- 337 :1/15:2005/07/02(土) 04:29:02 ID:???
- 短剣の名を持つ鉄の兵が3機
3本の短剣は別の鉄の兵を追っている
突然追われていた鉄の塊が反転
光弾が一本の剣を襲う
バシュッ…
乾いた音と共に短剣の持つ盾が朱に染まる
反応が遅れ己が盾で逃れるのがやっとだったのだ
「この、ダガーめ!なんて動きが鈍いんだ!
新型とは比較にもなりゃしない!」
残りの二本の短剣も撃たれた短剣に動きをあわせる
彼らがフォーメーションを崩さないのは日ごろの訓練の賜物か
「大西洋連邦の連中、良い機体導入しやがったな。
あのバックパックには何が仕込んであるんだ?」
動きをあわせた一人が毒づく
「二人とも、泣き言を言うな!日ごろの訓練は何のためだ!
フォーメーション3!一気に叩きに行くぜ!」
残りの一人の叱咤とともに再び彼等は動き出す
短剣とは違う鉄の塊―ウィンダム―を追うために
「シグナルレッド、ダガーは3機とも撃墜されました」
「シュバリエ大尉、ウィンダムのフルブーストのデータが不足です。
限界推力まで、まだかなり余裕があります」
「…ゲン、聞こえているか?」
『はい』
「推力全開で模擬戦を続行せよ…と言いたいところだが今日はここまでだ。
連中と一緒に帰還しろ」
『了解』
「宜しいのですか?推進剤もまだ余裕がありますが…」
「これ以上やっても時間の無駄だ、連中じゃゲンを追いきれん。
試験は後日改めて行う」
「了解しました。ダガー隊も帰還させます」
- 338 :2/15:2005/07/02(土) 04:30:21 ID:???
- 連合の月基地―プレトマイオス―はジェネシスの攻撃で壊滅した
だが休戦条約の締結から一年、プレトマイオスは復興しつつあった
そこに駐留するのは大西洋連邦とユーラシア連邦を中心とした連合軍
かつてシン・アスカと呼ばれた人間はここにいた
「ちっ!あの仮面野郎一人にやられっぱなしかよ!」
「仕方ないさ、ヤツは大西洋連邦のエリートMSパイロットだぜ?
もっとも身長とかはまだ子供だけどな」
「そりゃ東洋人だからな。
アイツが来て一年、大尉に習ってからメキメキ腕を上げやがった。
俺等を含めてユーラシア出身の門下生は…全員ヤツにやられちまったしな」
ダガーを降りた3人は、模擬戦で負けた愚痴をこぼしていた
「大体、アイツは何者なんだ?
身体能力も半端じゃないし、MS操縦の腕前も半端じゃない。
あれだけ強ければ名前が売れててもおかしくないのになぁ…」
「変な仮面を付けてるのを除けば最高のパイロットさ。
噂じゃ大戦で顔に大怪我をしたとか…ザフトの脱走兵だとか…
あるいはコーディネーターだとか」
「馬鹿言え、ザフトの脱走兵なんて受け入れられるわけがない。
それに大西洋の連中がコーディなんて士官学校に入れるわけないだろ?
ブルーコスモス思想に染まった連中がさ」
「18でキャリフォル二アの士官学校を卒業後、すぐ少尉任官。
研修生としてシュバリエ大尉の門下生になって…もう一年か」
「キャリフォル二ア・ベースの将校っていえば、大西洋のエリートだろ?
本当にナチュラルなら、ヤツは正真正銘の天才だよ」
「おっ…噂をすれば」
「…先ほどはありがとうございました」
「これはへーアン少尉、お疲れ様です…って、あまり疲れてませんか?」
「…いえ」
「大西洋連邦の新型、流石ですね。ダガーとは比較にもなりゃしない。
もっとも少尉の腕があってこそでしょうが」
「…恐縮です。大尉に呼び出されているので、これで失礼します」
「これは失礼、お引止めしてしまいましたな。お急ぎ下さい」
「…どうも」
「ゲン・へーアンか、変わったやつだぜ…」
「口数少ないしなぁ…遊びに誘っても来ないし、普段は部屋に閉じこもってるし」
「あれで仮面無しで顔が良くて社交的なら大問題だよ」
「なんでだ?」
「バーの女どもが皆靡いちまう」
「…そりゃ大問題だな」
「…飲みにいくか?」
「3人揃って負けちゃったし、自棄酒と行きますか」
- 339 :3/15:2005/07/02(土) 04:31:29 ID:???
- 「ゲン、先ほど本国より通達が来た」
「大西洋連邦からの…ということですか?」
「そうだ。君は2週間後にここを発ち、第81独立機動軍に配属されることが決まった。
……まずはおめでとう、と言わせて貰おう」
「…ありがとうございます」
「君がここに来て一年、教官として教えることは何もなくなった。
先の大戦よりMSが導入されて2年以上の月日が流れたが…
私の教え子の中では君は最高の…逸材だ」
「…恐縮…です」
「…不服なのか?」
「いえ、そんなことは…」
「君は、普段仮面をつけているから表情が分からんが…
多少洞察力のある人間になら、声色で大体の感情はわかってしまう。
敵は常に正面にいるとは限らん。気をつけろ」
「…はい」
「聞かせてもらおうか」
「え?」
「不服の理由を、だ」
「失礼ながら…大尉は…私が今まで接してきたどの教官よりも優れてらっしゃる。
とりわけ戦術面でのご指導は、いままで私が学んだことのないものでした」
「…大西洋連邦にも戦術士官はいるだろう。
世辞抜きにそう感じるのなら、それは私の年の功…だな」
「それと、君の配属先の上官が…一週間後、ここを視察に来るそうだ」
「どなたでしょう?」
「ネオ・ロアノーク大佐という男だ、知っているか?」
「いえ…存じません」
「…私も知らんな。どうやら第81独立機動軍そのものが新設の部隊らしい。
どんな部隊かは分からんが、頑張れよ」
「ありがとうございます」
「ふうっ…」
自室に戻ったシンは備え付けのベッドに身を投げた
「第81独立機動軍…か。
大方ジブリール卿の息のかかった部隊だろうな。
俺を呼ぶってことは…いよいよ戦争でも始まるのか?
ゲンを殺したあと…
ジブリール卿はいつかマユと会えるよう調査しておくって言ったっけ。
期待してないけど…な」
シンは仮面を外し顔をベッドに埋める
彼が仮面を外すのは、寝るときとシャワーを浴びる時のみだ
「マユ…」
そう呟きながらシンは眠りへとついていった
- 340 :4/15:2005/07/02(土) 04:32:22 ID:???
- それから一週間の後
プレトマイオスに入港する一隻の船があった
「やれやれ…月っていうのはどこも殺風景なもんだ」
「それは月の外側の話です。月の中は綺麗なものですよ」
「俺は無機質過ぎて好きになれんなぁ」
「大佐は月は初めてではないので?」
「…さぁな」
「では、私は新造艦の方へ行ってまいります」
「ああ、行ってくれ。
ところで先にこっちに来てる3人の調子はどうだ?」
「今のところ問題ありません」
「では…のちほど俺のところに呼んでくれないか?」
「宜しいのですか?
これからユーラシア連邦の連中とお会いになるのでは…」
「パイロットが必要なんでね…頼むよ、リー」
「分かりました。向こうに着き次第向かわせます」
「はじめまして、ネオ・ロアノーク大佐」
「貴方がシュバリエ大尉、いや”マッドドッグ”とお呼びした方が宜しいかな?」
「”月下の狂犬”も月に住んでるようなものでしてな。
まだ当分月の上にいる予定です。当分その名で呼ばれることはないでしょうな」
「大戦の英雄も今は軍のMS戦専門の教官…平和とは良いものだねぇ」
「いや、まったくです」
「で、へーアン少尉は?」
「今呼びにやったところです」
「…ぶっちゃけた話、彼は使えるんですか?」
「…MSパイロットとしての腕は間違いなく一流です。
エドワード・ハレルソン並みの反射神経を兼ね備えています」
「ほう…”切り裂きエド”並みねぇ…
それに加えてシュバリエ大尉の教え子ということは…スーパーエースかな?」
「…それはご自身で判断されるのが一番でしょう」
「確かに」
「ゲン・へーアン少尉、入ります」
- 341 :5/15:2005/07/02(土) 04:34:11 ID:???
- 「君が、へーアン少尉か。私がネオ・ロアノークだ」
「はじめまして、大佐」
「君はこっちで新鋭機ウィンダムのテストをやってもらっていたっけなぁ」
「はい」
「なんでもフルブーストのデータ収集、あんま芳しくないそうじゃない?」
「…申し訳ありません」
「少尉のせいではないですよ。
他の者が少尉の能力についていけないだけです」
「そうなのか?そりゃすごいねぇ…
それなら、うちの第81独立機動軍のパイロット相手にやってもらおうか。
これから君と一緒に働く連中なんだが…どうです、大尉?」
「私は構いませんが?」
「…やります」
ゲンが言葉を発した直後、基地内に警報が鳴り響いた
だが数秒間鳴り響いた後、警報の音は止んだ
「何事だ?」
『それが…大西洋連邦の第81独立機動軍所属を名乗るMS3機が基地に入ってきまして…』
「あ〜あ、誰もMSに乗って来いとは言ってないだろうが…」
「なぁ、新しく仲間になるのってどんなヤツかな」
「俺が知るか。呼ばれたから来ただけだ」
「皆…慌ててる…」
「にしてもこいつらが持ってるの、ダガーばっかじゃん」
「ユーラシアは先の大戦で戦場になった。
おかげで経済状態はガタガタ、MSの自主生産能力も乏しい。
大西洋連邦の払い下げのMSに乗ってるところまであるらしい」
「スティング…物知り…」
「へーアン少尉、彼らが君の相手だ」
- 342 :6/15:2005/07/02(土) 04:34:59 ID:???
- スティング・アウル・ステラの3名はプレトマイオスのユーラシア連邦基地にやってきた
上官からの命令どおりに…
「だが、MSに乗って来いとは言ってないし…
それにウィンダムに乗って来いとも言った覚えはないぞ?」
『もうしわけありません、大佐。
前もって新入りと模擬戦をやると伝えておいたのが仇になりました。
新入りのところへ行けと申しましたら…』
「…わかったよ。
今回は俺のミスだな。
予定ではダガーLを使わせるつもりだったがな」
「というわけで準備してくれ、少尉」
「はい」
「あ〜、そうそう、言い忘れてた。
今回の模擬戦は実弾を使う。君の装備もフル装備で頼む」
「!…分かりました」
「聞いたか!?へーアンの野郎、実弾訓練だってよ!」
「ダガー相手ならともかく、ウィンダム相手だぜ!?
いくらアイツでも同スペックの機体三機は無理だろ!」
「大尉、何で許可したんですか!下手すりゃアイツ、死にますよ!」
「…相手のレベルは知らんが、ゲンなら何とかするだろう」
「実弾でいいの?下手すりゃ殺しちゃうよ?」
『ああ、構わんよ。殺せるものなら殺してみせてくれ』
「…解せないな。
新入り相手に俺等三人。
相手の利点といえば…フルブースト装備ってだけじゃねぇか。
勝負にならねぇぞ?」
『だから、やれるもんならやってみろって言ってるだろうが。
だだし、ひとつだけ言っておくことがある』
「なんだよ?」
「何だ?」
「…何?」
『アイツが勝てばお前等MS隊のリーダーになる』
- 344 :7/15:2005/07/02(土) 04:35:57 ID:???
- 「はぁ!?ふざけてんの!?」
「…どういうことだ?」
「…リーダー…偉い人…?」
『そうだ、お前等より偉くなる』
「新入りがリーダーって…!マジかよ!?」
『マジだ』
「いきなり新入りに隊長やらせようってのか?」
『やらせる』
「…新入り…強いの?」
『強いらしい』
「…言ってくれるじゃない!そういうことなら!!」
「…遠慮はいらねぇよな!」
『そうだ、頑張れよ』
「うん!ステラ…頑張る!」
『…ということだ、へーアン少尉』
「全部聞いていました。
こちらも全力で行きますよ?」
『ああ、構わんよ。
ただし君にも言っておくことがひとつある。
MSは傷つけても構わんが、彼等は貴重な戦力だ。
本人達に傷をつけることは許さん』
「パイロットは無傷で倒せと…?」
『そうだ。
やれるだろう?
”運命を変えた男”なら…なぁ?』
『…!了解しました』
「まずへーアン少尉のMSが飛び立つ!
その30秒後に3人を発進させる!
制限時間は1時間!決着が付かなければへーアン少尉の勝ちだ!」
『一時間以内に倒せって?余裕じゃん!』
『侮るなよ…ネオがあそこまで言うんだ。
それなりの実力はあるんだろう』
『ステラも…頑張る…』
『一時間で逃げ切れ…あるいは倒せ…か。
まぁいい…やるだけだ』
- 345 :8/15:2005/07/02(土) 04:37:11 ID:???
- 実弾入りの模擬戦が始まった
もはや限りなく実戦に近い模擬戦だが
「大尉、へーアン少尉の現在位置は?」
「旧基地跡に向かっています」
「ほう…流石は大尉の教え子だ」
旧基地跡―ジェネシスで焼かれた旧基地の跡地のことである
月基地が再建されたといっても全てが再生されたわけではない
修繕不能、あるいは撤去不能と判断された区画はそのまま放置された
この土地を再利用するのであれば、膨大な時間を要するだろう
「この先は…旧基地跡かぁ。逃がさないぜ!」
「落ち着け、アウル。あそこはまだ瓦礫の山だ。
おまけにMSが十分通れるだけのスペースのある通路もある。
俺達をバラバラにして各個撃破することが狙いだろう。
このまま3機で追い詰めるぞ!」
「…うん」
「へへっ…機体の反応あり!ここかぁ」
「ちっ…案の定基地内、それも地下に逃げ込みやがったか」
「…ずいぶん…離されたちゃったね」
ステラの言葉どおり3人はゲンから引き離された
ゲンの機体に搭載されたフルブーストは未完成ながら高性能である
対して通常のストライカーパックしか装備していない3人の機体
性能差はゲンに逃げ道を確保する時間を与えた
「さっさとやっちゃおうぜ!」
「くっ…このスペースじゃ数の利は生かせないな」
「反応は…この近く…」
3機はバー二アを噴かしながら地下の基地へと降り立った
だが、地下の通路はMS3体が余裕を持って通れるスペースはない
已む無くアウル、スティング、ステラの順に通るしかなかった
3人が暫く進むと大区画のブロックに出た
ここは戦艦クラスを収納する区画である
「お、広いじゃん」
アウルが一人その区画に飛び込んだ刹那―
彼の機体を閃光が貫いた
- 346 :9/15:2005/07/02(土) 04:38:14 ID:???
- 「うわああぁぁぁ!!」
「アウルっ!」
「やられたのっ!?」
アウルの乗るウィンダムはゲンのビームライフルを受けた
だが、幸いにも彼の機体は無事であり、彼の持つライフルだけが爆散させられた
とっさにライフルを離したアウルの反応は流石だが、彼の機体は無様に尻餅をつかされた
「大丈夫だ…けどライフルをやられた」
「おい!相手も実弾を持ってるんだ!
油断したらやられるぞ!」
「…そんなこと!わかってるよぉ!」
「ステラも注意しろ!近くに居るぞ!」
スティングとステラはウィンダムの盾を構えながらアウルの傍に降り立った
二人は追撃を警戒したが幸いにもそれはなかった
その間にようやくアウルは機体を起こす
「…くそっ!あの野郎…舐めやがって!」
悪態をついた所で突如通信が入った
彼のターゲットから―
『追撃がなくてよかったと思え、命があるんだからな』
「…っ!ふざけんなぁ!」
ゲンの一言がアウルの逆鱗に触れた
彼の機体が無様に尻餅をつかされたこと
獲物と思っていた相手に恥をかかされ挑発されたこと
だがそれらは重要な要素ではない
―命を奪われる―
ビームライフルで撃たれたこと
自分の生命が危機にあると感じたこと
これらがアウルから冷静さを削いだ
「畜生!ぶっ殺してやる!」
- 347 :10/15:2005/07/02(土) 04:40:09 ID:???
- 我を忘れたアウルは手持ちの武器を探った
―ビームサーベル―
相手を殺すことしか考えてない彼はそれを選んだ
そしてサーベルを引き抜き、彼のウィンダムは跳んだ
先ほどビームが飛んできた位置に向かって
「バカッ!相手はライフルを持っているんだぞ!」
スティングの声も最早届いては居ない
普段のアウルならこんなことはしない
だがこのときのアウルは半ば恐慌状態にあった
「この暗闇でサーベルなんか出すんじゃねぇ!
お前のいる位置が丸分かりだぞ!」
旧基地内は暗闇である
太陽から月面に降り注ぐ光で若干地下にも光が差し込んではいるが
もはや宇宙空間とは大差のない世界といえよう
その声がアウルに届く前、ゲンのライフルが再びアウルを襲った
ドンッ―
軽い爆発音の後、ウィンダムの右腕は爆散していた
「そこかっ!」
アウルが撃たれた刹那、スティングは自らのライフルをゲンに放った
正確にはゲンのビームライフルが発射されたと思しき位置へ
だが爆発の光はなく、ターゲットをロストしたビームが撥ねただけであった
そしてそこに近い場所からバー二アを噴かすゲンのウィンダム
ゲンはその場から逃走した
「アウルっ!」
「おい、生きてるか?」
「ああ…新型の右腕がやられちまった…くそぉ…」
「だから言っただろう!油断するなって!」
「…アウルの怪我は?」
「ない…大丈夫だ…」
「なら幸いだ。お前はここに残れ。
追撃は俺達がやる」
「待てよっ!おれも行くよ!」
「ライフルも右腕も失ったお前に何ができる!?」
「くっ…」
「…敵は取ってやるよ」
「…ステラも…取ってやる」
「…くそっ!」
- 348 :11/15:2005/07/02(土) 04:41:12 ID:???
- 「あと二機か…」
ゲンは呟いて額の汗をぬぐった
彼も必死である
あの3人は本来友軍であり同僚である
しかし彼等は訓練とはいえゲンを殺しかねないのだから
「残り20分か…」
「ステラ、通信を切れ。
以後は接触回線のみを通じて連絡を取ろう
ヤツを撃墜した後か、最悪終了する20分後に回線を開け」
通信を切るステラ
もっともすぐにスティングに接触回線で話しかけたが…
「了解…でも…何で?」
「ヤツは俺達の声を聞いてやがった。
敵のつもりで戦ってたが、仮にもヤツは友軍だ。
通信コードは時折変えているが…連合なら知っているコードばかりだ。
いつからか俺達の声を聞いてやがったんだ」
「それで…アウルはやられたの?」
「ああ…多分な。
俺達の声でアウルが先走ってるのを察知したんだ。
一番最初に飛び込んだアウルがやられたのはバー二アの噴射で位置を気取られたからだ。
そして挑発して…アウルが激昂してサーベルを抜くのを見て撃ちやがった。
射撃が上手いだけじゃねぇ、ヤツは冷静だ。
こういうときは冷静な方が勝つんだ」
「うん…ステラは冷静…」
「…ああ、それでいい」
「俺が先行する。
ステラは俺に何があろうとヤツを仕留めることを考えろ、いいな」
「うん…でも…気をつけてね」
「ああ、新入りなんかにやられるかよ」
- 349 :12/15:2005/07/02(土) 04:43:26 ID:???
- 「通信を切った?…あの冷静そうな男の指示か?
そろそろ…勝負をかけるか」
「ここは…?」
スティング達は再び広い区画に出た
もっとも先ほどと違いここは上部に吹き抜けのある区画だ
「さっきのは戦艦の整備用区画…ここは発射用区画か」
正面に大きな通りもある
上部と正面のルート
「ヤツが仕掛けてくるなら…ここらか?」
事実彼のウィンダムのモニターには友軍機を知らせる点滅があった
そしてその点滅は正面のルートであった
スティングはステラに接触回線を開く
「ヤツは正面だ。
俺が突っ込む、援護を頼む!」
「うん…!」
スティングは正面に向かって飛び立った
広い区画に降り立った直後、正面にむけてビームと盾を構える
だが彼の機体は上部からの異常を知らせていた
「真上から反応だと!?」
とっさにスティングは機体を翻す
そして体勢を整え、反応のある上部に向けて跳んだ
攻撃はない…反応のあった位置にライフルを叩き込む
ドガッ―
響く爆発音と火の玉が輝いた
「やったのか!?」
上部からの反応がなくなり援護のステラの姿を探す
手はず通りなら、上部に向かって飛んだ自分の下に居るはずだ
だが、そこにはステラともう一機
―今、自分が倒したはずのMSがステラにビームサーベルを向けていた―
- 350 :13/15:2005/07/02(土) 04:44:39 ID:???
- ゲンの動きは素早かった
機体のバー二アを全開にし、上部のスティングに気を取られたステラ機に接近する
そして最初の一撃…己がサーベルで彼女のライフルを切り裂いた
さらにメインカメラのある頭部も潰す
「ステラぁっ!!!」
スティングは通信を切り届かないはずの声を振り絞った
とっさにゲンにライフルを向けるが、隣にはまだステラがいる
ゲンに直撃すればまだ生きている彼女を巻き込むことになる
「くそっ!」
スティングはゲンの手にライフルがないことを確認する
それを見て、彼もライフルを捨てサーベルを握りゲンに迫る
しかしそれを見透かしたようにゲンもステラ機から離れる
2機は互いにサーベルを握りながら交錯した
「死ねぇっ!」
スティングの一撃はゲンのコクピットを狙った
サーベルを突きのようにさし出し貫いた
だが、貫かれたのはウィンダムの脚―
「あ、脚を盾代わりに!?」
次の瞬間、スティング機のサーベルを持つ腕は相手の剣に両断された
そして組み合った両機は床に叩きつけられた
「ぐうっ…!」
機体を起こそうとしたスティングの眼前にサーベルの柄が当てらていた
モニター越しのその光景は勝敗を物語っていた
「…俺達は…負け…たのか?」
「そうらしいな」
期せずして接触回線が開かれ両者の声が聞こえた
再びスティングのコクピットにゲンの声が響いた
「俺の…勝ちだ」
- 351 :14/15:2005/07/02(土) 04:49:10 ID:???
- それから数時間後
基地に戻ったゲンはロアノークと話していた
「見事なもんだねぇ…殺さずに相手をしとめるとは」
「…その指示を出したのは大佐でしょう。
なぜあんな指示を出したんですか?」
「そりゃ、君の本気と忠誠心が見たかったからさ」
「本気と忠誠心…ですか?」
「ああ。
極限の状態、命のやり取りの最中、困難な命令を遂行できるか。
そして仲間に殺されかけても相手を殺さない忠誠心があるの、な」
「…ソキウスとしての忠誠心が見たかったのでしょう?
ナチュラルを殺すな、ナチュラルのために戦え、でしたっけ」
「ああ、その通りだ」
「ジブリール卿の命令…ですか?」
「へぇ、全部分かってるんじゃないの。
MS戦の方も見事にエース級の3人を仕留めて見せたしな…
さすがマッドドッグの教え子だけのことはある。
彼はMS教官というより戦術家…弟子の君がどこまでできるか見たかったのさ」
「期待通り…ですか?」
「期待以上さ。
俺は不安だったんだがね。
盟主がどうしてもっていうから…
3人があるいは殺されてしまうかも…って思ったがね」
「よし、3人を呼んでくれ。感動の再会だ!」
「紹介しよう、まず君が最初に撃墜したのはアウル・ニーダ少尉だ」
「くっ…こんな仮面野郎に…」
「…俺も仮面なんだけどなぁ…」
「次にステラ・ルーシェ少尉、うちの紅一点だ」
「はじめまして…隊長さん」
「そして、君が来るまで隊長役を務めていた…スティング・オークレー少尉だ」
「…よろしく…と言いたいところだが、アンタにひとつ質問がある」
- 352 :15/15:2005/07/02(土) 04:51:08 ID:???
- 「何だ?」
「俺は真上からの反応に騙された。
あの時アンタは正面に居たはずだ。
だがアンタは一機しか居ない。仲間も居ない。
一体俺は”何を撃たされた”んだ?」
「…フルブースト・バックパックにはモルゲンレーテ社の技術協力があった。
M1アストレイシリーズのフライトユニットは切り離しての遠隔操作が可能でね…
フルブーストにもその機能が追加されてたってわけさ」
「…あの時撃ったのはバックパックってわけか。
完全に騙されたぜ…完敗だ」
「そうでもないさ…こっちは冷や汗モンだったよ。
勝因は君たちの連携が余りにも取れすぎていたからさ。
必ず3機で小隊行動を取り、必ず相互にフォローしあう。
アウルを最初に撃ったときにそれを見たんで、そこから崩そうと思っただけさ」
「冷静に行動してたつもりが…それを逆手に取られた…か」
「大佐、ひとつ聞いても宜しいですか?」
「ん?」
「ステラって子…本当にパイロットなんですか」
「おっ?早速目をつけたのかい?」
「……」
「…ん。
まぁ彼女を含めて全員エクステンデッドさ。
君も知ってる研究所の博士が手がけた逸材たちだ」
「…っ!」
「…感傷は捨てろ。
軍人には不要な代物だ。
それに部下の前だ。動揺なんか見せるもんじゃない」
「ひそひそ話してねーでさ、隊長さんを紹介してくれよ」
「そうだな。仮面さんって呼ぶわけにも行かないしな」
「隊長さん…何て名前?」
「紹介しよう。
ゲン・へーアン中尉だ!
1週間後、第81独立機動軍に配属される!
まぁ、少し早いが今日から我々”ファントムペイン”の一員だ!」
- 355 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/02(土) 10:28:01
ID:???
-
月の基地に送られて、もう一年たったんだな。ゲン・へーアンはそうつぶやいた。
本来自分は先の大戦で死んでいたはずだった。しかし彼はソキウスとして軍に登録され
大西洋連邦に生かしてもっらている。そういえば、軍に入った記憶がなにな、そうゲン
は思ったが特にきにしなっかた。
新しい部隊に配属される。そんな話を上官から聞いたのは数日前のことだった。だがゲン
には特に興味なっかた。配属される部隊の名はファントム・ペインというらしい。
ゲンは月の民間人地区に出かけていた。普段、ゲンは外出しないが、何故か今日は急に
そとに出たい気分になった。月が名残をしいわけでもないのに、全く、そうゲンは自嘲した。
月の民間人地区は地球連邦の宇宙都市のなかではわりと豊かな方で物が結構そろっている。さすがに
仮面をつけたまま外出するわけにもいかないので、顔の半分をかくすぐらいの大きなサングラス
を掛けて街の中をうるついていた。もうそろそろ変える時間だな、そう思い帰路につくと
誰かにぶつかった。金髪の、十五、六の女だった。大丈夫か、そういってたとうすると、ゲンはあることに
気づいた、女のむねをさわっていたので。女はゲンのほうに振り向き、ゲンに思いっきり平手打ちをくらわし、
去っていった。ソキウスになって以来」、民間人になったはこれが初めてだな、そうゲンはまた自嘲した。
- 356 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/02(土) 10:52:59
ID:???
-
翌日、月基地ゲンが新しく所属する部隊の隊長がやってきた。部隊長は
イアン・リーと言う名の男だった。男の横には昨日街であった女がいた。女
はこっちを睨みつけていた。
女のなはステラ・ルーシェというらしい。エクステンデットとソキウスで構成
される部隊。全く狂った考えだな、そうゲンは思った。ステラはまだ俺のことを睨んできていた、
まったくやな女だ、ゲンは心の中でつぶやく。エクステンデットは切れると手のつけようがないから
ほっとくにかぎるな、そう考えゲンはモビルスーツの手入れをした。
ゲンのモビルスーツ、ストライクMrUはゲンの義手義足を機体に接続して
動かすという狂った仕組みになっていた。これじゃ、制御部品だな、そうゲンは自嘲する。機体に体
の一部を接続するたびに肉体に激震が走る、これがどうも我慢できない。機体の手入れ
をしてもどってみると、ステラがこっちの方を向いていた。大丈夫か、そうステラはゲン
に尋ねた。ステラはモビルスーツの中であまりにも痛がっていたから心配した、ステラは言った。全く
人の心配ができる身分じゃないだろうお前は、そうゲンは言おうとしたがやめた。ソキウスになって人に
心配されたのは、初めてだった。