- 8 :1/21:2005/11/01(火) 21:16:31 ID:???
- 天空から火の矢が次々と放たれる―
ネオ・ロアノーク大佐指揮の元、総勢30機を誇るウィンダムによるミサイル攻撃がミネルバを朱に染めた。
その頃、ミネルバのMS隊も危機的状況にあった。
「くそっ……こいつら!数が多すぎて、切がねぇ!」
「泣き言を言うな!あと10分少々、耐えるしかないだろう!」
ハイネ隊最古参のパイロット―ショーン・ポールとゲイル・ラッセル。
ミネルバの防衛に回った彼ら二人は、群がるウィンダムの牽制に追われていた。
緒戦はハイネ隊優位で進んだこの戦いも、時間が経つにつれて形勢は完全に逆転していた。
ニーラゴンゴの側を離れられないミネルバが動きを止めている間に、連合はミネルバに攻撃を集中。
彼らは連合のウィンダム部隊と戦いつつも艦を護るという、困難きわまる戦闘を強いられていた。
だが、それは彼らだけではなかった。
「隊長、こちらアスラン!ご無事ですか!?」
「何とか……な!機体はかすり傷ばかりだが、黒いストライクが執拗でなぁ……キツイわ、実際」
「自分は……くっ!この……カオスとやりあってますが、セイバーのバッテリーがやばそうです!」
「ちっ……!こんなときにかい!」
ハイネ・ヴェステンフェルスは舌打ちした。
よくよく考えれば、膨大な火力を持つセイバーは敵の出鼻を挫くため、再三ビーム砲を放っていた。
そのため、ハイネや部下のショーン、ゲイルの乗るグフに比べ、格段に消耗も早くなっていたのだ。
まさに、こんなときに……という状態だが、バッテリーが切れればアスランとて仕様がない。
やむを得ずハイネは断を下した。
「やむを得ん!アスラン、デュートリオンビームで補給しろ!
ひっついてるカオスは……マユ!インパルスで相手をしてやれ!」
「隊長……!それは!」
「うだうだ喋ってる暇はない!上官命令だ!照射ポイントまで急いで向かえ!」
「……了解!」
ハイネの指示に若干食い下がりかけたアスランであったが、上官命令には逆らえない。
ハイネも喋りながらストライク相手に応戦を強いられ、彼の反論に耳を貸す余裕などありはしなかった。
しかし、それでもハイネはアスランの心配の種、マユ・アスカに声を掛けるのは忘れなかった。
「マユ!聞こえているか!」
『はいっ!』
「アスランが苦境らしい。敵さんがやたら強いんだが……ちょっとでいい!相手をしてやってくれ!」
『了解!』
全く迷いのない、元気な声が返ってきた。その声にハイネも安堵を覚える。
年若いマユを強敵にぶつけることには彼自身にも躊躇いはあったが、この状況では逡巡する余裕はない。
アスランのセイバーが補給を終える間だけでも、彼女に支えてもらうしかなかったのだ。
そんな上官の思いを知ってか知らずか、マユは勇躍してカオスに挑んでいった。
- 9 :2/21:2005/11/01(火) 21:17:19 ID:???
- 「このっ……また逃げるってのか、赤いの!」
カオスを駆るスティング・オークレーは、愛機のコクピットでセイバーの動きに毒づいていた。
先ほどまでミネルバを護るべく、逃げるのをやめ戦闘に応じていたセイバーであったが……
突如として踵を返し一転母艦に向けて飛び、戦域を離脱しようとしたのだ。
スティングはこれまでのセイバーとの戦いの中で、相手パイロット―アスランの強さに些か惹かれていた。
大気圏内をセイバーで縦横無尽に駆ける姿は、僚友であるゲンと同等の技量を持った相手にすら思えた。
そこまでの高評価を相手に与えていたのだが……一転して逃げられれば、何やら裏切られた気分になる。
ムッとしながらも、セイバーを追撃しようと身構えたが、彼の眼前を白い影が過ぎった。
「てめぇは……!」
白いMS、インパルスが突如としてスティングの目の前に現れる―
アーモリーワンでのカオス、ガイア、アビス強奪時に行く手を阻み、脱出戦の折りも戦った仇敵。
新たな敵の出現に、彼は先ほどまでのセイバーとの戦いの中で抱いた想いを彼方に追いやった。
まずはこの目の前のMSから倒す―!
「これはこれは……いつぞや散々お世話になった白いMSじゃねぇか?
久しぶり……と言いたいところだが、今日でお別れだ!踊っちまいな……いけっ、ドラグーン!」
言うや否や、スティングは機動兵装ポッド―ドラグーンを放った。幾本もの火線がインパルスを襲う―
スティングは愛機の力に絶大な信頼を寄せていた。空戦専用のセイバーには遅れをとったがそれはそれ。
インパルスはこれまでの彼の経験から、セイバーのパイロットやゲンに比べれば格下の相手と思われた。
踊れ―そう言ったときの彼は、脳裏にドラグーンの放つビームに穿たれ踊るインパルスを思い描いた。
だが……
「……何ッ!?」
一瞬の後、スティングの双眸は驚愕に見開かれた。
インパルスは、カオスの放つ幾本ものビームを舞うかのごとく交わし、あるいは盾で防いで見せたのだ。
寸前まで撃墜を確信した彼だが、落とせないばかりか返す刀でインパルスからのビームの返礼を浴びる。
カオスもシールドで防ぐが、スティングは相手の動きに目を見張った。
強くなってやがる―!
それがインパルスに抱いた新たな印象であった。
アーモリーワンで戦ったときや、その後のミネルバとガーティ・ルーとの追撃戦よりもマユは成長していた。
スティングが愛機に馴染んできたのと同じように、行く度の戦闘を経て、マユもインパルスに馴染んでいた。
が、そんな新たな強敵の出現にも彼は動じるどころか、逆に昂ぶる気持ちを抑えられなかった。
「……随分成長したな! 赤いのには振られちまったが、お前と戦うのも悪くない……いくぜっ!」
一度のドラグーンで倒せないのなら、二度三度と放つだけのこと―
スティングは更に膨大な火線をインパルスに見舞った。
- 10 :3/21:2005/11/01(火) 21:18:08 ID:???
- 「このビームの数……なんて性能なの!」
昂ぶるスティングとは対照的に、マユ・アスカは放たれるカオスの砲火を交わすので精一杯であった。
スティングから見れば華麗に交わしたように見えても、マユにとっては手に汗握る防戦に違いなかった。
一見美しくも見える赤いビームの稜線だが、それに捉えられればたちどころに命を奪われる。
だが、アスランがセイバーの補給を終えるまではカオスを彼の元に近づけるわけにはいかない。
ハイネから敵を倒せとは言われず、味方を護れと命令されたことで戦闘への嫌悪感は消えていたが……
それでも恐怖感までは消えるものではない。少女は、内心恐怖に怯えながらも必死に抵抗していた。
「でも……このカオスもユーリ博士が作った……
それを奪って、戦争を仕掛けて……!そんな人たちに、負けるもんか!」
カオスの存在―それは少女に一つの影を落としていた。
プラントで養父になろうと言ってくれた人物、ユーリ・アマルフィが手がけたセカンドステージのMS群―
無論、目の前のMSもユーリの手が加えられ完成に至っていた。だが、それは奪われ今は敵……
そして今ミネルバを砲火に包んでいる者達により、カオスは操られていた。
自らを鼓舞するかのように叫び、マユも反撃の狼煙を上げる。
「インパルス!ちょっと無茶するけど……頑張ってね!」
意を決し少女は前に出た。カオスの膨大なビームの前に、離れていては勝機がない。
インパルスのビームライフルで一発撃つ間に、カオスはライフルとポッドを含め4,5発撃ってくるのだ。
一か八か接近して勝負するしかない―マユはインパルスの盾を構え、斜に機体を傾けカオスに向かった。
機体を半身にさせることで、被弾を最小限に防ぐ意図であった。更に機体を加速させ、相手に迫る。
当然、その動きはスティングにも知るところとなる。
「……離れてちゃ勝負にならないから、近づこう……ってか。
まぁ、考えとしちゃ悪くはないが、そう上手くいくと思うなよ!」
インパルスの意図を察したスティングは、インパルスの速度に合わせてカオスを後進させる。
本来バー二ア代わりの機動ポッドを放ちながらの後進であるから、後退速度は多少落ちるだろう。
が、それでも火力を失わなければアドバンテージはなくならない。相手が追いつくのが先か、それとも……
「俺がお前を落とすのが先か……試してみようじゃねぇか!」
万が一接近されたら、そのときはそのとき。カオスも接近戦で応じればいいだけのこと―
スティングはそこまで腹をくくった上で、インパルスとの戦闘を続行した。
- 11 :4/21:2005/11/01(火) 21:19:01 ID:???
- 上空では激戦が繰り広げられていたころ―
もう一人のファントムペインのパイロット、アビスを駆るアウルはというと……
「生かさぬよう殺さぬようって言われたけど……この先どうすりゃいいの?」
任務を達成してしまった彼は、途方にくれていた。
ニーラゴンゴの機動力を奪うことが任務―即ち、彼の任務は既に終了していた。
あとはこの場にとどまり件の潜水母艦を監視し、異常があれば上官ネオ・ロアノークに指示を請う手筈……
なのだが、緒戦でグーン3機を倒してしまった彼は戦う相手もおらず、この先どうするべきか困惑していた。
従って、ニーラゴンゴの周りをうろうろしながら、状況の推移を見守るほかなかった。
そんな彼を忌々しげに件の艦長は睨んでいた。
「……我々を"足枷"にしたつもりか!くそっ、これではミネルバの足手纏いではないか!」
「艦長!先発する脱出用小型潜水艇の発進準備、整いました!」
「上でドンパチやってる状況下でどうなるか分からんが……出すしかあるまい」
「はっ!」
エンジンブロックをアビスのビームランスに貫かれ、航行能力を失ったニーラゴンゴ。
彼の潜水母艦は、艦長の言ったとおりミネルバの足手纏いに他ならなくなっていた。
だが、アビスに撃沈される可能性もあったため、クルーはいち早く脱出用潜水艇に移動しつつあった。
これが奏功し、脱出準備は思いのほかスムーズに進んでいたが、艦長には以前不安も残った。
脱出してもミネルバが沈んでしまえば回収先はなくなる。だが、ここにいても為す術がないのもまた事実。
戦力にならないニーラゴンゴに固執するわけにもいかず、やむを得ず艦長は脱出命令を下した。
「あ……!逃げた……」
そのニーラゴンゴの脱出の光景は彼の眼に当然留まった。異常があるのだから連絡せねばならない。
彼は暇だったせいもあってか、すぐにネオに通信を繋いだ。
「ネオ、潜水母艦のクルーが逃げ出したぜ?」
『ああ、そんな連中に構うな。無視していいぞ』
「……いいの?」
『無抵抗の連中を殺したところで何にもならんさ。他に異常は?』
「海中はいたって静かだよ。そっちに応援に行こうか?」
『いや、下手に動かれて、水面付近でミサイルに当たられても困る。そのまま待機しろ』
「……了解」
脱出するニーラゴンゴのクルーを眺めるアウルは一息ついた。
先発する脱出用潜水艇がゆっくりとニーラゴンゴから離れてゆく。そんな光景を見て彼は一人呟いた。
「……お前等、命拾いしたじゃん」
敵ながら若干の笑みを湛え彼らを見送る―無力な相手を殺すことにはまるで興味がないアウルであった。
しかし、それが彼らニーラゴンゴのクルーにとって最大の幸運であり、最悪の不幸の始まりでもあった。
- 12 :5/21:2005/11/01(火) 21:19:55 ID:???
- 「……チッ!しつこいヤツだ!」
ニーラゴンゴのクルーが脱出を始めた頃、ハイネはゲンの乗るストライクと戦っていた。
ミネルバに群がるウィンダムの群れを追い払おうと、母艦近くまで後退したものの……
追撃してくるMk-Uに阻まれ、思うように母艦を援護できないでいた。
「お前に構ってる暇は……ないんだよっ!黒いの!」
手甲に備え付けのドラウプニル4連装ビームガンを放つが、直後に警告音が鳴り響く。
モニターでは弾丸の形をした残弾数を示すランプが赤く点滅している。
「……弾切れかよ!こんなときに!」
これまでのウィンダム隊への牽制と、目の前の黒いストライクとの戦いで既に弾丸は切れかけていた。
舌打ちしながらヒートソードを引き抜きMk-Uに切りかかるが、そのグフを見るゲンは微笑を浮かべる。
彼は、自らの追撃をかわしつつウィンダム隊を牽制するハイネの技量に内心舌を巻いていた。
多対一の戦闘において、圧倒的不利な状況にも関わらず、持ちこたえていた緋色のグフ。
ゲンにしてみれば、弾を切らし応戦してくるハイネ機は……
「やっと俺と戦う気になったか……いくぞっ!」
待ち望んでいた一対一の勝負に持ち込めたわけである。彼は量の手に力を込め操縦桿を握りなおした。
ビームサーベルを引き抜きつつ、ハイネ機のヒートソードと交錯する―
互いの機体を掠めつつ、両機の剣は鍔迫り合った。だが、それも一瞬のこと。
大気圏内においては姿勢制御のバー二アを吹かせつつの戦闘になる。
宇宙空間でやるような、力押しでの鍔迫り合いなどできようはずも無かった。
短い接触の後、両機は互いに散開し、距離を取った。直後に再び切り結ぶべくバー二アを吹かす。
お互い次に切り結ぶ体勢に入りつつあったが、そのときゲンの乗るMk-Uのモニターが点滅する。
だが、警告音は鳴らない―モニターは近くに高出力のエネルギー反応が発生したことを示していた。
「何だ……?ミネルバの方向から……」
見ればミネルバからビーム砲が放たれていた。
しかしそれはウィンダム隊を切り裂くものではなく、自軍の機体に向けられたものであった。
ミネルバから出撃していた赤い機体がそのビームを浴びている―
「……何をしている?」
訝しがるゲンだが、疑問はすぐに氷解する。
光線を受けた赤い機体は傷つくことも無く、ビーム放射がやんだ後勇躍してウィンダム隊に挑みかかった。
ミネルバに群がるウィンダム隊にファーストコンタクトで放った、膨大な光の束幾度も放つ。
不意を突かれたウィンダム2機が逃げそこない爆散して果てる。
この期に及んで燃料や残弾がそう豊富にあるはずが無い―では赤い機体が受けたビームは……
「……バッテリーをビームで補給したってのか!?どういう発想だよ!」
- 13 :6/21:2005/11/01(火) 21:20:44 ID:???
- 「凄いな……このデュートリオン送電システムは」
瞬時に補給を完了したセイバーに乗るアスランも、システムの有用性に目を見張る。
ミネルバに搭載されたデュートリオンビーム送電システムは、MSへの瞬時の電力補給を可能とする。
バッテリー式MSにとっては、性能が高まれば高まるほど電力の消耗は著しいものとなる。
補給する際には充電されたバッテリーとの交換を余儀なくされ、母艦への帰還が必須ともなる。
核エンジン搭載MSならばこれらの問題はある程度解消され、長時間の戦闘が可能になるが……
ユニウス条約により核の兵器としての利用は制限され、核エンジンをMSに搭載することも禁止された。
また人口に応じた各国間のMS保有数なども決められていた。言い換えればプラント封じ込めの施策―
だが、プラントの科学力はそれら不利な点を意外な発想でカバーしつつあった。
ウィザードを用いることで汎用性を高めたザク、あるいはシルエットで武装換装可能なインパルス……
そして、インパルス他セカンドシリーズMSの一部に対応したデュートリオン送電システム―
「兎も角、これは……使える!やれるぞっ!」
これが、デュートリオン送電システムを活用したアスラン・ザラの率直な感想であった。
牽制のために放ったアムフォルタスとフォルティスの両ビーム砲で、無警戒のウィンダム2機を瞬時に撃破した。
そして、最初に自分が戦っていた相手―スティングの乗るカオスを探す。自分の代わりにマユが戦っている筈だった。
見ればマユの乗るインパルスが盾を構えつつカオスに接近を試みていたが、ドラグーンのビームに阻まれている。
「……無茶だ!マユ!」
思わず声を上げインパルスとカオスの方向へセイバーを駆る。
確かにドラグーンを使う相手に距離をとり戦うのは不利であろう。だが、近づけばいいというわけでもない。
見ればインパルスは直撃こそ受けていないものの、盾でカバーしきれない脚部等に被弾していた。
ドラグーン使いの相手には、一対一では圧倒的に不利なのだ。2機以上の連携攻撃こそが最も有効―
故にアスランはマユの援護に向かった。遠距離からフォルティスを放ち、牽制しつつマユの援護に回る。
「マユ!大丈夫か!?」
『……は、はいっ!あれ……補給終わったんですか?』
「ああ、すぐにね。けど……一人でコイツと戦うなんて無茶だぞ!」
『でも、命令では"アスランと交代しろ"って……』
「……注意をひきつけながら逃げてくれれば良かったのに……まぁいい、よく支えてくれた。
ドラグーンを使う相手には複数で対抗するのが一番だ。二人で倒すぞ!」
『はいっ!』
インパルスとセイバーが連携して攻撃を仕掛ける。
初めてコンビを組んだマユとアスランだが、意外に息のあった攻撃にスティングは舌を巻く。
「タイマンだったのがツーマンかよ、ふざけやがって!男らしくねえぞ!!」
それを受けてのスティングの弁である。確かに二対一になって数的には不利である。
だが、そもそも数の上で圧倒的に有利なのは彼ら連合―それにインパルスのパイロットは女性であった。
的外れな怒りを向けながらも、今度は彼が防戦一方になっていった。
- 14 :7/21:2005/11/01(火) 21:21:37 ID:???
- デュートリオンビームを受けたセイバーの様子は逐次ゲンも確認していた。
目の前のグフと戦いながらも、僚友の乗る機体が攻撃を受ける様子に心穏やかではいられない。
彼はグフとの戦いを中断し、やむを得ずカオスの援護に向かう。
「……弾切れのMSなんて、相手にならないからよ!お前は後回しだ!」
グフの異変にはゲンも気づいていた。離れたい位置では常に牽制の弾幕を張っていた相手―
だが、それは先ほどから不自然なまでに途絶えてしまっていた。それはゲンの知るところともなる。
弾切れの相手に死闘を演じるよりも、苦戦の味方を助けるほうが先―そう思い、ハイネと戦うのを諦めた。
「……攻撃を止めた?どういうつもりだ?」
ハイネは訝しがったが、すぐに疑問は解ける。
カオスとインパルス、セイバーのいる方向にストライクが向かったからだ。
「アスラン!マユ!そっちにストライクが向かったぞ!」
『了解!』
『こっちは大丈夫です!ハイネ隊長も頑張ってください!』
「お、おう……頼んだぞ!」
ハイネの心配をよそに両者からは元気な声が聞こえた。
とりわけマユからは励ましの言葉まで貰ってしまった―ハイネが励ますつもりだったのだが……
ハイネはモニターの戦闘時間を見た。現時点で戦闘が始まってから15分弱……
「あと少し!もう少しで相手のバッテリーは限界……皆、頼んだぞ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
部下全員から通信で応答がなされる。全員健在のようで、まだ戦死者は出ていない様子であった。
その事実に一安心するハイネであったが、直後にウィンダム隊に向き直り、応戦を始める。
ウィンダム隊のミサイル攻撃はまだ断続的に続いていた。彼らを食い止めねばならないのだ。
しかし、応戦しようとした矢先、異変が生じる。
ウィンダム隊の中に攻撃に参加せず、ミネルバと距離を置き滞空しているMSがいたのだ。
「なんだ……?あいつら、なにをしている?」
訝しがるハイネ―
だが、その頃ウィンダム隊は意外な敵の出現に戸惑っていた。
- 15 :8/21:2005/11/01(火) 21:22:23 ID:???
- ハイネが気づいたウィンダム隊の異変―その事実は既にネオも知るところであった。
動きを止めたウィンダム隊からの通信が、ネオのウィンダムのコクピットに木霊する。
『E小隊!こちらE小隊!ロアノーク大佐、聞こえますか?』
「どうした?」
『E小隊、ミサイル全弾打ち尽くしました!』
「……なにぃ?」
『B小隊、こちらも同じく!』
「撃ち尽くしたのなら、こっちの援護に回ればいいだろう!」
『それが……バッテリーが、基地まで帰る分を考えると……あと僅かしか持ちません!』
基地の30機のMSは、AからEまで5小隊各6機ずつで構成され、各隊には隊長格が一人ずつ存在した。
5小隊のうち、2小隊からミサイルを打ち尽くしたとの報告、更にはバッテリーの欠乏との悲鳴が飛びこむ。
彼らも、ミネルバを攻撃する前まで、敵MSのグフやセイバーを追い回していたため欠乏が早まったのだ。
流石にこれはネオも予想外の事態であった。更に報告は続けられる。
『C小隊!こちらも同じく撃ちつくしました!』
「……くそっ!AとDの各小隊長!そっちはあとどのくらい残っている!?」
『A小隊、こちらは……ミサイルは各機まだ数発ありますが、バッテリーが……』
『D小隊、こちらもA隊と同じです!』
「……何てこった。どうするかね、これは……」
部下に聞こえないように小声でネオは呟く。
佐官用に特別にカスタムされているネオのウィンダムはまだ余裕があったが……
通常機体のウィンダムにはこの長時間の戦闘は堪えていたのだ。ストライクやカオスはまだ余裕があろう。
だが、これではミネルバを落とそうにも落とせない。見れば、ミネルバは各所で煙を吹いているが……
沈む気配は一向に見受けられない。攻撃を強行しても沈められる保障はない。
「ここまで頑丈だとはね……ザフトはとんでもないものを作ったんだなぁ……」
ウィンダム隊はビーム兵器を装備しているが、それは艦への更なる接近を要する。
ミネルバの高性能CIWSはウィンダム隊のミサイルを3割程度は落としただろうか……
だが、それでも7割程度は当たっているにもかかわらず沈まなかった。
ウィンダム隊に更なる接近を求めることは、相応の犠牲―3割近くは落とされてしまうかもしれない。
本来ならばこちらも母艦を近くに置き、補給しつつ時間をかけて落とすのが常套手段。
しかし、基地の所在が分かれば秘密基地の意味がなくなるし、母艦があればミネルバに狙われよう。
前者を避けるために遠回りしてミネルバに接近したし、後者を避けるためJ・Pジョーンズは置いてきた。
それがこのような形で裏目に出ようとは―ネオですら予想し得なかった。
「残念だが、ここまでか……」
強行すればウィンダム隊にも相応の犠牲は出る。そうなれば基地の防備が手薄になる。
彼としては作戦を中止する以外、選択肢が存在しなかった。
- 16 :9/21:2005/11/01(火) 21:23:18 ID:???
- ネオの乗るウィンダムから閃光弾が発射される。それは戦場にいた誰もが目にすることになった。
「何だ……?あの閃光弾は……増援でも来るのか?」
「冗談じゃねぇ……もうこっちはバッテリーも弾もないんだぞ……」
ショーン・ポールとゲイル・ラッセルは、閃光弾が増援の要請かと一瞬絶望的な気分に陥った。
「いや、それはありえない。増援が来るならとっくに来てるでしょう……後退信号、かもしれません」
「レイ……ホント!?じゃあ、この戦闘私たちの勝ち?」
ミネルバの甲板で応戦していたレイとルナマリアが応じる。
純粋に勝利を収めたわけではなく、相手の指揮官が冷静に判断した故の撤退ではあったが……
この場合、攻められていたのはミネルバであり、ある意味でハイネの作戦は的中したことになる。
「諦めてくれたか……」
ハイネ・ヴェステンフェルスはホッと息をついた。
見ればウィンダム隊は次々とミネルバから離れ、距離をとり後退していく。
なにやら恨めしげに去っていくウィンダム隊の姿は、レイの推察どおりの後退命令だったのだろう。
ストライクとカオス相手に戦いを始めたセイバーとインパルスもその光景は見えた。
レイの発言を裏付けるようにストライクとカオスも去っていく。
「逃げていくの……?攻めているのに?」
「彼らもバッテリーが切れそうなんだよ……隊長の作戦は的中したのさ」
先ほどまでバッテリー欠乏に陥っていたセイバーのアスランがマユを諭す。
ユニウス条約の締結により、現時点でのMSは無限の兵器ではなく、有限の力しか発揮できなかった。
電力を動力にしている以上、これは仕方の無いことであった。それは両軍とも同じ……
「……チッ!あと少しじゃねぇか!ネオ!何で攻めないんだよ!」
『ウィンダム隊はあくまで基地の警備用だ。作戦を強行して潰すわけにはいかん』
「……MSの一機も落とせませんでしたね」
『ゲン、それは仕方ないだろ?俺たちの目的はMSの撃墜じゃなくミネルバの撃沈だったんだ。
ミネルバを落とせなかった時点でどの道作戦は失敗……MSを落としたところで結果は変わらんよ』
スティングの不満とゲンの落胆は、ネオの説明する作戦の本旨によれば仕方の無いことであった。
MSにしても、基本的に敵はこちらと戦うのを避けつつ、ミネルバを護ろうとしていたに過ぎない。
互いに相手を殲滅しようとして刃を交えていたわけではないのだ。それが無撃墜という結果に現れた。
優秀なパイロットが逃げに入ったのを落とすのは、ファントムペインでも至難の技であった。
舌打ちしながら引いていくしかなかった。
「……次こそ、落としてやろうぜ?今日は全軍撤退だ!」
指揮官である彼こそが最も悔しい思いをしていたが、それでもネオは撤退の断を下した。
- 17 :10/21:2005/11/01(火) 21:24:05 ID:???
- ネオたちの撤退の様子はミネルバからも視認できた。
タリアだけでなく、艦の全員がホッと息をつく。艦はミサイルの嵐を受け、相応のダメージを負っていた。
「損傷状況確認中……ああ、こりゃ酷い。
まず上部、主砲トリスタンに損傷……右舷のCIWSは4割がお釈迦……あと火災発生箇所あり。
負傷者もおり、現在消火活動中ですが……修理には相当の時間がかかりそうとのことです。
あとは中部以下、ああ……MSデッキに損傷、エンジンブロック近くにも被弾箇所……
右の補助エンジンがちょっとやられてますね。メインエンジンは無事です」
安堵した副長のアーサー・トラインがダメージコントロール要員からの報告を受け、艦長に伝える。
時間と共に報告の数は増えであろうが、それでも最大の危機は脱したのだ。
タリア・グラディスも安堵の声を漏らす。
「アーサー、報告は後でいいわ。甚大な部分の報告だけ優先的にお願い。
メイリン、MS隊を戻して頂戴。流石に無傷というわけにはいかないでしょうし、修理を頼むわ。
補給も一緒に……最優先でお願いする……そのようにエイブス整備班長に伝えて頂戴」
「了解!」
心なしかメイリン・ホークの声も弾んで見える。
負傷者もいただろうが不謹慎と責める訳にも行かない。事実タリアこそが一番安堵していたのだから。
そして、もうひとつ、傷ついた僚艦に話は及ぶ……
「ニーラゴンゴのクルーは脱出したの?」
「先発は5分前に脱出し、後発は間もなくとのことですが……」
「そう、彼らもミネルバに乗せないとね……」
「では、そのように伝えます」
だが、タリアはそこまで指示を出してあることに気づいた。
先発した脱出者たちは一体何処に言ったのだろうか―?すでに脱出したというが、何処へ―?
海中にはアビスがいたわけで、戦闘をしていたミネルバの近くにいたわけが無い。
そこまで思いついて、彼らの行方を知ろうとタリアはメイリンを問いただす。
「ちょっと待って!5分前に脱出したって言ったけど……
なら、その先発したクルーはいまどこにいるの!?」
「あっ……!」
メイリン・ホークは慌ててモニターを見る。少しずつ少女の顔が青ざめる。
「大変です!ウィンダム隊が後退していく方向に……!本艦から距離5000の位置!」
「何ですって!?急いで呼び戻しなさい!」
「はっ、はいっ!」
タリアの脳裏にふと最悪の事態が過ぎる。だが、彼女は過ぎった後ですぐそれを打ち消そうとした。
- 18 :11/21:2005/11/01(火) 21:25:09 ID:???
- 撤退を始めた連合軍―
ゲンやスティングは忌々しげにミネルバを見ながら引き上げつつあった。
「クソッ!あと少しなのに……」
「……どうにもミネルバはミサイルだけじゃ落とせないらしいな。そういえばあの赤いMSは?」
「……強かったぜ?パイロットも……アンタと同等の力は持ってるかもしれねぇ」
「へぇ……そりゃ楽しみだ」
「楽しみ……だと?ったく付いて行けねぇよ」
赤いMS―セイバーに話が及ぶ。
ゲンが問うセイバーの能力にスティングは最高の評価を下していた。
事実、火力もずば抜けていたし、パイロットもスティングを翻弄しつつウィンダム隊と戦っていたのだ。
だが、ゲンは逆に次の戦闘を楽しみだという。彼にしてみればグフに逃げられフラストレーションがあった。
それほどの相手なら、奇襲でなく正面を切った戦いなら間違いなく威力を発揮するだろう。
今の不満は次の戦闘までとっておこう―それがゲンの思考であった。
「おい……あれ、何だ?」
「……ん?潜水艇……か?」
突如スティングが異変を伝える。海面を見るカオスの視線を、ゲンがストライクの目線で追う。
見れば自分達が今いる真下に、ニーラゴンゴから脱出した先発の潜水艇が海面まで上昇していた。
陸地のほうへ移動しているのだろうか―自分達と同じ方向に後退しつつあった。
「ネオ、アレはどうするんだ?」
『ああ、アウルから報告があったやつだろ?放っとけ』
「……いいのか?」
『逃げる敵っていっても……あんなのを撃っても楽しいか?』
「いや、全然」
『ならいいだろう。見逃してやれ』
スティングは上官に指示を求めたが、見逃せという指示しか与えられなかった。
元より敵を撃つ気はあったが、無抵抗な無力な存在を消したところで何の自慢にもならない。
戦略的に意味を持つ行為でもなくネオも無視することに決め込んでいたし、スティングもそれに倣った。
だが―
ファントムペインが拒絶した行為を、今まさに行なおうとする者がいた―
「へっ……敵の真ん中に脱出するとは……運の無い奴等だ。
この戦闘で仲間がやられてるんだ……ミネルバを落とせなかった上、お前等まで見逃すってのは……
……承服できない命令だぜ?大佐さんよ……」
ウィンダム隊の一人が―
自機に残っていたミサイルの一発を―
ニーラゴンゴから脱出した先発隊の、脱出用潜水艇に向けて放った―
- 19 :12/21:2005/11/01(火) 21:26:02 ID:???
- 脱出した先発隊には二つの不運があった。
ひとつは余りにもあっさりとアビスが彼らを見逃したこと―
見逃されたものの、彼らはニーラゴンゴの中でアビスから受けた死の恐怖に動揺していた。
九死に一生を得た喜びはあったが、この戦場から逃げねば生き延びられないという強迫観念に駆られた。
二つ目は彼らが逃げるために使った脱出艇に損傷があったこと―
これは発進してから気づいたことであったが母艦が攻撃を受けた際、潜水艇の一部に亀裂が認められた。
海中では僅かな損傷でも潜行能力に影響を及ぼす。海中深くに滞留するわけにも行かなかったのだ。
アビスがニーラゴンゴの側を離れず、またミネルバは猛攻を受けたため、脱出艇のクルーは考えた。
ミネルバは撃沈するだろうと―船体の損傷もあるため、一刻も早く潜水艇からも脱出せねばならなかった。
故に彼らは陸地を目指した。一番近い陸地は、ウィンダム隊がやってきた方向にあった。
そのため彼らはその陸地を目指した。陸地から救難信号をカーペンタリアに出せばほどなく救出される―
そんな考えから彼らは水面ギリギリまで浮上しつつ逃げるという選択肢を選ばざるを得なかった。
だが、それは一人のパイロットの目に留まった。
ミサイルを放ったウィンダム隊のパイロット―彼はA小隊の隊長格であった。
彼の小隊は、ミネルバ攻撃の際に艦に接近したとき、セイバーに自隊の仲間2機を撃たれていたのだ。
ミネルバを撃つこともままならず、味方を、部下を失ったため彼の心理状態は通常のそれではなかった。
仲間の仇―ただそれだけの考えで、脱出したニーラゴンゴのクルーに目掛け、彼は火の矢を放った。
爆散する脱出用潜水艇―
轟音と共に爆発した潜水艇から火の手が上がった―
「バカヤローが!撃ちやがった!」
スティング・オークレーはその一部始終を見ていた。そして叫んだ。
敵ではあるが無力な存在―そんなものを撃つつもりは彼には無かった。
一応は敵として戦い、アビスに力及ばず敗れた者たち―敵ながら彼らに対して悪意は抱かない。
見逃せと命令されたが、敢えて彼らを撃とうとは思わなかった。
だが、それは他の者の手で実行された。
「てめぇ!どういうつもりだ!?」
『……敵だから撃っただけだ。
別に投降信号を発していたわけじゃない。アレは敵だ。だから撃った……文句があるのか?』
「なにを……!無抵抗の相手だぞ!!」
『だからどうした?
次の戦闘にあいつらが武器を持って参加することは考えないのか?
敵の数を減らす……戦争じゃ当たり前のことだ。それに仲間を二人やられたんでね……』
「……私怨じゃねえか!」
『……否定はしない。上官に訴えるなり何なりしろ。
もっとも……降伏もしてないコーディネーターを殺したくらいじゃ、罪には問われないだろうがな』
「キサマああぁぁ……!!」
- 20 :13/21:2005/11/01(火) 21:26:51 ID:???
- スティングは男の言葉に激怒した。彼には男の言葉は納得できなかった。
一応軍人だが、その前にスティングは一人の男であった。彼は戦闘そのものを勝負の世界と捉えていた。
勝てば生き残れ、負ければ死ぬ―そして全てを失う。単純だが、エクステンデッドとして育った彼の観念―
それは形の上での軍人となり、尉官となった後も変わることは無く、彼を支える勝負哲学ともなっていた。
無抵抗の相手を殺す―それは彼の理念に反するものであった。
怒りに駆られスティングはカオスの銃口をウィンダムに向ける―
カオスの持つビームライフルは男のウィンダムをロック・オンしていた。
「ふざけるなよ……!」
『へぇ……撃つのかよ、味方を?軍法会議ものだぜ?』
「……てめぇ、それでも……」
『人間か……とでも言うつもりか?
強化人間の分際で偉そうな口を利くなよ。
噂になってるぜ?ファントムペインは薬漬けの強化人間のガキ共で構成されてるって……な』
「上等じゃねぇか!」
悪びれもせず男は言い返す。その言葉はスティングの逆鱗に触れた。
激昂したスティングはライフルの引き金を引こうとする―が、目の前に黒いMSが現れたことで中断される。
「止めろ!仲間で殺しあってどうする!」
「ゲン!邪魔するな!こいつは……こいつは!」
「……ヤツのいうとおり……降伏した相手を撃ったわけじゃない。
相手はコーディネーターだし、軍の上層部はブルーコスモスで構成されている……罪にも問われない」
「けど……!」
「言いたいことは分かる……だが、お前が撃てば俺たちはどうなる?今は……堪えろ」
僚友の言葉にスティングも我に返る。
この場でエクステンデッドである彼が味方を撃てば、軍法会議以前の問題。
すなわちラボで再調整を余儀なくされ、下手をすれば抹殺される可能性すら存在した。
また、他のエクステンデッド―アウルやステラにも類が及ぶことは容易に考えられた。
何も出来ない悔しさに歯噛みしながらスティングは銃を下ろした。
「……命拾いしたな」
『お前が……だろ?黒いストライクの……仲間に感謝しておけよ』
「クソッ!」
やり場の無い怒り―スティングは操縦桿を殴りつける。
だが、その直後、終わったはずの戦闘が再開されることになった。
「敵一機……ミネルバの白いやつが来ます!」
ウィンダム隊の他のメンバーからの報告に再び緊張が走る―
もう一人怒りに駆られた人間が―収束したはずの戦闘を再び開こうとしていた。
- 21 :14/21:2005/11/01(火) 21:27:48 ID:???
- 「よくも……よくも!無抵抗の人たちを殺すなんて……!!」
ミネルバから再度発進したインパルスが、撤退しつつあったウィンダム隊を狙う―
ミネルバにも、ニーラゴンゴから脱出した先発隊の異変は伝えられていた。
タリア・グラディスは危険を承知でインパルスとセイバーを援護に向かわせようか逡巡していた。
だが、その間に悲劇は起きた―
インパルスに乗っていたマユ・アスカは、不幸にもその光景を目撃してしまった。
怒りに駆られ哀しみに我を忘れた彼女は、無謀にもインパルス一機でウィンダム隊に向かっていった。
慌ててそれをセイバーに乗るアスランが諫めるが、インパルスはすでに発進していた。
「マユ!落ち着け!今は負傷者の収容を……撃たれた彼らを助けるのが先だろう!」
『許さない……許さない!』
「聞いているのか?マユ!応答しろ!」
アスランの声もマユには届かない。
マユ・アスカの脳裏にはあの時―オーブのオノゴロで家族が死んだときの光景が蘇っていた。
何の力も持たない彼女の家族を、攻めてきた大西洋連邦のMSと応戦するMSとの戦闘が奪った。
無慈悲にも殺されたニーラゴンゴのクルーの姿は、そのときの家族の死と重なって見えたのだ。
だが、アスランにはその事実など知る由もない―
『アスラン!マユを追え!こっちのグフはバッテリー切れで追えん!彼女を止めろ!』
「……了解!」
ハイネの命令でセイバーも離艦し、飛行形態に変形しインパルスを追う。
しかし、先行した上に全力でウィンダム隊を追うインパルスとは、すでに大分距離が離れていた。
「チッ……!寝た子を起こしちまったか……」
ネオは迫るインパルスを見て舌打ちする。
彼はただスティングとウィンダム隊の小隊長のやり取りを止めずにいた。
彼としては、スティングの上官としてかれの心情を慮ってはいたものの、撃った人間もまた慮っていた。
上官の立場としては、部下が殺されて黙っていられる道理はない。やり方は汚いものだが……
ウィンダムの小隊長がそのような行動に出た気持ちは分からないでもなかった。
故に静観していたのだが……
インパルスはみるみる近づいてくる。
スティングが激昂したように、ミネルバのパイロットもまた激昂していたのだろう。
「くるぞ!こっちのバッテリーも残り少ないが……各自後退しつつ弾幕を張れ!」
やるせない思いで指示を出す―苦い思いをしつつ、彼もまた戦闘に入っていった。
- 22 :15/21:2005/11/01(火) 21:28:38 ID:???
- インパルスをウィンダム隊のビームの雨が襲う―
マユの駆るインパルスは既に敵の射程圏内に飛び込んでいた。
彼女の脳裏にはまだ先ほどの惨劇が生々しく残っていた。爆散した潜水艇の光景が―
「無抵抗の人を殺すなんて……許さない!!」
怒りと共に少女の中で何かが弾けた―
対するウィンダム隊―その中で潜水艇を撃ったA小隊の隊長は小躍りしていた。
他のウィンダム隊のメンバーは、一度終わった戦闘が再び始まったことに戸惑っていたが……
「わざわざ獲物が飛び込んでくるとはなぁ!
ミネルバのMSを一機も倒せないでイライラしていたんだよ……お前には死んでもらうぞ!」
戸惑い及び腰になっていた仲間の陣から、彼一人抜け出しウィンダムをインパルスに差し向ける。
だが、インパルスの動きは先ほどまでと明らかに違っていた。ビームのシャワーを事も無げに交わす。
そして機体を急降下させ、真下から彼のウィンダムに挑みかかってきた。
「し……下だと!?」
人間の目とは左右の動きにはいち早く反応できるが、上下の動きには一瞬反応が遅れる。
目は横に広がっているから当たり前といえば当たり前なのだが……マユはその一瞬の遅れを見逃さない。
人間の反応の遅れはMSの反応の遅れに直結する。
直後、インパルスは機体を急上昇させ、ウィンダムを手持ちのサーベルで切り裂く―
悲鳴をあげる間もなく、そのパイロットは機体ともども爆散して果てた。
ウィンダム隊の陣形から、その男のMSだけが飛び出したことも仇となった。
彼の機体がインパルスと重なる格好になっていたため、同士討ちを避けるため各機とも攻撃を手控える―
その隙を利用し、更にマユはインパルスを駆った。
「隊長が……やられた?」
「くそっ、よくも……!」
「野郎……敵討ちだ!」
隊長が撃たれ、残されたA小隊の3人のパイロットたちはネオの命令を無視し機体をインパルスに向けた。
彼らの攻撃は他のウィンダムの及び腰の攻撃とは違い、意を決した物で連携の取れた攻撃だったが……
それすらも怒りに駆られたマユの―インパルスの敵ではなかった。
3機が矢継ぎ早に放つライフルを交わし、返す刀でサーベルを放り投げる。
ビームサーベルの出力は機体を離れると徐々に小さくなるが、ウィンダムに届く頃には小刀程度であった。
その小刀を向けられ、注意を奪われた一機が動きを止める―小刀を避ける為盾を構えた。
その隙を突き、マユはもう片方の手に握られたビームライフルを放つ―盾の間隙を抜き、本体を貫く。
余りに常人離れしたインパルスの動きに残りの2機も動揺を隠せない。
更に彼らの動揺した一瞬にインパルスからビームライフルが向けられる―
動きを止めた的を射抜くなど、今のマユには造作も無いことであった。
- 23 :16/21:2005/11/01(火) 21:29:25 ID:???
- 瞬時にインパルスによってA小隊の残り2機も狙撃された。
その光景にはスティングもネオも瞠目せざるを得ない。
「何なんだ……こいつは!」
瞬く間に4機を撃破したインパルスの動きにゲンは驚嘆した。同時に余りに異質な動きに目を見張る。
彼がこれまで戦ってきた強敵はファントムペインの3人、グフを駆るハイネ、ザクを駆ったアレックス……
経験上強敵と認めた者達の更に上を行く動きを見せられ、流石の彼も動揺を隠せないでいた。
だが、敵はまだ後退の意思すらみせず、こちらを見ている―
「……まだ戦いたいなら、やってやるぜ!」
友軍をこのまま壊滅させるわけには行かない。
そう思ったゲンは敢えて漆黒のストライク―Mk-Uの機体をインパルスに向ける。
ストライクとインパルス―かつてユニウスで共に破砕作業をした両者が剣を交える―
牽制の弾幕を張りながらゲンはインパルスへの接近を試みた。
友軍は萎縮していたし、ウィンダム隊の弾幕で落ちる相手ではないのは、先ほど実証されていたからだ。
接近してストライクのパワーで圧倒する―
単純だが、今だ嘗て力負けしたことの無いストライクMk-Uの性能をゲンは信じていた。
インパルスに迫るストライク―
しかし、ゲンの目の前に思わぬものが飛び込んでくる―
黒い物体……
「……ライフル!?飛び道具を放り投げたのか!?」
手持ちのビーム兵器を放り投げるという行為に一瞬動揺した。更にその物体を避ける為の運動に入る。
が、それはゲンですら攻撃から防禦に切り替える一瞬の隙を垣間見せる結果となった。
避けたと思ったところに、白い機体が迫る―
「……くそっ!サーベルを!」
戸惑いながらも、接近戦で使おうとしていたビームサーベルを展開する。が、既に目の前にインパルスが―
インパルスは手持ちのサーベルを既に展開し、その赤い閃光でストライクのライフルを切り裂く―
そして返す刀でストライクが左手に展開しようとしていたサーベルごと、左手首を切り落とした。
「……っ!!」
ゲンが両手に持っていた武装は瞬時に破壊された。
やむを得ず、彼はストライクの頭部バルカン砲を牽制に後退を試みるが……
「……フェイズシフトか!」
被弾覚悟でインパルスはストライクを沈めに掛かってきた。
万能ではないが、多少の物理攻撃は無効化できるのがフェイズシフト―
死の恐怖がゲンを襲った。
- 24 :17/21:2005/11/01(火) 21:30:14 ID:???
- だが、その恐怖は現実のものとはならなかった。
インパルスがストライクを捉える直前で、両機の間をビームの束が襲う。
「ゲン!大丈夫か!」
「ス、スティング……か?」
「こいつは……さっきまでとは動きが違う!迂闊に接近するなんて無謀だぞ!」
「あ、ああ……すまない」
両機の攻防―すでにインパルスの一方的攻勢だったが―はカオスのドラグーンにより寸断された。
ゲンは危ういところで命を救われた。スティングの言うとおり、先ほどまでとは別人のインパルスの動き―
我に返ったゲンは残った右手のサーベルを引き抜く。インパルスに手持ちの火器は存在しなかった。
2機で攻めれば落とせるか―再び戦意を取戻したゲンが応戦しようと身構えたとき―
カオスとストライクに向けて膨大なビームの束が向けられる。
『マユ!大丈夫か!?』
アスラン・ザラのセイバーがインパルスの援護に駆けつけていた。
彼の声に、先ほどまで怒りに支配されていたマユ・アスカも我に返っていた。
「あ、アスラン?」
『一人で突っ込むなんて無謀だ!周りは敵だらけだぞ!』
「う……うん。でも……」
『"でも……"じゃないだろう!ここは引け!ハイネ隊長の命令だ!』
アスランに諭されマユ・アスカはようやく戦闘を停止した。
連合のウィンダム隊はインパルスの圧倒的攻勢の前に萎縮したのか、攻撃をしてこない。
また、目の前のストライクとカオスも、攻撃の意図は見せなかった。
もっともこの二人の場合、新手のセイバーの出現を警戒したからかもしれないが……
警戒する姿とは裏腹に、撤退するセイバーとインパルスの姿に心のどこかで二人とも安堵していた。
「……撤退していく?」
「向こうも……突っ込み易いヤツとそれを諫めるヤツがいたのかも……な」
「……悪かったよ、スティング。お陰で命拾いした」
「お前がやられそうになるなんてな……驚いたぜ」
ゲンとスティングはその様子を見ながら、心のどこかで安堵していた。
それほど先ほどインパルスが―マユが見せた動きは異様であり、異質なものであった。
どちらが壊滅したわけでもなく、双方とも意図したかのごとく、この戦闘は収束しつつあった。
だが、その途端に再び異変が起きる。
水中から高々と水柱が上がり、戦場にいた誰もが目を見張った。
ネオ・ロアノークがいち早くその異変に気づき、その原因と思われる人物を問いただした。
「アウル……ボズゴロフ級を……沈めたのか?」
- 25 :18/21:2005/11/01(火) 21:31:12 ID:???
- その異変はセイバーのアスランも知るところであった。彼はその理由をミネルバに問いただす。
「ミネルバ!ニーラゴンゴは自沈したのか!?」
『い……いいえ。ニーラゴンゴは……
後発の脱出部隊を出した後、艦長以下ブリッジのクルーが……アビスに特攻を……』
「そんな……馬鹿な……」
絶句するアスランであったが、それを伝えたメイリン・ホークの声もまた震えていた。
彼女の報告どおり、ニーラゴンゴはアビスに特攻を掛け、逆に沈められてしまったのだ。
だが、その特攻は最初から予定されていたものではなかった。後発隊が脱出する直前に異変が起きる。
先発隊がウィンダム隊によって沈められたとの一報を、ブリッジにいた艦長以下が知るところとなった。
艦長は断を下した。
グーン隊の3機を屠られただけでなく、部下を乗せた無抵抗な脱出用潜水艇を撃たれたことに激怒した。
その矛先は目の前にいたアビスに向けられた。ブリッジのクルーは艦長の指示に従わず艦に残った。
艦長は特攻の決意を告げたが、それでも部下達は後発の脱出用潜水艇への移乗を拒んだ。
彼らもまた、このまま逃げるわけにはいかないとばかりに、激情に駆られ特攻に賛同したのだ。
メインエンジンは破壊されていたが、補助エンジンが無事だったため、直線的にアビスに攻撃を始めた。
魚雷を撃つたびに艦に異常が発生するが、彼らはそれに構わず攻撃を敢行した……
『アウル……ボズゴロフ級を沈めたのか?』
ネオは静かにアウルを問いただした。自沈で無いとすれば、彼が手を下したに相違ないからだ。
しかし、上官の命令を無視するほどアウルは戦闘に没入していたわけではない。
彼が手を下したからには相応の理由があると見たからだ。答えるアウルの声は震えていた。
「ああ……沈めたさ!何なんだよ、あいつ等!
折角人が見逃してやったのに……どうして……どうして死にに来るんだよ!?」
『……ボズゴロフは……攻撃してきたんだな?』
「ああ、攻撃してきたよ!碌に艦も動かないのに……馬鹿じゃねぇの!?
なんで……なんで死にたがるんだよ!おかしいよ!あいつら……ホントに!」
『……もういい、アウル。J・Pジョーンズに帰還しろ』
「……言われなくたって帰るよ!こんな……馬鹿どもに付き合いきれないよ!」
そう言ってアウルは一方的に通信を切った。彼はニーラゴンゴのクルーの特攻に今だ怯えていた。
戦力的に彼に分があるのは間違いなかったのだが、彼には敵の考えていることが分からなかった。
見逃してやったのに攻撃される……しかも、戦えば彼らは間違いなく負けるのに……
その行動が理解できず、彼はただその死をも厭わぬ行為に戦慄したのだ。
震える手で魚雷を放ち彼らを沈めたが……彼の手は未だに震えていた。
その手で拳を握り、アウルは操縦桿を叩き続けた。
「……馬鹿だよ……なんで死にたがるんだよ!
死んだら……死んだら何もかも終わりじゃないか!何で……どうして……!」
- 26 :19/21:2005/11/01(火) 21:32:23 ID:???
- 戦闘が終わった後2時間が過ぎていた。
辛うじて危機を乗り切ったミネルバ―だがクルーの表情は一様に暗かった。
ニーラゴンゴの船員の半分を失った上、みすみすその特攻を止めることさえできなかったのだ。
「戦果は……ハイネ隊長がウィンダムを2機、アスランも同じく2機撃墜。
そして、マユ・アスカの乗るインパルスが……最後に敵4機、いずれもウィンダムを撃破しました」
アーサー・トラインの報告にタリアは無言で前を見詰めていた。
いや、見ているのかどうかも定かではない。何やら物思いに耽っている風でもある。
「そして……その、被害状況なんですが……」
「アーサー、もういい。もういいわ。先ほどまで散々それは聞かされたから」
「は……はい」
「……本艦に移乗してきたニーラゴンゴのクルーは……どうしているの?」
「先ほど会って来ましたが、とても声を掛けられる状況では……」
「そう……彼らはマハムール基地で下ろすけど……それまで彼らの心のケアを……しなきゃね。
アーサー、あなた暫く副長としての任務から外れて頂戴。彼らの……話し相手になってあげて。
勿論落ち着いてからね。医療兵は負傷者の手当てで精一杯でしょうから、貴方が中心になって、ね」
「了解であります」
タリアはアーサーに指示を出した。この指示がどれほど彼らの心に届くかは分からないが……
それは兎も角、彼女はこのまま彼らを放ってはおけなかった。アーサーも嫌な顔一つせず応じた。
彼としても、残されたクルーの心情は察するに余りあるものがあったからだ。
その頃、MS隊も同じように沈鬱な表情で埋められていた。
理由はマユ・アスカの暴走ともいえる行為についてであった。
が、ハイネ・ヴェステンフェルスは怒ることも無く、ただマユの報告を聞いていた。
報告が終わってから、彼は徐に口を開いた。
「マユ……怒りに我を忘れたって言ったが……そいつはダメだ。
冷静さを欠いた状態で戦闘に入ればどうなるかは……さっき分かっただろう?
アスランが、もしセイバーがあの場にいなかったら、どうなっていた?」
「多分……敵に囲まれて……」
「……そうだろうな。まだ軍人じゃない、テストパイロットに要求するのは酷だが……な」
「でも……無抵抗な人を殺して……!」
「なぁ、マユ。そうやって悲しむのは一向にかわまない。俺も悲しいしな。
でも……だ。憎んじゃダメなんだ。憎めば我を忘れて、さっきまでのようになっちまう。
そうなったら……今度はお前が死んでしまうぞ」
「………」
「そんなことになったら、俺たち皆が悲しむ。
俺もアスランも、ショーンもゲイルも、ルナマリアもレイも、整備班の皆も、タリア艦長やアーサー副長も。
だから憎んじゃダメだ……常に冷静に……冷静にだ。わかるか?」
「はい……」
マユ・アスカは全てを納得したわけではなかったが、最後の言葉だけは理解して返事をしていた。
- 27 :20/21:2005/11/01(火) 21:33:30 ID:???
- 同じ頃、ネオ・ロアノークも、件の基地の司令室で司令と面会していた。
ミネルバと同じく戦果の報告と被害状況、及び彼の場合は指揮と作戦の結果全てを報告していた。
「……A小隊全滅の理由は分かった。要らぬ犠牲だったな」
「申し訳ありませんでした。無理を言っておきながらの失態……お詫びの仕様もありません」
「……話を聞けば自業自得だ。損傷は4機と……4機……計8機か。痛いな……」
「すぐに増援の手配はさせて貰います」
「ああ、そうしてくれ。君は上層部に顔が利くらしいからな」
MS隊を借りたときとはうって変わり、ネオは厳粛な面持で出頭していた。
ミネルバの撃沈を果たせず、撃ったのはアウルによる潜水母艦一隻とグーン3機だけ……
基地の保安用のウィンダムを借り、8機の犠牲を出して釣り合うものでもなかった。
彼としては叱責されるのを覚悟して司令の元に赴いたが、彼は意外にも声一つ荒げなかった。
司令にしても、部下の行為は褒められたものではなく、ネオを責める気になれなかったのかもしれない。
司令室を辞した後、ネオはJ・Pジョーンズに戻った。彼を出迎えたのはゲンだけであった。
「……スティングとアウルは?」
「命令どおり検査を受けましたけど、両名とも強度のストレスが認められたので……最適化を」
「そうか……ステラは?」
「……帰還したアウルに駆け寄ろうとして、拒絶されたとかで……部屋に篭っちゃいました。
それと……先ほどの検査結果なんですけど、どうにもアウルは……かなり重症らしいですよ」
「……特攻なんで味わえば無理も無いさ。
そういうお前はどうなの?白いヤツに沈められそうになってたけど……」
「……スティングにも説教されましたが、迂闊でしたかね」
「いきなり動きが変わったからな……キレちゃったのかね、アイツも」
「そうかも……しれませんね」
仮面とバイザーで表情はお互い分からないが、互いに暗い気分であった。
ファントムペインに犠牲が出たわけではないが、友軍に8名も死者を出したうえ戦果も碌になし……
指揮官とMS隊長としては、暗澹たる気分にもなろう。スティングとアウルは最適化を受けていた。
アウルは重症でもあり、後に記憶の抹消までせねばならないほど、心理的に追い詰められていた。
ゲンとネオは二人とも無言のまま、J・Pジョーンズの甲板に出ていった。
暫く無言のまま時間は過ぎたが、やがてゲンが口を開いた。
「大佐……あの時、何故潜水艇を撃ったウィンダム隊の小隊長に……何も言わなかったんですか?」
「ん……あれか。もし……お前やスティングがやられていたら……俺はどうしていただろうかと……ね」
「……もしそうだったら、大佐も撃ちますか?」
「……難しい質問をくれるなぁ。やるかもしれんし、やらないかもしれん。その時にならんと分からんさ」
「………」
「そういうものさ。ただ、ゲン一つだけ覚えておけ。
お偉方は色んなお題目を唱えて戦争を正当化するが……実際はこんなもんだ。
英雄なんていないし、いるのは薄汚い連中ばかり。憎みあい、殺し合い、奪い合う……それが戦争だ。
お前は……そうなるな。それと……お前は何があっても死ぬな。俺達が皆死んでも……だ」
「………」
- 28 :21/21:2005/11/01(火) 21:34:22 ID:???
- ゲンは沈黙した。
最後の言葉だけが妙に彼の言葉に引っかかったからだ。
もしファントムペインの仲間が全員死んだとして……自分はどうするだろうか―
おそらくそんな事態はないだろうが、仮にあったとして、自分に生き残る理由は存在しない。
特攻を掛けたボズゴロフ級の船員たちも、今の自分と同じことを考えたのか―?
そんな考えさえゲンには浮かんでいた。
「返事は……なしかい?」
「……ファントムペインの皆が死んだら、俺に生きる価値はあるのかと……思いましてね」
「極論だが、もし俺たちが全員死んでも……
ファントムペインの誰かが生き残れば、ファントムペインが死んだことにはならない……
そういう風には……考えられないか?」
「……何でそんなことを言うんですか?」
「今日の戦闘で得た教訓さ。逃げる無抵抗な敵を撃ったヤツと、特攻したヤツ……
そいつらが俺たちに残してくれたものって……何だろうかとおもってね」
そこまで言ってネオは話を切り上げ、甲板から船内へと戻っていった。だが、ゲンはそれを制する。
「大佐、最初の命令には従いますが……あとの命令には従いませんよ」
「……ん?」
「俺は仲間を死なせはしません。スティングもアウルもステラも……」
「……ふぅん。じゃあ、俺は死んじゃってもいいわけだ……酷い部下だな」
「じゃあ、大佐も……」
「"じゃあ"って何だよ?……ったく、酷い部下を持ったモンだ。
……冗談はおいておいて、あの白いヤツとミネルバ……本気で対策を練らないとやばいな」
「……そうですね。俺もやられそうになりましたし……」
「ゲン、MSの戦闘データを集めてもってこい。揃えたら二人で分析開始だ。
スティングもアウルも当分作戦会議には参加できそうも無いしな……ステラは休ませておけ」
「……了解!」
最後の返事にゲンは力を込めた。
彼自身もミネルバの脅威、とりわけ白いMSの力は身にしみて分かったからだ。
仲間を死なせず、また自分も生きるため―彼は己が任務に取り掛かった。
勢い良く艦に戻るゲン―彼はそっと呟いていた。
「俺は死なせない……誰も……スティングやアウル、ステラ……あとネオも……な。
まずは白いヤツ、お前だ!お前が一番強くて危険だ……だからお前を……必ず倒す!」
白いMS―インパルスの名を挙げる。
だが、今の彼には、それが彼の実の妹が操る機体であることは知る由もない。
やがて二人は互いの全てを賭してぶつかり合う―
かくして序章曲は幕を閉じる―やがて始まるは激戦の次章曲―