450 :1/18:2005/08/10(水) 23:55:02 ID:???
「連合の亡霊、ストライクが現れたか…」

プラント国防委員会―
タカオ・シュライバーを委員長とするプラント国防の要―
この日は通常の定例会の筈が、異様な緊張感に包まれていた。
理由はザフト軍艦艇襲撃の犯人が、かつての大戦の最強の敵の再来だったからである。
ホーキンス隊との一戦で実像が明らかになったことで、国防委員会の面々にも緊張が走っていた。
そして彼らだけでなくもう一人、プラントの最高指導者の姿があったことも緊張の要因であった。

「ホーキンス、報告を続けてくれ」

促した声の主は最高評議会議長ギルバート・デュランダル。
本来なら彼が出席する筈ではなかったが、緊急事態につき彼も同席を乞われたのだ。

「襲撃者はストライクに酷似したMSが1機、そして連合のダガーに酷似したMSが3機。
 これらは全てミラージュコロイドの機体であり、コロイド展開後に掃討部隊を奇襲しております」

「ミラージュコロイドだと!?」
「休戦協定を破った上に、禁止兵器まで使おうというのか!」
「ナチュラルどもめ…まだこの上戦争をやりたいのか!」

ユニウス条約違反のミラージュコロイド―
ストライクとダガーいうことはナチュラルが製造したに違いあるまいと皆が考える。
ミラージュコロイドは安価な兵器ではなく、おいそれと海賊が使える代物ではない。
連合の機体を用い、襲撃を繰り返した者たちへの怒りの声が各委員から上がった。

「そして掃討部隊の被害ですが…
 ナスカ級1隻が中破、グフ・イグナイテッドが大破、ザク4機が小破…
 さらに初弾の奇襲で左舷乗組員に多数の死傷者がでており…甚大な被害と言わざるを得ません」

各委員の顔が一斉に青ざめる。奇襲とはいえそれは初撃のみである。
それ以後は通常の戦闘でありながらザフトの新鋭MSが甚大な被害をこうむる。
相手が同数のナチュラルならばコーディネーターであるザフトが遅れをとることはない。
そう誰もが思っていたことが、ホーキンスの一言で瓦解したのだ。
そして彼の最後の一言が委員会を紛糾させることになる。

「…加えて掃討部隊の戦果は、敵MS各機を小破したのみ…
 戦闘後は、敵の逃亡を許し…撃墜はままなりませんでした」


451 :2/18:2005/08/10(水) 23:56:03 ID:???
「馬鹿な!相手はナチュラルではないのか!?」
「連合の亡霊に翻弄された挙句の体たらくか!」
「ホーキンス、君の部隊は寝ていたのかね!?」

受け入れがたい事実に、委員会の戸惑いと怒りの矛先はホーキンスへと向けられた。
だが彼の隣に控えていたザフト・レッドがそれを阻む。

「お待ち下さい! 相手のストライクらしきMSの正体は今もって不明。
 連合、およびナチュラルの仕業と決め付けるのは早計過ぎます!」

ハイネ・ヴェステンフェルス。彼は先の掃討作戦で現場の指揮を任されていた。
そのせいもあって、ホーキンスと共にこの報告に同席していたのだ。

「現場におられなかった委員会の皆様にはご理解いただけないかもしれませんが…
 私のパイロットとしての腕を信用していただけることが前提ですが、件のストライクらしきMS。
 ヤツの性能は…悔しいですが、パワーではグフをも優に上回るものがありました。
 またパイロットの技能も…私と同等の実力を兼ね備えた者と判断します」

ハイネの言葉に委員会は沈黙した。フェイスであり、歴戦のエースでもある緋の戦士。
彼と彼の駆る最新鋭のMSをもってしても、そこまで言わしめるだけの力を持った未知の相手…
暫くの後、今度は敵の正体を知ろうとする委員たちの推測が始まった。

「プラントを離れたザラ派の連中ではないか?」
「いや、彼らがストライクを用いる理由がない。アレは彼らにとっても憎むべき敵だからだ」
「連合だとしても…果たしてそんなパイロットが存在するのか?」

「皆さん。この報告で判明したことは二つ。
 ザフト艦艇を襲った犯人はミラージュコロイドを用いていること、そして連合のMSを用いていたこと。
 連合に問い合わせたところで真にせよ偽にせよ返ってくる回答は同じでしょう。
 今後は各プラント、及び各艦隊の警戒レベルを上げ、現場レベルでの対策を練ることを第一としたい。
 またこの件に関しては口外無用、悪戯に人心を惑わせることは避けたいですから」

プラント議長の言葉でこの会議は幕を閉じた。


452 :3/18:2005/08/10(水) 23:57:29 ID:???
「如何いたしましょう?」
「ふむ…まさか緋の戦士とグフを以ってしても破れぬとは…彼らもやってくれる」

国防委員会閉会後、デュランダルとシュライバーの二人は別室で会合を開いた。
この手の緊急事態ではトップが動揺を見せては各委員の不安を掻き立てることになる。
あのまま会議を続けても進展がないことは明白であったため、仮の対応策を立てることに留めたのだ。
会議中、ひそかに目配せしてこの会合を取り付けた二人のトップの判断は賢明といえよう。

「彼ら・・・ということは」
「おそらくは・・・ブルーコスモスの特殊部隊だろう。
 公にはされていないが、先の大戦でも彼らは暗躍していたと聞く。
 薬で強化されたナチュラルならば…緋の戦士と互角に戦うことも可能かもしれない」
「ではこちらも軍の強化を…」
「慌ててはいけないよ、シュライバー。
 彼らの目的がこちらの挑発であった場合、迂闊な動きは戦争の火種になりかねない。
 ただ、各地の動きには注意を払う必要はある。連合のどんな些細な動きにも目を配らねばならない」

そう言ったデュランダルではあったが、内心シュライバーの意見は正論だと思った。
ブルーコスモスの真意はコーディネーターの抹殺。
戦争の火種になるのを覚悟の上で軍の強化は不可欠であろう。

「ハイネ・ヴェステンフェルスからグフの正規採用の上申書が届いております」
「やはり…軍の強化は不可欠か…ユニウス条約のMS保有数に抵触しない範囲で…やってくれるか?」
「心得ました」

グフの正規採用の上申書―その言葉を聴くのは何度目だったろうか。
デュランダルはふと思いシュライバーに尋ねてみた。

「これで都合4度目になりますな。あの男、見かけによらずしつこいところがありましてな。
 グフのコストパフォーマンスがザクに劣っていたため、正規採用には至りませんでしたが…
 彼の上申書がこれで実ったことになりますな」

4度の提出。それを聞いたデュランダルとシュライバーは互いに苦笑するしかなかった。


453 :4/18:2005/08/10(水) 23:59:54 ID:???
「ときに議長、ミネルバに搭載される例のMSの…パイロットの件、どうなりましたか?」
「アレか…実はまだパイロットが決まっていないのだよ」
「しかし、進水式まであと3ヶ月。この期に及んでまだパイロットが決まっていないというのは・・・。
それにあのMSはプラント技術の粋を集めて作られたものですぞ?」
「確かに問題ではある・・・が、パイロットの選考はアマルフィ博士に一任してある。
 私も口を挟む立場にはないのだ」
「では、どうしましょう?」
「待つしかあるまい」
「何を?」
「運命の人を…だよ」

冗談とも本気とも取れないデュランダルの発言にシュライバーは首をかしげた。
それはあまりに投げやりであり、それと同時に不可解な発言であったからだ。

「議長、冗談で済ませられる問題ではないですぞ?」

国防の長は行政の長を少し睨んだ。仮にも国防のトップと行政のトップの密会である。
あまり多くの時間を割くわけにも行かない。真剣にやってもらわねば困る、という意図であった。

「ふむ…気分を害したか。済まなかったな、シュライバー。言葉が足りなかったようだ。
たとえば、グフを思い出してくれ。
 ザクとのコンペティションに敗れ、歴史の表にでることはなかったかもしれないMS。
 しかし再三にわたるハイネの上申と状況の変化で、ここに来て正規採用に漕ぎ着けた。
 ハイネはこれで焦がれた愛機に再び乗り込むことになるだろう。
これはある意味、運命がもたらした出会いといえなくはないかね?」
「はぁ…」
「私は件のMS、インパルスにもそんな風に運命の人が乗り込む…そんな気がしてならないのだよ。
 もしどうしても見つからなければ、本年度アカデミー主席のバレルに乗ってもらう。これでいいかな?」

この男は案外に夢想家なのかもしれない。
そんな疑問をもったままシュライバーはデュランダルとの会合を終えることとなった。


454 :5/18:2005/08/11(木) 00:01:16 ID:???
同じ頃、件の話に上った人物、ユーリ・アマルフィ博士は頭を悩ませていた。
理由はインパルスのパイロットの選考問題―
近接戦闘、中間戦闘、遠距離戦闘、MS戦の全てをこなすMS―それがインパルスであった。
一機でさまざまな局面に対応可能なMS―
それは汎用兵器であるMSの理想形とも言える存在である。
だがここに来て思わぬ問題に直面することとなった。パイロットが見つからないのだ。
ソード・フォース・ブラストの3機種に瞬時に換装する利点を持つ反面、それはパイロットに負担を強いた。
なにせ操作系は同一なものの、武装の換装で装備も火力も出力も一変するのだ。
『換装するごとにフィーリングがまったく変わる。これではどのパイロットもてこずる。』
これが操縦したパイロット達の意見であった。

試しにカオス・ガイア・アビスのテストパイロット達にも操縦させてみたものの…
彼らのテスト結果もユーリを満足させるものではなかった。
おまけに一番結果が良かったのが民間人のコートニー・ヒエロニムス…
結果が良くても民間人の彼を正規パイロットにするわけにはいかなかった。

「どうしたものか…」

ふと彼はデスクに置いてある写真を見た。
自分と妻と…愛息の家族三人が写っている写真―
その写真を見たユーリは、仕事を切り上げとある場所へ向かうことにした。

「久しぶりだな…ニコル。仕事にかこつけて…また来るのが遅くなってしまった」

たどり着いた場所は墓地―
語りかけているのは人ではなく墓石―
ユーリの息子、ニコル・アマルフィは先の大戦に出兵―
大戦中盤、最強と言われた連合のMSストライクに挑み、帰らぬ人となった。
プラントを護るために戦う―
そういい残して自らの元を去った息子の冥福を、ユーリはいつまでも祈っていた。


455 :6/18:2005/08/11(木) 00:03:33 ID:???
墓参を終えて帰路に着こうとしたユーリは、ふと足を止めた。
戦没者合同慰霊碑の前に立つ少女が目に留まったのだ。
自分が来たときも彼女は居た、そして今も…
先の大戦で死んだのは二コル・アマルフィだけではない。
出兵した多くの若者、戦争に巻き込まれて死んだ老若男女―
だが大抵は個々の墓があり、親族はその墓参りをするのが通常である。
合同慰霊碑に長い時間祈りをささげるものなどはいない。
しかし、少女はいつまでもそのまま慰霊碑に向かっていた。
不思議に思いユーリは声を掛けた。

「君、どうしてこんなにも長い時間、ここにいるのかな?」

ユーリは自らの名と職業を告げた。
親族の墓参りのために来たことも、息子が戦地で散ったことも…
彼の身の上話が住んだしばらくの後、少女はおもむろに口を開いた。

「私には…死んだ両親と―兄を偲ぶ…お墓はありません」

彼女は淡々と語った。
自分はオーブで生まれ、2年前の戦火に巻き込まれたこと―
その戦闘で目の前で両親は死に、おそらく兄も死んだであろうこと―
戦後、減少した人口を埋めるためにプラントが移民を募っていたこと―
コーディネーターである彼女には身寄りがなく、移民としてきたこと―
けれど彼女の死んだ肉親を偲ぶ墓はここにはない―

「だから私は…ここで家族の冥福を…祈っています」

瞳に悲しみをたたえながらも、少女はしっかりとした面持で語った。
ユーリは辛い過去を聞きだしたことを侘びた。
少女は気にしていない、とだけ言った。
別れ際、ユーリは少女の名を尋ねた。
そして、もし力になれることがあれば遠慮なく言って欲しいとも―
だが彼の後者の申し出は断られ、少女は名のみを告げた。

「私は…マユ・アスカと言います」

そういうとペコリとお辞儀をし、少し微笑みながら去っていった。


456 :7/18:2005/08/11(木) 00:04:49 ID:???
マユ・アスカと名乗る少女と会ってから数日が過ぎた。
ユーリ・アマルフィの脳裏には少女の面影が焼きついていた。
もし自分が死に、息子だけが生き残っていたら、ニコルは同じような境遇だったのではないか―
だが何よりも自分と同じく、最愛の肉親を失った者への共感があった。

「博士、大丈夫ですか?」

ユーリの仕事を手伝う若い技術者が心配そうに声を掛けた。
亡くなった息子のことを考え、知らず知らず鎮痛な面持になっていたのか。
そう思い、気を取り直した。

「いや、なんでもないよ」
「インパルスのパイロットが見つからなくて大変ですけど…あまり気を落とさないでください」

見当外れの悩み事を言われ、ユーリは一瞬ポカンとなった。
それはそのはず―今最も懸案すべき事項はインパルスのパイロットの問題だ。

「けど、朗報かもしれませんよ?」
「何かあるのかね?」
「さっき届いた書類なんですが…
何でも、軍幼年学校の方で、凄い子がいるらしいんです。
MSパイロットシュミレーターで高得点をたたき出した上、MS専門の教官までも打ち負かしたとか…」

軍幼年学校―
プラントで2年前に新設された機関である。
先の大戦で出兵した多くの若者が戦地で散り、若年層の人口問題は憂慮すべき問題となっていた。
戦後、地球に住むコーディネーター、ハーフコーディネーターなどの移民を募ることで対応していたが…
戦争で最も枯渇した軍の兵員養成問題は、なお残された課題であった。
コーディネーターが如何に優秀でも短期間での兵員養成は困難を極めた。

そこで誕生したのが軍幼年学校である。
アカデミー付属の機関でありながら、10代前半の若者を募っていたのだ。
普通教育と平行して軍教育も行い、数年後アカデミーを卒業する頃には一人前になっているという手筈。
俗に言う青田買いではあるが、そこまでしなければならないほど切迫した問題でもあったのだ。

「だが、そんな子供にインパルスを任せるなどと…できない話だよ」

そう言ったものの、ユーリは内心インパルスのパイロット問題では藁にもすがりたい気持ちであった。


457 :8/18:2005/08/11(木) 00:06:53 ID:???
「博士は…その…子供をインパルスのパイロットにすることに抵抗があるのですか?」

インパルスのパイロットになれそうな人材がいる。
そう聞いたユーリは、迷いながらも助手の技術者を連れ、アーモリーワンに向かった。
軍用プラントアーモリーワン。
プラントとは真逆の咆哮に位置しながらも、軍用MSの試作、実験などを行うコロニー。
ある意味ではプラント防衛の要ともいえる存在であった。
インパルスの実験、テストもそこで行われていた。
ユーリも頻繁に本国とアーモリーワンを行き来していたが、今日は何度目かのパイロット選考であった。

「君には…子供がいるか?」
「いえ、おりませんが」
「子供がいれば分かるだろうが…子に銃を持たせたがる親はおらんよ。
 たとえ幼年学校の生徒であろうともな」

道すがら、シャトルの中でユーリと若い技術者は件のパイロット候補の話しをしていた。
藁にもすがりたい反面、彼には親としての思いとそれがせめぎあっていたのだ。

「けど、今は戦時下ではありませんし…。
 それに新鋭機に幼年学校の生徒がなるとしたら、幼年学校の生徒公募のいい宣伝になりますよ」

楽観的な若い技術者の意見にユーリは抵抗を覚えた。
若い技術者は知らないであろう、ある事実が脳裏をよぎったからだ。

『所属不明の…連合のストライクに酷似したMSがザフト艦艇を襲撃する事件がおきている。
 緘口令が敷かれて遭難という形を取っているが…地球にはまだ戦争をしたがっている連中がいるらしい。
 インパルスのパイロット選考の件、いそいでくれ』

内々にギルバート・デュランダル本人から伝達された事実は、軍関係者の一部にしか知らされていない。
もちろん技術者の間では、おそらくはユーリにしか知らされていなかっただろう。

「ユニウス条約が締結されたが…君は停戦という言葉の持つ意味が、わかっているのかね?」
「戦争をやめる、という意味ですか?」
「一時的にな…そしてもうひとつ」


「停戦とは、古来より次の戦争までの準備期間…
むろんそんなことにはなって欲しくはないが…そう言われているのだよ」


458 :9/18:2005/08/11(木) 00:08:32 ID:gMxy4eei
アーモリーワンの一角にあるMSシュミレーター演習場。
インパルスの選考はここで行われることとなった。

「で、その候補生はまだかね?」
「もう間もなくとの事ですが…なにせ相手は幼年学校の生徒。
 本人への伝達が遅れまして、ただいま大至急こちらに向かっているとのことです」

既にユーリ達は到着していたものの、件の候補生はまだ到着していなかった。

「候補生のプロフィール、ご覧になりますか?」
「いらんよ、そんなもの。大体…すべてはテストの結果を見てからの話だ」

だが、ユーリはテストの結果に関わらず、その候補生を落とすつもりでいた。
理由は先ほどの技術者との会話の中にある、停戦という言葉の持つ意味―
幼年学校の生徒とはいえ軍属―
いざとなれば戦地へ赴かざるを得なくなる。
年端も行かない子供に銃を持たせられるか―
そんな思いがユーリに決断をさせていたのだ。

「けど、この子、女の子ですよ。将来は女性エースパイロットですね」
「何?少女にテストさせるのか?」
「いえ、プロフィールにそうかいてあるものでして…」
「……」

益々テストの結果に関わらず、採用することなどできない。
そう決意を新たにしたユーリの前に、インパルスの担当技官がやってきた。

「候補生、到着しましたが…早速始めますか」
「…そうしてくれ」

不機嫌そうなユーリをみた技官は、待たせたことが彼の機嫌を損ねたのかと思い、小走りで駆けていった。
数分後、一人の少女を伴い技官はやってきた。
見覚えのある少女―そう思ったユーリは息を呑んだ。
その少女はユーリ達に敬礼し、こう言った。

「ザフトアカデミー幼年学校所属、マユ・アスカです。本日はよろしくお願いします」


459 :10/18:2005/08/11(木) 00:09:53 ID:???
唖然とするユーリを尻目に、マユのテストは始まった。
インパルスのシュミレーターが起動しテストは淡々と進む。
それとは対照的に、周囲にいた技官と技術者は喜色満面といった表情になっていく。

「すごいぞ、この子!反射神経はコートニー並みだ!」

フォースシルエットで始まったテストは、次にソード、ブラストと続けて行われる。

「近接戦闘も大したものです。スコアはマーレ以上ですよ、博士!」
「……」
「遠距離戦闘も…これもなかなか…
 総合すると、これまで最も良かったコートニーを超えてるんじゃないですか?」

テストが終わる頃には技官と技術者は満足感に包まれていた。

「博士、彼女はインパルスに十分な適性がありますよ!」
「……」

担当技官は満面の笑みでユーリに握手を求めてきた。
しかし、反対に彼の表情は苦渋に満ちていた。

「判断は…私がする。それと…」

怪訝そうな技官と技術者であったが、彼らには構わずユーリは言葉を続けた。

「少々…彼女、マユ・アスカと話がしたい」

テストが行われた施設の一室、応接室にマユは呼ばれた。
向かい側の席にはユーリ・アマルフィが座っていた。

「どうして…君が幼年学校の…候補生なんだ?」
「…先日お話したとおり、私はプラントにやってきた移民です。
 父も母も失い、身よりはありません。生活のために…軍幼年学校に入りました」
「だからと言って…他に生きる方法はあるだろう?
 君は戦争で両親とお兄さんを失ったそうだが…
 軍属になるということは、MSのパイロット候補生になるということは…
 今度は君が…私や君のような人間を…作ることになるかもしれないのだよ?」

「テストの結果を言おう。不合格だ。君にインパルスの適性はない。幼年学校に帰りたまえ」



460 :11/18:2005/08/11(木) 00:12:15 ID:???
「どうして…不合格なんですか?」
「…適性がないからだ」
「それは嘘です…
 担当技官の方は…適性はある、君がインパルスのパイロットになるって言ってました」
「軍属ではあっても…幼い君を…あんな兵器に乗せることは…私は認めん」

インパルスの適性がないことを告げられたが、マユはなおも食い下がった。
真実―適性はあった。どのパイロットよりも。それまでのトップ、コートニー・ヒエロニムスよりも。
だが言い渡された結果は逆であった。

「私が…あのMSを作った理由が分かるかね?」

不意にユーリが話題を変えた。

「あのインパルスというMSは…ストライクを模して作られたものだ。
 連合作った最強のMS…私の息子の…ニコルの命を奪ったあの忌まわしき兵器…!
 ストライクは…認めたくはないが最高のMS…だ。
 一機のMSを…ソード、エール、ランチャーの武装換装により、近・中・遠の各距離で戦闘可能とする。
 もしこれを使いこなすパイロットがいさえすれば…事実上無敵となろう」

「アスラン・ザラが仕留めるまでにクルーゼ隊、バルドフェルド隊を総なめにされた…。
 そして息子のニコルも…ヤツに殺されることとなった。
 …だから私はインパルスを作ったのだよ。
 連合の粋を集めて作られたMSを…今度はプラントの技術力の粋を集めて…な」

「しかし、使いこなすパイロットが見つからなかった。そして君が現れた…
だが…君が現れたことで、自分が…死神を作ったことにようやく気づいたよ。
その死神に…君を乗せることなど…できようはずがない」

「それが…本当の理由だ」


461 :12/18:2005/08/11(木) 00:14:02 ID:???
部屋を沈黙が支配した。
ユーリ・アマルフィがインパルスを作った理由―
それは息子を奪った連合に対する復讐心から生まれたものであった。
だが、その復讐心が生んだものは…一人の自分と同じ境遇の少女にそれを操れというもの…
一人の父親として、ユーリには受け入れがたい事実であった。

「インパルスは…本当に死神なんですか?」

沈黙を破ったのは少女であった。

「私は、来る途中にインパルスのマニュアルを渡されました。
 操縦系統はジン用のシュミレーターとは違うけど…ひとつだけ気になることが…」
「…何かね?」
「インパルスのコクピット部分に相当するコア・スプレンダー。
 脚と腕の間にコアがあって…脚も腕も分離できるって書いてありました。
 戦闘機になるみたいだけど…あれって…パイロットの安全を考えて作られたものなのかなぁ…って」

「学校の兵科の先生から聞いたんですけど…
 ジンやゲイツのような一体形成のMSは、被弾したときに誘爆の危険があるって…
 インパルスのシステムなら…危なくなれば切り離せます」
「……」
「難しいことはよく分からないけど…
 マニュアルを見たときに、これって凄いなぁって思ったんです。
 パイロットの命を…本当に大事に思っている人が作ったんだろう…って」
「兵科の先生、こうも言ってました。
 MSは戦争のためだけじゃなくて、戦争を止める道具にもなる…って。
 強い力があれば、警戒されるけど、変わりに攻めて来る相手にも覚悟がいるから。
 プラントに技術があって、強いMSがいれば…戦争は起こらないかもしれません」
「…それは理想論だ」

「…私の生まれたオーブでは…そんな理想論を言う人がいました。
 侵略をせず、侵略を許さず、他国の争いに介入せず…
 でも、そんな理想論も戦争の前に敗れました。
 …父と母は…その理想を信じて…死にました。
 そのとき思ったんです。力がなければ理想も叶えられない…って。
 だから…だから私は…インパルスに乗りたいんです!」



462 :13/18:2005/08/11(木) 00:15:13 ID:???
「博士は慰霊碑の前で『力になれることがあれば言って欲しい』って言ってくれました。
 お願いします。私をインパルスに乗せてください!」

ユーリは内心戸惑っていた。
思いとどまらせるつもりで言ったことが、逆に少女の決意を強める結果になっていたからだ。
そこまでの決意で彼女が幼年学校に入っていたなどとは、ユーリには思いもよらなかった。

それと同時に、ユーリは息子、ニコル・アマルフィのことを思い出していた。
彼がアカデミーに入る直前、家族は大騒動になった。ユーリは猛反対し、妻のロミナは泣いて反対した。
だが、息子の決意は彼らの想像を超えていた。

『僕と同じ世代の友人達も戦場に行きます。僕だけプラントで安穏と暮らせません。
 今プラントが戦争をしているのは、国として独立と自治を勝ち取るためです。
 誰だって人を殺したくはないし…死にたくもない…でも…理想を叶えるには力が…力が必要なんです!』

あの時と同じだな…
亡き息子の言葉を思い出しながら、そう思うユーリの目頭はいつの間にか熱くなっていた。

「私が認めたところで…軍本部は君の年齢を理由に反対するかもしれないぞ?」
「…それは分かっています」

ユーリはため息をついた後こう続けた。

「最後にひとつだけ約束して欲しい。
 例え戦争が起こり…戦場に行くことになっても…絶対に死なないと」

少女は、最後だけ少女の顔に戻り、微笑み肯定した。

数日後、軍本部の会議を経てインパルスのパイロットが決定した。
テストパイロットの名目だが、これでセカンドステージの最高の性能を誇るMSパイロットが決まった。
ユーリの予想通り、軍本部からは、パイロットの年齢について取り沙汰された。
しかし、最高評議会議長の「遺伝的適性あり」の一声で決着した。

決定の報を受けたデュランダルは笑みをたたえていた。

「まさかこんな拾物をするとはな…。やはり…運命というものは存在するのかもしれない」


463 :14/18:2005/08/11(木) 00:17:08 ID:???
「これが今回の作戦の内容だ」

第81独立機動軍―
ガーティルーの船内でのミーティング。
アウル、スティング、ステラの3人への任務が伝えられていた。

「・・・すげぇ任務じゃん」
アウルは喜んだ顔―

「だが…タイミングのズレが命取りだな」
対照的にスティングは緊張した面持―

「泥棒…するの?」
二人とは別次元の発言をするステラ―

「ああ。凄い任務だ。
 それにかなりのきわどいタイミングでの作戦遂行になる。
 まぁ…泥棒と言えなくもないが…昔やられたことをやりかえすだけさ。
 こういうのは、『自救行為』っていうんだ。ホントは良くないんだがなぁ…」

3人の感想を総括したのはネオ・ロアノーク。
だが、一人だけ蚊帳の外の男がいた。

「ネオ、俺の任務は?まさか留守番…なんて言うんじゃないだろうな?」

かつてシン・アスカと呼ばれた男、ゲンは怪訝そうに尋ねた。

「まぁまぁ。お前にはとびっきりの任務があるんだ。
 3人よりもシビアで…内密に行わなきゃならない任務なんで、あとで話すよ」

「ちえっ、ストライクMk-Uもゲンだし、今度もゲンだけ別かよ」
「そう言うなよ、アウル。それだけ大変なんだろう?」
「ゲン…頑張ってね」

3人が退室した後、任務を聞かされたゲンはこう呟いた。

「確かに…大変な任務だな、これは」
「ああ…3人以上に際どいタイミングでやることになるが、頼んだぞ」


464 :15/18:2005/08/11(木) 00:18:25 ID:???
マユ・アスカがインパルスのパイロットとなって約3ヵ月後―
新造戦艦ミネルバの進水式を明日に控えていたこの日、ユーリ・アマルフィはマユの元を訪れていた。
航海の無事を祈っていることを伝えるため、それと愛妻に作ってもらった手製の赤服を携えて―

ユーリはセカンドシリーズのMS計画の責任者であり、度々会う機会もあった。
それでもマユはユーリの来訪を喜んで迎えた。
そして彼が携えたザフト幼年学校の生徒の目標、赤服をマユは事の他喜んでいた。
ミネルバの艦橋での面会であったことから、すぐに艦長タリア・グラディスの許可を得た。
規則では禁止だが、翌日の進水式の日だけの着用を許された。

そして最後に、マユに自分達夫婦の養子にならないかと告げた。
妻ロミナはマユの話をユーリから聞かされた後、自らそれを薦め、夫もまた同意したのだ。
突然の申し出に、少女は戸惑いを見せたが最後は笑みを交えて答えた。

マユとの面会を終え、アーモリーワンの研究室に戻ったユーリは妻に電話をかけていた。

「ああ…そうだ。YESの返事を貰ったよ。
 航海は2ヶ月で終わり…彼女は私たちの娘になる…
 そうすれば彼女を軍から辞めさせ…普通の少女として道を歩ませる。
 ああ…ニコルの…ようにはすまい。…すまないな…辛いことを言って…
 ああ、進水式が終わり次第帰るよ。マユを…迎え入れる準備をしなければな」

電話が終わったあと、ユーリはこれからの生活を考えていた。
ニコルが死んだ後は、自分も妻も塞ぎ込んでしまっていた。
今では立ち直ったかに見えるが、心の傷はある。
おなじ境遇のマユならば…共に歩んでいくことができるかもしれない。
もっとも女の子の扱いはトンと不勉強だ。結局妻任せになってしまうか…
そんなことを考えていた直後、基地内に爆音が鳴り響き、続いて警報が鳴り響いた。
アーモリーワンは軍用コロニーであるから、警報が鳴ればコロニー内全域で警報が鳴る。

「何事だ?」

そう言って保安部に電話を繋ごうとしたが…繋がらない。
おそらく自分と同じように通信をしている者が大勢居るのだろう。
そこへ一般兵と思しき緑服の若者が部屋へ飛び込んできた。

「博士!ここは危険です!すぐに避難してください!」

465 :16/18:2005/08/11(木) 00:20:05 ID:???
「何かあったのかね?」

ユーリは若者に案内され、外の敷地内にとめてあるジープに乗った。

「例の新型MSが…何者かに強奪されたようなのです。港湾部のシェルターへご案内します」

慌てた様子の若者が、それでもしっかりとした口調で混乱の原因を説明した。
とっさにユーリの脳裏にはマユ・アスカとインパルスが頭に浮かんだ。
しかし3体形成のインパルスの強奪など容易ではない。
すぐに別のMSが頭に浮かんだ。

「カオス、ガイア、アビスか!?」
「よくは分かりませんが…」

軍内の最高機密を一般兵が知るわけはない。思いなおしたユーリは平静を取り戻した。
マユに何事もなければ良いが…そう思い、再び基地の保安部に携帯で連絡を取る。
ようやく繋がり、相手に基地の状況の説明を促す。

『はっ…3機新型が奪われたと今しがた情報が…
 ちょっと待ってください。今ミネルバから…』

そう叫んだ保安部の人間との通信は、そこで切れてしまった。
ミネルバの状況は気がかりではあったが、奪われたのはインパルスではないらしい。
一応は安堵したユーリではあったが、上空を戦闘機らしき物体が通るのが見えた。

直後に彼が上空を見上げる―
見覚えのある物体が空を飛んでいる―

コア・プレンダー
レッグ・フライヤー
チェスト・フライヤー
そして…あれはソードシルエット…

「何ということだ…」

出撃するマユ・アスカの姿を見て、ユーリ・アマルフィは呆然となった。

466 :17/18:2005/08/11(木) 00:23:01 ID:???
「マユ…君までニコルと同じ事を…」

そう言ってユーリは絶句した。
これから新しい人生が始まると思った矢先―
運命は再び自分を奈落のそこに突き落とすのか―

「だが…彼女を乗せたのは私…」

同時に自らの行いを責める。
これが連合の仕業とすれば再び戦火がプラントを包むことになる。
自分はマユをニコルと同じようにしてしまった…

「私は…天国にはいけないな…」

悔いるユーリ―
だがその懺悔は運転席に座る若者によって打ち消された。

「いや、天国にいけますよ。これから…ね」


銃声が鳴り響き、ユーリ・アマルフィはその生涯を終えた―
基地襲撃という騒ぎの中で彼の死に気づくものは誰もいない―
最後に彼の脳裏に浮かんだのは、愛妻と亡き愛息、そして一人の少女の姿―

「さようなら、ユーリ・アマルフィ博士。
 貴方が作ったセカンドステージの新型MS、カオス・ガイア・アビスの三機は仲間が頂きましたよ。
 貴方を生かしておけば、また物騒なMSを作られかねない…だから死んでもらいます」

そういった後、若者はユーリの亡骸を横たえ、彼のポケットを探った。
出てきたのは一枚のディスク―パッケージにはDestiny Planと表記されたシールが貼り付けてある。

「…これも貰っていきます。
貴方が作ったMSがこれから大勢の人を殺すんだ。
貴方の命と…これくらい貰っていっても…罰は当たらないよな?」

緑服の制帽を取り、ゴーグルを付ける。
望遠モードに切り替え、カオス・ガイア・アビス―そしてもう一機の新型の戦いを見やる。

「予想外の事態だが…俺は俺の任務を遂行するだけだ」


467 :18/18:2005/08/11(木) 00:25:44 ID:???
ゲンは母艦へ通信を繋いだ。
通信は傍受の危険を伴うので最小限のことしか話せないが…

「こちら八咫烏(ヤタガラス)。第一任務完了。帰還する」
『ご苦労。艦の位置座標を転送するぞ』
「ああ…確認した。バーニア吹かしてすぐたどり着くさ」
『急げよ。ノーマルスーツに着替える時間を入れれば喋ってる余裕はないぞ』
「もう港さ。連中は混乱してるようだし、すぐ追いつく」

そこまで喋って通信は切った。
これからがゲンにとっての正念場だ。第二の任務、それは母艦への帰還―
一分一秒を争う帰還への挑戦。時間を過ぎれば取り残される。その先に待つものは―

「考えたくもないぜ…」

そう言ってゲンは第二の任務を続行した。

一方ガーティー・ルーではネオとリーが、こちらも正念場を迎えていた。

「話が違います。あの新型は何です?」
「そりゃそういうこともあるさ。
ザフトもこっちに漏れた情報以外に凄いのを作っていたってことだ。3人はまだか?」
「てこずっているようです。
そろそろタイムオーバーです。このままでは中尉の回収がままなりません」
「中尉の回収時間までは何としてもこの空域にとどまれ。あの3人の埋め合わせは俺がやる」
「出撃なさるので?」
「そのためのエグザスさ」
「…もし中尉が間に合わなければ…」
「間に合うさ。何せヤツは…死の運命をねじ伏せてここまで来た人間だからな」

「エグザス、発進スタンバイ!」
『リー、ゲンの回収、頼んだぞ!あ・・・あと俺達の回収もな』
「…御武運を」

エグザスのコクピットでネオは呟く―

「始まったな、Genocide Enemy of Natural…頭文字を繋げればちょうどアイツの名になる。
 もう後戻りはできない…もっとも俺達に選択の余地なんて最初から存在しないが…
 …そんな運命すらお前は覆せるのか、ゲン?」