フリード星滅亡の原因



 ベガ星連合軍が怖れるほどの戦闘能力を持つグレンダイザー。そのグレンダイザーを造った高い科学力を持つフリード星。だが、このフリード星はベガ星連合軍の前に敗れ、滅亡し去っていった。
UFOロボ グレンダイザー』の発端はこのようにして始まった。だが、そこにはいろいろ疑問を発せずにはいられなかったことがある。
 なぜ、素晴らしい科学力があるにも関わらず、フリード星はかくも無残にベガ星連合軍に滅ぼされてしまったのであろうか?
 或る人は言う。平和ボケしていたフリード星では、グレンダイザー以外に碌な軍備をしていなかったのだ、と。
 また或る人は言う。フリード星の指導者が無能だったのだ、と。
 これらの言にはそれなりには納得させられるものの、それでも何やら座りの悪い思いを覚えたのも事実だった。根拠もなく「失敗」の原因を「無能だったから」の一言で片付けるのは、安直すぎであり、ある種の思考放棄だからだ。
 この件について、我々はあまりにも印象で物を語り過ぎていたのではないかと考える。
 フリード星が本当に平和ボケしていたのか、無能だったのか、事実をきちんと検証する必要があるのは考証の基本であり、むしろ必然だったと云えよう。

 まず、フリード星の科学力というものを測ってみよう。
 資料を紐解くと、『テレビマガジンS51.1』(講談社刊)に
 「ベガ大王は、宇宙せいふくをたくらみ、ふきんのわくせいをつぎつぎとほろぼしていった。ただ、フリード星だけが、ベガ星と同じくらいの科学力をもち、グレンダイザーというすばらしいロボットをもっていたため、せめこまれないでいた。このじゃまな星、フリード星をほろぼし、グレンダイザーをうばおうと、宇宙せいふくにもえるベガ大王は、大こうげきを開始した。」
とある。また、グレンダイザーはその製作に「15年」『テレビマガジンS51.1』(講談社刊)かかったとあるのだが、その製作開始の「ちょうどそのころ、王子がうまれた。この王子こそ、デューク=フリードであった。」『テレビマガジンS5011』(講談社刊)とあり、第71話の回想でのフリード星滅亡時のデュークの年齢は「15才」(『第71話設定画』より)とあることから、フリード星滅亡の年に、グレンダイザーは完成したことがわかるのである。
 とすると、『テレビマガジンS51.1』での記載は、グレンダイザーが完成する以前から、ベガ星にとってはフリード星は無闇に攻め滅ぼすことの出来ない邪魔な星だったと言えるのである。
 ここで我々が最も注意を払わねばならない点は、フリード星が「同程度の科学力」を持っているというそれだけでは、ベガ星がフリード星に攻め込めないという必然性が導けないということにある。もっと云うならば、フリード星が「同程度の科学力」に支えられた軍備があって初めて「簡単には手が出せない」ものなのである。
 もし、フリード星が「同程度の科学力」を持っていても杜撰な軍備しかしていなかったというのであれば、それはベガ星がフリード星を怖れる謂れなどなにもなく、躊躇せず早晩のうちに攻め滅ぼしていたことであろう。
 このことを考えれば、フリード星は軍備や警戒網もそれなりにしっかりとしていて、少なくともベガ星が用心を強いられるほどの軍力を保有していたことに他ならないという結論となる。
 それに加えて、フリード星はグレンダイザーという究極の守護神まで作り上げているのである。フリード星は、ベガ星とともに「宇宙の平和をまも」ることを誓いあい、「宇宙の平和をまもる」ためにグレンダイザーを造ったのだという。(『テレビマガジンS50.11 S51.1』より) これは軍隊の力と合せて将に「宇宙の平和をまもる」実力を備えていたと云えそうだ。グレンダイザーは、現代人の核兵器を圧倒的に凌駕する戦争の抑止力として機能していたことであろう。
 これにより、先の「軍備の怠惰」説は完全に否定される。

 こんなフリード星が、なぜベガ星に一方的に滅ぼされてしまったのだろうか。やはり、フリード星の指導者が「暗愚」だったために起きた悲劇だったのだろうか。

 答えは「否」である。
 「勝った者は有能」「負けた者は無能」。「フリード星は無能である」とする論は、この二分法によって成立しているといえよう。
 だが、二分法とは二つに区分される事例にのみ有効で、その中間などが存在するケースでは真実を証明する方法にはならないことは論理学の常識である。
 この二分法が如何に真理の追究を妨げるものであるか、例を出してみよう。
(1)条件「佐々木小次郎は宮本武蔵に負けた」
(2)結論「だから、佐々木小次郎は弱い」
 だが、この(1)から判明することはあくまでも「佐々木小次郎は宮本武蔵より弱い」ということだけであり、この部分比較の「〜より弱い」を全体比較の「弱い」として意味をすりかえて、さも一般と比べても弱いという印象を与えてしまうのが詭弁と云われるものなのである。(1)だけでは、佐々木小次郎が一般に比べて弱いかどうかは判明しない条項なのである。
 そして、それを決めるのは更にもう一つの「条件」が必要となってくるのである。我々は、佐々木小次郎についてはもう少し情報を持っているので、この例で当てはめるとそれは
【条件2「佐々木小次郎は、細川藩で剣術指南役となり、西国一の剣術使いと言われていた」】
ということである。
 これにより我々は、「佐々木小次郎は宮本武蔵よりは弱かったが、相当な剣の使い手だった」と、ようやく結論できるのである。この【条件2】を見ずして【条件1】だけをもって「佐々木小次郎は弱い」という決め付けをすることは、はっきり云って「詭弁」である。そして、それを知ってなおそれを主張するのであれば、もうそれはただの「強弁」に過ぎない。
 ここでもう一度フリード星の事例をこれに当てはめよう。
(1)条件「フリード星はベガ星に滅ぼされた」
(2)結論「だからフリード星は無能である」
 いかがであろうか。ここには【条件2】がまったく分らないままに「フリード星は無能である」という決め付けが為されているのである。
 上に従えば、(1)から判明することはあくまでも「フリード星はベガ星よりも能力が劣っていた」という以上のものは出てこないのである。
 あるいはフリード星は本当に「無能」だったかもしれない。あるいは、フリード星は「ベガ星に迫るだけの能力があった」かもしれない。
 だが、2番目の条件が判明しない限り、それは「不明」でしかないのだ。
 「不明」であることを正確に「不明」と認識することこそが、真理の究明には求められる立場であり、これを安易に「無能」と認定することは真理からは遠ざかることとして、我々は強く戒めなければならない。
 そして、フリード星の滅亡を指導者の無能に帰すこの説は、根拠を「滅ぼされたから無能」という乱暴な二分法によって成り立たせているに過ぎないのである。「フリード星が無能」だった積極的証拠を上の二分法以外で証明できなければ、それはただの妄説に過ぎない。

 いったい、フリード星の指導者が有能であれ暗愚であれ、警戒網が張り巡らされているフリード星にベガ星連合軍が攻め掛かれば、領域侵犯を感知して早急に絶対防衛宙域でフリード軍がベガ星連合軍を迎え撃っていたはずである。逆に、それを許してしまうほどに軍規が緩んでいたフリード軍ならば、ベガ星連合軍が長年侵略を手控える必要などむしろない。
 そして、事態の経緯を見てみると、ベガ星連合軍はフリード星に攻め寄せる以前に既に他の星々を侵略していた事実が上の記述に認められる。ここで、もし本当に暗愚な指導者であればベガ星連合軍の他星侵略の事実を見ても何ら有効な対策を立てるようなこともしないであろう。
 だが、実際にはフリード星では、「野望をいだくベガ星人の侵略にそなえて、宇宙最強のロボット・グレンダイザーの組立作業」を続けていたのだという。(『別冊6テレビランドS50.12.15』より) ベガ星連合軍の侵略を予想して、グレンダイザーの建造にあたっていたという事実が、フリード星の指導者が決して暗愚だったわけではないことを物語っている。
 また、第72話では、「フリード王はルビーナ王女とデューク・フリードを結婚させてお互いの平和を守っていこうとしてい」たと語られている。このことから、フリード王はベガ星連合軍の侵略を憂慮していて、外交努力によって事を解決しようと図っていたことが見てとれる。とても無能な指導者が取り得ることの出来る行動などではない。
 ここで、ベガ星連合軍の真意を見抜いて早急に対処してないのだからやはり無能だという意見は恐らく出るであろう。だが、「他人の心を知るのは悪魔でも不可能」という諺が西洋にあるように、他人の真意などそう正確にわかるものではない。そのような不可能なことを強要して、「だから無能だ」とするのは無茶というものである。そのような論理がまかり通るのならば、人類の有史以来の全ての人間が「無能」という烙印を押されることになる。
 また、ベガ星は「フリード星とも手をむすび、おたがいに宇宙の平和をまもっていくことをちかいあったなかであった。」(『テレビマガジンS51.1』より)のであり、数世代にも亙って友好を重ねてきていたであろうことは、お互いの国民の容姿で覗える。この友好に変化が生じたのは「きょうふのどくさい王、ベガ大王が登場してからだ。」(『テレビマガジンS51.1』より)ということである。ベガ大王は、附近の惑星を次々と征服していくのだが、フリード星としては、それまでの長年の友好関係を一気に破談にすることが得策とはとても思えない。だからこそ、フリード星ではもしもの時に備えてグレンダイザーを開発していたのである。

 このように見ていくと、フリード星の指導者は、それなりにその状況に応じて打つべき手は打っていたといえる。その手腕を見れば、「天才的」とは云い難いが、さりとて「無能」と呼ぶには当らないであろう。
 これにより、フリード星の滅亡の原因を「指導者の無能」に帰すのは論理として無理であることがわかる。


 結局のところ、フリード星の滅亡の原因は、一言で云えば「奇襲」されたからということに尽きるであろう。
 フリード星が滅んだのが奇襲によるものだったことは、『シナリオbQ』にも明記されている。また、本編を検証してもそれは推測できる。
 68話で、幼少のマリアはケインと雪原で遊んでいたところをベガ星のミニフォーに襲われているが、この点を考えると、王女のマリアが平気で遊びに出ていたところをいきなりミニフォーに襲われたということは、即ちベガ星が奇襲したことに他ならなくなる。まさか交戦中に王女がのこのこ遊びに出かけるとは思えないからだ。
 また、第71話を見ても、王子のデュークはモルスと「王城にいるところを」(『台本71』)ミニフォーに襲われており、「このフリード星が襲われたからには、お前のモール星も危ない」としてモルスを逃がしている。ベガ星の攻撃をこの時点で初めて王子のデュークは知ったということになる。とすると、やはりこれは奇襲とする他ない。
 問題なのは、哨戒機能もしっかりしていたであろうフリード星が、なぜベガ星の奇襲を許してしまったかという点だろう。
 だが、これも第60話にてデュークが「ベガ星軍がフリード星を攻撃したとき、動物にベガトロン爆薬液を注射して武器にした」との証言がある。すなわち、ベガ星がフリード星を奇襲し得たのは、動物爆弾により各要所を爆発して攪乱し、哨戒網を麻痺させた上で奇襲をかけたということなのであろう。
 そうなると、この2年前の出来事と考えられる(第72話「あれから8年経って」より)ルビーナの留学は大きな意味が潜んでくる。通常、一国の王女たるものが、付き人も連れずに単身他星へ留学するとは思えないところである。とすると、ルビーナにも多数の付き人が付き従ってきたはずである。そして、恐らくその付き人の中にはベガ大王の密命を受けて、要所の地理を調べたり、超音波発信鋲を設置した者があったのではないだろうか。
 「奇襲なしに決定的な時機と場所において、戦闘力が優勢になることは考えられない。」(クラウゼヴィッツ『戦争論』)
 奇襲とは、寡兵をもってしてすら大軍を打ち破ることの可能となる戦法なのである。その分運用は桁外れに難しくなるが、効果的に使用すれば敵を殲滅することも可能であることは、桶狭間の戦いや、厳島の戦い、真珠湾攻撃などが証明している。
 
 フリード星はこれらの巧妙な作戦の前に、本来の軍の力を発揮することが出来ないまま敗れ去ったのであろう。