジェット=スクランダーも、限界高度5〜6万メートルと推定できるので、両機の高度に大差はない。しかも、マジンガーZはダブルスペイザーの行けない深海にも行動可能であるし、武装面においても、ミケーネ撃滅時のマジンガーZの戦力はダブルスペイザーの上でこそあれ下ではない。ならば、新しくスペイザーを作るよりはマジンガーZを出動させたほうがメリットが多いというものである。いわんや、初期においてマジンガーを出動させずTFOを出動させていた理由に整合性がつかないのである。
 結局のところ、限界高度6万メートルのダブルスペイザーを実戦投入していたという事実から、「通常の防衛行動としては、成層圏を越えた高度からの敵の攻撃に対応するだけの必要性を感じていなかった」と見なさざるを得ないのである。
 以上の三点の理由により、この説も成立不能と見る。

 「ダブルマジンガーのロボット科学博物館保管による使用不能説」
【ミケーネ帝国との戦いが終わり、ロボット博物館に納められたため使用できなかった】
とするもの。

 この「ロボット科学博物館」が国立であるか私立のものであるのか、直接には資料に見えるものはないのだが、光子力研究所が国の援助を受けている機関であり(リイド社刊「マジンガーZTV手帳」より)、そこで国費で開発されたであろうダイアナンAも納められていることを考えれば巷の俗説にあるような「兜家の私設博物館」などではないと考える。恐らくはロボット科学博物館も国の施設なのであろう。とすると、国に寄贈されてグレンダイザー時代はダブルマジンガーは国有になっていると考えられるのだ。
 しかし、ロボット科学博物館に保管しているから出動出来ないと考えるのは、あまりにも滑稽な解釈というものであろう。現実に侵略者が来襲しているというのに、「国のものだから使わせない」とか「博物館に収蔵されているから使わない」と云うのでは、国防軍は軍事学を解さない素人集団としか言いようが無く、兵理上からは凡そ考えられない愚挙の極致である。だが、流石に国を守る軍事集団がそこまで無能とは考え難いというのが素直な感想である。何か他に特段の事情が無い限り、まずは出動許可が下りると考えるのが妥当であろう。
 また、先に述べたようにダイザーチームに弓さやかなどをパイロットに選ぶのが普通であるという点もクリアしていない。

 「ミケーネへの待機説」
【ミケーネ帝国が先の決戦においてその大半の勢力を失ったとはいえ、まだ完全に滅亡し去ったものではなく、為にミケーネ再侵攻に備えダブルマジンガーは待機していた】
とする説。そのため、対ベガ星連合軍戦をグレンダイザーに委ねていたとするものである。近年『スーパーロボットマガジンVol.1』に掲載された「ザ・ラスト・スペースサンダー」もこの説の亜種変形といえようか。

 だが、この説には致命的な欠点がある。
 『アニメージュS54.9』にグレートの製作を担当した横山賢二氏の談として、「周囲のものを倒したことにより直接帝王を倒さなくとも2度とよみがえることができなくなった、ということで一応帝王をたおした形をとったつもりです」とあるように、あるいはグレート第56話にて甲児が「すべてが終わりました」と剣造の霊前で語ったように、そもそもミケーネの驚異が去ったと判断されたからこそダブルマジンガーはロボット科学博物館に納められ、また、甲児も光子力研究所を離れ自分の夢であった宇宙開発にむけて宇宙科学研究所へ入所し得たのである。
 もし、これがまだまだミケーネの驚異が懸念されると判定されていたのであれば、ダブルマジンガーはロボット科学博物館に預けられず光子力研究所に厳重保管されていたであろう。そして、甲児自身もミケーネの再侵攻に備えて宇宙科学研究所への入所などは到底できず、光子力研究所での待機を余儀なくされたであろう。
 「ダブルマジンガーがロボット科学博物館に納められたこと」、および「甲児が光子力研究所を離れて宇宙科学研究所へ入所したこと」がミケーネへの待機説を完全に否定しているといって良い。

 「光子力の汚染エネルギー説」
【光子力エネルギーが放射汚染物質であったことが発覚して、光子力エネルギーが使用禁止となったためダブルマジンガーも使用不可能となったのではないか】
という説。

 この説には資料的根拠が皆無である。まず、光子力エネルギーは「無公害の夢のエネルギー」と定義されており、よほどの積極的根拠のない以上は勝手に「光子力エネルギーは公害汚染物質」とするのは不当であると云えよう。
 更に云えば、対ベガ星連合軍戦の初期において甲児は「光子力エネルギーを動力とする」TFOに搭乗して戦っており、もし「光子力エネルギーが公害汚染物質のため、マジンガーの使用も禁止となった」のであればTFOも使用してはいけないのが道理というものである。
 甲児が「光子力エネルギーを動力とする」TFOに搭乗して戦っていたことが、「光子力の汚染エネルギー説」を完全に打ち砕いている。
 なお、スペイザー軍団が出来たときにさやかが搭乗するべきではなかったかという問題も出てくる説である。

 「マジンガーZ決別説」
 厳密にはこの説には二種あるようだ。甲説は
【「甲児にとってZは既に良き青春の思い出」に過ぎず、よって宇宙開発者として生きていこうとしたから】
というもの。乙説は、
【Z92話において惨敗したZを見捨てるようにアメリカに渡った慙愧の念から、Zと向き合う勇気がなかった】
とするものである。

 この両説も私はいかがなものかと思う。まず甲説だが、この根拠はグレン第1話で甲児が宇宙科学研究所へ入所するために日本へ向かう途中で、Zを思い出して「懐かしいなぁ」と感慨を漏らした直後に「いけねぇ、今のオレはマジンガーZの操縦者じゃねぇ、地球人の手で初めてつくられた空飛ぶ円盤TFOのパイロットなんだ」と思い直したことによるものであろう。
 しかし、『テレビマガジンS50.9』に大意で述べると「ロボットの研究よりも大宇宙の神秘を探ることのほうが素晴らしいが、もし、侵略を企む宇宙人が来たならばマジンガーZを宇宙用ロボットに改造して立ち向かう」とあるように、甲児としては平和時であれば宇宙開発に生涯をかけたであろうが、一転事が起きたときにはマジンガーZで戦う心算を持っていたと断言してまず差し支えあるまい。
 それに、宇宙人のデュークが他郷の地球を守るため死力を尽くしてベガ星連合軍と戦っているというのに、当の地球人の甲児が友の危機も見捨てて個人的な感傷で「デュークを助けてあげられる最大の戦力であるマジンガー」を出動させなかったとするならば、凡そ唾棄すべき行為となる。また、周囲がそれを許しておくであろうかという疑問も当然湧いて来る。更には甲児が心情的にZに決別していたとしても、そのことをもってダイアナンAやビューナスAが参戦しなかった理由にはならないし、さやかがマジンガーZに乗って戦うという選択肢も戦略上は当然浮上してくる問題である。また、スペイザー軍団が出来たときにさやかが搭乗するべきだったという問題も解消されていない。

 次の、「慙愧の念からZに向き合えなかった」とする乙説にも矛盾が多い。先ず、「Zを見捨てた」という意識でいたのならもっと打ち沈んで、Z92話で「新しい科学に希望に胸膨らませて」さやかに笑いかけながらアメリカに旅立つことは出来ないのではないだろうか? また、『テレビマガジンS50.6』によると地獄大元帥復活時に甲児は密かに来日しZと再会を果たしているが、その時甲児は「久しぶりに会えてとても懐かしかった」と述懐しており、そこからは「Zに対する愛情」こそ見えども決して「後ろめたさ」は微塵も認められない。
 また、前述の「ロボットの研究よりも大宇宙の神秘を探ることのほうが素晴らしいが、もし、侵略を企む宇宙人が来たならばマジンガーZを宇宙用ロボットに改造して立ち向かう」という決意からも、Zに対する後ろ向きな姿勢は感じ取れはしない。万が一「後ろめたさ」でグレン時にZを動かさなかったと言うのであれば、グレート最終決戦においてもZを出動させることはしなかったであろう。それにグレート最終決戦を「緊急時だから止むを得ず」というのであれば、更に強敵であるベガ星連合軍戦はもっと「緊急事態」であるのだから、グレート最終決戦では動かしておいて対ベガ星連合軍戦で動かせないというのはあまりにも牽強付会に過ぎると云えるのではないだろうか。
 それに、グレート第53話でZに乗ることになった甲児からはやはり躊躇いや後ろめたさは見られなかったし、グレート第54話でZと向き合った時も甲児は感慨深げに対しており、そこからは「懐かしさ」が感じられ「後ろめたさ」は感じられないのだ。

 もしこれが「Zを引っ張り出してすら父・剣造を救えなかった無力感」からZを放棄したというのであれば、グレート56話において剣造の霊前に語りかけるときにかりそめにも微笑むことなど出来はしないであろう。「お父さん、もう全てが終わりましたよ。静かに眠ってください」という言葉から響いてくるのは、「お父さんの遺志をついで地球の平和は僕が守っていきますよ」といった雰囲気である。そもそも「剣造を救えなかった無力感」を味わったのであるならば、それは自分の力の至らなさを恥じるものであって、Zに責任を転嫁する発想には至らないものではないだろうか? また、その場合には「戦いそのものを虚しく思って以後は戦闘事には一切参加しない」という選択こそが至当であろうし、また、決してグレン第1話で「懐かしいなぁ」としみじみZを思い出したり、映画『UFOロボグレンダイザー対グレートマジンガー』でグレートに乗りなどはすまいと思える。
 ところで、この剣造死後の甲児の述懐がひとつ残されている。それは『テレビマガジンS50.10』の「マジンガーズクラブ」所収の一記事である。それによると甲児は剣造の死に対して「おとうさん、おじいちゃん、ぼくたちはついにミケーネ帝国をたおしました。このすがたを、ひと目だけでもみてほしかった。でも、ぼくはなきません。これからも、平和のためにいっしょうけんめいがんばります。」と語っている。ここに「Zを引っ張り出してすら父・剣造を救えなかった無力感でZと決別することを決意したという意図」は読み取ることが出来ない。そればかりかむしろ反対に、「地球の平和は断固自分が守っていく」という決意の程がこの上なく表れており、その平和への力として今後もマジンガーZとともに戦ってゆくであろうことを想像するのは難くない。甲児にとっては「平和の護持」こそが第一義であって、そのための最善の方法としてマジンガーZが考えられるのであればZに乗ることに何等躊躇の必要はないのではないだろうか。亡父に誓った平和への祈りを考えれば、「Zに乗りたくないから乗らない」といった本義にもとることは行ったりはしないと固く思う。
 また、これらのことは、さやかの不参戦の理由にもなっていない。
 −−−−以上のことから、「後ろめたさによるマジンガーZ決別説」も否定されて然るべきかと存ずる。

 「マジンガーZ改造(ゴッドマジンガー)説」
【マジンガーZは、ベガ星連合軍との戦いに備えるためゴッドマジンガーとして改造されていたため、戦争には間に合わなかった】
とするもの。

 これも、ゴッドに改造していたとする積極的根拠がなにもない。
 まず第一に、上記「マジンガーは高高度の戦闘に耐えられない」説でも反証したように、「マジンガーを改造していたというのであれば、何ゆえベガ星連合軍との開戦から半年も経っていた『UFOロボグレンダイザー対グレートマジンガー』の時ですらマジンガーZとグレートマジンガーを博物館に展示していたというのであろうか。改造が必要という結論が出たのであれば、早急にマジンガーは博物館からは撤収し、光子力研究所なりに引き取って改造していなければならない時期である」という言が、そっくりここにも当てはまる。ロボット科学博物館にマジンガーが置いてあった以上、改造していなかったと見なすのが至当だ。
 第二。改造しなくても、マジンガーZで充分戦えるという点。これは上記拙稿で証明したとおりであり、現実に侵略者が来ているというのに、その対抗手段があるにも関わらず、より時間のかかる方法を選ぶメリットがまるで見出せない。
 
 「マジンカイザー製造説」
【ベガ星連合軍との戦いに備えるため新ロボット・マジンカイザーが製造されていたため、マジンガーZはその守秘のため出動しなかった】
とするもの。

 これも「マジンガーZ改造(ゴッドマジンガー)説」と同じく、積極的根拠がまったくない。
 反証する。何度も繰り返すのだが、拙稿で証したようにマジンガーZ&グレートマジンガーで十二分にベガ星連合軍と対抗できるのに、新ロボットを建造するメリットがない。
 加えて。グレートマジンガーはマジンガーZを元にして造られたというのに、それでもなおZ以上の性能を持つロボットを造ろうとしたとき、グレートは結局15年の建造期間を必要としたのである。だからこそ、グレートの終盤戦においても、『テレビランドS50.9』に語られたように、「新ロボットを建造するゆとりは、もはや、ない」とされ、Zの強化改修という道が採られたのである。
 このベガ星連合軍の襲来に当たって、それからマジンカイザーを建造しようとしても、グレートの事例から考えて3年や5年では利かないであろう。あるいはグレートと同じく15年くらいの期間が必要とさえ推測される。期間的にそもそも対ベガ星連合軍戦には到底間に合わないという判断が、防衛会議の最初期に下されることであろう。
 「泥棒を見て縄をなう」という言葉があるが、「泥棒を見て、縄があるにも関わらず手錠を作る」阿呆はいないだろう。

 結局のところ、「マジンガーZ改造(ゴッドマジンガー)説」「マジンカイザー製造説」も、「マジンガーではベガ星連合軍には敵わない」とする前提が必要であり、それらが論理的に証明されない以上は、徒に唱えるべき説ではないということに尽きる。そしてこれはその他の説にも言えることだが、説を構成する積極的根拠というものがまるで欠けている。(注1


 以上のように、既説では「ダブルマジンガー不参戦の秘密」を善く説明し得るものではないことは証し得たと思う。しかしそれでは何故ダブルマジンガーは対ベガ星連合軍戦に参戦しなかったのであろうか? 

 ここに一つ、謎を解く鍵となると思われる事実に目を転じよう。
 まずその第一は、当時のテレマガその他に記載されているように「三大スペイザーは超合金NZ製である」ということである。そしてグレンダイザー自身も、『テレビランドS51.11』によるとその補修は「宇宙合金グレンににた地球の金属でうめられている」とあるが、その地球の金属とは地球上で最も固い超合金NZ以外には考えられるものではない。
 ところで、Z第1話にあるように、原料であるジャパニウムは「富士火山帯のみに存在」するもので、光子力研究所と科学要塞研究所以外には採掘は困難であろうと考えられる。また、『マジンガーZTV手帳』によると「超合金Zの精製法は国家機密」とあることから、次世代合金である超合金NZも国家機密となっていると考えるのが妥当なところであろう。科学要塞研究所が壊滅した後のことを併せると、この対ベガ星連合軍戦の間宇宙科学研究所の補給を務めていたものは光子力研究所以外にあり得ないと結論付け出来る。
 次に、その「補給基地である光子力研究所」をベガ星連合軍が一度も攻撃してこなかったという点。
 この、「敵の補給線を叩く」というのは戦史に枚挙に暇が無いほど兵法の鉄則中の鉄則である。それなのにベガ星連合軍が「補給基地である光子力研究所」を攻撃しなかったというのは、よほど戦いを知らない無能な連中で無い限り有り得ないことである。宇宙のあちこちを征服した軍団であるベガ星連合軍がこの程度の兵理を知らなかったとは到底考えられず、まさしくこれは「補給基地としての光子力研究所の存在を知らなかった」としか考えられないのだ。
 付随して、「ボスボロットの存在についてベガ星連合軍は全く知悉していなかった」という点。これはグレン第14話のベガ星兵士とブラッキーの「ブラッキー隊長、おかしな奴が」「何だと!」「今迄まったく見たこともないロボットです、御覧下さい」「しかし、なんだこれは?・・・ずい分とユニークなロボットだな、地上調査に出した甲斐があった、まだ我々の知らぬことが沢山あるようだ」という会話に明らかである。
 また、第31話でもガンダルとスパイたちが「何兜甲児と関係のある三人組の工場を発見したというのか?!」「はっ 奴等は奇怪なロボットを作って兜甲児のところへ運ぶつもりです」とか「ロボットは第2のグレンダイザーを目指している 兜甲児の手に渡してはまずい」とも話している。これなどはマジンガーZやグレートマジンガーの存在を知っていたならば当然ボスボロットの事も知っているだろうものを、何故知らなかったのかという疑問とするところである。
 更に。ベガ星連合軍の兜甲児に対する調査状況について。
 第16話にも明らかなように当初ベガ星連合軍は甲児が宇宙科学研究所の所員であることすら知悉していなかった。第24話では既にその事実は知っていたようではあるが、甲児がマジンガーZの操縦者であったことは映画『UFOロボグレンダイザー対グレートマジンガー』で見て取れるように、それまでは気付いていなかった。ただし、『テレビマガジンS51.3』にあるように、ベガ大王がスカルムーン基地にむけてダブルマジンガーの存在を知ってその略奪命令を下していることから、その事件後「ダブルマジンガーの存在だけは知った」ようである。だが、バレンドス戦死により甲児がマジンガーZの操縦者であったことを知る者がいなくなって、前述の第31話のようにボスたちとのつながりもそれまでは知らなかったし、まして「ロボットは第2のグレンダイザーを目指している 兜甲児の手に渡してはまずい」などと、マジンガーZと兜甲児の繋がりを知っていたならば絶対発することの無いセリフが出ている。そして、第65話のシナリオにあたると、兵士たちが「宇宙科学研究所の兜甲児だ」と云っており、やはり甲児がマジンガーZの操縦者だったことを認識していなかったと位置付けて宜しかろう。
 ここで、まず結論が出た事柄について統括してみよう。

結論@「ベガ星連合軍は補給基地としての光子力研究所の存在を知らなかった」
結論A「ボスボロットの存在についてベガ星連合軍は全く知悉していなかった」
結論B「ダブルマジンガーのことは後に存在だけは確認できたようであるが詳しいことは知らなかった」
結論C「兜甲児がマジンガーZの操縦者だったことを認識していなかった」


 これらのことは孫子にいう「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」という言葉にあるように、「ベガ星連合軍が地球との戦争を遂行するにあたって絶対に調べて掴んでおかなければならない情報」だったはずである。それが、このような、地球上有名過ぎる程に有名なことすら掴めていなかったというのは戦理上致命的な失策と言わざるを得ない。しかし、翻って考えるに、敵のことを細大漏らさず調べ上げることの重要性は戦闘集団であるベガ星連合軍ならばよくよく知っているはずである。そして、事実本編中何度かスパイや地上調査を出していることにも明らかなように、敵を知ることの重要性は充分知っていたと云って良い。それが、結果的には上記四つを知らなかったというのは、地球側がよっぽど徹底して光子力研究所のことやダブルマジンガーのことを情報統制して秘密にしていたからとしか思えない。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」というのは逆に語れば、「敵に自分たちの情報を極力与えない」ということである。同じく孫子の言葉を借りれば「善く守る者は九地の下に蔵れ、善く攻むる者は九天の上に動く」である。この点に関してはベガ星連合軍も、地球側に宇宙の知識を与えまいとして宇宙の調査を妨害したり、基地の所在を知られないように務めていたりなど戦の常道を踏まえていて、虚々実々の駆け引きが面白い。

 話が少しく逸れてしまったが、この「地球規模での情報統制」を影で指揮したのはどうやら国防軍と言えそうである。なぜならば、宇宙科学研究所の補給を務めていた「光子力研究所は国の補助を受けていた公的な機関」であり、かつ超合金NZが国家機密事項とすれば、いくら甲児が客員として宇宙科学研究所に在籍していても「光子力研究所が勝手に宇宙科学研究所に供与できるものではなく、そこには必ず国家の関与がある」はずであることが容易に推測出来るからである。また、一般人たちがグレン第62話までグレンダイザーやベガ星連合軍のことは知らなかったのに、国防軍や科学者たちは早くからその事を知っていた(第22話で既に知っていた)ことを考えると、

結論D「国防軍は世間にグレンダイザーやベガ星連合軍のことを公表していなかった」

と定義付けることが出来る。ここでも地球側の情報統制の影を見ることが出来よう。
 これに、拙稿「三大マジンガーの強弱比較論」で結論されたマジンガーZとグレートマジンガーの戦力問題が加わり、かつ、ベテラン戦闘員の弓さやかたち戦闘不参加の問題も追加される。

事実@「マジンガーZ・グレートマジンガーはベガ星連合軍と対抗するだけの戦力を有する」
事実A「弓さやかたちベテラン戦闘員が戦闘に加わらなかった」

 
 これらの結論と事実の断片を繋ぎ合わせて、かつ全ての条件を満たせることのできる結論、それは
【宇宙科学研究所の補給基地である光子力研究所の情報を守秘する為と、敵に全戦力を知られて大兵力を投入されない為にという二つの理由からダブルマジンガーは出動しなかった】
というものである。
 推測ではあるが、兜甲児はグレン第2話においてベガ星連合軍やグレンダイザーのことを打ち明けられて後、マジンガーZの出動を宇門博士に願い出たのではないかと考えるのが順当かと思われる。しかし、その時点でロボット博物館に納められていて国の所有物となっていたマジンガーZを元操縦者の甲児と雖も勝手に持ち出すわけにもいかず、光子力研究所の弓博士を通じて国防軍と「地球防衛」について協議が為されたものであろう。
 だが、デュークフリードから伝え聞くベガ星連合軍の軍事力は地球のそれを遥かに凌駕しており、正面きってマジンガーとグレンダイザーを投入しての軍事衝突は、ベガ星連合軍も兵力を集中して攻囲体勢をとることとなって結果地球滅亡になりかねないという見解に国防軍首脳は結論付けたのではないだろうか? 加えて、この時点においてグレートマジンガーの操縦者である剣鉄也は重傷の身であってグレートマジンガーに搭乗することが出来ず(『グレンダイザー大百科』エルム社刊より)、グレートマジンガーが参戦できないとあっては、尚更に劣勢な中で兵力を小出しにしてかえって各個撃破される可能性が高い。
 「勝つべからざるは守るなり」、即ち勝利する条件がないときは守りを固めなければならない。そしてその場合には「善く守る者は九地の下に蔵れ(守りについたときは兵力を隠蔽して敵につけこむ隙を与えない)」ことが肝要であり、自兵力を隠蔽できれば「則ち我は専にして敵は分かる。我は専にして一となり、敵は分かれて十となれば、これ十を以ってその一を攻むるなり。則ち我は衆くして敵は寡し。」のとおり、敵の力を分割させて個別に討つことが可能となる。例えて云えば、敵が5000万人の兵士を持っているとして、当方が僅か10万人としよう。優勝劣敗の原則からすれば、敵国は100万も兵力を投入すれば安全に勝つところであろうが、敵国も他にも戦線を抱えていたとすると100万人もの人員を一地区に投入することは惜しい。ここは倍の20万人ばかり投入して事に当たらせたいところであろう。ところが、当方が兵力を隠していて敵には3万人と思わせることができたとしよう。すると敵は侮って6万人しか戦線に投入してこない。そこを当方は10万の兵力で殲滅するのが理想である。しかし、敵の兵力が無尽蔵にあるとすると、こちらも持久戦に全戦力を見せてしまうと次回はたちまち兵力を集中され、逆に撃破されてしまう。であるならば、敵6万に対して4〜5万の兵力で何とか凌いでしかもそれを敵には3万と思わせたまま辛勝を続けて、敵に自分を侮らせて兵力を小出しにさせて少しずつ討ち取ってゆくのが唯一残された戦略となる。しかもこの3万が国を滅ぼされて当国に亡命してきた外人部隊だったとしたらどうだろう。腹黒くはあるが、当国の固有の兵士は極力使用せず、亡国の外人部隊を先鋒として事に当たらせ自兵は温存するのが戦略というものであろう。
 これを実際の対ベガ星連合軍戦に置き換えると、もしここでマジンガーZを戦線に投入してしまえば、グレートマジンガーの存在も早晩のうちにベガ星連合軍に知られてしまい、鉄也の負傷でグレートマジンガーを使用できないままにそれを圧倒するだけの兵力(スカルムーン師団級の師団3〜4つばかり)を整えられて一気に攻め立てられては地球は滅亡してしまうことであろう。
 ところが、地球固有の戦力であるダブルマジンガーの存在を守秘できれば敵はグレンダイザーのみをつけ狙って、それに見合うだけの戦力しか投入してこないはずである。それを少しずつ倒してゆくのが得策というものだ。
 しかもグレンダイザーは協力者ではあっても自星の固有戦力ではない。自星の戦力は極力温存して、グレンダイザーを捨石にするのが国防軍の思惑なのではなかったろうか。
 しかし、とはいっても、実際グレンダイザーが敗北してしまっては地球側としては元も子もなくなってしまう。そこで、自星の戦力は温存し極秘にしつつ、可能な限りはグレンダイザーの補助はしなければならない。それが、マジンガーZ抜きでの兜甲児の参戦であり、かつ光子力研究所による補給だったのではないだろうか。特に光子力研究所による補給については、「補給基地を叩かれては死命を制せられるに等しい」ことから、絶対的な守秘が必要となる。ところがその守秘のためにはやはりダブルマジンガーが戦線に立っては具合が悪いというものだ。円盤獣とも十二分に渡り合える力を有するマジンガーZを戦線に投入してしまえば、その動力源や基地は当然のことながら調査の対象となるであろう。すると光子力エネルギーのような地球でも特殊な動力源の供給元というのは容易に判明して、光子力研究所の存在は早晩のうちにベガ星連合軍に確実に掴まれてしまうことであろう。マジンガーは二重の意味で出動は見合わされたというべきであろう。
 そしてそれは弓さやかや炎ジュンにも言えることである。さやかのダイアナンAやジュンのビューナスAが出動しても、やはりそれまでの経緯からダブルマジンガーや光子力研究所の存在は明るみにでてしまう可能性が高いことであろう。それどころか、さやかやシローの宇宙科学研究所への接触すらも憚られるところのものである。ジュンは鉄也の看病に当たっていたために表舞台には現れなかったとしても、さやかやシローが対ベガ星連合軍戦中に一度も甲児に接触してこなかったのはそんなところに理由があるのではないだろうか。
 ところで、国防軍としては本来は「兜甲児の参戦」についてすらマジンガー・光子力研究所の守秘という観点からすれば、懸念するところであったろう。
 しかし、既に当事者としてベガ星連合軍と戦った甲児が容易に待機することを了承するとは到底思えず、且つ、グレンダイザーとデュークフリードだけでは実質ベガ星連合軍の侵略をくい止めることは不可能であるとの判断に至っての上で甲児の参戦が認められたのではないだろうか。つまり、あくまでも例としてだが、3万人の兵に相当するデューク&グレンダイザーが全兵力と思わせておいて、6万で攻め寄せてきたベガ星連合軍を「兵1万である甲児」と「3万のデューク&グレンダイザー」の計4万で討ち取る。歴戦の甲児はその任をまっとうするのには最適だったといえる。なぜならその実績からいっても甲児はさやかやジュンを戦闘力で確実に凌ぐものがあるし、天文学やUFO学もを修めている。これは他天体の侵略者に対しては強みとなる。そして、甲児はさやか・ジュンと違って光子力研究所には約2年しか関わっておらず、その後ワトソン研究所、NASAの研究センター、そして宇宙科学研究所と転々としており、経歴をぼかすには一番好都合な存在である。だがさやかもジュンも光子力研究所・科学要塞研究所には相当に長期間所属しており、甲児に比べて光子力研究所(科学要塞研究所)との繋がりが判明しやすいという難点を持っていたと謂える。
 そしてそれは、異星人デュークフリードを陣頭に立たせて戦わせることに対する国防軍側の最後の良心だったのかもしれない。TFOも確かに光子力を動力としてはいるが、ベガ星連合軍が瞠目するほどの性能は有していないのでそのエネルギーや光子力研究所の存在まで調べ上げられることはまずないであろう。また、全世界的に報道・出版関係を報道管制してダブルマジンガーや兜甲児、そして光子力研究所のことを極秘とする。さやか・シローすらも甲児とは接触させない。ーーー以上のことでかなり不安材料は軽減されるといって良い。
 本当はここで、ボスたち三人組も甲児との接触は控えさせたいところであろう。ところが、ボスたちは「マジンガーZ時代やグレートマジンガー時代に無理やり戦闘に割って入った」経歴があり、事情を全て話してしまうとまた戦闘に割って入ってかえって逆効果となることが懸念される。それくらいなら、事情は伏せておいて手紙や電話くらいであれば自由にさせておいたほうがまだ賢明というものであろう。若干は調べられるにせよ、光子力ともジャパニュームとも無縁のボスボロットであれば常時戦闘に参加さえしなければ、マジンガーや光子力研究所まで調査は及ばずボロット止まりで済むとも考えられる。ボスに事情が話されたのは第14話以降のことであろう。
 またーーーー。ダブルマジンガーをロボット科学博物館に展示していた件については、これもやはり国防軍としては本来は博物館からはダブルマジンガーは撤収して人目に触れないように光子力研究所に収容したいところである。ところが、ここで「国防軍は世間にグレンダイザーやベガ星連合軍のことを公表していなかった」ことについてもう一度考えてみよう。
 仮に一般人にベガ星連合軍の存在を発表したとすると、世間の反応は如何であろうや? 後に我々が言い習わしたように、「ダブルマジンガーを出動させるべきだ」と云う論が世を席捲するのが必然ではないだろうか。事に、グレンダイザーの秘密基地をベガ星連合軍から隠匿するには、グレンダイザーの存在自体を一般人には極秘にしておいたほうが秘密の保持が保ちやすくて都合が良いわけだが、そうなればなおのこと、グレンダイザーの存在を秘したままベガ星連合軍の脅威を一般に知らしめては「ダブルマジンガー出動希望論」が湧き上がってしまうことであろう。そうなっては、折角全世界に報道管制を敷いて「マジンガー秘匿」を図っても、必ず一般人たちの言の端からベガ星連合軍にダブルマジンガーのことを察知され、最悪の場合光子力研究所の存在まで暴露されてしまうことであろう。
 上に考証を展開したように、国防軍としては「マジンガーと光子力研究所の秘匿」のためにベガ星連合軍のこともグレンダイザーのことも公表しなかったと考えるのが最も妥当と思う。現実に今後地球上で展開されてゆくであろう戦闘については、相手を特定して公表しなければ「謎のUFO事件」として過去のUFO騒動と同じく虚構入り混じった「お話」として受け止められることとなってゆくであろう。あるいは、意図的に虚構と容易に知れる事件の報道も混ぜて、一般市民には真偽を惑わせる方策も考えられるだろう。事実ドラマ中において一般の地球人は第57話に至るまでは確実に「UFOが存在する」ことを信じていなかったのだ。しかし、この不穏な事件が続出するであろう半信半疑な中に「平和の象徴として展示されているダブルマジンガー」がロボット科学博物館から姿を消してしまっては、人々の不安を不必要に掻き立ててしまうには相違あるまい。国防軍としては危険は承知の上ながらあえて人心収攬のために、苦肉の策としてダブルマジンガーをロボット科学博物館に残しておいたものであろう。
 戦いの経緯を追ってゆくと、バレンドスのグレート強奪事件により流石にダブルマジンガーをロボット科学博物館にそのまま残しておくことは躊躇われて光子力研究所に移管されたことであろう。また、このころはまだ剣鉄也は療養中であったことが確認されているので、大攻勢に転ずるのは不可能であったと断ずる。そして、TFOが破壊されるに及んで、もっと強力なダイザーサポート機としてダブルスペイザー、そしてマリン・ドリルが開発される。この時点で、光子力研究所の補給基地としての役割は更に高まったといえるだろう。マジンガーを参戦させることなく、あえてダイザーの機能を向上させる方向での三大スペイザーの戦線投入である。矢面に立つのはあくまでグレンダイザーと宇宙科学研究所として、そのために秘密裏に新宇宙科学基地まで建設されていたのだ。
 これは、戦力をグレンダイザーに集中させて能力向上をしての危機突破としての側面と、敵の耳目をグレンダイザーに集めるという二つの効果が認められる。そして、世間一般には可能な限りグレンダイザーやベガ星連合軍のことは秘密にしておいて事に当たる。一般人がベガ星連合軍のことを知ったのは、第60話において、ベガ星連合軍が東京タワーや東京駅の爆破予告を放送で流した時が初めてとなる。しかし、一般の地球人がベガ星連合軍の存在を知ったあと国防軍は直ちに「それに対抗する力としてのグレンダイザーチームの存在」を発表して人心収攬を計ったようで、二話後の第62話においては既に子供たちですらスペイザー軍団の事も知り得ていたのだ。
 それに対してベガ星連合軍側では、スカルムーン師団では一般の地球人たちの言葉の端から諜報員の報告によりダブルマジンガーの存在だけは察知していたのであろう。それによってベガ大王も「ダブルマジンガー強奪指令」を発したものであろうが、どうもガンダル司令の方では地球の科学力を侮ってダブルマジンガーの戦力についても低く見積もっていたのではないだろうか。また、現実にもダブルマジンガーは自分たちの攻撃に対しても参戦してくる気配もなかったのであるから、「地球のロボットなどオモチャのようなもので、それは当の地球人がよく認識しているからこそマジンガーを戦線に投入してこないのだろう」くらいにしか考えてなかったのではないかと思われる。唯一参戦してきた地球側の兵器のTFOが「円盤としてはごく初期のレベルで、オモチャのような存在」だったからこそ、更にそのように軽視させる要因となったものだろう。そして、マジンガーなどはいつでも一蹴できる存在としてしか認識せず、為にグレンダイザーの攻略のみに目が向いてダイザーの秘密基地の特定にばかりその諜報活動を向けてしまったと考えられる。

 以上のように、ベガ星連合軍対地球の戦いの軌跡を俯瞰してみると、地球側は防戦体勢にありながら終始戦いの主導権を握っていたといえそうだ。孫子の云う「故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。」である。
 最後に毛沢東の言葉で締めくくろう。
「あらゆる戦争において、敵味方は主導権の奪いあいに力をつくす。主導権とはすなわち軍隊の自由権である。軍隊が主導権を失って受動的な立場に追い込まれると、その軍隊は行動の自由を失い、打ち破られることになろう。・・・・・・主導権は、情勢に対する正当な評価と正しい軍事的、政治的処置によって生まれる。客観情勢にあわない悲観的評価と、そこから生ずる消極的な処置は、主導権を失わせ、こちらを受動的な立場においこんでしまう。逆に、客観情勢にあわない楽観的すぎる評価とそこから生ずる不必要に冒険的な処置もまた主導権を失わせ、ついに悲観論者と同じ道におちこませる」

 −了−