マジンガー雑感 




いわゆる「兜甲児零落論」について

 『マジンガーシリーズ』の特に『グレンダイザー』で「兜甲児がかっこ悪い」とか「落ちぶれた」という意見を耳にして年久しいものがあります。確かに、『グレンダイザー』において兜甲児は主役ではないので、『マジンガーZ』における扱いと比べると、その活躍度に差があるのは衆人等しく認めるところのものでしょう。しかし、『グレンダイザー』の甲児くんもなかなかに格好良く、あるいは実は『マジンガーZ』時代よりも内面的には大きくなっているのでは、と私は思うのです。
 まず、『グレンダイザー』において「兜甲児がかっこ悪い」という場合は、その大半が前期のTFO時代のことを指してのことと思われます。なるほど、『グレンダイザー』の前半では、墜落するわ、人質になるわ、デュークに助けられることが多いわで、その指摘は半面正しいのでしょう。しかし、です。墜落することが「かっこ悪い」のでしょうか。人質になることが、助けられることが「かっこ悪い」でしょうか? 字面だけを眺めていればそれらの単語は「マイナスイメージを惹起させる」「かっこ悪い」ことなのでしょうが、少しくその内実に踏み込んだとき、それらはむしろ誇りにして良い「格好良い」ことと確信します。

 データを見てみましょう。前半甲児くんが戦ったミニフォーは、最高速度マッハ7。対するTFOはマッハ4。しかも『グレン』第1話でベガ星連合軍兵士すらが「円盤としては極初歩的なもの」語っているように、スペックは圧倒的にミニフォーが上といってよいでしょう。なにせ、かたや「円盤としては極初歩的なもの」、かたや全アンドロメダ星雲全土を席捲している軍団の主力円盤なのですから。しかも、スピードのみならず小回りの利き方についても、第1話に顕著なように、TFOは完全にミニフォーに水をあけられていることがわかります。
 しかし、それほどに機体の性能差があるにも関わらず甲児くんはミニフォー編隊に立ち向かってゆくのです。まずは、その勇気においてからしてすでに賞賛に値すると思います。しかも、そのミニフォー編隊と干戈を交えてかなり優勢に闘っており、敗れるにしても相当の戦果を得ているのです。これは例えて云えば、ボスボロットで戦闘獣軍団と闘って薙ぎ倒していったようなものであり、たとえ最終的には敗れたにせよ、驚異的な戦績なのです。この一事を採っても、「かっこ悪い」どころかZ時代よりも腕が上がっていて「格好良い」と私は思います。また、自分より強い敵と互角以上に闘うのみならず、劣勢なTFOをもってしてダイザーの危機を救ったり、戦局をしばしばひっくり返したりと、奇跡的な戦果を挙げていることからしても、むしろデュークよりも「格好良い」といって過言でないでしょう。変な例えになるかも知れませんが、『あしたのジョー』において、力石をボクシングで殺してしまって一時期姿を消したり、試合中ゲロを吐きまくった矢吹丈は「かっこ悪い」かと云うと、私はそうは思わないということです。むしろ、本能にさからいゲロを吐いてでも大切なボクシングにしがみつこうとする丈は、限りなく「格好良い」と感じられてなりません。「ゲロを吐いた」という表層的なものばかりを取り上げて、深層にある真情を取り上げないというのでは、ちょっと・・・・。試合の結果だけで判断せず、勝負の内実を重視するべきなのではないでしょうか?

 次に、甲児くんがダブルスペイザーに搭乗しはじめた中期以降ーーー。ここでの甲児くんは冷徹に戦局を眺めてみてもはや「戦場の足手まとい」ではありません。十二分にデュークのパートナーとして実力を発揮しており、ともに敵と闘う相棒としてのそれといえるでしょう。二人は生死を共にする戦いを繰り広げており、もはや不可分。あえてデュークの方がえらいとか、甲児くんのほうが強いとかいう議論をすることが無駄としか云いようが無いと思います。デュークあっての甲児であり、甲児あってのデュークといえるでしょう。もうその証左に、宇門博士が事にあたったときには必ず両名に諮っていたり、重要な作戦にはほとんど甲児くんが充てられていたという事実が雄弁に語っているかと思います。
 人によってはこの甲児くんの姿勢を対して「腰巾着」と評する向きがなくもありませんが、それは明確に間違いといっていいでしょう。「腰巾着」とは、「ゴマをすったりして頼りがいのある人の傍を離れない人」及び「実力者にまとわりついて、その威光で自分を実力以上に見せようとする人」に対して使う用語であり、甲児くんがデュークに対してそのような態度を示したことは本編中一度もないからです。あえて言葉を当てはめるならば「懐刀」といったほうが適切ではないでしょうか? 人を扶ける実力を持っているということとその義侠的心根は、古人がもっとも尊敬して止まないところのものです。「懐刀」であるところの関羽や孔明を、それをもって「腰巾着でかっこ悪い」といえるのでしょうか。楠木正成や真田幸村が「かっこ悪い」でしょうか? 答えは「否」です。そして、後期の甲児くんは将に彼らと同じような「格好良さ」を身に纏っていたと思います。
 その甲児くんの「格好良さ」が炸裂したのが、『グレン』第72話でしょう。昔の許婚・ルビーナが地球にやって来て、デュークは想い千々に乱れます。そのデュークを甲児くんは問い詰めることなく様々にフォローしていくのです。あえて、命令無視を犯して出てゆくデュークに、その気持ちを思い遣って知らなかったふりをしてやったり、そのくせこっそりと護衛につくところなど、将しく「男の中の男」!甲児くんの人間の大きさをこの上なく語っていたエピソードといっていいでしょう。そして、命が燃えつきようとしているルビーナをデュークと二人きりの時間をすごさせてあげようとして、駆け寄るマリアちゃんを制したりと、超絶に格好いいのです。 おそらくこの時の甲児くんが『マジンガーシリーズ』全編を通して最も格好良かったと私が信じるところです。

 先人の言葉や、薄れかかった印象でのみ甲児くんを語らずに、ぜひもう一度『グレンダイザー』を観てみてください。 きっとそこには新たな甲児くんの格好よさが見つかることでしょう。(あ、つまみ食いするような視聴の仕方もダメよ)