- 101 :1/16:2005/07/31(日) 03:53:39 ID:???
- ゲンがファントムペインに入ってから暫くの後。
月基地プレトマイオス近郊、大深度地下にある連合の秘密工廠にネオはいた。
「原因は何だ?重量が3キロ減った原因は?」
「コックピット周辺のフレームの材質を変えたんです。
強度は上がっていますから、絶対危険じゃありません」
「当たり前だ。弱くなったらたまらん。
何故事前に通知しなかった?」
「納期を10日も繰り上げられれば…」
「それはザフトの連中に言ってくれ。
予想外に向こうの動きが早いんで、こっちも動きを早めなきゃならなくなった」
「ただでさえガーティ・ルーの製造で時間を食ってるんです。
テストだって満足には…」
「そいつは中尉にやってもらうさ」
「大佐がお乗りになるのでは?」
「乗るのは中尉だ。
さて、うちのエースが乗る機体、見せてもらおうか」
指示通りメカニックはMS格納庫にネオを案内した。
中から姿を現したのはダークグレイのMS。
それは先の大戦中盤、最強といわれたMSに酷似していた。
「GAT-X105/U、ストライクMk-U…か」
- 102 :2/16:2005/07/31(日) 03:54:56 ID:???
- 「3日後に出撃ですと!?」
「そうだ、準備を急いでくれ」
「突然すぎますな。先日MSを搬入したばかりだというのに…」
「相手だってこっちの都合どおりに動いちゃくれないのさ」
完成したばかりの新造戦艦、ガーティ・ルーの艦内で艦長のイアン・リーは不満を漏らした。
地球から月に渡ってきてから新造戦艦艦長に着任したのは良いが、それ以降は激務の連続。
戦艦の機能の把握、クルーの配置、物資の搬入から納入品のチェック…
艦の責任者である彼にとって今日までは眼の回るような忙しさだったのだ。
ようやくMSの搬入が終わって一息つこうと思った矢先の任務…
「まぁ、一息つくのは当分先になりそうだな」
「…それは構いませんが」
加えてこの上官である。
この上官と話すとき、相手が気の抜けたようなやり取りをすることがリーにはやり辛かった。
大佐の階級、それも自分よりも若い人間…嫉妬のような感情もないわけではない。
が、任務に私情は挟まないのは職業軍人の鉄則…
「了解しました。
出撃までには万全を期します」
「頼むぞ」
「クルーにも指示をしておきますが…パイロットには大佐の方から?」
「そうだな。
2,3話しておきたいこともあるし、彼らには俺から伝えるよ」
ネオが艦橋を去った後、リーは搬入物資の中でMAが一機納入されていることを思い出した。
新型MAエグザス―MSが主流となった昨今、MAを扱う者は極端に減っていた。
加えてガンバレル・パックも装備していることが気になっていた。
「ガンバレル使いのMA乗り…まさかな」
瞬間的にある男の名前とその異名が脳裏をよぎった。
が、すぐに次の任務のことに集中するべく、リーは担当者に指示を出していた。
- 103 :3/16:2005/07/31(日) 03:56:32 ID:???
- 「ミーティングなんて、珍しいんじゃね?」
「そうだな。まぁ、全員呼び出しってことは何かあるんだろうさ」
「ミーティング…まだかな?」
「全員揃ってからだろ」
アウル、スティング、ステラの3人はネオに呼び出されていた。
ゲンとの実弾訓練後はこれといった仕事もなく、練成訓練を行って過ごしていた。
間もなくもう一人のパイロットが部屋に入ってきた。
「…ゲン!」
「遅くなった。テストが長引いてしまったんでな」
ゲンと呼ばれたのは、嘗ての名はシン・アスカという名だった男。
ユーラシア連邦基地での研修を終えた後、彼は大西洋連邦の基地に移ってファントムペインの一員となっていた。
彼は3人とは異なり、ウィンダムよりも新しい新型MSの乗り手に選ばれ、日々そのテストに忙しかった。
「新型の調子、どーなの?」
「悪くないな。反応速度、推進力、どれをとってもウィンダムより上だよ」
アウルの質問に答えながら、ゲンはステラの頭を軽くなでていた。
ゲンがファントムペインとなってから、すぐにステラはゲンに懐いていた。
彼が部屋に入ってきた後、すぐに彼に声を掛け、飛びついていったりもしていた。
元々ステラはネオに懐いていたのだが、指揮官であるネオは普段から彼らと一緒にいる時間は短い。
代わりにMS隊の隊長に就任したゲンと接しているうちに懐いてしまったのだ。
恋愛関係というわけではなく、彼らのそれは兄妹の様相だが…
「アンタの新しい仮面の具合はどうなんだ?」
「仮面というより…これはゴーグルやバイザーに近いかな?
悪くはないよ。赤外線センサーやら望遠等の機能もある。これがあれば、普段からレンジャー活動もできるな」
少々冗談めかしてゲンはスティングの質問に答えた。
ゲンがファントムペインの一員になってすぐ、ネオから贈られたものだ。
上官曰く、仮面が二人もいるのは少々不気味だからだそうだ。
一見すると仮面をつけていたときほどの不自然さはない。
そんな話をしているうちに、4人を呼び出した人物も到着した。
「遅くなってスマン。はじめようか」
- 104 :4/16:2005/07/31(日) 03:57:54 ID:???
- 「今月に入って2隻目か…」
「これで合計5隻目です。
例の空域での原因不明の被害、これはもう何らかの力が働いているとしか…
連合の月基地の動きも気になります。やはりこれは…」
「シュライバー、この件については緘口令が敷かれている。
国防委員長の立場にある君が…迂闊な発言は慎んでくれ。
それに、回収されたブラックボックスからは何も具体的なことは分からなかったのだろう?」
プラント最高評議会行政府にある一室。
ギルバート・デュランダルとタカオ・シュライバーの会談が行われていた。
行政のトップと軍のトップ同士のこの会談は公のものではなかった。
理由はザフト軍艦艇の原因不明の遭難事件。
遭難自体は宇宙時代では珍しいことではなかったが、それは民間船の話。
軍艦が5隻も行方不明になる…これは誰が聞いても異常な事態とわかった。
「ですが、議長。
緘口令とはいえ言い逃れるのにも限界があります。
何らかの手を打たなければ被害が拡大するばかりです」
「分かっている。ただの海賊…にしては被害が大きすぎるな。
地球軌道艦隊で動かせる艦隊、それもごく自然にあの空域に近づける艦隊はあるかね?」
「ホーキンス隊があります。間もなくプラント本国へ帰還予定です」
「ナスカ級5で構成される艦隊か…。
…逆に襲撃者に警戒されても困るな。
1隻のみで例の空域の調査は可能か?」
「1隻ですか…少々危険を伴いますが、ホーキンス隊には緋の戦士がいます。
彼を中心にホーキンスが人選を行えば…"釣れる"かもしれませんな」
「では頼む」
「ブルーコスモス、連中が動き出したか…
だが、先手を打たれてばかりでは上手くないな…これは仕掛けるときか?」
- 105 :5/16:2005/07/31(日) 03:59:02 ID:???
- 「研修も来週で終わりかぁ…何だかあっという間だったわね」
「2ヶ月の研修、まだあと一週間残っている。気を抜くにはまだ早いぞ」
「…レイ、その言い方じゃ会話が終わっちゃうじゃない?」
「…雑談がしたかったのか?それは悪かったな」
ルナマリア・ホークとレイ・ザ・バレル。
二人はアカデミーを卒業後、ザフトレッドに任命された。
年間20人しか選ばれない精鋭の証。
そんな彼らにも正規兵としての研修は課される。
彼らは2ヶ月の間、地球軌道艦隊所属ホーキンス大隊に研修に来ていた。
「それにしても、ホーキンス隊って大勢いるのね。
艦隊全員の顔合わせなんてないし…どうなってるのかしら」
「ナスカ級5隻で構成される大部隊だ。
さすがにこれほどの艦艇を持つ隊はそうはない」
「でもパイロット同士の顔合わせもほとんどないじゃない?」
「パイロット同士の顔合わせなら出航前の基地であっただろう」
「一回だけよ?
あれじゃ顔なんか覚えられないし、誰が誰だか…」
「顔が分かると何か変わるのか?」
「ホラ、あの緋の戦士、ハイネ・ヴェステンフェルスもこの隊にいるのよ?
レイはフェイスのトップエースに興味とかないの?」
「俺は自分のできることをやるだけだ。
ザフトのために…そして議長のために」
「…そう」
アカデミー時代からの友人でありながら、イマイチ会話のかみ合わない二人であった。
- 106 :6/16:2005/07/31(日) 04:01:27 ID:???
「暗礁空域周辺での極秘任務、ですか?
それに、ただ1隻で空域をうろつけ…俺達MS隊は白兵がメインだっていうのに…囮をやれと?」
「艦艇がすでに5隻沈められている。
何かがいるとして、出てきてもらわねば白兵戦にもなるまい。人選はお前に任せる」
「いいの?」
「フェイスであるお前だ。不自然なことではないだろう。
それにわたしは艦隊の指揮が専門でね…MS戦についてはお前の方がスペシャリストだ」
「やれやれ…どうしたもんかね」
ホーキンスに呼び出され、今回の任務の仔細を聞いたハイネ・ヴェステンフェルスは頭を悩ませていた。
正体不明の敵、それも艦艇を5隻沈めている謎の相手。
その掃討を命じられ、作戦の指揮まで執らされることになった。
大型巡洋艦ナスカ級での作戦実行とはいえ、正確な相手の数さえ分かっていない。
フェイスであり数々の作戦指揮を執っていた彼にとっても困難な任務といえた。
また、事が公になればプラント本国での影響は計り知れない。
そんな極秘任務である性格上、作戦参加者全員に仔細を告げるわけにもいかない。
「適当なところで救難信号でもキャッチして、1隻だけが向かうか…三流のシナリオだね、こりゃ」
ホーキンスの描いたシナリオにケチをつけながらも彼は仕事を進めていた。
作戦に参加するMS隊の人選―
「俺の隊だけじゃ、人数不足か?」
手元の艦隊資料を捲りながら人選を考える。
この手の少数での作戦は、メンバーを腕の立つ隊長格クラスで占めても連携の問題が残る。
ハイネはこの作戦を自分の隊のみで実行するつもりでいた。
だが、若干の不安が残るのも事実。
他の隊の構成に差し支えないエースクラスが欲しい…
そんなことを考えていた彼は2名の新兵のことを思い出した。
「新兵を戦場に出したくはないが…仮にもレッドだ。やってもらいましょうかね…」
- 108 :7/16:2005/07/31(日) 04:02:57 ID:???
- 地球連合軍大西洋連邦所属、第81独立機動軍―
ガーティ・ルーの艦橋でイアン・リーとネオ・ロアノークは今回の作戦を振り返っていた。
彼らにとって初の実戦。
暗礁空域周辺で任務に就くザフト軍艦艇の襲撃。
リーの楽観的な分析とは逆にネオは一抹の不安を抱いていた。
撃墜したのは全て旧式艦艇、搭載MSもほとんどがジンやゲイツで構成されていた。
ほとんどが奇襲による作戦で、相手が体勢を立て直す前に倒してしまっていたのだ。
「中尉の精神状態も、良好ですな」
「新しい名前も気になってないようだ…今のところは…な」
中尉と呼ばれた男―
ゲンは今回の作戦の前、正確にはファントムペインに着任した直後、地球に一度戻っていた。
理由はジブリールからの命令―シン・アスカだったころの記憶の一部消去―
妹、マユ・アスカの記憶の消去である。
それと同時にジブリールやネオからの命令遂行の為の若干の洗脳。
洗脳された彼の初の実戦投入が今回の作戦のもうひとつの目的でもあった。
「なぁ、リー。お前、自分が自分であるっていう明確な自信、あるか?」
「……?」
「アウル、スティング、ステラ…あいつらの記憶は消したり上書きされたりしている。
今回の作戦の前、ゲンにも同じことが行われた。そして3人にはゲンの新しい名前を記憶に刻んだ…」
「大佐、彼らは兵器です。我々とは立場が違います」
「それは分かっているんだがね…俺達にも同じことが行われた…そう思ったことって、ないか?」
「…しかし、それは…」
反論しようとしてリーは言葉に詰まった。
彼自身、生態CPUであるファントムペインのパイロット達にどのような処置が行われたかは知っていた。
ネオの今の言葉は、それが自分達にも行われているのではないかと示唆していた。
彼の言うとおり、同じ任務に就いている自分達に、同じ処置が施されなかったという証拠はどこにもない。
そのことがリーの不安を掻き立てた。
「俺達の今ある記憶、それは本物なのか…?」
- 109 :8/16:2005/07/31(日) 04:04:08 ID:???
- 「ザフト艦艇を補足!大型、ナスカ級1です!」
「…少佐、今の言葉、忘れてくれ。作戦行動中にすまなかった」
「いえ…ただ、大佐のお話が事実だとしても…軍人である我々に選択の余地はありません。
実際のところ、あの4人と我々クルーは何の違いもないかもしれません…
しかし、今はこの任務を遂行することのみ考えましょう」
「ああ、そうだな」
「総員第一戦闘配備!ミラージュコロイド展開用意!
MSは戦闘ステータスで起動!展開終了後、作戦を開始する!」
リーは先ほどまでの迷いは振り切っていた。
彼が迅速に艦長としての任務をこなす一方、ネオもまた己の任務をこなしていた。
「中尉、聞こえているか?」
『はい』
「初の大物だ。
気を引き締めて掛かれ。ナスカ級は現行最も火力のあるザフト艦艇だ。
くれぐれも用心してくれ」
「アウル、スティング、ステラ!
お前達は相手MSの規模が把握できるまでは待機!いいな?」
『えー、なんでだよ?』
『先手をうった方が良いんじゃないか?』
『待機…つまらない』
「この空域にナスカ級が単独で来る理由がない…どういうことかわかるか?」
『俺達のこと、ばれた?』
『ザフトが馬鹿の集まりじゃなけりゃ、そろそろ討伐に来る…か』
『狙われてるの…?』
「かもしれん。
連中が新型のセカンドステージMSを搭載してるとしたら、お前等のダーク・ダガーLじゃキツイ。
ゲンの援護にのみ集中してくれ、いいな?」
「「「了解!」」」
- 110 :9/16:2005/07/31(日) 04:05:58 ID:???
- 『X105/U 起動』
『第二第三電子系統異常なし』
『脳波コントロールシステム、接続良好』
『脳波データウェーブ、フラット』
『間脳電流、コンタクトした』
『中尉、コードの入力を』
------------------------------------------
G-enocide (殲滅せよ)
E-nemy
Of (ナチュラルの敵を)
N-atural
A-nti (対)
K-ira (キラ)
U-ltimate (究極の)
S-eed (種よ)
A-nd
N-ational (国家の)
I-nsane (狂気じみた)
S-ecrets (機密と共に)
------------------------------------------
『X105/U発進スタンバイ!』
「GEN AXANIS―ゲン・アクサニス、ストライクMk-U、出るぞ!」
- 111 :10/16:2005/07/31(日) 04:07:29 ID:???
- 「実戦…ってこと?」
「そうらしいな」
ルナマリアとレイの二人はハイネのいる艦に移っていた。
直後、彼らはMS隊のブリーフィングに呼び出された。
そこで聞かされた今回の極秘任務。
表向きは海賊討伐。
しかし実際の相手は艦艇5隻を沈めた謎の相手の討伐。
フェイスの緋の戦士に会ったらどんな質問をしようか…
などと考えていたルナマリアの考えは一瞬で吹き飛んだ。
「よし!作戦開始だ!」
ハイネはブリッジのキャプテンシートの隣に腰掛けていた。
予てからの予定通り、救難信号をキャッチし、ハイネの艦のみが向かう手はず…
「現れますかな?」
「さぁな、それは相手に聞いてくれ」
艦長の言葉にハイネは気のない返事をした。
だが、内心はやる気はあった。
艦には彼の新しい愛機が搭載してあった。
ザクと最後までコンペティションで量産型MS採用を争ったMS、グフ・イグナイテッド。
彼はコンペ落選後も粘り強く上層部に掛け合ったのだ。一般兵ではなく、上級兵用への採用をと。
それが実り一機のみホーキンス隊にテスト用の機体として配備された。
ここで実力を示せばグフの正規採用、引いては量産への目処が立つかもしれない。そんな思いもあった。
「総員第一戦闘配備、各機戦闘ステータスで起動…って命令出して」
「…ご自分でなされば宜しいのに」
「俺がやったら悪いじゃない?」
「それはまぁ…」
言葉は悪いが、一応は艦長の顔を立てているつもりのハイネだった。
- 112 :11/16:2005/07/31(日) 04:08:57 ID:???
- ゲンのMk-Uはハイネのナスカ級を既に捉えていた。
エールストライカーパックを装着し、新型のメガ・ランチャーを装備…
艦の上方からブリッジを打ち抜き戦闘力を激減させる。
そうすればMS隊が出てきても指揮系統が混乱しているので容易く倒せる。
彼はこれまでしてきたようにするつもりだった。
「…見られている?」
ザクのコクピットでレイは視線を感じた。
物理的に見られているのではない。
だが刺すような視線を感じる。
彼はMSの通信をブリッジに繋いだ。
「ブリッジ!狙われています!
進路の変更、あるいは速度の変更を!」
「ああ?何いってる?」
受け取った艦長は一笑に付した。
レーダーには何の反応もなく、空域は静かなものだった。
だが、ブリッジでこの事態を異常と認めた者が居た。
「緊急回避!取り舵だっ!」
緋の戦士の声が艦を動かした。
一瞬の後、彼らの艦の左舷が穿たれた ―
「何っ!?…かわしただと!?」
ゲンは驚愕した。
ミラージュコロイドを展開しているMk-Uの姿を捉えられる艦など存在しない。
だがハイネの乗る艦は実際にかわしたのだ。
ゲンの狙いは外れ、艦の左舷が損壊したに過ぎない。
「くそっ…!」
- 113 :12/16:2005/07/31(日) 04:11:08 ID:???
「左舷被弾!ダメージコントロール要員は報告を!」
「MSデッキ損傷!隔壁閉鎖!消化剤防御!」
「MSデッキの損傷、甚大!左舷からMS発進できません!」
「ハイネ隊長!右舷にグフが用意してあります!出撃を!」
「分かった!艦長、ここは任せる!」
ハイネが艦橋を出た直後、もうひとつの報告がなされていた。
「右舷からルナマリア機、レイ機、ショーン機、ゲイル機、各機発進しました!」
「奇襲なんて…やってくれるじゃない!」
「落ち着け、ルナマリア。相手の追撃を警戒しろ!」
「新米にしちゃあ冷静な判断、やるじゃないか」
「ああ」
熱くなったルナマリアを諫めるレイ。
それを見てハイネ隊の隊員二人、ショーンとゲイルは安堵していた。
彼らの機体―ザクの右肩にはオレンジ色の塗装が施されている。
それが、彼らがハイネ隊の一員、オレンジショルダー隊であることを示していた。
「左舷のMS発進までにはまだ時間が掛かる…やれるのは俺達だけだ」
「新米ども、隊長がもうすぐ出撃する。それまで持ちこたえられるな!?」
「「はいっ!」」
「もう立て直してきた…?」
ゲンは被弾後、すぐに飛び出してきたザク4機を見て呟いた。
ネオの言っていた討伐隊であればこの動きの素早さは納得できる。
「いいだろう、やってやるさ」
ゲンはMk-Uのミラージュコロイドを解いた。
「反応!真上!
…嘘!?…あれって…まさか?そんな筈ない…沈んだ筈よ!」
「ルナマリア、どうした!?」
「ストライクが…なんでいるの?」
- 114 :13/16:2005/07/31(日) 04:12:19 ID:???
- 「馬鹿な…」
「幽霊かよ…」
ショーンとゲイルも驚愕していた。
かつてクルーゼ隊、バルドフェルド隊を翻弄し、アスラン・ザラが討ち取るまで最強を冠した機体。
ザフト軍人であれば知らぬものは居ないその機体―
GAT-X105、ストライク―
そんな恐慌状態を破ったのはレイだった。
ブレイズ・ウィザードのミサイルをMk-Uに叩き込む。
だが、ゲンはこともなくシールドでカバーした。
それと同時にダークグレーの機体が漆黒に染まる。
「フェイズシフトか!」
ミサイル攻撃は通用しない、そういわんばかりのゲンの行動にレイは舌打ちした。
レイの攻撃を見て呪縛が解けたのか、ルナマリアはオルトロスを、ショーンとゲイルはライフルを構える。
しかし、彼らの攻撃は新手に阻まれた。
「おいおい、もう始まっちゃってるよ」
「ゲンが仕損じるとは・・・珍しいな」
「ゲン…ミラージュコロイド切ってる」
「やるってことだろ?」
「そういうことだな」
「うん…!やっつける!」
ダガーL3機とはいえ、彼らはエクステンデッド。
その奇襲攻撃はレイたちザク4機を釘付けにした。
「ゲンは艦に止めを!」
「ああ」
スティングたちの援護でゲンは再びナスカ級に向かった。
ランチャーを再び構え、仕留めようとしたその時―
緋の機体が彼を襲った。
「連合の亡霊が!俺の目の黒いうちは好きにはさせねぇ!
- 115 :14/16:2005/07/31(日) 04:13:34 ID:???
- 「ザク…か!?」
ハイネの斬撃をかわし、ランチャーを手放すゲン。
オレンジ色のその機体は、パーソナルカラーを許されたエースであることを証明していた。
エースの攻撃をかいくぐって艦を仕留めるのは容易くはない。
そう判断したゲンはサーベルを引き抜きハイネと対峙した。
緋の戦士はその判断に素直に感心する…
「良い判断だ!だがっ!」
相手はザクの指揮官用の機体、とゲンは考えていた。
角があるだけで外見上ザクと大差はないからだ。
しかし、ハイネは知ってか知らずかゲンの思考を読み取っていた。
「ザクとは違うのだよ!ザクとは!!」
緋の戦士が吼えた。
接近戦を予想し盾を構えたMk-Uの左腕を狙う。
グフのヒートロッドが盾に接触した刹那、電流が走った。
「何っ…!?」
ゲンは動揺した。
彼のモニターは左腕の不全を訴えていた。
「左腕が…やられた!?」
ゲンは距離をとろうと頭部バルカン砲を放つ。
しかしハイネもグフの手甲に備え付けのバルカン砲で応戦しながら距離を詰める。
「うろたえ弾など!」
ザクよりも早いスピードで再び斬撃を見舞う。
ビームサーベルとは異なるヒートソードによる一撃はMk-Uの盾を切り裂いた。
ゲンはこの時点で、自分が相手の機体の能力とパイロットの実力を見誤っていたことを悟った。
- 116 :15/16:2005/07/31(日) 04:14:45 ID:???
- 「拙いっ・・・!」
ランチャーを使った奇襲のみを考えていた。
与えられた新型機の性能を過信していた。
相手をただの量産機と侮った。
「やられる…!?」
だがそう考えているうちにもハイネ機は眼前に迫る。
その緋の機体を眼前に捉えながらゲンの脳裏には奇妙な光景が過ぎる。
誰かがいる―
自分の傍に誰かが―
少女―
誰だろう―
ステラではない―
もっと幼い―
ひどく懐かしい―
誰だ?―
―彼の中の何かが弾けた―
「止めだ!」
勝利を確信したハイネが斬撃を見舞う。
Mk-Uに当たる直前、ゲンはサーベルで受けとめる。
まだ右腕は稼働する―
ゲンは握られているビームサーベルのリミッターを解除した。
「…なにっ!?俺の剣が!?」
緋の戦士は驚愕した。
己の斬撃を受けていた相手のサーベルが倍程度の太さにまでなっていたからだ。
それと同時に相手が勢い良くハイネ機を弾き飛ばした。
- 117 :16/16:2005/07/31(日) 04:15:50 ID:???
- 「いくぞっ!」
今度はゲンが攻勢に転じた。
相手の機体を蹴り上げ体勢を崩す。
それと同時に今度はMk-Uのビームサーベルが緋の機体を襲った。
「ぐっ…!」
一撃でハイネ機の左肩が袈裟懸けに切り裂かれる。
だがゲンの攻勢はここまでだった。
リミッターを解除したことでサーベルにも負荷が掛かりすぎていた。
見ればMk-Uのサーベルも柄の部分から火花が散っている。
やがてサーベルの火が消えていった。
「…ここまでか」
相手の戦闘力も既に乏しい。
だが自機の損傷もあるし、何より艦への攻撃が不可能となっている。
悟ったゲンは後退信号を発射した。
「退いていく?」
ハイネは相手の後退に感謝していた。
まさか相手の機体が新型のグフ以上のパワーを持っているとは思っていなかった。
それに勝利を確信した攻撃をかわされたのも初めてのことだった。
損傷した自機のコクピットで緋の戦士は呟いた。
「すまないな…上手く乗ってやれなくて…。だが…次はやっつけようぜ、相棒」
「作戦失敗…ですかな、大佐?」
「んー、あいつらが苦戦したのは初めてだな、とくにゲンが」
「…洗脳が上手くいかなかったのでしょうか?」
「それはこれから確認しなければな…だが…
今回は連中の経験値を上げたことでよしとしよう。
これ以上ここにいたら、また討伐軍に遭遇しちまう。撤退だ」
「では艦の進路を月に向けます」
帰還したゲンは脳裏を過ぎった少女のことを思い出していた。
「俺は知っている…あの少女を…一体誰なんだ?」
- 118 :エピローグ:2005/07/31(日) 04:16:50 ID:???
- 『ジブリール、どういうことかね?』
『休戦協定がある以上、迂闊なことは避けるべきではないか?』
『デュランダルは今のところ穏健路線を継承している。ことを荒立てる必要は…』
「何を仰る!
今ご報告の通り、連中はユニウス条約の穴を突き、次々と新型を投入している!
奴等のセカンドステージのMS群は強力だ…ウィンダムですら渡り合えるかどうか…
これを危機といわずして何というのです!?」
『むぅ…』
『それはそうだが…』
『しかし我々は戦争を認めるわけにはいかんぞ?』
「戦争でなければ宜しい…と?」
『うむ・・・』
『まぁな…』
「ではこうしましょう。
連中の最新鋭のMSを我々に提供してもらう…というのは?」
『提供だと?』
『そんなことをどうやって?』
「連中には先の大戦でXシリーズの機体4機を強奪されていますからな…
その見返りに彼らの新鋭機を頂くだけですよ。最新の機体を…ね」
『私だ、ロアノーク大佐。そうだ。最早様子見する時間はない。
いよいよ始めるぞ。作戦名は…Genocide Enemy of Naturalだ』
「さぁ、ゲン。
私と共に運命の扉を開こうではないか。コーディネーターを滅ぼすための扉を…な」